第十話『食べたが勝ち、にゃのにゃん!』のその①
第十話『食べたが勝ち、にゃのにゃん!』のその①
「ミーにゃんミーにゃん。ミーにゃんってばぁ」
がつがつがつ。がつがつがつ。
「うるさいわん。話なら勝負が終わってからにして欲しいわん」
がつがつがつ。がつがつがつ。
(勝負って……)
ムキににゃっているミーにゃんは手がつけられにゃい。にゃもんで取り敢えずは、ほっぽっとくことにしたのにゃん。
「とにゃると……」
目がうつろにゃ感じで直ぐそばに転がっている友にゃちにも声をかけてみたのにゃ。
「ミリアにゃん、生きているのにゃ?」
「……はい。……げっぷぅ」
(まぁそうにゃろうにゃ)
「一体何事にゃん?」
「げっぷぅ。……ダメです。もう食べられません」
見当違いの返事にゃがら気持ちは良く判るのにゃん。ミリアにゃんにゃって女の子。にゃのに、お腹がはち切れんばかりに膨らんでいるのにゃもん。『そういえば』と貪り食うミーにゃんの下っ腹にも目を向けたらにゃ。案の定、こちらも遠からずミリアにゃんの姿とにゃるのは必至の状況。
「これではにゃんにも判らにゃい。今しばらくは様子をみるとするのにゃん」
幸いというかにゃんというか、ここは果物園にゃ。
視線を下げれば、ぱっと見には、赤、青、緑、それに黄色と、落ち葉でカラフルに彩られた地面、といえにゃいこともにゃいのにゃけれども、良く良く見ればにゃ。黒茶色の湿った土が顔を覗かせているところも多く、木の実や小石にゃんかもところどころに転がっていて、いささか雑然とした様子にゃ。でもって、……ここからが重要にゃのにゃけれども……その上に林立する樹木群の枝、枝、枝に、ウチの好物がたんと生っているのにゃ。折しも時刻はお昼真っ只中。昼食タイムにゃん。
「ぶふふっ。どぉれを食べようかにゃあ」
樹海の森にあるここ果物園は美味しい木の実の宝庫にゃ。もちろん、他の森にゃってウチの舌を喜ばしてくれる木の実はあるにはある。でもにゃ。太陽の陽射しが強いか弱いかで生育が遅くにゃったり早くにゃったりするのにゃ。十分に実ることにゃく、ぽとん、と落ちてしまうことにゃって決して珍しくはにゃい。とまぁそんにゃこんにゃで早い話が、実の数がそれほど揃わにゃいのにゃん。にゃもんで別の森を棲み家とする生き物が訪れたとしてもにゃ。食いっぱぐれで終わる可能性がほとんど、というのが悲しいかにゃ、現状にゃん。ところがにゃ。この森は違うのにゃ。イオラにゃんの力に依るものにゃろう。年柄年中、どんにゃ天候であっても、たくさんの木の実が森の生き物らを迎えてくれるのにゃん。どの実をもいでも直ぐにまた実るし、種類にゃって豊富とくる。ここに来さえすれば、飽きることにゃくお腹一杯とにゃるまで食べられるのにゃ。まさに『生き物の天国』と呼ぶに相応しい園にゃのにゃん。
「いいところにゃにゃあ。イオラの森は」
ウチは今や霊体の身にゃのにゃけれども、実体波を纏える力を持っているのにゃ。にゃもんで生前みたいに食物を口にすることが出来る。とはいってもにゃ。おんにゃじ食べるにしても実体ある生き物とウチらのようにゃ霊体とは決定的にゃ違いがあるのにゃん。それはにゃにかといえば、食物から得るのが栄養素じゃにゃくて霊力にゃということ。
食べ物にゃって存在するからには霊力があるのにゃ。にゃもんで霊体は『食べる』という行為で食べ物から霊力を取り込み、自分の糧とする。食べ物からすれば、霊力を奪われる、存在する力を失うわけにゃ。結果、跡形もにゃく消えることににゃる。排泄物にゃど、一切出にゃい。
とはいうもののにゃ。にゃらウチはおトイレに全く行かにゃいかといえば……、そんにゃことはにゃい。実は霊力を余すところにゃく取り込もうとすれば、それにゃりに時間がかかるのにゃ。ウチとしてはその時間、別にゃ食べ物をほお張ることに費やしたい。そこでにゃ。八割方取り込むと、残りは排泄。つまりにゃ。おトイレで用を足すことにしているのにゃん。これでお腹は空っぽ。次の食べ物へと手を、いや、前足を伸ばすこととにゃる。ウチが元は普通の生き物にゃったことも、こうした行為に拍車をかける要因とにゃっているのかもしれにゃい。
(たにゃ……本当にそれでいいのにゃろうか?)
