第十一話『温泉で寛ぐのにゃん!』のその③
第十一話『温泉で寛ぐのにゃん!』のその③
おばあにゃんは話好きにゃ。話し足りにゃいとみえて腰を浮かせかかったウチを、『そういえば』との言葉で石椅子の上に留めたのにゃん。
「確か以前、聴いたと思ったが……、
あんたは、あたしらとは違って元は普通のネコだったんだよね?
んでも、幼い頃に」
「うんにゃ。命を失ってしまったのにゃ」
「そこであんたの時間はとまっている。幼顔なのはそのせいさね。
……ああでも、それにしては身体がずいぶんとまぁ」
「もわんもわん、にゃろう? ミーにゃんが良くそういう表現をするのにゃ」
「顔は年相応だが、身体はどうにも不釣り合いな気がするねぇ。
なにか理由でもあるのかえ?」
「実はにゃ。ミーにゃんが生まれるまではウチも生前とおんにゃじ細身にゃったのにゃよ」
「ほぉ。それがどうして?」
「ミーにゃんはにゃ。生まれた最初のうちはイオラにゃんに抱かれたまま、珍しいものを見るようにゃ目つきをこちらに向けていたのにゃん。ところがにゃ。次第にうずうずし出して、じっとしてはいられにゃい、といった様子へと変わったのにゃん。イオラにゃんの腕から飛び出してウチの背中で、ごろごろ、し始めたのは、それからあっという間。生まれてから一日も経ってはいにゃい。でもって二、三日あとぐらいにはもう、ウチの背中をベッド代わりにして眠るようににゃってしまった、ってにゃ感じにゃ」
「生まれて一日足らずで……。物心がつかないうちから、ってことかね?」
「そうにゃん。にゃから危にゃっかしくって。
『身体全体をもう少しふっくらとさせれば、ウチが寝ていたとしても落ちることが少にゃいんじゃにゃいの』と思い至ってにゃ。それでまぁ」
「なるほど。だからかえ」
「『これくらいにゃら、これくらいにゃら』って徐々に身体を膨らませて毛並みも厚くしていったのにゃ。そしたら……、いつの間にかこんにゃ大きさにまでにゃってしまっていた、といった次第にゃん」
「全ては親友の為、ってわけかえ。あんたって顔だけじゃない。心まで優しいんだねぇ。どうしてイオラ様が命を分け与えたのか判る気がするよ。……にしても残念だねぇ」
「ふにゃ? にゃにがにゃ?」
「年頃になるまで生きていたとしたら、あんたはきっと、エラいべっぴんさんになっていたよ」
「おばあにゃん……」
「心の優しさは美しさとなって顔や身体にも滲み出るものだからね。
でもまぁ今のあんただってなかなかのものだよ。可愛さの中にちゃんと綺麗さが覗けている。ご両親が自慢の娘だったのに違いないね」
「おばあにゃん……」
(べっぴんさんにゃんて……、
誰も、親友のミーにゃんすらいってくれにゃいのに……ぐすっ)
思いっ切り感動にゃ。座ったまま、おばあにゃんにしがみついたのにゃん。
「おばあにゃん、大好きにゃあ!」
「おやおや。どうしたのかえ? 急に」
(ウチの美貌を一番良く判ってくれている。ウチを一番良く知ってくれているのにゃん)
そう思ったら目頭が熱くにゃってしまったのにゃ。どうしようもにゃく甘えたくにゃってしまったのにゃん。
霊体であれば誰であろうと、身体から常に霊波を自然放出している。にゃもんで二つの霊波を強く重ね合えば合うほど、触れ合い感が更に増してくるのにゃ。
ウチは両腕でおばあにゃんの身体をしっかと抱くと、胸に顔を埋めたのにゃ。温もりをもっと感じたかったのにゃん。
あと、……涙ぐんでいる顔を見られるのが恥ずかしかったせいもあるのにゃん。
しばらく話を続けたのち、『それじゃあ、温泉にゆっくりとお浸かり』との言葉を残して、おばあにゃんは番台へと戻ったのにゃ。お喋り相手が居にゃくにゃったウチの目の前には温泉をなみなみとたたえた岩風呂。『湯加減はどうにゃ?』と前足で探ってみたらにゃ。これがまたちょうどいい感じにゃのにゃ。
「にゃら、入ろうにゃん」
