面
付き合って三ヶ月の彼女に、家に行っていいか聞くと「来てもいいけど、スリッパを絶対に脱がないで欲しい」と奇妙なことを言われた。
「うち、変わっててさ。なんか、気持ち悪いよね。ごめん」
「全然いいよ! 気にしないでくれ」
さわやかに二つ返事で、家に行くことが決定。
オレはひなたとヤレるならスリッパでもなんでも履くし、死んでも脱がない。当たり前だろ。と、心の中では意気揚々としていた。
スリッパは異様なものだった。
スリッパというより、クロックスと靴の中間みたいな見たことないデザインで、履くと足首をベルトで締めることができる。しかも、わかりづらいけど、変な文様がびっしり刻まれている。いくらなんでも……。
「……これマジ?」
ひなたはうなずいた。
気味悪いが、ヤレるなら構わん。
思った以上にスリッパは外せなかった。トイレに行くときもシャワーを浴びる時もいちゃつくときも、全裸になった時でさえ、脱ごうとすると全力で止められた。
ま、脳内のほとんどを性欲で埋め尽くしていたオレは従順にもスリッパを履き続けたんだけど。
翌朝、オレはひなたよりも先に目が覚めた。
彼女はぐっすり眠っていた。
昨日は盛り上がったからな。
――ん。
スリッパが気になる。全裸で寝るタイプのオレは履きっぱなしのスリッパが不愉快だった。足をもぞもぞと動かしても脱げないので、ベッドから這い出て、本能的にスリッパに手をかけた。
固定されているベルトを外し、まず右足。次いで左足だ。
「はあ……」
一晩中締め付けられていた圧迫感から解き放たれた。
解放感で満たされながら、足首をくるくる回す。ションベン我慢しまくったあとのあの感じにも似て気持ちがいい。
でもあれ? なんでスリッパなんか履いてんの? あ、そうだ。ひなたに言われて……。
「ォ……オ……オオ……」
男のうめき声が耳に飛び込んできた。
総毛立ち、心臓が鳴った。部屋の隅の、薄暗い影からだ。
馬鹿でかい顔面があった。顔は白く、眼はくり抜かれたように真っ黒。口はへの字にひん曲がっていた。不気味な巨大顔面は宙に浮かんでいた。
「オ」
口が大きく開いた。闇が広がっていた。抵抗する間もなく、黒い波に飲み込まれるように食われ、オレは中へ吸い込まれた。
ゆっくり咀嚼されながら、ひなたが起き上がるのが見えた。彼女はキョロキョロと辺りを見渡してからうなだれ、
「あぁ……もう。まただ」
そう呟いた。