排泄すれば肥やしとにゃって、土が活力を取り戻す手助けとにゃる。草木の新たにゃるる命を生み出し、成長を育む土壌とにゃるのにゃ。森に棲む者らにとっても大事にゃ食糧元が増えていくことへと繋がるのにゃし、決して悪いことではにゃい。
(でもにゃあ……)
余すところにゃく霊力を取り込むのが霊体本来の姿、という気もするのにゃ。またそうすることで初めて、食べられてしまうという宿命を背負って生まれた彼らへ敬意を表わしたといえるのではにゃかろうか、とも思えてくるのにゃ。
(ううぅん。どっちがいいのか悪いのか……って、
食べ物を前に悩んでどうするのにゃん?)
自分自身にツッコミを入れてしまうウチにゃん。
「さぁて。どぉれにしようかにゃあ」
この世の中でにゃにが楽しいかって、これから口にするものを品定めする時が一番。選ぶいずれもが美味しいとにゃれば、尚更にゃ。首が疲れるのも構わず見上げているのにゃ。
「それも、これも、あれも、……やっぱり、これにしようにゃん」
ターゲットが決まれば、あとは採って食べるにゃけにゃん。いつもやっているもんで特に気負うこともにゃい。慣れた気分でひょいとジャンプ、幹の表皮へと今まさに前足が届かんとした矢先にゃ。右の後ろ足を、ぐぃ、と引っ張られたようにゃ感覚が身体中を貫いたのにゃん。
「ふにゃん!」
どさっ!
決して『気のせい』にゃどではにゃい。にゃって、あれよあれよという間に地面へと転げ落ちたのにゃもん。
「痛たた……。一体どうにゃって?」
「す、済みません」
「おや、ミリアにゃん。復活したのにゃん?」
「はい、半ば復活しました」
にっこり、と微笑む友にゃち。自分のしたことに対する罪悪感の欠片もにゃい顔にゃ。
「あのにゃあ。ネコのジャンプを邪魔してどうするのにゃん?」
「目くじらを立てられましても。世間では良くあることですよ」
「そうにゃの?」
「ええ。自分の為に相手の足を引っ張るなんて」
「…………」
(やれやれ。所詮ミリアにゃんはミリアにゃん。どう話をしてもムダにゃ)
ウチは飛びつこうとした樹木へ、ちらっ、と未練っぽく一瞥したのにゃん。
(あの大っきにゃ木の実が食べたかったのにゃけれども……、
まぁいいにゃん。逃げてしまうわけでもにゃし。話が済んにゃら、ゆっくりと頂こうにゃん)
そんにゃ思惑もあって、『さぁ早く話しにゃさい』とウチは急かしたのにゃん。
「実は……挑まれたのです!」
これにゃけを聴いて判ればたいした生き物にゃ。残念にゃがらウチはたいした生き物じゃにゃい。にゃもんで当然、誰もがするであろう質問を口にしたのにゃん。
「誰に? にゃにを?」
「霊果実『にゃめろん』が生る樹木『にゃんも』さんです」
霊果実『にゃめろん』。……実体の生き物はもちろんのこと、霊体であっても霊波を強めるにゃどの特別にゃ方法を用いることにゃく口に出来る果物にゃ。外観は真ん丸で淡い緑色。サイズは小ぶりで、網目のようにゃ模様が全体に描かれているのにゃん。
高いところから落としたり岩にぶつけたりすれば、いとも簡単に、ぱかっ、と割れる。途端に果汁が流れ落ち、香ばしい匂いが鼻をくすぐるのにゃん。黄赤色の中身も柔らかくて食べやすい。ほお張れば甘く切にゃい味と香りが、お口一杯に拡がるのにゃん。にゃんとも心惹かれる果物にゃ。この魅惑にとり憑かれたが最後、我を忘れて、あっという間に、ぺろり、と平らげてしまうのは誰しもおんにゃじ。しかもにゃ。口の中のがにゃくにゃっても、魅惑は終わらにゃいのにゃん。鼻と舌に残る余韻に浸れば、さにゃがら呪にでもかかったかのようにゃ心持ちに。おのれを見失い、酔いしれて、ついつい、あともう一個にゃ、あともう一個にゃ、と前足を伸ばしてしまうのにゃん。
