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パーティーが終わって、帰ってきた私は自分のベッドに寝転がった。
あの後、クラリベルとはまた会って少し話をした。先生から、私のことを聞いていたらしい。何と言われていたのだろう……恥ずかしい。
レスリーには、会えなかった。
当然といえばそうかもしれない。
何といったって、彼女は王家とも血の繋がりがあるゴードン公爵家の、大事なひとり娘だ。
むしろ、会えたことが幸運だった。
国中の少女が、レスリーを羨ましいと思うだろう。彼女を羨まないのは、サミュエルの妹であるグレンダ王女くらいではないか?
そうまで言われている彼女。
だけど……
普段なら、絶対誰にも言えないであろう自分の気持ちを、身元も知らない相手に思わず吐露する。
そこまで、追い詰められているのだろうか?
そして、私は『原作に逆らって』レスリーと出会ったことを少し後悔した。
小さな違いに見えても、思いも寄らない結果をもたらすかもしれないから。
カスター家の運命が好転するならいいけれど、あるいは将来のポーリンへの悪影響だってあり得る。
「……でも、ほっとけなかったんだってば」
言い訳のように、独り言つ。
レスリーだって、私の大好きなキャラクターだった。
漫画に出てきた彼女は、今より更に磨きをかけた美しさと立ち居振る舞い、そして何より、サミュエルを愛していた。これ以上ないほど、王太子の婚約者にふさわしい女性だったのだ。
そうなるまでには悩みがあったのだろうけど……いざ見せられたら、放っておきたいとは思えない。
よし、決めた。
上体を起こして、私はわずかに笑う。
私がこの人生で目指すのはーー
『死を回避し、家族で仲良く暮らしつつ』『ポーリンとサミュエルを結婚させて』『なおかつレスリーも幸せになるように手助けする』
壮大な目標だな、と思った。
そのためには、まず火事を回避しないといけない。
……私が推測した火事の原因は。
知られていないが、王家の血が入っている人物が、自分もしくは近しい人の王位継承を狙って、王家の血が流れている人達を消そうとした。
カスター家は、確かにグレース王女の血を引いている。だけど、彼女は王家から除籍された人間であるために、忘れられてしまったのだ。
だから、消されてもその理由には辿り着かない。
そう考えて、まずは、私たちから消そうとしたのでは……?
ということだ。
残念ながら、原作では他の火事・もしくは殺人めいたものは起こっていない。
しかし、王都やその近辺で盗賊騒ぎがあるのだ。
被害に遭った屋敷は……
脳に必死で呼びかけて、記憶を手繰り寄せる。確か、貴族の、王都滞在用の屋敷?
「…………ブルースター伯爵と、ゲーンズボロ男爵……だ」
思い出した私は、更にもう1つ思い出す。
「ゲーンズボロって、あの子……!」
パーティーで、クラリベルと一緒にいた子だ。人見知りなのか、クラリベルに話すとき以外はやたら声が小さくて、名前すら聞き取れなかったのである。ファーストネームも既に朧だ。
クラリベルに聞けば分かるかもしれないが、そのためにはクラリベル自身に連絡を取らなくては……
そっか、先生に聞けばいいんだ。
何という巡り合わせ、と私は深く息を吸う。
◻︎■□
夕食の時間になり、家族みんなでテーブルについた。
「リチャードも、いよいよ学園に入学するのね」
「学園に通っていた時代が懐かしいよ。あの頃は、僕も若かったなあ」
「あら、エリックは今でも若いわ」
「レイチェルこそ。今日のドレスも、とても似合っているよ。その紫の花柄が、君の若草色の瞳とよく調和している」
……と、気づけばすぐこの2人はこんな風にイチャイチャと……まあ、仲良しなのでよしとしよう。
「でも、今年は大変かもしれないね」
「……あら、お父さま、どうしてですか?」
惚気とは打って変わった口調に、私は食いついてしまう。
「おや、シンディ、気になるかい」
「シンディったら、リチャードのことになると興味津々かしら」
くすくす笑う両親を、シンディの柔らかい瞳で頑張って睨んでみるが……無理だった。
「まあまあ。怒らないでおくれ、かわいいシンディ。……そうだね、今年は、王太子様も13歳を迎えられるからね。つまり、学園にご入学されるってことさ」
…………失念していた。
そうだ、『王国と炎』でのリチャードは、サミュエルの学友、かなり親しい友達なのである。
サミュエルがカスター家の葬儀に訪れたのも、多少はそのことが関係していたはずだ。
「あら、シンディ、そんなにびっくりしたの?」
からかうような微笑を浮かべて、お母さまがこっちを見ていた。
とりあえず頷くと、お母さまとお父さまの間で会話が再開される。
そうだ、それなら、
カスター家の火事が起こらなくても、リチャードを介してポーリンとサミュエルを出会わせることができるかもしれない。
少しだけ希望が見えて、私は2人の会話に加わろうとした。
……ところが。
「レイチェル、非常に言いにくいんたが……」
「どうしたの、エリック?」
「……唇に、パセリがついている」
「あ、あら……本当だわ、嫌だ」
赤面するお母さまに、お父さまが言う。
「まだ、家族だけだからよかったが……外ではやめてくれよ」
「……はい。気をつけますわ」
お母さまは肩を落とすが、とどめの一言が入った。
「いつも素晴らしい淑女の君が、こんな風にうっかり屋だなんて……他の人には見られたくないよ。こんなにかわいいところを、知られたくないからね」
居間に流れた甘い空気に当てられた私(と使用人の皆様)は、大きなため息をつくしかできませんでした、とさ。




