第九話『覗き見の世界にゃん!』のその⑦
第九話『覗き見の世界にゃん!』のその⑦
さっきまでの呆然とした様子はどこへやらにゃ。レミロにゃんは我に返ったみたいに、しゃきっ、としたのにゃん。
(そうこにゃくっちゃにゃあ)
「さてと。やられっ放し、というのもしゃくですからね。そろそろ反撃を仕掛けるとしますか。……ということで先ずは」
レミロにゃんの視線がにゃん丸らのほうへ。まるで数えてでもいるかの如く、ひとりひとりを指差している。ところがにゃ。最後のにゃん丸にネコ差し指を向けた途端、まるで凍りついたみたいに一瞬、動きをとめたのにゃ。
「くぅっ! まずいです。選りにも選ってこんな時に」
握り締めた右手の拳と顔から、悔しさのようにゃ感情が、ひしひし、と伝わってくる。
「どうしたのにゃん?」
てっきり、にゃん丸絡みの話が聴けるとばかり思っていたのにゃ。にゃん丸らに興味が湧いてきたところにゃったので、『好都合にゃ』と大いに期待したのにゃけれども……、いやはや、物事というのは自分の思うようにはいかにゃいものにゃ。『それはしばらく置いといて』みたいにゃ感じで、レミロにゃんは別にゃ話を始めたのにゃん。
「今のところ、レイア自体を消滅させる有効な手段は見当たりません。ですが、レイアにも泣きどころはあります。というのも、レイアにとって邪霊子は力の源であると同時に、自分が留まるのに必要不可欠なもの。いわば自分の棲み家でもあるからです」
「ということはにゃ。ひょっとして」
「ええ。ご想像の通りです。レイアがなにかしようとするたびに邪霊子が消費されますが、それは取りも直さず、自分の力と棲み家が一つずつ失われていくことを意味します。いい換えれば、滅びへと向かっているわけです」
「自分で自分の首を絞めているようにゃもんにゃ」
「観測の結果を見ましても、邪霊子を移動させるだけで、それ相応に他の邪霊子を消費しているのが判ります。ましてやこれが改変ともなれば、大量の邪霊子を一気に消費してしまうことは避けられません。さすがにレイアもそれはまずいと思ったのでしょうか。同時多発、ではなく、一個一個、みたいな感じの慎重な行動をとってはいるようです」
「つまりにゃ。こつこつと気長にレイアにゃんとつき合っていけば、いずれは自滅してくれると?」
「そういうことです。どれほどの歳月を必要とするにせよ、こちらが防衛の手をユルめないかぎりは」
「忍耐強さが試されるってわけにゃ。やれやれ。ネコには向かにゃいお務めにゃん」
「今もお話した通り、レイアは邪霊子が居ない場所に留まることは出来ません。ですので、スバル内に潜む邪霊子を浄化することで、追っ払うことは可能です。その為のワクチンもあることはあるのですが……、この作業に適合したにゃん丸が今、ひとりもいません」
「ふにゃ? にゃんでにゃん丸にゃの?」
「ワクチンが投与されたにゃん丸を、レイア、いえ、感染源であるスバルめがけてオリオンで撃つからです。スバルの元となっているにゃん丸と撃ち込んだにゃん丸が一つとなれば、スバル内全体にワクチンが行き渡って、邪霊子は再び正霊子へと戻れます。そうなれば、レイアは逃げ出すしかありません。また感染時とは逆に、ネットも、ネットに繋がっている全てのスバルも、全て正常に戻れるのです。ところが」
「にゃにか問題でも?」
「ワクチンを投与するにゃん丸には、他のとは違ってレイアの抵抗を突破するだけの霊力を持たせざるを得ないのです。だから、おいそれとは造れません。どうしたって時間がかかるのですよ」
