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居間に飛んでいくと、お祖父さまとお祖母さまがいた。母方の祖父母ーーサンディ公爵夫妻だ。
お祖父さまは、灰色の髪をぴっちりオールバックにした、イケてるおじいさまである。お祖母さまは、白髪混じりの茶色くてふわふわの髪をした、美しく歳を重ねたとわかる女性。
「もう……お父さま、お母さま。来るなら連絡してくださいな」
「いや、悪いね、レイチェル。シンディの誕生日祝いを渡そうと思ってな」
「マーク様の悪い癖よね、気をつけてよ。……あら、シンディ!」
お祖母さまが嬉しそうに椅子から立ち上がり、ぎゅっと抱きしめてくれる。
「遅くなってごめんなさいね。会えて嬉しいわあ」
にこにこと笑うその顔は若々しくて、とてもお祖母さま、という感じではない。私の顔も、気づけば綻んでいた。
「来てくれて、ありがとうございます! とっても、嬉しいですわ」
「いや、シンディは、しかしいい女に育ちそうじゃないか。将来有望だな」
お祖父さまは、意味深な視線をこちらに向けてくる。お祖母さまとお母さまは、そんなお祖父さまを睨みつけた。
「孫をそんな目で見るなんて、とんでもない方ですわね」
「いつまで経っても、美女には目がないんだから」
……そっか、お祖父さま、お妾さんもいるんだっけ……。妙に色気があるのは、そういうことなんだろうか。
ごほん、と咳払いをしたお祖父さまは、
「……まあ、とりあえず、これが祝いだよ。開けてみな」
そう言って、机の上の箱を指差す。
「あ……ありがとうございます」
箱に近寄ると、スッとサラが進み出てきて、開封してくれた。
蓋を開けるとーー
「…………わっ」
入っていたのは、美しいドレスだった。白いつややかな生地に、薄紫のレースのドレス。もう1着は、黒地に光沢のある緑の糸と銀の糸で刺繍が施された、大胆な意匠のドレスだった。
髪飾り用の、私の瞳と同じ色のリボンも入っていた。
「…………すごい……」
呟くと、お祖父さまが心底嬉しそうな笑い声を上げた。
「いいだろう、これ。サイズも合うはずだぞ」
「……お父さま、こんな素敵なもの……」
お母さまは、値段を気にしているらしい。お祖母さまに耳打ちされると、微妙な表情で黙ってしまった。ああ、「まあ、シンディが喜んでいるし……」と僅かに聞こえてきたぞ。
そう、実際、私は喜んでいた。
何故サイズがバレているのかは別として――綺麗なドレスを前にして、心踊らない人がいるのだろうか。
「シンディは、お前とクララに似て別嬪だからな。流石のアレクサンダーも、これを着たシンディを見たら、黙るだろうなあ」
上機嫌のお祖父さまが、2人に熱弁を振るう。
「……アレクサンダー?」
私が尋ねると、ああ、と笑ってお祖母さまが答えた。
「シンディは、会ったことはないのよね?あなたの従兄で、14歳のアレクサンダー・キールよ。キール公爵の三男ね」
「私の、母親の違う妹の子供なのよ」
あら、複雑な匂い。そう思ったのが顔に出ていたらしく、お母さまが付け加えた。
「母親が違うと言っても、カーラと私はかなり仲がよかったのよ?それで、小さな頃はよく『将来、子供同士を結婚させよう』なんて話していたわあ」
「それなのに、アレクサンダーの奴め、シンディはまだ11歳だと馬鹿にしおって。こんなに別嬪なのに」
「まあまあ、あなた。アレックスも、まだ14歳だし、レイチェルとカーラの約束だって、冗談みたいなものじゃない。そうやって怒ったら、またアレックスも拗ねてしまいますよ」
ふむむ、アレクサンダーか。漫画には出てきていなかったはず。
「アレクサンダー様って、どんな方なんですか?」
むっ、とお祖父さまが口をへの字に曲げたが……渋々答えてくれる。
「美男子ではあるんだが……少しばかり調子に乗っているというか。自信家と言えば、聞こえはいいがなあ」
「若い頃のマークにそっくりよ。自信家なんだけど、ついつい構いたくなってしまう子なの。女の子は、あのちょっと不遜なところに惹かれるのね。私も、若かったらイチコロよ」
……つまり、今で言うと俺様系イケメンってことかしら。いいなあ。
◻︎■□
その後、祖父母は名残惜しそうに帰っていった。「もっといたいなら急に来ないで下さい」という、お母さまの声がずっと聞こえていたが……。
私は、手紙を書くタイミングを失ったまま歴史の授業に突入。
授業後、先生に伝言だけでも頼もうかと思ったが、忙しいらしくあっという間に帰られてしまった。ああ……。
それにしても、アレクサンダーってどういう子なんだろう。公爵家の俺様系イケメン従兄。これだけ見たらすごいスペックだし、正直、ちょっと興味ある。
14歳っていうことは、社交界デビューは済ませていて、しかも学園にいる。
……もしかして、もしかしてだけど、サミュエルやリチャードとも知り合うのでは?
「……公爵令息だもんね。しかも三男」
高貴なお家柄だし、婿入りにもぴったりだ。……っていうことは、もしかして、レスリーと結婚という線も、選択肢としてはあり得るのでは?
思わず妄想してしまいーーニヤニヤが抑えきれない私だった。




