第十話『食べたが勝ち、にゃのにゃん!』のその③
第十話『食べたが勝ち、にゃのにゃん!』のその③
ばたん!
(ふにゃん!)
ウチは不覚にも忘れていたのにゃ。夢中で果物『にゃめろん』をほお張っている親友のことを。
「ミ、ミーにゃん!」
口から泡らしきものを、どばっ、と吐いてぶっ倒れていたのにゃん。にゃもんで慌ててそばに寄ってにゃ。右の前足で身体をゆさぶってみたのにゃん。
「ミーにゃん! ミーにゃんってばぁ!」
声をかけても、にゃかにゃか目を覚まにゃい。と、ここでにゃ。ミリアにゃんから、こんな言葉をかけられたのにゃ。
「ミーナさんったら、食べている途中で固まったっきり、動けなくなってしまったことがあるんです。『どうしたのかなぁ』って心配していたら、急に微笑んで、また何事もなかったように食べ始めましたけど……、かなり無理をしていたのかもしれませんね。それで」
(ミーにゃん!)
ウチには直ぐに判ったのにゃ。ミーにゃんにもウチとおんにゃじようにイオラにゃんの命の欠片を持っている。それを通じて、ウチにレイアにゃんの魔の手が襲ってきたことに気がついたのにゃ。にゃからこそ自分の思いと力をウチに向けてくれたのにゃろう。きっとイオラにゃんもおんにゃじにゃ。
(ウチを助けようとして……)
心に熱いものが込み上げてきたのにゃ。
「ミーにゃん。有難うにゃ。おかげで助かったのにゃん」
小さにゃ呟きに気がついたのにゃろうか。親友の目が薄っすらと開いたのにゃ。
「ミアン……」
ウチの前足の指を握りにゃがら、息も絶え絶えにミーにゃんの口から零れた言葉は。
「仇をとって欲しいわん」
もちろん、即座に返事をしたのにゃ。
「判ったのにゃ。ウチが必ずあとを引き継ぐのにゃん!」
「……よろしく……頼むわん」
ばたっ!
ミーにゃんは静かに目を瞑り、顔の右ほおを落ち葉の拡がる地面へとくっつけたのにゃ。
(ミーにゃん……)
ウチは闘志メラメラの状態で見上げたのにゃん。
「にゃんもにゃん! 次はウチが相手にゃあ!」
やや間を置いたあとに声が聞こえてきたのにゃ。
「ネコ型霊体か。おや、その花丸印は……、それに、そなたの中には……」
さも驚いたといったようにゃ口調にゃ。でもにゃ。しばらくして再び聞こえてきた声には、そのことには一切触れず、ウチへの返事しかにゃかったのにゃ。
「むろん構わぬが……、そこな倒れている翅人型の者たちとは較べものにならぬほどの厳しい条件でなければ面白味に欠けるというもの。既に落ちているものを食べ切るのは当然、落下の頻度も十倍以上とさせてもらおう。よろしいかな?」
「望むところにゃん!」
「おおっ。その意気込み、気に入った。勝負の続行を認めよう。直ちに始めるがよい!」
「うんにゃ、勝負にゃあ!」
ぱくぱくぱくぱくぱくぱく。ぱくぱくぱくぱくぱくぱく。…………。
ウチは無我夢中で食いまくったのにゃん。
そして……あれから一時間ほど経ったにゃろうか。
「どうにゃん!」
「ま、まさかぁ! とても信じられぬ……」
顔があったのにゃら、あんぐり、といった表情にゃと思う。
そう。さっきのは勝利宣言。ウチは食べ切ったのにゃ。
「これほどの闘い、いや、食いっぷりを目にする日が来ようとは……。
いやはや、なんともまぁすさまじい光景であった。
それにほれ、なんといったらいいのか、そなたもエラく……」
にゃんもにゃんが言葉に迷うのも無理はにゃい。ウチの体型は既に『もわんもわん』を通り越して、『ふっくらまるまる』の領域にまで達しているのにゃもん。
(ぐすっ。美少女にゃのに)
