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リチャードに、ポーリンの誕生日プレゼントについての手紙を書き、サラに託した。彼女は封筒を一瞥し、淡々と了解の意を述べる。

「畏まりました。それと、お嬢様。先程、レスリー・ハンナ・ゴードン様からのお手紙が届きましたので、お持ち致しました」

「あら、ありがとう」


封を開き、文面に目を通す。



□■□



《こんにちは、シンディさん。

だいぶ寒くなって参りましたね。風邪など引かないように、気をつけなくてはいけませんわね!


さて、ほとんど同じ内容のお手紙を、ポーリンさんとジェラルディンにも出しているのですけれど……近いうちに、我が家に来ていただけません?

本当でしたら、ポーリンさんのお誕生日会でお会いしたかったのですけれど、再来月は、わたくしは祖父母のところに行かないといけません。

ジェラルディンも、ファルパスに用があるそうですのよ。


そういうわけですので、誠に身勝手な話ではありますけれど、ぜひおいでになってくださらない?

お返事を楽しみにしておりますわ!


レスリーより、

シンディさんへ》



□■□



ゴードン邸か……

最初に招かれてから、2、3回行っただろうか。

新年の挨拶と、レスリーの誕生日、あともう1回くらい行ったはずだ。


(ロードウィンでは、新年の挨拶は親戚以外も訪ねる。旧年にお世話になった人に、手作りのジンジャークッキーをプレゼントするのも伝統だ。ちなみに、このクッキーは、1枚だけ黒焦げのものを混ぜるのが定番らしい。

今年の新年、私もお母さまと一緒に作り、ポーリン達や親戚に渡した。

……残念ながら、お年玉はない)


ゴードン夫妻はいつでも優しくて、ポーリンのことも大いに歓迎してくれた。王妃教育に忙しく、友人がジェラルディンしかいないレスリーのことを気にかけていたため、人が増えるのは問題なかったらしい。

……正直言うと、ゴードン公爵の言う『友人』とは『利用できる人脈』なのではないかとも感じたが。


まあ、それはさて置き。

断る理由がないので、"行きます"という返事を書こうとして……お母さまにも、一応相談しなくては。

最近もまた、お父さまはお城でカンヅメである。国家公務員、大変だな。

聞いたところによると、エルラーツ関係で忙しいらしい――私達の運命にも関連してくるかもしれないので、どうもハラハラする。




□■□




1週間後。

ポーリンと一緒の馬車に乗って、ゴードン邸へと向かう。

「緊張するね……」

「……そうね、何回お伺いしても慣れないわ」

2人してため息を吐く。

しかし、ポーリンが、一転明るい口調で言った。

「でも、来年、社交界にデビューしたら、もっとたくさんの方々に会うんだよね? 王族の方々にもお会いするかもしれないし。練習と思って頑張るよ」

あら……と私は目を見開いた。

やっぱり、ポーリンは成長しているらしい。


そして、王族と言えばサミュエル。

社交界デビューの舞踏会では、社交界入りしている王族が出席するのが決まりだ。さらに、社交界入りする子女らは、彼らに挨拶をしなくてはいけない。つまり、サミュエルとは――少なくとも1度は顔を合わせる。

漫画では、ポーリンが挨拶をした時、カスター家の葬儀で会った少女だと気づいたサミュエルが近づいてくるのである。


でも、カスター家が無事なら、この出会いは果たされないわけで……


そもそも、ポーリンがサミュエルに恋をするのかどうかが、まず疑問になってくる。レスリーも、最近ではむしろリチャードに興味があるような素振りだ。

そうなると、私の出る幕はない。

平和に呑気に行きていこう……。



「ねえ、シンディ。そういえばね。リチャードから手紙が来たのよ。レスリー様の話もあったんだけど……」

「そうなの?」

「うん、レスリー様のお誕生日が知りたいんだって。教えていいか、お聞きした方がいいよね?」

「そうね。……でも、リチャードは最近どうしたのかしらね? 王太子様から直に色々と聞くのではダメなのかしら」

ポーリンも同じことを思っていたらしい、難しい顔になってしまう。

「レスリー様は、王太子様と婚約されるものだって――公然の秘密みたいなものかと思っていたけど、違うのかもね」

珍しく意味深な発言をするポーリンは、私の視線に気づき慌てて手を振る。

「もしかして、ほら! 王太子様が、他の国の王女を娶るとか……レスリー様に、好きな方が現れるとか……」

「……まあ、ありえなくはないか。でも、ゴードン公爵ご夫妻は、レスリー様が誰かを好きになっても、はいはいと婚約させて差し上げるわけではないと思うわ……どの家もだいたいはそうでしょうけれど」