「でも造らねばにゃらにゃいのにゃろう?」
「ええ。このまま放っておけば、感染がマザーにまで及ぶのは火を見るよりも明らかです。もしそうなれば、ガムラ殿は全ての目を失うことになります。そして天空の村はマザーミロネの力を得たレイアの思うがまま。挙句の果ては」
「滅びるってわけにゃ。困ったことにゃん」
「まぁ大精霊たちがおられますので、そうそうレイアの思い通りにはならないと思いますが。ともあれ、油断は禁物です。『このまま手をこまねいてなにもしない』では相手の思う壺。それだけは是非とも避けなければなりません」
「ウチもそう思うにゃ。にゃんとか他に被害を食いとめる方法はにゃいの?」
「いざとなればマザーを強制的に終了させるという手もあります。これで邪霊子をネットごと消滅させられますし、レイアも追っ払えます。もちろん、ネットを新たに構築し直さなければなりませんが、わたくしが居るかぎり、可能です」
「にゃら」
「とはいうものの、やはり復旧までの間、天空の村は完全な無防備状態となります。いかなる危機が迫ろうと、対応出来なくなるのです。それもまたなんとしても避けねばならない事態です」
「まぁそうにゃろうにゃあ。それで他には?」
「残念ながら、ありません。もし、なにか秘策でもお持ちなら、お聴きしたいくらいで」
「あのにゃあ」
(ネコに期待するにゃんて。よっぽど困っているのにゃん)
手遅れ、とは知りつつも、愚痴ってみたくにゃったのにゃ。
「ワクチン対応のにゃん丸しか打つ手はにゃい、ってわけにゃん。
どうして余分に造ってはおかにゃかったの?」
「いつもであればスペアも含めて、あらかじめ数体造っておくのですが」
「今はにゃい、と。でもにゃんで?」
「実はつい先日、ヴィーナス殿から頼まれたのです。力のあるにゃん丸を貸してくれって」
「ヴィーナスって、今ウチらが探している?」
「そう。彼女です。調べたいことがある、とのことで」
「にゃにかを調べたいのにゃら、にゃんでレミロにゃんに頼まにゃいのにゃろう?」
「公けにしたくない調べ事だったから。わたくしはそう思っています。村の存亡にかかわる内容であれば、情報の確かさがどの程度であろうと、わたくしにはガムラ殿やイオラ殿に報告する義務があります。恐らく彼女自身、まだ確信を持てなかったのではないでしょうか。それなら、『先ずは自分で調べてみて、ある程度判ってから』と考えても決して不思議じゃありません」
「筋は通っているのにゃ。でもそうにゃると、詮索のしようが……。
おぉっ、と。今はそれどころじゃにゃい。
つまりにゃ。ヴィーナスにゃんに全部貸してしまったから、ってことにゃん?」
「そうです。今思えば軽率でした。せめて、せめてひとりだけでも残しておけば」
「後悔先に立たず、とはにゃ」
ここで一つの案がウチの頭に浮かんにゃのにゃ。
「どうにゃろう? レミロにゃん。ウチを使うわけにはいかにゃいにゃろうか?」
「えっ。ミアン殿をですか?」
「ウチは、イオラにゃんから力をもらうことで妖体とにゃった身にゃ。
それ相応の霊力があると思うのにゃけれども」
「それは……確かに。ですが、よろしいのですか? 本当に。にゃん丸以外にこれを試した者は居ません。結果がどうなるかは、わたくしにもやってみなければ判らないのです」
「構わにゃい。ウチはどうせ、一度は死んにゃ身にゃ。それにゃのに何百年も生き永らえさせてもらった。にゃにかのお役に立てれば、それで本望にゃよ」
「ミアン殿……。ですが、ミーナ殿は? イオラ殿は?
