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第十一話『温泉で寛ぐのにゃん!』のその①



 第十一話『温泉で寛ぐのにゃん!』のその①


 あっという間に到着にゃ。

(ここに案内されたってことは……もしや温泉の中にゃん?)

 逸る気持ちを抑えつつも、ついつい急ぎ足とにゃってしまうウチ。森を囲っている木々を通り抜けると、今度は岩場に行く手を阻まれたのにゃ。それでもイラつくには及ばにゃい。にゃって向こうのほうに、『さぁ、こっちへおいで』とあたかもウチを誘うかの如く、白い湯煙が、ゆらゆら、と立ち上っているのにゃもん。

(温泉に浸かりにきたわけじゃにゃいのにゃけれども……、

 折角ここまで来たのにゃ。取り敢えずはあそこまで行ってみようにゃん)


 目の前には背の高い大っきにゃ岩がひしめき合うように立ち塞がっているのにゃ。でもって、そのほとんどが空に向かってとがった格好。色も黒っぽいものから灰色っぽいものまでと、これにゃけ見れば陰気そのもの。ところがにゃ。良く良く見れば、どの岩もまるで彫像品のように柔らかにゃ丸みを帯びた輪郭。『芸術作品じゃにゃいの?』と見紛うぐらいの景色に思わず、はっ、と胸打たれる……とは、ちと大げさかもにゃ。


 これらの岩を拭うようにウチは、てくてく、と歩を進めたのにゃ。近づいてみれば一目瞭然にゃのにゃけれども、大っきにゃ岩と岩との間には、歩くのに手頃にゃ高さの岩が並ぶように続いている。曲がりくねった道にゃものの、遮るものはにゃに一つにゃい。上がったり下がったり、もにゃいもんで軽快に足を運べるのにゃ。

「ほぉら、湯煙まであともう少しにゃん」

 ぽんぽんぽん、と弾むようにゃ足取りで意気揚々と、ウチはひたすら向かったのにゃん。


 そして……ついに。

「着いたのにゃん」

 ウチの真正面にあるのが、目印の湯煙を立ち上らせていた温泉の岩風呂にゃ。周りには木々が連にゃっていて、とはいってもにゃ。まばらに生えているにゃけ。その後ろにある大岩よりも低い高さで幹も細いとくる。まっ、風情を感じるにはちょうどいいかもにゃ。


 ……にしてもにゃあ。岩風呂は小ぶりの木々に囲まれ、小ぶりの木々は大岩に囲まれ、大岩は『温泉の森』の外壁ともいえる一番外側の大っきにゃ木々に囲まれているのにゃ。にゃんとかいうか、まぁいわば三重防壁とにゃっている。まるで、『岩風呂は誰にも覗かせにゃいのにゃよぉ』といわんばかりにゃ。

 もちろん、恥ずかしいのは岩風呂自体じゃにゃい。温泉に浸かるお客にゃんにゃってことはウチとて百も承知にゃ。でもにゃ。ふと思ったのにゃよ。『そんにゃに見られたら恥ずかしいものにゃの?』とにゃ。翅人型みたいに霊服を着ている霊体はともかくにゃ。ウチのように霊服を着にゃい、毛皮も脱がにゃい、……ええと、にゃんていったら……要するににゃ。風呂に入ろうが入るまいが、いっつもおんにゃじ姿のネコ型にとってはイマイチ理解に苦しむのにゃん。誰か丁寧に教えて欲しいのにゃん。

 とまぁそんにゃ風に、心に『?(はてな)』を抱えていたらにゃ。いつにゃったっけ。ミーにゃんから、『モワンだって身に覚えがあるはずよ。毛繕いをしているところをアタシが、ぼぉっ、と見つめていたらさぁ。あたかも隠すかのように、くるっ、と背を向けたじゃない。あの時の気持ちと同じと思うわん』とのご指摘にゃ。さっすがはウチの親友。目からウロコがはがれ落ちたようにゃ気がしたのにゃん。

 ……って、ウチはにゃにを長々とつまらにゃい考えに耽っているのにゃん!


 秘密厳守、みたいにゃ岩風呂周りの感想はこれくらいにしてにゃ。

 ウチが今立っている岩風呂の手前、『洗い場』にはにゃ。床の上にでも居るのかと錯覚させられてしまうくらい、たくさんの大っきめにゃ石が歩きやすい感じに敷き詰められているのにゃん。違った色、形、大きさのものを上手ぁく組み合わせて、ほぼ平らに均してある。あちらこちらの隙間から小っちゃい草の葉が飛び出しているところを見るに、水はけはいいのに違いにゃい。実際、濡れても乾きが早い。じめじめとした感じがしにゃくて足元良好。ネコばんざいにゃん。

(自然の造形じゃにゃい。きっと誰かが造ったのにゃん)

 そう思ってニャムネおばあにゃんに尋ねてみたことがあるのにゃ。もらった返事は『そう。手造りさね』とウチの予想通り。丁寧にゃ仕上がりにゃもんで、訪れるお客にゃんの誰もが大絶賛、とにゃかにゃか好評みたいにゃ。

 ここへ来る途中の大岩もそうにゃのにゃけれども、この『洗い場』もまた、どことにゃく芸術作品っぽい匂いが漂ってくる。きっと、どちらもおんにゃじ霊体が造っているのにゃん。でもにゃ。それが誰にゃのかについては……、今もって謎にゃん。ニャムネおばあにゃんもダメ。いつ聴いてもにゃ。『ふふっ。さて、誰であったかねぇ』と答えをはぐらかされてしまうのにゃもん。謎は謎のまま。にゃんとにゃく歯がゆいのにゃん。

