第十一話『温泉で寛ぐのにゃん!』のその②
第十一話『温泉で寛ぐのにゃん!』のその②
「おばあにゃん。いつもいつも済まにゃいにゃあ。
……と、そうにゃ。さっきは有難うにゃん。お布団を敷いてもらって、その上、このハンコまで押してくれて」
ウチはそういって前足で額を指差す。
おばあにゃんの座っている番台の前には大きにゃ鏡が立てかけられているのにゃ。ウチがいつものように自分の美貌を堪能しようと覗き込んにゃら、『たいへんよくできました』の花丸印がくっきりと残っているのが目に入ったのにゃん。
「おや、まだそれを使っていなかったのかえ?」
しげしげとウチの額を見つめるおばあにゃんの口から、謎めいた言葉が漏れたのにゃ。
「ふにゃ? 使うとは?」
「そうかい。教えてなかったんだねぇ」
にゃんとも意味ありげにゃ発言。ますます気ににゃる。
「おばあにゃん。一体なんのことにゃ?」
「その花丸印には不思議な力があるんだよ。なにか困ったことがあったら、『こうして下さい』と念じてごらん。そしたら」
「叶うのにゃん?」
ウチが期待して聴くと、おばあにゃんは困ったようにゃ表情を浮かべたのにゃ。額にシワを寄せた顔からは、『どういったらいいのかねぇ』と悩んでいる風にも感じられる。
「うぅぅん。それがねぇ……。まっ、願い次第ってとこさね。『運を良くして』みたいなものはてんでダメ。力尽くでなんとかなりそう、ってな類の願いなら、そうさねぇ、叶うかもしれないよぉ。なにしろ相手は戦神様だから」
「それって……」
ふとミクリにゃんから聴いた話を想い出す。
「ひょっとして、『にゃあまん様』のことにゃん?」
「かもしれないねぇ。ふふっ」
笑ってはいたものの、あとはにゃにも教えてくれにゃかった。
にゃあまん様といえば、真っ先に思い浮かぶは『にゃあまん神社』
(にゃあまん神社といえば……)
イオラの森って結構広いのにゃん。てくてくと歩いてみれば判るのにゃけれども、幾つかの森と広場に分かれていて、これらの間を『森路』と呼ばれる、柔らかい落ち葉と硬い石ころが散らばる平坦にゃ『白っぽい』道が通っているのにゃ。でもって、にゃあまん神社はその森路の途中に、ぽつん、と置かれているのにゃん。神社とはいっても名ばかりで、『白っぽい』石が小山のように積み上げられているにゃけ。真ん中下辺りが抉られたようににゃっていて、その中に人間の大人ほどの大きさがある石像が祀られている。これがにゃあまん様。ご神体にゃ。外壁とおんにゃじ色で、姿かたちはネコ人型モード。にゃんとにゃくウチの容姿に似ている気がしにゃいでもにゃい彫像にゃ。
これも余談にゃのにゃけれども……、おんにゃじ『白っぽい』でも、もちっと細かくいうとにゃ。森路のほうは淡い黄色みの白で、にゃあまん神社や石像のほうは淡い緑みの白。とはいってもにゃ。ぱっと見には、違いは判らにゃいのにゃ。『にゃから、どうにゃっていうの?』と聴かれても困るのにゃけれども、まっ、そうことにゃん。
ミクリにゃんの話に依ればにゃ。にゃんと、にゃあまん様はヨモギ団子の化身にゃとか。それでいて正義と愛の戦神でもあるという。すこぶる理解のしにくい神様にゃん。
まっ、それはともかくにゃ。どうしてそんにゃ神様が祀られているのかといえば……、
はるか昔、『死の灰』にゃるものが村に降り注がれたのにゃ。毒性を持つ噴煙で邪悪にゃる怨念をも潜ませていた。『死の灰』のせいで、森に棲む生き物らを『重い病に冒す』『狂気へと誘う』『死に至らしめる』にゃどの悪性を持った細菌が、あちらこちらで次々と発生。それのみにゃらず、『火炎竜』という霊魔獣、並びに数々の奇っ怪獣までもが出没というありさまで、村は甚大にゃる被害に見舞われたのにゃん。
