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気まずすぎる沈黙を破ったのは、アレクサンダーだった。


「……今日、カスター家の皆様が来るからお前もぜひ来いと、そう言われた時点で予想はついていましたよ」


ため息と共に、言葉を絞り出す。


「長兄にはもう正式な婚約者がいらっしゃいますし、次兄の方もそろそろだと聞いています。だから、俺もそうかな……と。まさか、相手が従妹とは思っていませんでしたが」


お祖父さまが、視線を彷徨わせながら頭を掻く。誰も何も言えない中、アレクサンダーの言葉だけが続いていく。


「それに……俺は、シンディが相手ということに、全く不満はありません。このまま正式に決定しても、喜んでお受けしたいと思います」


「え」


思わず声が出てしまうと、彼からジロッと睨まれた。


「お前は……俺が不満なのか?」


「いえ、滅相もございません!」


いや……あまりに意外すぎた。

まさか、アレクサンダーが私と結婚してもいいと思っているとは。

あと1、2年もすれば引く手数多だろうに、勿体ない。


「ありがとう、アレクサンダー君。まだ、正式に決定したわけではないし、この子もまだ小さいから」


お父さまが、私の頭を優しく撫でる。

言い過ぎたと思ったのか、アレクサンダーは少し俯いた。


「2人とも、すまなかったな。詫びと言っては何だが……今度、旨い菓子でも送ろう」


「お父さま、もう、すぐに物で何とかしようとしないでよ」


「あ、あの……気にしないで、お母さま。私は、大丈夫ですわ」


あんまりお祖父さまが可哀想な流れすぎたので、フォローを入れる。

アレクサンダーも、ここぞとばかりに私に同調する。


「……もう。それならいいわ。でもお父さま、お母さまにはきちんとお話ししますからね」




◻︎■□




私たちは、夕食まで食べていくことになった。アレクサンダーは、元から泊まっていく約束らしい。確か、再来週くらいからもう新学期よね? のんびりしていて大丈夫?


お祖母さまも帰ってきて、みんなで賑やかに夕食だ。

所々、うちの料理の味と似ているなと思ったら、カスター家には、サンディ家から連れて行った料理人が数名いるらしい。元々のカスター家の使用人と、お母さまが連れてきた使用人が、仲良くやっているということらしい。


まあ、結論から言うと、味もよし見た目もよし、雰囲気もよしで、非常に楽しい食事をすることができた。よかった。


(その前に、お祖父さまは、帰ってきたお祖母さまにこっぴどく叱られたらしいが……お疲れ様です)



夕食の間に、アレクサンダーから色んなことを聞けた。

キール公爵の子供は男3人兄弟で、アレクサンダーの兄は、2人とも優秀でイケメンだとか。

社交界デビューのときの舞踏会は、王宮の最も大きくて最も美しい広間で行われるだとか。

学園では寮生活で、同室の少年の寝言が面白いだとか。

品行方正な貴族の子弟たちも、創立祭の日だけはついつい羽目を外してしまうだとか。


これだけ彼が喋るのは、決してアレクサンダーが話したがりだからという訳ではない。


「ねえ、アレックス。学園の話をシンディにもしてあげなさいな。シンディが聞くのは初めてでしょう?」


と、お祖母さまがとにかく喋らせるのだ。

大変だな……と思ったが、実際面白いのでふむふむと聞いていると、


「……俺は、シンディの話も聞きたいなあ」


やや棒読みの台詞が、私にさっくり刺さってきた。


「あら、そうよね。シンディ、私にも聞かせてくださいな」


悪気はないのだろうが……お祖母さま、やめて。

アレクサンダーが、口の片端だけ器用に上げてこっちを見てくる。悔しい。

でもまあ、仕方ない、話すか……。

まずは、やっぱり食当たりの話かしら。そう思って話し出すと、


「……ぷ。食当たり……!?」


早くも従兄は、ツボに嵌まってしまったのだった。




◻︎■□



「ふー……」


お母さまの口から、ため息というよりも、もはや空気というべき勢いのため息が放出された。家に帰ってきて、マカロンを1つつまんでのことである。


爆弾が投下されはしたものの、至って和やかな雰囲気の中で終わった訪問だったのではないだろうか。

お相伴に預かりながら、私はぼんやり未来のことを考えていた。

リチャードは、再来週には学園に入学。サミュエルと出会い、程なく仲良くなるはずである。確か、その時ポーリンの話をして、ちょっとだけサミュエルがポーリンに興味を抱くのよね……。