悲しみますよ、きっと。どちらも」
「判ってくれると思うにゃ。ウチはそう信じている。
にゃから、誰にも連絡しにゃくていい」
「…………」
しばし、沈黙の時が流れたのにゃ。ウチを見つめるレミロにゃんの目が幾分、潤んできたようにゃ気もする。
「ミアン殿。わたくしにはもうなんにもいえません。
もう一度お聴きします。本当に、本当に、それでよろしいのですか?」
「うんにゃ」
ウチは元気良く返事したのにゃ。レミロにゃんの決心を促す為に。
「そうですか……。判りました」
こうしてウチは観測銃オリオンへと装填されることに決まったのにゃん。
「どうです? お気分は」
「ちょっと狭く感じるのにゃけれども」
「ぷゆぷゆ。ソウソウ」
「しょうがないのです。そこは本来、にゃん丸一体分が入ればいいように造られているところですから」
最初、ワクチンをウチの身体に注入しようとしたのにゃけれども、これがにゃかにゃか。どうしても上手くいかにゃかったのにゃ。そこで次善の策としてレミロにゃんが考えたのが、にゃん丸を使ういつも通りの方法。たにゃ今回は、にゃん丸自身を守る為の霊力が足らにゃい。そこでにゃ。ウチと込みでオリオンにて発射とにゃった。ワクチン注入済みのにゃん丸をウチの霊力でもって保護しにゃがら、感染したスバルの中へ送り込もうって方法に切り換えたのにゃん。
「……にしてもにゃ。レミロにゃん。今ウチらは霊体にゃんよ。
にゃのに、にゃんで狭く感じるのにゃろう?」
「霊圧が高まっているせいです。間もなく発射ですから。ミアン殿たちのカートリッジが装填された場所は『霊圧室』といって、発射の際、室内全体に霊圧が重くのしかかるところです。中でもカートリッジの下部には爆発的な力がのしかかります。この力が弾丸をカートリッジの頭から圧し出し、銃口から飛び出させる仕組みになっています」
「飛び出すって、どこへにゃ?」
「パネルに映し出されている空間へです。こことは移動型スバルを通して繋がっています。銃口から発射された弾丸、つまり、にゃん丸とにゃん丸を抱えたミアン殿は、移動型スバルとなったにゃん丸の目を通って目的の空間へと到達するって寸法です」
「話がさっぱりみえにゃいのにゃけれども。
まぁいつまでもこんにゃところには居たくにゃいから、さっさと頼むにゃ」
「いうに及ばず。直ぐに撃ちます。それじゃあ、秒読みを開始しますよ」
「そんにゃ必要があるのにゃん?」
「これっぽっちもありません。
でも一応、決まり事ですし。それに、やる気満々気分となりますから」
「にゃあるほど」
「では行きますよぉ! 5……4……3……2……1……0!」
「レミロにゃん。『0』は読まにゃくても」
「行ってらっしゃあい!」
がちっ!
(『いいと思うのにゃけれども』と最後までいいたかったのにゃけれども)
どうやら、トリガーは引かれてしまったようにゃん。
(やれやれ。どうにゃることやら)
どぅぴゅぅぅん!
あっという間に、ウチらは銃口から飛び出していたのにゃん。
「うわぁっ! 本当に来たのにゃん!」
澄み切った青い空。今まで居たまだら模様の空間とは雲泥の差にゃ。
(といい切ってはレミロにゃんに申しわけにゃいかも)
「アッ、アソコ! ぷゆぷゆ」
小っこいにゃん丸が小っこい前足で指差した先。そこには黒いスバル、いやレイアにゃんの姿が。見ればレイアにゃんから伸びている黒いラインが根を張るかの如く、お空一杯に拡がっている。ラインに繋がっているスバルのいずれも真っ黒にゃん。普段であれば、スバルもネットのラインも見えにゃいにゃけに、にゃんとも痛々しすぎる光景にゃ。
(ずいぶんと感染されたにゃあ。のんびりとしてはいられにゃいにゃん)
「行くにゃよぉ! にゃん丸ぅっ!」
「ぷゆぷゆぅっ!」
レイアにゃんへとまっしぐら、というところで、奇妙にゃ行動を目の当たりに。
向かう相手、黒い翼の全身から、黒光りする気体が噴き出されたのにゃん。気体は黒雲とにゃってほぼ球体に近い格好に。レイアにゃんを、すっぽり、と覆い隠したのにゃん。
(防壁に違いにゃい。ウチらの侵入を妨げようとしているのにゃ)
みるみる間に防壁は、そのままの姿で数倍の大きさにまで拡大。さも、つけいる隙を与えにゃい、といわんばかりにゃ。
(にゃんともまぁ不気味にゃのにゃけれども……、
ことは村の一大事にゃ。怖れて怯むわけにはいかにゃい!)
