第十五話『マロンにゃんを助けるのにゃん!』のその①
第十五話『マロンにゃんを助けるのにゃん!』のその①
あれからはや、一か月以上の月日が流れたのにゃ。
そして……今はお昼すぎにゃん。
昼食は早めに済ませてしまった。でもにゃ。口の中には今もお魚にゃんの味の余韻があって、ウチを楽しませてくれているのにゃ……って、どうでもいいにゃん。そんにゃの。
ウチとミクリにゃんは今、レミロにゃんの常駐勤務場所……という表現が適当かどうかは議論の分かれるところにゃのにゃろうけれども、一応、実態はそうにゃので……の保守空間マザーミロネに居るのにゃ。椅子に座らず、全員が立ち姿。もちろん、レミロにゃんと目線が合うように、ウチらネコ型が立つ足元の床が高くにゃっているのはいつも通り。
「ええと、レミロ君だっけ? 本当にボクなんかが入ってもいいのかい?」
初対面のせいにゃろう。ミクリにゃんがいつににゃく、どぎまぎ、しているのにゃ。
「大丈夫にゃん?」
「大丈夫だよ、ミアン君。ほら、ボクってアホだから」
この一言にウチは思わず、ほろっ、と。
(うんうん。それでこそミクリにゃんにゃ。ウチらミーにゃん同盟の誇りにゃん)
あまりの素直さに抱き締めたくにゃる。そんにゃウチの思いをよそに、レミロにゃんはいつもの如く淡々と返事をしたのにゃ。
「構いません。マザーが了承したのですから」
「それならいいんだけどねぇ。……にしても」
ミクリにゃんは胡散臭そうに空間内を見回す。
「なんなのぉ、ここは。わけの判らない模様が現われては消え、消えては現われるってぇ。
ほら、色だってどんどん変化していくよ。どうにも落ち着けない場所だなぁ。
ねぇ、ミアン君はどうなんだい?」
「ウチも最初はそうにゃったにゃあ。でもにゃ。今は全然平気にゃよ」
「ふぅぅん。慣れって怖いなぁ。
……と、あれっ。あの大きな画面にあるのって」
「ミクリ殿たちが造った霊穴路です。ほら、通路全体の様子が一目で見渡せるでしょう?」
「一番左側の光っているのがヴィナ様の核だね。そこから延びていって……」
言葉を途切らせたまま、ミクリにゃんの視線は霊穴路の始めから順に、パネルからパネルへと移っていく。自分たちが造った霊穴路にゃ。じっくりと見たいのにゃろう。
もちろん、入口はヴィナにゃんの目の前にゃ。網の目に造られた光の通路が紺青色の輝きを纏いにゃがら、真っ直ぐに、そして少しずつ上へと延びているのにゃ。赤から黄へと続く色彩がざわめき合うマグマの中を抜け出たあとも向きを変えることにゃく、黒や灰、赤茶や黄色といった異にゃる色の地層を貫いている。でもにゃ。火口の真下に近づくにつれ、なだらかにゃカーブを描きながらの上昇とにゃって、……そして地中を突破。地層のさまざまにゃ濃い色と、焼けたあと、みたいにゃ感じの色がひしめき合う空洞化した火山の内部、を通って頂上の真下まで辿り着くとにゃ。あとは火口まで真っ直ぐにゃん。
最後の映像を見終わったのにゃろう。ミクリにゃんの口に言葉が戻ってきたのにゃん。
「うんうん。そうだね。火口の出口まで繋がっているってわけだ。
ふぅぅん。こうなっているのかぁ」
「こうにゃっているのかって……、造ったのはミクリにゃんらにゃろう?」
「部分部分で造っていたからねぇ。まぁこんな感じなんじゃないかなぁ、ぐらいの想像はしていたけどさ。でもこうやって実際に全体像を見せつけられるとぉ……。
いやあ、自分たちを褒めるっていうのもなんだけど、良くやったと思うよ」
「お疲れ様にゃん」
そう。準備は全て整ったのにゃ。でもって今日からはテスト。ミクリにゃんはちょっと緊張気味の顔にゃ。ううん。ミクリにゃんにゃけじゃにゃい。ウチにゃってそうかも。
「伝えておきたいことがあります」
いつにない厳かにゃ顔とにゃったレミロにゃん。お喋りの口調も、ややお堅いものに。
「これからは日を分けて各種のテストを行なうことになると思われますが、本番ともども、打ち上げまでの一連の流れは、こちらの監視及び指図の元にて執り行なうことと致します。窮屈な思いをされるかもしれませんが、危険を最小限に抑える為の判断とご納得下さい。
よろしいですか? ミアン殿、ミクリ殿」
日頃、温和にゃレミロにゃんがここまでいうのにゃ。『まかり間違えば、とんでもにゃいことににゃるのかも』とあらためて計画に伴う危険性の大きさを認識。にゃもんで、
「判りましたですにゃん!」
「異議なぁしっ、であります!」
柄にもにゃく、『ますです』言葉の返事とにゃってしまった。
まぁイヤといってもしょうがにゃいのにゃけれども。にゃって指揮官として相応しい立ち位置の者が出した指示にゃもん。誰が文句をつけられるというのにゃん?
