第九話『覗き見の世界にゃん!』のその⑥修正01
第九話『覗き見の世界にゃん!』のその⑥
レミロにゃんに聴いたところに依れば……、
「観測点『スバル』というのはですね。球体の形をしていまして、表面の至るところに円錐形のとげとげが突き出ているのです。特筆すべきなのは『色』ですね。個体全体が黄金色に輝くさまは、えもいわれぬ美しさですよ」
……にゃんて話にゃのにゃけれども、残念にゃがら、保守空間のお務めをする者でもにゃいかぎり、視覚でも霊視でも見えにゃいそうにゃ。
もちろん、ウチもにゃ。にゃのに……。
ごっごっごっ。ごっごっごっ。
生まれたばっかのスバル、と思しき光の結晶が真っ黒に。いやそればかりか、スバルから四方八方へと幾つもの黒いラインがまるで触手のように拡がりつつあるのにゃん。
「し、しまったぁ!
こともあろうに『邪霊子』の侵入を許してしまうなんてぇ!」
悲鳴にも似た声がお隣から。振り返ったウチの目に映ったのは、椅子から立ち上がったまま真剣な面持ちでパネルを食い入るように見つめる女の子の姿にゃ。
「レミロにゃん、邪霊子ってにゃんにゃの?」
たにゃにゃらにゅことが起きているようにゃのにゃけれども、悲しいかにゃ、ウチにはイマイチ、ぴん、とこにゃい。にゃもんで取り敢えずは聴き慣れにゃい単語を尋ねたところにゃ。話し相手は『口にするのも汚らわしい』といわんばかりに顔を歪ませたのにゃん。
「はるか大昔に、この村に降り注いだ『死の灰』の置き土産です。
先ほどもいいました通り、天空の村は至るところ、正霊子に満ちています。もちろん、空もです。本来、安全で無垢な力のはずなのですが、中には『死の灰』の毒を含んだせいで突然変異を起こし、邪霊子となってしまうものも居るのです。
邪霊子が正霊子と決定的に違う点は、取り込んだ相手を異常なものへと改変する力があることです。悪性の細菌や奇っ怪獣が生まれるのも、全てはこの力に起因しています。野放しにしておこうものなら、村中の至るところで、病死や狂乱、破壊や崩壊に見舞われることでしょう。挙句の果てに、……天空の村は滅びを迎えることになるかもしれません」
「そんにゃあ」
「ええ。そんなぁ、です。断じてあってはなりません。なので、わたくしたちの務めも、邪霊子の監視と浄化を最重要事項として位置づけているのです。
ただ、こちらにとって厄介なのは、邪霊子が非常に捕捉しにくい相手だってことです。単に正霊子との判別に手間取るというだけではありません。同じくらいの小ささなのも難点ですし、移動速度は較べものにならないほど速い、つまり、逃げ足が速いのです。でもって行動範囲もかなり広いときます。天空の村のほとんどが逃げ場所といっても過言じゃありません」
「にゃんと。隠れんぼの天才にゃん」
「もっとも……、なにかことを起こそうとする際は、たくさん集まりますし、動きもとまります。時間もかかりますので、その間に、えいっ、と仕留めるのです。
村への被害を未然に防げる上、かなりの数の邪霊子をまとめて浄化し、正霊子へと戻せます。一挙両得なのですよ」
「そう上手くいけばにゃ」
イオラにゃんの想い出話にもあったし、実際、ウチも他の友にゃちと一緒ににゃって、奇っ怪獣の闘いを幾度とにゃく目の当たりにしているのにゃ。他にもミーにゃん同盟のみんにゃから、悪性の細菌や奇っ怪獣の存在を数多く耳にしている。思うようには仕留められていにゃい証拠にゃん。