食べた物の霊力がにゃくにゃれば元の体型に戻れることは百も承知にゃ。とはいえ、それまではこの姿。悲しみをこらえつつ、ウチは気張ったのにゃん。
「にゃんもにゃん! 約束は果たしてもらうのにゃよぉ!」
ウチはネコ人型モードの姿勢で立つと、両手にゼノンを乗せて差し出したのにゃん。
「うむ。そなたは勝利者。約束は違えぬ」
きらきらきら。きらきらきら。
にゃんもの木のてっぺんから光が現われ、ゆっくりゆっくり、下りてきたのにゃ。見れば、真ん丸の白い光の中に黄色い光が。まるで大切にゃものを守っているかのよう。ところがにゃ。ウチの近くまで来ると、黄色い光が飛び出してきたのにゃ。そして意志でもあるかの如く、ペンダントの空いている部分に、かちゃ、と自ら収まったのにゃん。
でもってそのあとは……、光の輝きは次第に弱くにゃっていく。収まるべきところに収まったからにゃのかも。やがて他の四つとおんにゃじくらいの煌めきとにゃる。
「宝玉にゃ。間違いにゃい」
「これでよかろう。見たところペンダントは全て収まっているようだな。
であれば、ヴィーナス様にも逢えよう」
声は白い光から聞こえてくるのにゃ。
(これが『にゃんも』にゃんか)
「されど……、麻呂もついぞお目にかかったことのない霊体様でな。ほんに羨ましいかぎりよ」
(ふふぅん。にゃあんか優越感が、ひしひし、と)
「有難うにゃん。必要がにゃくにゃったら、また返しにくるのにゃん」
「ああ、待っておるからな。ではさらばだ」
にゃんもにゃんの白い光は立ち並ぶ木々の奥へと消えていったのにゃん。
(きっと、宿り木へと戻ったのにゃん)
勝負は終わったものの、にゃめろんの落下はまにゃ続いているのにゃ。にゃもんで当然ウチは美味しく貪ることに。
むしゃむしゃむしゃ。むしゃむしゃむしゃ。
果物の香りと香ばしさが口一杯に拡がるのにゃ。無我夢中で食べたせいもあってか、落下がいつ終わったのかも判らにゃい。地面に散らばっていたのにゃって、あっという間ににゃくにゃったのにゃん。
(食べ足りにゃいにゃあ)
一度、心に点いた食欲の火はにゃかにゃか消えてはくれにゃい。かつて、『もっと食べもにょを』といいにゃがら絶命したウチにとって、食欲という欲は抗い切れにゃいもの。とはいってもにゃ。どんにゃに美味しくても、おんにゃじものを食べ続ければ、自然と飽きてくる。にゃめろんもまた然り。にゃもんで口直しに他のものが欲しいところにゃ。
(ここに居るかぎり、ミーにゃんは大丈夫にゃろう)
そんにゃ思惑もあって、ウチは木々に覆われた茂みの中へと入っていくのにゃん。
「食べたにゃあ!」
ある程度の満足感を覚えて、元の場所へと戻ったのにゃ。見れば、いまにゃ落ち葉の地べたに転がっている親友と友にゃちの姿が。
(陽の傾きは……ふぅぅむ。時間は思ったほど経ってはいにゃいみたいにゃ)
宝玉が手に入ったことを知らせようと、声をかけてみたのにゃん。
「ミーにゃんミーにゃん。ミリアにゃんミリアにゃん」
「んもう、私はダメです」
うわ言をいうものの、ミリアにゃんは目を覚ましそうもにゃい。一方でミーにゃんは。
ぱちくり。
「どう、どうだったわん!」
起きるや否や、やや興奮気味にゃ自分の顔をウチの顔に、くっつんこ。
(喋りにくいのにゃけれども)
ウチが顔を引くことで、にゃんとか喋れるように。
「大丈夫にゃよ。ちゃんとウチが食べ尽くしたのにゃん」
「勝ったわん? やったぁ! やったわぁん!」
大喜びのミーにゃん。『どれどれ』とゼノンを覗き込む。
「うわっ! 全部揃っているわん。すごいじゃない、ミアン」
「まぁにゃんとか」
「とはいっても、五つとも大なり小なりアタシの手柄だけどね」
(はて?)