 遅ればせにゃがら……、『洗い場』とは身体を洗うところにゃ。お風呂に入る前か後かは、もちろん、お客にゃん次第。ちにゃみにウチは前にゃ。座る石の大きさは多種多様と、『誰でも来い、にゃん』の強気ともとれる構え。でもって直ぐそばには木の枝を切って組まれた丸い囲いが二つ置かれているのにゃ。『未使用』と書かれてある囲いの中には手ぬぐいが盛りだくさん。『これで身体を洗いにゃさい』といわんばかりにゃ。一方で、『使用済み』と書かれているほうは空っぽにゃん。お客にゃんが今日は誰もあがっていにゃいのを無言で物語っているのにゃん。『一番風呂はウチかも』と内心ほくそ笑んにゃのにゃ。


「おばあにゃんは……ぶふっ。居た。居たのにゃん」

 右のほうへと身体の向きを変えれば、自然と、『番台』と呼ばれるボックスが目に飛び込んでくるのにゃ。山と積まれた黄色っぽい木桶を背に小ぢんまりと据えつけられているそれは、整形された太い木材で正四角に組まれている。上から覗くと、木枠の一番手前から三分の一ぐらいまでが置き台とにゃっていて、あとのぽっかりと空いたスペースには背もたれつきの椅子が、ぽつん、と一つあるにゃけ。ボックスと椅子のどちらも焦げ茶色で、濡れてもそうは目立たにゃい。

 番台は温泉の森を管理する精霊が座る場所で、その精霊というのが、にゃにを隠そう、ニャムネおばあにゃん。現に今も座っていて、いつも着けている袖つきの前掛け姿で、ずるずるっ、とお茶を啜っている真っ最中にゃん。

「おや、来たのかえ」

 おばあにゃんは両手で持っている茶飲みを、ごとっ、と台の上に。

「ちょいとお待ち」

 そういって立ち上がると、後ろの木桶の一つを手にしたのにゃ。こっちからは見えにゃいのにゃけれども、木椅子の手前、置き台の真下にも棚がある。そこからも二つほど白っぽいものを取り出したのにゃん。

「はい。桶と手ぬぐいと石鹸」

 どれも温泉の定番グッズにゃ。ウチの目の前にずらりと並べられた。

 番台と木桶は木工作の好きにゃゲンじいにゃんの手造り。石鹸と手ぬぐいは『にゃんでも造り隊』の妖精さんらの手造り。これらのいずれもが、移民ら……人間にゃ……の使用品を元に造られた『もどき作品』。間違って落っことしたかどうかして、人間の住む区域からイオラの森まで、どんぶらこっこ、と川に運ばれてきた品々のうち、『これはいいものにゃん』と気に入ったものから次々とこしらえていったそうにゃ。


 これは余談とにゃるのにゃけれども、実をいえば、ウチ自身は『にゃんでも造り隊』のことをあまり良く知らにゃい。そういうのが存在するというのは小耳に挟んでいるのにゃけれども、この目で見たことがにゃいのにゃん。どこに居てどういう活動をしているのかも、さっぱりにゃ。そんにゃウチにとって唯一の情報源はミムカにゃん。『にゃんでも造り隊』とは、にゃんらかの繋がりがあるとのことにゃ。ずいぶんと思い入れしているみたいで、『児童期になれば、入隊したいと思いますです』と今から息巻いているのにゃん。

 も一つ余談を。『にゃんでも造り隊』にあやかって、にゃのかもしれにゃい。ミリアにゃんが例によって例の如く夢想に耽ってしまい、その挙句が、ミーにゃん同盟の会議上にて、『是非、私たちも、「にゃんでも愛し隊」を造りましょう』とぶちまけたのにゃ。もちろん、当のひとりを除いてみんにゃが否決に回ったのはいうまでもにゃい。にゃのに、『「少数意見を尊重」が民主主義。なので、この議案は「了承された」とみなしますね』にゃどのごたくを並べて粘る始末。さすがにミーにゃんも頭に来たようにゃ。『議長権限でミリアの除名処分を議案に乗せるわん! 今回は多数決で容赦なく決めるわん!』と最後通告ともいえる宣言をしたのにゃ。これにはさしものミリアにゃんも頭を冷やしたみたいにゃ。『お騒がせして済みませんでした』と平謝り。めでたし、めでたし、と、会議は大成功のうちに幕を……って、いつまで余談を続けているのにゃ! 話を戻すのにゃん!


「さぁお待ちかね。第十一話の始まりにゃあん!」

 ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。

「始まったのはいいとして。

 ミアンったら、『温泉に浸かりに来たんじゃにゃい』って、いっている割には浸かる気まんまんだわん」

「そうね。ここはもっと、自分の使命を強く認識して欲しいところかしら」

「にゃら、聴くのにゃけれども」

「うん? なにか反論でもあるわん?」

「どんにゃ目的であったとしてもにゃ。

 温泉の森に行って温泉に入らにゃいで済ませられるのにゃん?

 素通り出来る勇気が、ミーにゃんやイオラにゃんには、あるのにゃん?

 この場でもって公けに断言出来るのにゃん?

 精霊イオラにゃんの名に賭けて誓えるのにゃん?

 どうにゃん? どうにゃん?」

 ずずずいっ。

「そ、それは……」

 たじたじ。

「そんな無茶よ、ミアンちゃん。イオラ様の名に賭けて、なんて。誓えるはずがないわ」

 たじたじ。

「イオラにゃん!」

 びしっ。

「あんたのことにゃあ!」

「うっ」

「そうよ、お姉様!」

 びしっ。

「あなたのことです!」

「……ねぇ、フィーネちゃん。どうしてこんな時ばっか来るの?」


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