この混乱のさにゃか、別世界の出入口とされる天外魔境からひとりの正義の味方が飛来。悪性の細菌を浄化し、火炎竜をも滅ぼしたのにゃ。以来、次々と現われるウチらの敵、奇っ怪獣さえもことごとく打ちのめした。まさに英雄と呼ぶに相応しいお方にゃん。
やがて時が流れ、村には平和が訪れたのにゃ。でもにゃ。長い闘いは正義の味方をも蝕んでいたのにゃ。身体を動かす。たにゃそれにゃけの心の力すらも失われていた。にゃもんで最後の力を振り絞って、霊石の祠を造ったのにゃ。自らも霊石の殻で身を覆い、石像とにゃって祠の中で長き眠りに就いたのにゃん。
この正義の味方こそが、にゃにを隠そう、にゃあまん様。
……とまぁ、こんにゃ主旨の話を延々と最後の最後まで続けてくれたのにゃ。途中から半分寝ぼけまなことにゃってしまったウチ、『ふわああぁぁんにゃあ』と大あくびをし続けるウチに対して、諦めることにゃく最後まで喋ってくれた友にゃちには敬意を表するしかにゃい。
(ミクリにゃんて優しいのにゃ)
たにゃ……これらの情報源はみにゃ地中ネコらの噂話らしい。にゃもんで、真偽のほどは定かじゃにゃい。たにゃの噂、いい伝えにすぎにゃい可能性にゃって十二分にある、ってにゃことも、くどくどと念押しされたのにゃん。
(まぁ本当であろうがにゃかろうが、ウチが生きていく上でにゃんの不都合も起きにゃいのであれば)
……てにゃことで、にゃんの関心も持ってはいにゃかったのにゃん。
(折角ここまで来たのにゃ。先ずはお風呂に浸かって、あとのことはそれからにゃ)
お風呂場ではウチもネコ人型モードの姿勢。身体でも洗おうかと思ってにゃ。洗い場の黒っぽい石椅子の一つに腰を下ろしたのにゃ。でもって手ぬぐいで顔からお腹へと洗っていたらにゃ。『どれ、背中でも流してやろうかえ』とおばあにゃんがそばへ寄ってきたのにゃん。見れば、手に、ウチのとは別の木桶と手ぬぐいを持っていてにゃ。中腰の姿勢でお風呂のお湯を汲んにゃのにゃ。立ち上がって桶を覗き込んにゃ顔には、『これだけあれば十分』と納得したようにゃ表情が。続いて手ぬぐいを桶のお湯に浸たすと、『それを使ってもいいかね?』と用済みににゃった石鹸を指差したのにゃ。ウチが、『いいにゃよ』とうなずいたらにゃ。桶から濡れた手ぬぐいを取り出し、石鹸をごしごしと。白い泡で包まれたのを見て、『十分含んだ』とでも思ったのにゃろう。ウチの後ろへと回って背中をこすり出したのにゃん。
すりすりすり。すりすりすり。
「あんた、なかなかいい毛並だねぇ。ただふっくらとしているだけじゃなくて、質もなかなか良さそうじゃないか。だからかねぇ。石鹸の泡立ちがいいのは。……おや、ちょっと洗っただけでこんなにも艶が。エラいねぇ。日頃の手入れが行き届いている証拠だよ」
「にゃははは。それほどでもにゃいのにゃけれども」
照れている間に背中へのこすりは終わったようにゃ。
じゃばじゃばじゃば。じゃばじゃばじゃば。
「ほぉれ、綺麗になった」
お湯かけが済むと、ウチの前へと回ったのにゃ。
にゃもんで、自然と口からお礼の言葉が零れたのはいうまでもにゃい。
「有難うにゃん。気持ち良かったにゃよ」
「えっへん! どうにゃ? ミーにゃん。参ったにゃろう?」
「ええと……、ねぇ、ミアン。なにをそんなに威張っているのわん?」
「にゃんと! ミーにゃんは気がつかにゃいのにゃん?」
「あらま。本当に? ワタシだって直ぐに気がついたのよ」
「イオラまで? じゃあ、判らないのはアタシだけか……。
ううん。なんかしゃくにさわるわぁん」
「ミーにゃんは降参にゃ?」
「ちょ、ちょっと待つわん。
ええと、ええと、……ミアンが結婚式とか?」
「そうにゃん? はて? ウチも知らにゃい話が、いつどこで決まったのにゃん?」