ずぶずぶっ。
霊体の身体にゃのに、突っ込んにゃ瞬間から、かにゃりの弾力感を覚えたのにゃ。身体中にべったりと張りついて抵抗する感触を、『気持ち悪いにゃん』と思いにゃがらも、ひたすら前へ前へと飛んでいくウチ。オリオン銃の威力のおかげか、スピードはさほど衰えてはいにゃい。『直ぐに突破出来るにゃん』と自信を深めた、まさにその時にゃ。
「ふあ……ふあ……ふああんにゃあ!」
頭の中にも黒い雲のようにゃものが侵入してきたのにゃ。『イヤにゃイヤにゃ』と思う間もにゃくどんどん拡がってウチの意識を蝕んでいく、と、それが理由にゃろうか、ウチのスピードもまた減速していく。そして……とまってしまったのにゃん。黒雲の中で。
『貴様如き下等妖体に我の邪魔はさせん!』
保守空間で聴いた声。レイアにゃんの声が心に届いたのにゃ。
「ダメにゃダメにゃダメにゃん!」
もがいても、もがいても、考える力が遠のいていくのにゃん。
(ウチも染まってしまうのにゃ)
もうどうにでもにゃれ、という弱気にゃ気分。それでも、にゃん丸をしっかりと抱き締めていられるのは、ウチの心のどこか一カ所が歯を食いしばっているからにゃ。
「ダメにゃダメにゃダメにゃん!」
一欠片。ほんの一欠片の残った思いが絶叫にぃ。
「にゃん丸を、天空の村を守るのにゃあぁ!」
「大変だわん! ……ああでも、助かるんでしょ? ミア……あれっ?
ミアァン、どこへ行ったわぁん?」
「ミーナちゃん、実は……大変なことになってしまったの」
「大変なことって?」
「これから話すわ。だから落ち着いて聴いて頂戴」
「えっ。……うん」
「ミーナちゃん。『お話』にはね。ワタシたちが良く口にする『呪』のような力があるわ。
見たり聞いたり読んだりした相手を、お話の世界へと引き込んじゃうのよ」
「あっ、それ、知っているわん。要するに、あれでしょ?
お話にのめり込みすぎて、自分自身をその中のひとりにしちゃうのよね。
登場キャラの誰かさんに感情移入した挙句、自分自身をそのキャラに置き換えてしまったりとかぁ、はたまた、新たなキャラとして加わったりとかぁ、さまざまなケースがあるらしいわん」
「それらもみんな、お話の呪に引き込まれた結果、とみていいんじゃないかしら。
でもね。たとえそうなったとしてもよ。実体の命であれば、精神に異常をきたすほどの感情移入でもしないかぎりは、なんらかのきっかけで、心はやがて身体へと戻ってくるの。
ところが、ワタシたちのような霊体の命は違うの。心全てが奪われるくらいまで、のめり込んでしまったとしたら……、霊体の身体ごと、お話の中に引き込まれちゃうわ。
そして、お話が進む中で、ほっ、とひと息つく瞬間が来るまでは戻れなくなるのよ」
「ってことは……それじゃあ、ミアンは」
「ええ、そうよ。お話の中で大変な目に遭っているミアンちゃんと一つになってしまったわ。ミアンちゃんにとって、もうこれは過去の話でも空想の話でもない。リアルタイムな現実となってしまったの」
「どうして今回はそんなことに? 今までだって、いろいろとお話をしてきたわん」
「単に感情移入したっていうだけじゃないと思うわ。
助けたいと願う、こちらの世界のミアンちゃんの心。
救って欲しい願う、お話の世界のミアンちゃんの心。
二つの波長が一つとなって、異なる世界に架け橋が造られ、導かれた、とワタシはみているの」
「それで消えちゃったんだ……。
ねぇ、イオラ。なんか心配なの。これからどうなるのわん?」
「お話の展開次第、じゃないかしら。
ミアンちゃんが助かれば、ほっ、とひと息ついたってことで、消えたミアンちゃんもワタシたちのところへ戻ってくるはずよ。だけど……もし……」
「もし、なんてあり得ないわん! だって、だって、このお話は過去のぉっ!」
「過去は変えられない。ワタシも、ずぅっ、とそう思っていたの。でも、違うのかもしれない。ミアンちゃんが引き込まれた時点で変わったのかもしれないわ」
「そ、そんなぁ!」
「もう、これから先どうなるのか誰にも判らない。
過去は変わらず、現在も未来もこのままなのか? それとも、
新たな過去を造り出し、未来をも巻き込んでいくのか?
考えたくはないけど、もし、後者であるなら……、現在にも未来にもミアンちゃんは居なくなっちゃう。ワタシたちの元へ帰ってこないばかりか、ミアンちゃんと暮らした、っていう記憶さえ失って…………」
「イオラ……なにをいっているの……。
イヤ、イヤだわん。そんなのってないわん!
帰ってきてぇ! ミアアアアァァン!」