どっちかっていうと、前者の方があり得そうだ――例えば、エルラーツが圧力をかけてくるとか――。


……うーん、何となく重い空気になってしまった。




□■□




程なくゴードン邸に到着した。

テラスにお茶の用意がされていて、既にレスリーとジェラルディンが座っている。

「こんにちは、シンディさん、ポーリンさん」

ジェラルディンが、わざわざ立ち上がって挨拶してくれる。


まっすぐの黒髪と琥珀色の瞳が、太陽の光を受けて、キラッと光る。

彼女は、ロードウィンの令嬢としては珍しく、髪をポニーテールにすっきり纏めている。

すらりと背が高いが、近づきがたい雰囲気はない。

むしろ、優しいお姉ちゃんという感じすらする、この国でもトップクラスの才女である。


「ようこそおいで下さいましたね、ポーリンさん、シンディさん」

「お2人とも、こんにちは。また会えて嬉しいですわ!」

「レスリー様、お招き下さってありがとうございます。お久しぶりですね、ジェラルディン様。お元気そうで何よりですわ」

挨拶を交わし、お茶会が始まる。




最初の話題は、自然とポーリンの誕生日について……になった。

ジェラルディンとレスリーは、誕生日会に出られないことを悔しがっていた。

「お2人とも、用事がおありなんですよね……残念ですわ」

私が苦笑すると、レスリーがカップを置いてため息を吐いた。

「ええ……こちらにいる3人には言ってもいいかしらね――わたくしの婚約についての話だそうよ」

その表情は、"正直めんどくさい"と はっきり語っている。

「あら、ご婚約の?」

「そうなんですの。お祖父さまとお父さまは、早くお決めになりたいようなの」

それ、サミュエルとの婚約だろうか。

まさか聞くわけにはいかないので、私は少し首を傾げる。

「無理にお答え頂かなくてもよろしいのですが――正式なお話なんですの?」

「そうよ、シンディさん。わたくしの社交界入りを待たずに決めてしまいたいそうよ。……相手は、断れるようなお方ではありませんのよ」



場に沈黙が落ちた。



みんな分かっているのだろう……ゴードン公爵が断れないとなると、そんなもの1つしかないと。

もちろん、国王の頼みだ。


何とか会話を再開させたのは、ジェラルディンだった。彼女はよく気が利き、人のフォローに回ってくれる。本当にいい子だと思う。

「それでは、お忙しいでしょうね。あまりお会いすることができなくなるのかしら? 淋しいですね……」


(しかも、この繋げ方! 私は絶対無理だ……)


「それは、わたくしもよ。……それに――――ところで、ジェリー、ファルパス滞在は長いのかしら?」

レスリーは深い紫の少し目を細めて、優しい口調でジェラルディンに問いかける。

「ええと。そうですね……1ヶ月程ですね。私が留学していた学園の創立記念祭があって、招かれたんです」

「あら、素敵ですわね! 学園ってどうも想像がつきませんけれど……ぜひお話を聞かせて下さいません?」

目を輝かせて、ポーリンが熱心に言う。ほんの少しだけ身を乗り出し、プラチナブロンドの髪がさらりと揺れた。

「もちろん、聞いて下さいね。直接お祝いを言えなくて残念です。そういえば、プレゼントは何をご希望かしら?」

穏やかな微笑を浮かべて、首を傾げるジェラルディン。

「そうですわ、ポーリンさん。わたくしにもぜひ教えて下さいな」

タルトを切る手を止めて、レスリーも顔を上げる。

あ、私もリクエスト聞いてないんですけどね……?



□■□



お茶会が始まって1時間程すると、天気がどうも怪しくなってきた。

ゴードン家の使用人たちが、『中にどうぞ』と素早く客間まで案内してくれる。


通されたのは応接間だ。

お菓子やお茶もすぐ運ばれてくる。

あっという間にお茶会が再開され、レスリーが嬉しそうにタルトを口に運んだ。

「わたくし、この林檎タルトが大の好物なんですわ! ジンジャーシロップが林檎に合っていて、大変美味なんですの」

とろけそうな笑顔になったレスリーに、私たちは思わず見惚れてしまう。

「本当です、とても美味しいですわ」

ポーリンも、幸せいっぱいの表情でタルトを切る。

それを見たジェラルディンが、

「ポーリンさん、好きなお菓子はありますか?」

と微笑して聞いた。

「ええと…………って、どうして2人も私を凝視なさるの!?」

ジェラルディンの言葉に反応したレスリーと私が、同時に顔を上げてポーリンをガン見した。

「それはもちろん、気になるからですわ」

くすりとレスリーが笑う。林檎タルトは早くもなくなっていて、お代わりが運ばれてきた。

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