今回の作戦はミーにゃんが総指揮を執ることににゃっている。あらためていうまでもにゃく、ミーにゃん自身が強く要望した結果。自分が先頭に立たにゃいと気が済まにゃい性分にゃのにゃ。でもって補佐役はレミロにゃん、じゃにゃかった。ミロネにゃんと決められたのにゃ。
(ややっこしいにゃあ)
とはいえ、これはあくまでも表向き。実質の総指揮官はミロネにゃんにゃ。仲間からの信頼も厚いし、にゃによりもレミロにゃんと繋がっているのが嬉しい。保守空間にゃらば全容が直ぐにつかめるから、万が一、にゃにかあったとしてもにゃ。即座に対応がとれるのにゃもん。当たり前といえば当たり前の話にゃん。
(ふにゃ?)
妙にゃことが。ネコ人型モードにて額に手を当てたポーズをとっているウチらを見て、レミロにゃんが急にそわそわし始めたのにゃ。『どうしたのにゃろう?』と思っていたら、
「あ……強くいいすぎたようですね。済みませんが、敬礼はやめてもらえませんか?
逆にこちらが委縮してなにも出来なくなってしまいますから」とのお言葉。
綺麗にゃ顔立ちにゃけに困り顔も魅力的。にゃにもいわずとも助けてしまいたくにゃる。ミクリにゃんもおんにゃじ気持ちみたいにゃ。ウチと『ぶふっ』と吹き出したあとは、揃ってレミロにゃんに顔を向け、こくり、とうなずいた次第にゃん。
(にゃんともデリケートにゃお方にゃ。
でもにゃ。こういうレミロゃんがウチは大好きにゃん)
「では始めましょう。今日は実際に霊力を流してのテストです。
ヴィナ殿。準備はよろしいでしょうか?」
ややあって返事がウチの心にも届く。当然のことにゃがら、会話のやり取りは全て霊覚交信にて行にゃわれる。
「いつでも」
「では……放出を開始して下さい!」
「あい判った!」
言葉とほぼ同時にヴィナにゃんの核を映している画面が紫の光に覆われたのにゃ。光はそのまま画面が並んでいる方向へと移動していく。霊穴路は紺青色にゃのにゃけれども、網の目に造られているもんで、内部の様子が外側からでも伺えるのにゃ。
「あれっ? なぁ、レミロ君。確かヴィナ様は、マグマにかけられた霊圧を霊力に変えて放っているんだよね? なのにさ。どうしてこんなにゆっくりなんだい?」
ミクリにゃんのいう通りにゃ。まだ光は並んでいるパネルの一番左、ヴィナにゃんが映っている映像から、次の映像の終わりぐらいまでしか進んでいにゃい。こんにゃに歩みの遅い霊力はにゃい。
「霊視を強めないと見えませんが、霊穴路内部にはあらかじめ霊力抑制粒子『ダマラ』を散布済みです。だから霊力の強さはほとんど変わらないものの、進行速度は極めてユルやかなものとなっています。今回のテストでは霊穴路の耐久性と安全性を確認するのが目的。なんの支障も起きないようであれば、徐々に散布の量を減らしていきます。順調にいけば、今日中に本番さながらのテストまでもっていけるはずです」
「へぇ。なかなか用心深いんだねぇ。ぱっぱっ、と一気にやっちゃうんだと思っていたよ。
ねぇ、ミアン君」
(こんにゃタイミングで話を振るにゃあ!)
