おっぱい裁判
「はい、ユズルさん」
「どうも」
俺は軽く会釈をすると、差し出された白いきれいな皿を受け取る。
その上には綺麗な目玉焼きを乗せた、マーガリンをたっぷり塗った食パンがあった。
焼き立てで、朝の少し冷えた空気の中ではゆったりと糸を引くような白い湯気が立ち上っている。
「トゥーナも来てくれるなんて、今日は良い日ですね」
「別に」
おっぱい……じゃなかった、シスターのジェーネさんはニコニコで冷たい目をしていた少女に同じ皿を差し出す。
トゥーナと呼ばれた少女は俺をチラチラと見ながらも、ジェーネさんの方は頑なに見ていなかった。
「あ、ユズルさんは黄身の焼き加減、とろとろで良かったでしょうか? よかったらもう少しお焼きしますか?」
ジェーネさんは慌ただしく俺とトゥーナに気を遣っている。
「いえ、俺は最初から目玉焼きは半熟派なんで大丈夫です。」
「めだまやき……? タマゴ焼きのことですか?」
「えっ……?ああ、そっか、はい。 このパンの上に乗ってるやつです。」
「グロい言い方」
トゥーナが横からボソっと釘を差すように呟いた。
言われてみれば目玉焼きって名前、ヤバいかも。
「なるほどたしかに、黄身が瞳孔で、白身が眼球の白い部分でめだまっぽいですね!トゥーナちゃんは察しが良いなぁ!」
ジェーネさんはトゥーナが喋るたびに、少し嬉しそうに過剰なリアクションをする。
この二人は知り合いっぽいが、そもそもどういう関係性なんだろうか。
どうしよう、ラブラブのレズカップル姉妹で、俺がジェーネさんに間に挟まる男として二人のラブラブにスパイスを与える贄とされていたら。
最悪な想定をなんとか否定したい俺は、どこか重たい空気を感じながらも口を開く。
「さっき自己紹介はしましたけれど、トゥーナさんとジェーネさんはどういう関係なんですか?」
俺が聞くと、ジェーネさんは目を輝かせながら答える。
「んふふ~トゥーナは私の妹です!」
「違う…… もう他人」
「そんなぁ!」
トゥーナは憂鬱そうにそれを否定し、側でジェーネさんがオーバーリアクションに崩れ落ちた。
どっちを信用すればいいのか、全くわからない……
だが、ひとまず俺の尊厳だけは確保しておかねば……
「トゥーナさん、俺は別に、ジェーネさんのおっぱいが好きで甘えてたわけじゃないんだ」
「知ってる」
「そうなんですかぁ!?」
トゥーナは意外にも平坦に、疑問を感じていない態度で答える。
ジェーネさんは崩れ落ちた姿勢からもう一度崩れ落ちるモーションをして、顔だけを俺に向ける。 怖。
そして首以外がすごい早さで追従し始めたかと思うと、姿勢からは考えられないスピードで俺に近づいてきた。
「私のおっぱい、だめでしたか!?」
「い、いえ……最高……でしたよ」
「じゃあなんで!?」
「なんでって……」
良すぎるから、こっちがだめになっちゃうんだよ。
答えようがなく目をそらすしかない俺に、ジェーネさんは音速で回り込んでくる。
しかし おっぱいに まわりこまれてしまった!
「好きって言ってください!」
「うぉっ……す、好きです……」
「やったぁ~! じゃあ、たまごもおっぱい焼きにしちゃいま~すっ!」
「おっぱい尽くしだ……」
俺のトーストの上に、ジェーネさんはいつの間にか焼いていた目玉焼きをもう一つ追加してくる。
どうしよう、俺のせいで明日からジェーネさんが今日もおっぱい焼きしますか!?とか言うようになったら……
トゥーナの方を見ると、不機嫌……というわけでもなく、ただじっと俺を見ていた。
なんか、助けてもくれないんだよな……どういう感情なんだ。
「あの、トゥーナさん、俺になにか言いたいことがあったりしますか?」
もう直球で聞くしかないだろう。 なんだか文句あんのか?と言っているように聞こえなくもないかもしれないが、トゥーナも理由があって来たみたいだし……
「言いたいこと……」
トゥーナは目を伏せて、いろいろなことを考えているような、複雑な表情をする。
多分短い間だったんだろう……けれど、俺には長い時間が流れたかのような静寂が訪れる。
ただ一人、明るいジェーネさんがその静寂を破った。
「トゥーナも外から来たユズルさんの先輩ですから、色々教えてあげたいんですよね」
「……そうとは言えるかもしれない」
トゥーナも、異世界転移した人間? 俺だけじゃないのか……という驚きもそうだが、そうなるとまず、元の世界が俺と一緒なのかを確認したくなる。
いやでもさっき、目玉焼きを知らなかったっぽいってことは、トゥーナは別の世界出身だから確認しても意味がないのか……?
俺が思案していると、ジェーネさんはそうだ!と一人明るいまま提案する。
「じゃ、これ食べ終わったら、3人で街を見に行きましょう! ユズルさんも、ただここにいるだけじゃヒマでしょうしね!」
「え、あ、はい お願いします」
「構わない」
満場一致で決まると、ジェーネさんはお着替えしてきますね!と奥の部屋に歩いていった。
食卓には全くおっぱい焼きに手を付けられていない俺と同じくうつむいていただけのトゥーナが残される。
そんな静寂へ今度はトゥーナの低い声が潜るように響いた。
「一つだけ言っておくのなら、ジェーネを信用しないで」
俺は朝食ではなく、固唾をのみこんだ。
や、やっぱり気まず……
おっぱいの話しすぎかも