手ぬぐいを肩にかけ、ウチは後ろ足からそっとお風呂の中へ。ネコ型の霊体にゃら、肉球から放たれている霊波を強めるにゃけで岩にぴったりと足を張りつけて下りられるのにゃん。にゃら、実体を持つ生ネコ……ナマネコ、普通のネコにゃ……は、といえば、こちらも大丈夫。岩には爪がかりの容易にゃ窪みが幾つもあってにゃ。そこに爪を引っかけにゃがら、頭を上にして下りていけばいいのにゃ。どこかのネコみたいに太平を得ることにゃく、安全に湯船に浸かれるのにゃん。
かっこぉん。かっこぉん。
ここの温泉はにゃ。お湯が流れ落ちてくるところが数か所あるのにゃ。一部には『ししおどし』にゃどという変てこにゃ名前の木工細工が置かれていたりもするのにゃ。短く切って筒状にくり抜いた幹と支える柱、それと置き石が仕掛けの大元。上を向いた口にお湯が落ち、幹一杯にたまると下へと傾く。ある程度まで流れ出すと、また元の状態へ。この際、口とは反対側の幹の先っぽが置き石にぶつかり、小気味の良い音を立てるのにゃ。
心休まるこの響きに、『にゃんとも風情のある趣にゃ』と聴き惚れにゃがら、俗世間のしがらみを逸脱した空間に身を置く化けネコがひとり。にゃにを隠そうウチのことにゃん。
「ふわぁっ。いい気持ちにゃん」
顔を拭いた手ぬぐいは畳んで頭の上に。心地良い湯加減に、つい、うとうと、と。
「ふわああんにゃ。このまま眠れたら最高にゃのにゃけれども……」
と思い始めた矢先にゃ。グッドタイミングで、
「ミルクはいらんかえぇ。ミルクはいらんかえぇ」
聞こえてきたのは『ミルク飲み放題』屋台からの声。岩風呂の向こうにいつも陣取っていて、温泉名物の一つでもある『温泉ミルク』を飲ませてくれるのにゃ。にゃんでも温泉から流れ出たお湯とその中に含まれる霊力……ウチらの身体から排出されたものも含めてにゃ……を利用して育てた植物の実から絞りとった『ミルクもどき』とか。あっさり味と思いきや、どうしてどうして。にゃかにゃかコクがあってよろしいのにゃ。評判も良くてリピーターも日に日に増えているとのこと。面白いのは、本来、温泉ミルクを飲ませてもらうには温泉周りの掃除や整備にゃどを手伝うのが決まりとにゃっている。ところがにゃ。温泉に一回浸かるたんびに茶飲み一杯分のミルクが、にゃんにもしにゃくたって、おばあにゃんから手渡しで飲ませてもらえるのにゃ。にゃんとも嬉しいサービスにゃのにゃん。
と、ここでウチは、ぱぁっ、と閃いたのにゃん。
「そうにゃ! 風呂上がりにはミルクにゃん。おばあにゃんからもらって、洗い場で、ごくごく、したあとは、ちょっと昼寝。目が覚めたら、また、どぼん。
うんにゃ、今日はこの繰り返しでどこまでやっていけるか試してみるのにゃん」
思い立ったが吉日にゃ。『にゃら、取り敢えずは百まで入って』と、一、二、三、と数えていたらにゃ。にゃにやら目の前に、不自然にゃ泡の立ちよう。
ぶくぶくぶく。ぶくぶくぶく。
ざざざざああぁぁん!
「こらぁっ! あなたは一体ここへなにしに来たのでありますかぁ!」
「うわんにゃあ! お、お、お化けにゃああん!」
お湯の中から現われたのは、水草の蔓にくるまった得体のしれにゃい化け物にゃん。
「失礼ですねぇ。お化けじゃありませんですよぉ。ほらぁっ」
ぱっ!
蔓を一瞬で振り払うという見事にゃ早技。中かから現われたのは、
「ふにゃっ! 化けネコにゃん!」
「あのぉ。化けネコはそっちでありまぁす」
「……そうにゃった」
良く良く見れば、白地に黒の縞模様という悔しいほどに綺麗にゃネコ姿にゃ。もしや、と思って顔を覗き込めば案の定。
「にゃあんにゃ。ミムカにゃんじゃにゃいの。脅かしっこにゃしにゃよぉ」
現われたお喋り相手も、おばあにゃんみたいに『神出鬼没』。いつどこから湧いて出るのか判らにゃい。おまけに、体型や身体の一部を変えられる、にゃどの特異にゃ力も備えているとあっては、ミーにゃん同盟の他の友にゃち以上に、『ミステリアスでファンタスティックにゃ妖体』とウチの目に映るのも、ごく自然にゃことではにゃかろうか。
「ねぇ、ミアン。今回のお話の中にさぁ。
『どこかのネコみたいに太平を得ることにゃく』ってあるでしょ? あれって」
「気にしにゃいで」
「えっ。でもぉ」
「気にしちゃダメよ、ミーナちゃん。そこはね。ちゃんとスルーしてあげなきゃ」