呟いて直ぐ、にゃにげにレミロにゃんと目と目が合ってにゃ。そのまま、しばしの時が流れたのにゃん。にゃにやら思いつめたようにゃ様子で言葉をかけるのもためらってしまうくらい。周りのまだら模様が次々と色合いを変えていく中、やっと話し相手の口から、ため息に続いて『痛いところをつかれました』との声が漏れたのにゃ。
「おっしゃる通り、失敗は皆無、というわけにはいきません。原因としては、こちらのトラブルもありますが、やはり一番は、相手が巧妙に、しかもすばしっこく身を隠すからです。おかげで標的とするには無理のあるケースがこれまでにも度々あったことは紛れもない事実です」
「その時はどうやって対処したのにゃん?」
「こちらで処置出来るようであれは、もちろん、こちらで。それが叶わぬ時には……、
天空の村の孤島そのものの異常はヴィーナス殿へ。実体霊体問わず、森に棲む命ある者の異常はイオラ殿へ。これらふたりの守護神殿のお力にすがるしかありませんでした。とはいえ、いつまでも、というわけにもいきません。保守空間の名に恥じるこの不甲斐ない状況を一刻も早く打開しなければ、……と思うことは思うのですが、いかんせん、保守体制の強化どころか、完全復旧すらも、まだ果たしていないというありさまでして。
いささか頭が痛いところではあります」
腕を組んでのしかめっ面にゃ。でもって続く言葉も重いのにゃん。
「もう一つ厄介なのは、毒を含んでいながら、まだ変異をしていない正霊子が多数存在することです。しかも今もって尚、どれが邪霊子となり得るのかを検知出来ないというのが、悲しいかな、現状なのです」
「そんにゃのもあるにゃんて。お手上げっぽいにゃ」
「今回のトラブルを招いた原因でもあります。というのも……、
スバルはプログラムによって造られた霊体結晶です。結晶が造られたあとはともかく、生成時はかなり不安定な状態。正霊子を集める過程において最初から邪霊子であれば自動的に排除もしくは浄化されますが、途中での変異となれば手の打ちようがありません」
「それでこんにゃ……ふあんにゃん!」。
保守空間一杯にあったパネルのいずれもが真っ黒に、とにゃったのも束の間にゃ。一つを除いて他の全てが一斉に消失してしまったのにゃん。
『ふっふっふっふっ』
残ったパネルから、映像とともに笑い声が流れてきたのにゃ。どちらも身震いしたくにゃるようにゃおぞましさで腰を引かずにはいられにゃい。
『マザーミロネよ。良くぞ我に力を差し出してくれた。
お礼に、天空の村を破壊してガムラの核を頂戴するとしよう。スバルにはそれだけの力がある。空に浮かぶ正霊子を全て我が物とし、大地に叩きつけてやれば造作もないこと。
アレを手に入れられれば、我は完成した存在になれる。極めて強力な力を身につけた霊魔となれるのだ。
やっ……と、我が願いは叶う。全ては貴様のおかげだ。心から感謝する。
ふっふっふっふっ。はっはっはっはっ。あぁっはっはっはっ!』
男の子のようにゃセリフを吐くものの、声色からは、おっそろしく気の強い女の子、みたいにゃ気もしてくるのにゃ。でもってパネルに映し出されているのは……、全体が翼のようにゃ真っ黒の個体。上下どちらも何本もの『とげとげにゃ形』とにゃっていて、先っぽに近づけば近づくほど、内側に曲がっていくのにゃ。でもって真ん中にあるのは大っきにゃ一つ目。横長の楕円形で、黄色地に赤の真ん丸と、にゃんとも不気味にゃ色合いにゃ。
映像が見れたのは、ちょっとの間にゃ。お喋りが終わるのと同時に、最後のパネルも消失、と相成ったのにゃん。
「や、やられましたぁ!」
ががぁん!