「まぁいいじゃないの、ミアンちゃん。おめでたいことなんだから」
「それもそうにゃん」
「ミアンちゃん。結婚、おめでとう」
「いやいや、どうも有難うにゃん」
「さぁさぁ、ミーナちゃんも」
「えっ。……お、おめでとう、ミアン」
「ミーにゃんも有難うにゃん」
ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。
「……って、おかしいわん。どうしてこんな話の流れになるわん……」
「ところで、ミーにゃん」
「は、はいっ?」
「結婚というからにはお相手が居るはずにゃ。一体誰にゃの?」
「そうね。ついうっかりして聴くのを忘れていたわ。
ミーナちゃん、誰なの? ミアンちゃんのハートを射とめたお方は?」
「ちょ、ちょっと待ってわん。ええと、ええと……」
「ミーにゃん。ウチは今、胸がどっきどっき、もんにゃのにゃ。
もったいぶらにゃいで早くいうのにゃん」
「そうよ。新婦をじらして、やきもきさせてはいけないわ」
「ええと……うわっ! ふたりの険悪な顔が直ぐそばに。
もうこうなったら、奥の手を出すしかないわん!
出でよ、『忘れてハンマー』!」
ぴきぃぃん!
「右手に握ったこれさえあれば。……とぉっ!」
きゅうぅん!
「おっ、ミーにゃんのハイレベルジャンプにゃ!」
「オリンピックなら史上最高点だわっ! ……種目があれば、の話だけれど」
きゅうぅん!
「と見せかけて、急降下だわん!」
「ミアンちゃん、見て!
ミーナちゃんったら、こちらに向かってなにかを振り下ろそうとしているのぉ!」
「ミアン、イオラ、ごめぇん!
必殺! 『忘れていいのぉっ』!」
ぽぉん! ぽぉん!
「ふにゃん!」
「あれぇっ!」
ばたっ! ばたっ!。
むっくり。
「ウチは……眠っていたのにゃん?」
むっくり。
「ワタシも……かしらね?」
「イオラにゃん。ウチらは今、にゃにをやっていたのにゃっけ?」
「さぁ? ワタシもそこら辺の記憶がすっぽりと抜け落ちているの。
一体なにをやっていたのかしら?」
「しめしめ。上手くいったわん。
聴くなら、記憶があやふやな今しかチャンスはないわん」
ぱたぱたぱた。
「ねぇ、ミアン。
これから威張ろうと思っているでしょ? その理由を教えて欲しいわん」
「ミーにゃんったら、良く判ったのにゃん。にゃら話すのにゃけれども。
ほら、前々回まで忘れていた『にゃあまん』についての話。あれをにゃ。今回は過去から現在に至るまで大まかにゃがら、説明したじゃにゃいの。『怖ろしいまでの補正スピードにゃ』とぶったまげられても当然にゃくらいに。
これを自慢せずににゃにを自慢するというのにゃん?
これを威張らずににゃにを威張るというのにゃん?
にゃろう? ミーにゃん」
「なぁんだ。そんなことかぁ」
ほっ。
「あらぁっ。ミーナちゃん、これはなにかしら?」
さっ。
「ああっ! それ、取り上げちゃダメぇっ!」
「面白そうね。あっ、ひょっとしたら、こうやって……えいっ!」
ぽぉん!
「はぁう………………………………………………………………はっ!」
「大丈夫? ミーナちゃん。今一瞬、ぼぉっ、としたでしょ?
そんなに強く叩いたつもりはなかったんだけれど」
「ええと……うん、大丈夫みたい。なんともないわ……って、
うわぁっ! 大変大変大変だわぁん!」
「どうしたのにゃ? ミーにゃん。急に大声にゃんか張り上げたりして」
「本当にどうしたの? ミーナちゃん」
「今ね。聴きたいことがあってね。それを聴いたみたいなの。
なのに……忘れちゃったわぁん!」
「それはお気の毒にゃ。で? ミーにゃんは、にゃにを聴きたかったのにゃん?」
「んだから、それも忘れちゃったわぁん!」




