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「もうすぐ、ポーリンの誕生日ね」

「ふふっ、そうだね! もうすぐと言っても、あと2ヶ月あるけどね」

「あら、きっと、あっという間よ」


私とポーリンは、スローン邸でお茶を飲んでいた。お茶請けは、あれ以来すっかり定番になったローズジャムクッキーや、その他数種類のクッキーである。

外は寒いが、屋敷の中でぬくぬくと優雅なティータイムだ。最高。

さて、再来月には、ポーリンの13歳の誕生日が控えていた。

「来年には、私たちも社交界デビューね。緊張しちゃうなあ。レスリー様やジェラルディン様に、マナーをおさらいしてもらおうかしら……」


――私たち、か。


漫画では、私は13歳の初夏に死ぬ。

何とかなるだろうか……何せ、あと半年しかない。


「シンディ、大丈夫?――食当たり?」

ポーリンがくすくす笑う。

まったく、もう結構経つのだが、未だに食当たりのことでからかわれる。

「違いますー。大丈夫よ、ローズジャムもとっても美味しいわ」

私もウィンクして返す。

「なーんだ、よかった」

だいぶくだけた口調で話しているが、ポーリンのここ1年半程の成長は目覚しかった。リチャードが学園に入学したあたりからだろうか……令嬢としての振る舞いに気をつけ出したのだ。

もしかしたら、今では友達の1人である、レスリーの影響もあるのかもしれない。

「そういえば、リチャードから手紙が来たの! 誕生日に何かプレゼントしてくれるって」

「あら、よかったわね! ポーリン、欲しいものはある? リチャードと被らないようにしなきゃ」

「うーん……」

リチャードは、漫画通りに、サミュエルと仲良くしているらしい。彼を褒めちぎる手紙が来たり、休暇で帰ってくるときも、嬉しそうに話していたりする。

王太子と仲良くするのは大変だろうに……まあ、カーター侯爵家は力がある家だし、大丈夫なのかもしれない。

ちなみに、彼からはよくレスリーについて聞かれる。サミュエルのためのリサーチだろうか?

「……ええと、ね。シンディやリチャードがくれるものなら、私は何でも嬉しいな」

「あら、嬉しいこと言ってくれるのね! ふふっ、私、頑張っちゃうわ」




□■□




帰宅すると、ジスレーヌからの手紙が届いていた。

内容は簡単だが、"近いうちに新商品を発売するから試食に来てほしい"と結構大事なことが書いてあった。


ジスレーヌとも、付き合いは続いている。フロランタンの身元が判明したのだ。

そのきっかけになったのが、ジェラルディン・ダルリンプル侯爵令嬢。

原作でも、レスリーの友人として登場するモブキャラである。しかし、モブと言ってもずば抜けた才女で、ファルパスの貴族学園に単独留学していたというすごい人だ。

彼女とは、ポーリンと2人でゴードン邸に招かれた時に知り合い、ほどなく親しくなった。ファルパスでの話を聞いているうちに、もしかして――と思ったのだ。

ジスレーヌに了解をとり、フロランタンの口癖なども教えてもらったところ、東部の人だと分かった。

ジェラルディンは、東部の公爵家・ブリュレ家の血筋ではないかと意見をくれた。

ブリュレ家は、代々美しいアースアイの人間が多いのだという。

配色もジスレーヌに近いらしい。

そして、それをジスレーヌに伝えると、無礼を承知で手紙を出したという。

果たして、フロランタンはブリュレ家の末息子だったらしい。当時の当主でもあった父親は、喧嘩した末に家を飛び出した息子を生涯心配していたという。


(それを聞いた私は、フロランタン・ド・ブリュレとは甘い名前だなあ……と場違いな感想を持ったのを覚えている)



□■□



「お嬢様、奥様がお呼びでございます」

サラが、ドアの外から、相変わらずどこか素っ気ない声をかけてくる。

回想に耽っていた私は慌てて立ち上がり、返事する。

「今行くわ。ありがとう」




お母さまは、居間で待っていた。

いつもと変わらず、紅茶にお菓子が出されている。……これは太るよね、と私は自分の二の腕をちらりと見た。

「あなたが出かけている間に、お母さまからお手紙が来たのよ。先に見てしまったのだけれど、アレクサンダーのことだったわ」

「アレックス様ですか?」

この1年半の間に、私はアレクサンダーを愛称で呼べる仲に昇格していた。どうも、気に入られているらしい。

「ええ、あなたとの婚約のことよ。まだ正式なものじゃないでしょう。『アレクサンダーが卒業したら、うちの娘とぜひ婚約を』という申し込みが殺到しているみたいで……お父さまとお母さま、キール家の方々も、正式にするなら歓迎するとのお言葉よ」


うーん……? 私は思わず唸ってしまう。紅茶のカップに口をつけ、一口飲み込む。

「正直に言うと、私は、あなたの婚約を確定させてしまうのは早いと思うの。まだ社交界入りもしていないし……」

お母さまが嘆息する。それは私も同感だ。

普通、婚約は社交界入り後か、早くても13歳頃に検討が始まるというし。

……まあ、それはサンディ家もキール家も分かっていることだろうし、だからこその口約束だったんだろう。

社交界入りすれば、もっといい人が見つかる可能性もあるし。私はさておいても、アレクサンダーはかなりの優良物件だ。

「私も、まだ早い気がしますけれど……破棄することになっても構いませんわ。正直、よく分かっていませんの」

「そうよねえ……では、なかったことになっても構わないと返事してもいいかしら? あ、もちろんエリックとよく話してからにしますけれど」

「はい、お母さま」


私の返事を聞いて、少し安心したように表情を緩めるお母さま。

「婚約について真面目に話すような歳になるとはねえ。子供の成長って早いわ」

「そうですわね……私、まだ背が伸びてますわ」

記憶を取り戻した当初はだいぶ小柄だったシンディも、今は身長150センチほどにまで成長した。小動物のように愛らしかった顔立ちも、何となく凛々しく……なってきたような気がする。

「最初はあんなに小さかったのにね。顔も、だんだんエリックに似てきているわ。将来が楽しみ」

くすくす笑うお母さまは、相変わらずお父さまとラブラブなのである。

「……あら、そうだわ。再来月はポーリンの誕生日でしょう? プレゼントは用意したの?」

「まだ決めていませんわ……リチャードと被らないようにしたいので、手紙を出します」

「そうね、それがいいわ」


頷いて、私はいよいよクッキーに手を伸ばすのだった。

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