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ゴードン家での出来事を、お母さまはとても興味深そうに聞いてくれた。

その途中、供されたチョコレートケーキが非常に美味で、つやつやしていて見目もよかったと話すと、


「あら?それは、もしかしたら、ギャラハーの新しいケーキかもしれないわね。金の箔押しがされたチョコレートが乗っていなかった?」


「……ええと、ああ、乗っていました! 菱形のチョコレートですね」


お母さまが、そのケーキを目の前にしたかのように満面の笑みを浮かべる。


「やっぱり、そうなのね。社交界でも、ギャラハーのお菓子は大人気なの。まあ、あれだけ美味しければ当然よね……」


何だか、妙なスイッチを入れてしまったらしい。若干気圧されつつも、まあ、聞いて損な話でもないので聞いておく。


「そういうわけで、新作の噂なんかももすぐ回ってくるの。ゲーンズボロ夫人がいらっしゃった時は、それはもう大騒ぎよ。お店の運営も手伝っていらっしゃる方だし、忙しいそうで滅多にいらっしゃらないから」


「……なるほど、そうなんですね」


「シンディ、ちゃんと聞いていなかったでしょう」


くすくす笑うお母さまだが、私の頭の中はそれどころじゃない。


ゲーンズボロ夫人だって?



「お母さま、その方って、ゲーンズボロ男爵夫人ですか?」


「ええ、そうよ。何か気になった?」


「……リチャードの誕生日パーティーで、ゲーンズボロ男爵のご令嬢とお話ししました。ディクソン先生のお孫さんのーークラリベルさまのお友達みたいです」


あら、とお母さまが目を見開く。


「確か、ジスレーヌさんでしょう?」


「……実は、その……」


「どうしました?まさか何か失礼でも……」


心配そうなお母さまに、聞きつけたのか顔をちらりと出すリズ。


「……お声が、とても小さくて……ゲーンズボロという名字しか聞こえなかったんです」


「そう……。それは、早いうちにお名前を把握できてよかったわね」


お母さまは天を仰ぎ、リズは妙な顔で引っ込んだ。



◻︎■□



ジスレーヌ。

英語(というかロードウィン語)らしからぬ響きである。

夕食後ほどなくお父さまが帰宅し、やんわりと自室に戻らされた私は、そんなことを考えていた。

お父さまとお母さまは、多分、今日の馬車疑惑について話しているに違いない。


いったい、あれは単なる間違いなのか、それともいわゆる『漫画的な』嫌がらせだろうか。

嫌がらせだったら……

火事の犯人と一緒なのか。原因は。

考えようにも、材料が少なすぎだ。

"重用されている貴族の令嬢を乗せた馬車が、ひき逃げをした"なんていう噂が広がればーーたとえ噂でも、なんなら"かもしれない"でも、おしゃべりが大好きなご婦人方の格好のネタだ。


はあ。ため息が出た。


私が気づいていないだけで、実は両親のどっちか、あるいは両方が何かやらかしているのだろうか。まさか。

恨みを買うようなことはないはず……だ。

何しろ、漫画の中でカスター邸が全焼したときも、多くの人が葬儀で涙を流していたし、国王の『エリックを失った今、我が国の外交は……。なんと惜しいことを、私が一介の貴族でさえあれば、敵討ちもできようものを……』という男泣きなモノローグまであったのだ。


……ん?外交?


お父さまは、外交において重要な位置に就いていたはず。大臣補佐官の主席だったかしら。

その手腕は高く買われていて、エルラーツとの同盟締結にも一役かったらしい。大国相手に、対等な立場をとれたのはエリック・カスターのおかげだと言われているのを、パーティーでも聞いていた。

……あれ、と胸騒ぎがした。

あの火事は、王位を狙う人間の仕業と信じ込んでいたが、違う?

お父さまが死ねば、ロードウィンの外交は崩れ、エルラーツが返り咲ける?

そうだとしたらーー


前提が、違っていたのか。

いや、……でも、それなら、サミュエルが狙われたのは何故?


分からない。本当に分からない。

ぞくり、背筋を何かが走っていった。

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