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恥ずかしさのあまり、しばらくぷるぷる震えていたのだが……マシュー様はそんな私を、ふわふわの笑顔で見ているだけだった。


「うん、何だか、アレクサンダーがシンディちゃんを好きになった理由が分かった気がするよ」


……と思っていたら、さらりと言われまた私は狼狽する。


「ま、マシュー様?」

「想像できないかもしれないけど、あの件があったときのアレクサンダーは本当に辛そうだったからね……。シンディちゃんは――僕らが身内だからっていうのもあるんだろうけど――、振る舞いが他の令嬢と違うってよく分かった。悪い意味じゃないよ? そういうところに、アレクサンダーは惹かれたんだなあって」

「…………左様ですか」


いまいち褒められた気がしないが、マシュー様の表情からすると、かなりの褒め言葉のようだ。


「やっぱり、お祖父さまの采配は見事だね」

「……アレックス様とわたくしを引き合わせたのが、お祖父さまですものね」

「うん。お祖父さまは、『最高の仲人』って言われているんだよ?」

「えっ。そうなんですの?」


初耳だ。

驚きを隠せないでいると、マシュー様は言う。


「お祖母さまが、実家のことで結構苦労したからね……。自分の子供は、本人と家もまともな相手と結婚させたいって言って、性格やら何やらまでみっちり調べて結婚相手を見繕ったそうだよ」

「では、ジョセフ伯父さま方も?」

「そうそう。性格がぴったりの相手を紹介されて、父も母もびっくりしたんだって」

「それで『最高の仲人』というわけですのね……。確かに、わたくしの両親も永遠の新婚夫婦という感じですわ」


妙なことに感心しつつ、2人でうんうんと頷き合っていると、


「……あ、来たね」

「来た……?どなたですの?」


マシュー様が、いそいそと立ち上がる。


「………………ああ、マシューさん、ここにいらっしゃったんですか……って、え、ここ、シンディの部屋ですよね……?」


半開きの扉から顔を覗かせたのは、たちまち顔面蒼白になったアレクサンダーだった。


「ま、まだお取り込み中でしたか……っ、申し訳ありません、部屋で待ちます」


踵を返そうとする彼を、


「ううん、僕の用は終わったよ?」


マシュー様が引き止める。

どうやら、アレクサンダーはマシュー様を探していたらしい。私とだいぶ話し込んでいたからね……。


「シンディちゃん。僕はここで」


そう言って立ち上がるマシュー様に、私も立ち上がって頭を下げる。

連れ立って去っていく2人……と思いきや、


「じゃあ、あとは2人でどうぞ」

「えっ、マシューさん!約束が違いますよ……!」

「んー?なんのことかなー」


アレクサンダーを私の部屋に押し込めて、マシュー様は颯爽と去っていってしまったのだった……。




□■□



残された私たちは、形容のしようがないほど気まずい空気の中、立ち尽くしていた。


「……お座りになりますか?」

「ああ……ありがとう。失礼するよ」


そのやり取りの後、また無言が続く。

俯いたアレクサンダーの顔に掛かる濃い茶色の髪に、何だか目を奪われてしまって唇を噛む。


「…………お手紙、拝読致しましたわ」


何とか発した私の言葉に、彼はバッと顔を上げた。

端正な顔が真っ赤に染まり、薄い灰色の目は限界まで見開かれている……血管は大丈夫なのだろうか?


「……その、済まなかった、本当に」


見開かれていた目を今度は伏せ、ぽつりと彼が言う。


「いいえ……」

「いや、正直に言ってくれて構わない。俺は愚かな人間だ」

「はあ…………普段の俺様アレクサンダー様はいずこに?」


軽くため息を吐く。よほど堪えているらしい。――彼らしくない。


いや……私も、きつく当たりすぎてしまったのかな……?


いつもよりずっと小さく見える彼を見て、申し訳なくなってきた。


「リチャードはリチャードで、それはもちろん好ましいと思っておりますわ。だって、彼はポーリンとわたくしの『お兄ちゃん』ですもの。……ですが、アレックス様はアレックス様です。無理にリチャードのように振る舞うのは、何だか変ですわよ?」