「そうにゃったっけ?」
「んもう、ミアンったらぁ。幾らネコとはいっても、忘れっぽすぎるわん。
いぃい? ペンダントのゼノンや緑色の宝玉は、アタシを信頼してくれたからこそ、イオラが手渡したのわん。
でもって赤色はアタシが直談判して借りたものじゃない。
青色や紫色だって、アタシがミストんと仲良し子好しの間柄だったからこそ、手に入れられたのに決まっているわん。
この黄色にしたってそう。ミアンも見ていたでしょ? アタシがほとんど食べ尽くしたからじゃない。あと一歩のところで惜しくも勝利は逃したけどね。でもその分、ミアンは楽に勝てたはずだわん」
「ちょ、ちょっと待つのにゃん」
ウチはこれまでの出来事についてのおさらいしてみることにしたのにゃ。
ゼノンと緑色の宝玉についてはミーにゃんのおかげとしてもにゃ。
赤の宝玉は、ウチが話し合いで借りたものにゃん。
青色と紫色についても、ちと違うようにゃ気がするのにゃあ。大体、ウチにゃってミストにゃんと友にゃちにゃし。
でもって黄色の宝玉は、確かにミリアにゃんもミーにゃんも粘ることは粘ったみたいにゃのにゃけれども、ウチが食べた数よりは、はるかに少にゃかったはず。とどのつまりが、借りられたのはウチが勝利したからに他にゃらにゃい。
こうして考えてみるとにゃ。緑色の宝玉以外、差してミーにゃんに功績があったとはとても……。
「なに腕を組んで、ぶつぶつひとりごとをいっているのわん?」
「ふにゃ?」
気がついてみたら、大っきにゃ樹木の下で考え込んでいたのにゃん。小っちゃい葉の草が生い茂る地面にお尻を着け、幹に背をもたれさせた格好は、はたから見れば人間っぽく見えるのに違いにゃい。
「さぁ、ミアン。ぐずぐずしてはいられないわん。お目当てのものが全部見つかったんだし、早速ヴィーナスを捜しに行こうよ」
ウチの親友はノリノリの様子にゃ。
(ミーにゃんのいう通りにゃ。ウチらの目的は宝玉を手に入れることじゃにゃい。ヴィーナスにゃんを見つけることにゃもん)
「じゃあ、ミーにゃん。急いで」
ここでウチの言葉を遮るかの如く、霊覚交信が心に届いたのにゃ。
「ミアン殿。聞こえておいでになりますか?」
丁寧にゃ言葉遣い。交信相手はいわずとしれたレミロにゃん。
「もちろんにゃよ」
「朗報です。ヴィーナス殿が居ると思われる場所を突きとめました」
「にゃんと! どうやってにゃん?」
「彼女が残した霊跡を辿っていきましたら、探索範囲をある程度まで絞れたのです。そこでスバルの観測力を最大限にするなどして、隅から隅までそれはもう徹底的に調べてみたのです。見つけました。わたくしがお貸しした、にゃん丸たちの気配を確認することが出来たのです。もう間違いありません。至急お向かい下さい」
(といわれてもにゃあ……。ふぅ。よっぽど、興奮しているのにゃん。
まぁ気持ちは判るのにゃけれども)
『至急』と『お向かい下さい』の間に大事にゃものが抜け落ちているのにゃん。
「向かうって、一体どこにゃん?」
「あっ、申し遅れて済みません。『温泉の森』です。良くご存じでしょ?」
「にゃんと! あんにゃところにどうして?」
「そこがゴールってわけでもないのですが……、事情はおいおい説明します。今は果物園にいらっしゃるのでしょう? でしたら歩いても直ぐに着けますよね?」
「当然にゃん」
「では、またあとで」
ぷちっ、と霊覚交信が途絶えたのにゃ。
「今のを聴いたにゃろう? ウチらも早速」
言葉をかけるも、首をフリフリのミーにゃん。
「ごめんね、ミアン。アタシ、行けないわん」
「ふにゃ? どうしたのにゃ?」
「満腹では温泉には浸かりにくいわん。
行くなら、もっと落ち着いてからのほうがいいわん」
「にゃら」
「うん。ミアンだけで行って欲しいわん。ってことで期待……」
ばたっ。すうぅっ。すうぅっ。
(きっと、『しているわん』って続けようとしたのにゃろうけれども)
ウチの背中か、お気に入りの羽根布団以外は寝つきの悪いミーにゃん。それがこうも簡単に眠ってしまうにゃんて……。
「よっぽど食べ疲れたのにゃろう。仕方がにゃい。それにゃら」
もうひとりの友にゃち、ミリアにゃんを振り返るも、今にゃ眠ったままにゃ。果物園はミリアにゃんの棲み家。にゃもんで、このままにしておくことに。
「じゃあ、またにゃあ」
返事はにゃい、と知りつつも別れの挨拶にゃ。でもってそのあとは空飛ぶ絨毯へと化け、いささか不得意にゃ念動霊波を操って、にゃんとかミーにゃんを乗せたのにゃ。
「よぉし。出発にゃん!」
でもって、どうにゃったかといえば……いうまでもにゃい。無事にイオラにゃんの元へと送り届けたのにゃ。ミーにゃんは、すやすや、とおネムのまま。そんにゃ可愛らしい寝顔を背にして、『後ろ髪を引かれる』との表現がぴったりの『思い』で、ウチは温泉の森へと向かったのにゃん。
「第十話もこれにて終了にゃん!」
ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。
「でもって、宝玉も全部集まったのにゃん。
ミッション、コンプリートにゃん!」
ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。
「にゃら、みんにゃ、ご一緒に」
『ばんにゃあい! ばんにゃあい! ばんにゃあい!』
「ふぅ。やっと終わったわん。長かったわん」
「本当にね。ミーナちゃん、ミアンちゃん。ご苦労様でした」
「いやいや、イオラにゃんにゃってお疲れ様にゃん」
「第九話で、アタシたちと競演したものね。
イオラ、本当にお疲れ様わん」
「ふたりとも、有難う。……ぐすん」