もちろん、心癒されるにゃけじゃにゃい。実利も得られるのにゃ。実体からすれば身体にいい栄養素が含まれているわけにゃし、霊体にしてもにゃ。効率的に霊力が補給出来るのにゃもん。にゃんとも、いいことずくめの食べ物……ううん、とまではいえにゃいにゃ。
(霊体はともかく、実体はにゃ。『太りすぎ』という弊害が生じるのにゃもん)
「『にゃんも』といえば……、果物園を支配している霊木じゃにゃかったっけ?」
『にゃんも』は果物園で一番多い樹木にゃ。でもって樹齢が千年を越えるのもざらにあるという。霊木とにゃるものが出てきても当たり前。支配者とにゃる運命の樹木にゃん。
「知っていましたか。その通りですよ、ミアンさん」
「確か、挑まれた、っていったと思うのにゃけれども」
「はい。正確には霊木に宿る精霊さんからですけどね」
「ひょっとして喧嘩でも振ったのにゃん?」
「えっ。……あのぉ、ミーナさんが、ですか? それとも、私が、ですか?」
戸惑った表情のミリアにゃん。
(そういやあ、どっちもそんにゃキャラとは…………ああでも)
「ミーにゃん?」
ぼがっ!
にゃにかがウチの頭にぶつかったのにゃ。でもって、ころころ、と地面を転がるようにゃ音も耳に。思わず振り向いた視線の先には、親友が良く手にしている赤メガホン。『お手軽拡声器』とも呼ばれている代物にゃん。
「にゃんでこんにゃものが? ……うん?」
強い視線を感じたもんで、そちらへと目を合わせてみたらにゃ。貪り食いにゃがらも、抗議? のまなざしでウチを睨みつける親友の姿があったのにゃん。
「ちょぉっつぉ、ムォワン!」
(またにゃん)
「ミーにゃん、ウチはミアンにゃ」
「がつがつ……すぉんにゃの……がつがつ……どぅおでもいいわん……がつがつ」
「どうでも良くはにゃいのにゃけれども」
「ウアッタシの……がつがつ……どぅこが……がつがつ……喧嘩っ早いって……がつがつ……いうのわん!」
(食べるか喋るかどっちか一つにしてもらいたいものにゃん)
つくづくそう思うのにゃ。
「ミーにゃん。話はそれを片づけてからにしようにゃん」
「がつがつ……うん……がつがつ」
素直にうなずくと、再び食べることに専念するミーにゃん。
(……にしてもにゃ。にゃにがこれほどまでにミーにゃんの心に火を点けたのにゃろう?)
ウチはますますもって事情を知りたくにゃるのにゃん。
ミーにゃんとのお喋りが一段落したと思ったらにゃ。待ってましたとばかりにミリアにゃんが話しかけてきたのにゃん。
「ミアンさん。私もミーナさんも喧嘩なんて吹っかけちゃいませんよぉ」
「じゃあ、にゃんで?」
「宝玉について尋ねてみたのです。そしたらなんと! 『持っている』っていうじゃありませんか。『やったあ!』と思いましたね。それでご機嫌を損ねないようにと、『しばらくの間、お貸し願えませんでしょうか?』って頭を低く下げて丁重にお願いしたのですよ」
(ミーにゃんにゃらさしずめ、『さぁ寄こすわん』にゃろうにゃあ)
幼児らしからにゅ交渉術に感心しつつ、結果を促したのにゃん。
「で? どうにゃった?」
いわずともしれたのにゃん。尋ねた途端、口をとがらせてしまったのにゃもん。
「全くぅ。冗談じゃありませんよ。ここは当然、『どうぞ』って素直に差し出すのが礼儀じゃないですか。それなのに、ですよ。こともあろうに条件を一つ持ち出してきたんです。もう図々しいったら、ありゃしません」
(はて? そうにゃん?)