実は、ほぉほぉ、と聴くにゃけでにゃんにも考えてはいにゃい。というのも……、
頭を使うのが苦手にゃウチとしてはにゃ。『ここは一つ、ミクリにゃんに丸投げにゃ』と決め込んで、こっちは、ひたすら聴き手に徹しようと努めていたのにゃん。
しかしにゃがら……、自分の思い通りににゃらにゃいのが世の常というもの。ミクリにゃんにゃけじゃにゃく、レミロにゃんまでもが、こちらを振り向いている今、返事をしにゃいわけにはいかにゃい。
(ええと、にゃにをどういえば……)
半ばうろたえているウチはわざとパネルのほうを向いたのにゃ。少しばかりでも考える時間を引き延ばそうとの苦肉の策。ところがにゃん。
「あれは……にゃんにゃ?」
「うん? どうしたの? ミアン君」
「真ん中の映像にゃ。霊穴路内に誰かが居るみたいにゃのにゃけれども」
「なんだってぇ!」
「なんですってぇ!」
ミクリにゃんに続き、レミロにゃんも声を上げて身を乗り出す。目の前にずらりと並ぶ十二のパネル。左から六番目に当たるパネルの映像に、小っちゃにゃ『にゃにか』が映し出されていたのにゃ。
「確かにそう見えないこともないけど……」
「直ちに調べます」
レミロにゃんが開いた両手を前に差し出す、と、手のひらの直ぐ真下に例のキーボードが浮かび上がったのにゃ。
「マザー、拡大投影を」
ぽろりん。ぽろぽろぽろ……。
キーボードが奏でるメロディに乗って件の映像がズームされる。
どんどん。どんどん。そして……。
「ミクリにゃん!」
ウチには正体が直ぐに判ったのにゃ。隣に居る友にゃちも呆然とした様子で呟く。
「マロン君……」
ミクリにゃんの話に依れば、今回の作戦に小っちゃにゃマロンにゃんは参加出来にゃかったみたいにゃのにゃ。『行きたいでちゅ行きたいでちゅ』とごねていたのをにゃんとかなだめ、諦めてもらったらしいのにゃけれども……。
「我慢出来なかった、というわけですか」
「判るにゃ、その気持ち。マロンにゃんてこういうことが好きそうにゃもん」
知り合っているもんにゃから、ウチにゃって、とても他ネコごととは思えにゃい。
レミロにゃんとウチの言葉にうなずくミクリにゃん。
「ボクもそう思う。でも、これほど来たがっていたなんて。あの子って、自分の感情をあまり表には出さないタイプなんだ。幼いせいかもしれないけどね。だから、つい見逃しちゃったよ」
『ボクの責任だ』と頻りに後悔している様子にゃ。でも今はそれどころじゃにゃい。
「それでレミロにゃん。ヴィナにゃんの霊力はあとどれくらいでマロンにゃんに着いてしまうのにゃ?」
「さほどには。でも……、あなた方が今からすっ飛んでいけば、助け出せるぐらいの時間はまだあると思います」
(助かるか助からにゃいかはウチら次第、といっているのにゃ。
それにゃけ聞けば十分にゃん)
「ミクリにゃん!」
「ああ、直ぐに行こう!」
「ダマラの散布を今少し増やしておきましょう。ご健闘をお祈りします」
「任せるのにゃん!」
「助けてみせるさ!」
見送るレミロにゃんを背にして、ウチらは保守空間をあとにしたのにゃ。
「いよいよクライマックス来たり!
との表現がぴったりにゃ第十五話の始まりにゃああん!」
ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。
「長かったわぁん。でも、ついにここまで来たのね」
「エピローグの一つ手前。感慨深いわぁ」
「今回は、『マロンにゃん、危うし』が発覚、というところにゃのにゃけれども」
「気の毒、とは思うわん。でもぉ……」
「気の毒、とは思うのよ。でもねぇ……」
「でも? にゃんにゃの?」
「羨ましいわん。だって今回のお話では、助けを待っているヒロインなんでしょ?」
「羨ましいわぁ。出番があって、しかもヒロインなんて。
ワタシにもいつかそんな日が来るのかしら……」
「あんたらにゃあ」