私はどうしようか。


とりあえず、ジスレーヌ・ゲーンズボロ嬢に接触したいものだが。

申し訳ないけれどディクソン先生に仲介してもらうか、或いはお母さまに頼んだから何とかならないかな。


「美味しいわあ。ああ、サラ、このマカロン、どちらのお店のものなの?」


「わたくしの母が持ってきたものでございます。エルラーツの王都で流行の、"シュパールヴァッサ洋菓子店"のものだそうです」


「あら、サラのお母様が? エルラーツのお菓子なんて珍しいわね」


お母さまが首を傾げる。エルラーツとは長く対立していたので、貿易もほぼゼロに近いから……だろう。


「母は、ファルパスの出身ですので。ファルパスでは、エルラーツに旅行に行くのは珍しくありませんから」


ファルパス……。

確か、エルラーツとロードウィンの両方と国境を接している小さな国だ。

中立国であるらしいので、サラの母は時々ファルパス経由でエルラーツに嫁いだ妹を訪ねているらしい。


「とても美味しいわ! お母様にお礼をしっかり伝えておいてね。……それより、私が食べてしまってもよかったの?」


「構いません、奥様。母は、山程買ってまいりましたので……」


サラは、相変わらずどこか淡々とした態度である。同じメイドでも、リズは明るくてよく笑顔を浮かべているが、彼女はいつも無表情だ。


それよりも、うーん。

どうやってジスレーヌに接触しようか。考えながら、私は2つ目のマカロンに手を伸ばす。



□■□



ああ、美味しかった。もうなくなっちゃったなあ……。

私とお母さまが、いい顔でため息を吐いていると、お父さまが苦笑いしながら言う。

「そんなに美味しかったのかい。でもレイチェル、間違ってもあまり人に勧めてはだめだよ」

「分かっていますわ。お店の名前も忘れてしまったしーーシュパ……ええと。それに、エルラーツのお菓子ですものね。ゲーンズボロ夫妻にも失礼でしょうし」

シュパールヴァッサ、ね。確かに忘れそうだ。

「そうだね。ところで、ギャラハーでは、マカロンは扱っていないのかな」

「あら……きっと、あるんじゃないでしょうか? 今度お会いしたら、お尋ねしますわ」

あ、いいところでゲーンズボロ夫妻の話が出た。口を挟んでも大丈夫かしら?

「…………お、お母さま」

咎める様子もなく、2人がこちらを向く。

「なあに、シンディ?」

「私、ジスレーヌ様にお会いしたいのですけれど……」

「あら、そうなの? では、お会いしたときに、一緒にお頼みするわ」

「ありがとうございます、お母さま」

よしよし。これはワンチャンある。


心の中で快哉を叫んでいると、リズがやってきた。留守中に預かったという手紙を持ってきてくれたのだ。

「ありがとう、リズ。 ええと、カーター夫人からだわ……リチャードの出発前に、小さなパーティーをするそうよ。パーティーと言うより、豪華なお茶会ね。ああ、ポーリンも呼ばれているわよ。日付けは、明々後日だわ」

「シンディ、せっかくだから、お義父さまに頂いたドレスを着たら?」

お父さまは、あのドレスを着た私が見たいらしい。鼻の下、伸びてますよ。

私と同じことをお母さまも思ったらしく、お父さまの顔の前で手をひらひら振り始めた。まったくもう。




それにしても、パーティーかあ。

漫画にはなかったシーンだから、他に誰が来るのかは分からない。

でも、ポーリンが来るなら安心だ。

彼女は社交的だし、快活だから大抵の人とうまくやれる。私はそんなポーリンにくっついていれば、「いつも仲良しねえ」と優しい顔で見てもらえるのである。

それに、お母さまの口ぶりからすると、内輪の集まりだろうし、夜までやるわけでもないし……まあ、何とかなるだろう。


始まる前からクヨクヨしていても、仕方ないのである。


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