ゆっくりと、アレクサンダーの視線が私を捉える。目が合って、切なげに彼が笑う。


「わたくしは、いつものアレックス様の方が好きですわ。わたくしも、きつく当たってしまって、ごめんなさい」



沈黙が落ちる。



「怒っていないのか……?」


しばらくまた無言が続いて、ようやくアレクサンダーが聞いてくる。


「からかわれたことについては、怒っておりますけれど?」

「怒ってるのか……」

「ええ。悔しいんですもの。……あと、そうですわね、口説かれたことも、少し」


途端に、またバツの悪そうな表情になるアレクサンダー。


「…………嫌だっただろう。俺などは」


その言葉には、普段の不遜さとは真逆で、それでいて彼らしくすらある……自嘲が籠っていた。


「……違いますわ。その……好きでもないのに口説くだなんて、"勘違いしてしまうからやめて下さい"と言いたかったのです」

「シンディ、違う……好きでもないなんてことは……っ!」

「手紙は読みましたから……そんなに、その、悲しげな顔をしないで下さいまし」


捨てられた子犬のような表情に、私は己の口下手さを呪った。



この人に、こんな思いをさせたいわけじゃないのに…………



「……わたくし、アレックス様に口説かれて、アレックス様のことを、この人は男性なんだって。手紙を読んで、あの時かけられた言葉が、もしかして本心なのかもしれないって思って。わたくしのことを抱きしめたのも、アリエル様のことで不機嫌になったのも、わたくしのことを好きだからなのかしらって思ったら…………」


マシュー様に言うより、何億倍も恥ずかしい。


――暑い。熱い。顔に血が上って、そのままその血が沸騰しそうだ。

そのくせ、体の芯は、怖くて死人のように冷えている。


目線をどこにやればいいの?

声がどうにも震えてしまうわ。

アレックス様の顔が見れらない。

きっと私、すごくみっともないわ。


「……シンディ」

「な、何ですの」

「照れているのか?」

「見れば分かりますわ」


彼の顔を見ると、いっそ腹が立つほどに驚きを浮かべていた。

イケメンなのに、もったいない間抜け面だ。

そのアレクサンダーの間抜け面を見て、冷静さを取り戻した私は、ふいと目を逸らす。


「何ですの?」

「いや、……確かに、お前が思ったことは全部合っている。お前が好きだからだよ」


ストレートに言い切られ、仕方なくまた目線を彼に向けた。


「好きだよ。俺はお前が好きだ」


心臓が、一度大きく鳴った。


にやり、と見事な俺様スマイルを浮かべるアレクサンダー。

目は好戦的な光を帯び、綺麗な形の唇は弧を描いている。

覗いた八重歯は猫科の肉食獣を彷彿とさせるし、ああ、完璧なくらいの美形従兄である。

やっぱり、こんな表情が彼には合っている。これが一番彼らしい。


「ただの従兄よりは、少しくらいは意識してもらえるようになった……のか?」


嬉しそうに、けらけら笑う彼を見て、私はどこかほっとする。


……よかった。


「……やっぱり、アレックス様は、アレックス様らしくいてほしいですわ。その方が、ずっと、いいですもの」


すると、気が緩み、本音がぽろっと出てしまう。


「お褒めに預かり光栄だな」


アレクサンダーはまた笑う。

ちらちら瞬くように光る灰色の瞳に、目が釘付けになりそうだ。


「本当に、卑怯な手に出て済まなかった。お前が許してくれるなら、俺は、お前に惚れてもらうように精進するよ」


ふと笑うのをやめて、真剣な表情で、アレクサンダーがひざまづいた。

突然のことに面食らうが、私は彼に手を伸ばした。


「アレックス様との気楽なやり取りは好きですわ。ですが、わたくしをからかうにしても、程度は守って下さいまし。……今回は行き過ぎですわ、多分」


恥ずかしかったティータイムを思い出し、自分が意外と怒っていなかったことを確かめる。

この人、王子様みたいだな……と心の片隅で思いつつ、そう言い終わる。


「もちろんだ。許してくれるか?」

「ええ」

「ありがとう」


お礼の言葉を口にしながら、彼が私の手を取り、額に当てた。

――あれ、これって、どういう意味があったんだっけ……。

指先に感じたアレクサンダーの体温に、また心臓が跳ね上がる。


「……お前、まさか、意味が分かっていなかったのか?」


ゆっくり立ち上がったアレクサンダーが、呆れた口調で言う。


「…………うふふ」

「……図星か」


無言で微笑すると、彼は額に(自分の)手をやった。

そんな顔しないで、ちょっと腹立つ。

指先に残った甘い痺れを感じながら、


「じゃあ、アレックス様はご存知ですの?」


いつも通り悪態をつくと、


「ああ。言わないがな」


アレクサンダーも、またいつものように笑うのだった。

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