『条件』よりも、それ以前に話した内容がどうにも引っかかるのにゃ。
「ミリアにゃん。幾ら丁重にお願いしたからって、必ずしも、『どうぞ』とは」
ここからにゃ。話がにゃんにゃんおかしくにゃっていくのは。
「いいえ。要は真心です。真心さえ通じれば、自然と手はこちらへ差し伸べられるものなのです。そうでしょう? ミアンさん。このような相手の真心も解そうとしない輩、不心得者を一掃する為にも、新たに結成された『真心同好会』の私たちとしては、これからも強く『真心こそが全て』と訴えていかなければならないのですっ!」
双眸には紅蓮の炎をメラメラと立ち上らせ、薄緑色の身体全体には光沢の煌めきを浮き上がらせているのにゃ。使命感に燃えて意気盛ん、というよりかは誰が見てもにゃ。『まともとはとても思えにゃい。行く着くとこまで行ったにゃ』との思いを抱かせるネコが、ネコ人型モードで立ったまま右手の拳を震わせにゃがら叫んでいたのにゃん。
「いよいよ、第十話に突入にゃあぁぁん!」
ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。
「長かった第九話もやっと終わったことにゃし、この回は、ちょっとひと休み、みたいにゃ感じで……おや?
ミーにゃん、どうしたのにゃ? にゃんか不機嫌そうにゃのにゃけれども」
ぷんぷん! ぷんぷん!
「んもう! ミアンったら、失礼しちゃうわん。アタシのどこが喧嘩っ早いわん?」
「口じゃにゃいの?」
「えっ。ええと……それは……そう……かもしれないわん」
「ふふっ。残念だったわね、ミーナちゃん。『なにかいってきたら、すかさず抗議してやるわん』って、手ぐすね引いて待っていたんでしょ? ところが」
「ここで抗議したら、口喧嘩やツッコミが出来にゃくにゃるかも、って心配したのにゃ。それで、にゃんにもいえにゃくにゃってしまったのにゃん」
「無鉄砲にみえて、実はすっごく繊細なのよね。
ミーナちゃんのそういうとこって、ワタシ、とぉっても好きよ」
「うんにゃ。ウチもミーにゃんが大好きにゃよ」
「だからぁ。
……ふぅ。生まれた時から、ずぅっ、と一緒、っていうのも考えものだわん。
アタシのことを判ってくれるのは嬉しいけど、判りすぎるっていうのもねぇ。
なにをしても見透かされているようで……ふぅ」
「って、ひとり言を呟いているところも、スネたようにゃ姿を惜しげもなく晒け出しているところなんかも、ものすっごく愛らしくてよ」
ぽっ。
「し、知らないわん! そんなの」
ぱたぱたぱた。
「といって顔を赤らめにゃがら飛び去るところにゃんかも、胸に、きゅぅぅん、ときてしまうのにゃん」
「そうね。知らず知らずのうちに心が奪われてしまっている。
ふふっ。ミーナちゃんって小悪魔的な妖精ね」
「誰も彼もがミーにゃんの『とりこ』とにゃってしまうのにゃん。本当、ミーにゃんって罪深い魅惑の妖精にゃん」
ぽっぽっぽっぽっ。
「あのね、そのね、んだからね。……ああんもうっ!
ミアンもミアンなら、イオラもイオラだわん。
本当、みんな今日はどうかしているわん! 聴いていられないわん!」
ぱたぱたぱた。ぱたぱたぱた。