がっくり、と肩を落とすレミロにゃん。両手をキーボードに乗せたことで奏でられた音が悲壮感をいやがうえにも増すのにゃん。
「最悪の結果です。スバルが……レイアとなってしまったのです」
「あれがそうにゃの? もしや、とは思っていたのにゃけれども」
「邪霊子自体にどんな力があろうとも、正霊子と同様に意志を持たない為、それ自身が動くことはありません。ですが、たくさんの邪霊子が集まるところには一つの意志が生み出されます。この意志が指示を与えることで、邪霊子は自分の力をいかんなく発揮するというわけです」
「にゃら、レイアが?」
「ええ。村が『死の灰』に見舞われた際にも、大量の邪霊子が発生したことを確認しています。レイアはこれらの邪霊子が生み出した『意志』なのです」
「困ったもんを生み出してくれたにゃあ」
「きっとレイアは、スバルがどうやって造られるのかを、ずうっ、と観察していたのでしょう。そして、空に拡がる正霊子が必要、と気がついたレイアは、まだ変異していない正霊子たちを、スバルとなるべく配置されたにゃん丸のそばへと移動したのです。『ここまでやれば、あとはなにもしなくとも取り込んでくれる』と考えたからに違いありません。
忌々しいことではありますが、この読みは当たっています。実際、そういう仕組みになっているのですから。
レイアの意志は邪霊子から邪霊子への移動が可能なのです。今までどの邪霊子に居たのかは判りませんが、スバルが造られた瞬間、取り込ませた正霊子を邪霊子へと変異させて移動した。いい換えれば、とり憑きました。そこから先は、ごらんになった通りです。『自分の個体となった』との宣言の意味で自らの姿をわたくしたちに見せ、おのれの力を誇示した。とまぁそんなところでしょうか」
ウチの脳裏には今見た黒いものが浮かんでいる。にゃんとにゃく身震いがする思いにゃ。
「にゃら、この先、どうにゃるのにゃん?」
「レイアはとり憑いたものの力を自由に操れるのです。つまり、今はもうスバルの力を自由自在に扱えるのです。
となると、先ずは邪霊子を使って空の制覇に取りかかることでしょう。
ここも含めて一切のスバルが『ネット』と呼ばれる信号網で繋がっていますから、放っておけばそれほど時を経ずしてこれら全てが侵蝕の目に遭い、レイアの手足とならざるを得ません。そしてその先は…………口に出すのも怖ろしい。
しかしながら、これは紛れもない現実です。既にわたくしの、いえ、ガムラの目が奪われつつあるのですから」
ウチの目にも話し相手が今までと違って、態度にも言葉にも興奮気味にゃのが見てとれるのにゃ。にゃもんで『ちょっと落ち着くのにゃ』と声をかけてみたのにゃけれども……、
ダメにゃ。ネコの言葉にゃんかに耳を貸しそうもにゃい。
「あぁぁ。ミアン殿。『天空の村』終焉の序曲といってもいい事態が今、まさに」
レミロにゃんが言葉を失ったかのように口を噤んでしまう。心の動揺を隠す余裕すらにゃいとみえて、口元のみにゃらず、身体全体までもが小刻みにゆれているのにゃ。
(どうにゃってしまうのにゃろう?)
パネルからの情報が途絶えた空間の中。まだら模様にゃけが自分の存在を示していて、にゃんとも、おどろおどろしいのにゃ。加えてレミロにゃんのたにゃにゃらにゅ様子を目の当りにしては、日頃、のほほん、としているウチとて、心穏やかにはいられにゃい。
ぷゆぷゆ。ぷゆぷゆ。
ふと周りを見れば、にゃん丸らも怖がっているのにゃろうか。みんにゃがみんにゃ、ウチとレミロにゃんに引っついているのにゃ。
「大丈夫ですよ、にゃん丸」
怯えているのに気がついたのにゃろう。声をかけ、ひとりひとりの頭を撫でるレミロにゃん。冷静さを取り戻したとみえる。見つめる目も優しいものにゃ。自分の分身を見ているというよりは、愛する家族を見ているといったほうが、ぴったり、にゃん。
(いいにゃあ)
天涯孤独とにゃってしまったウチとしては、にゃんとも羨ましいかぎりにゃ。
……と思っていたらにゃ。
「ミアン殿。そんなことはありません。
あなたにだって帰れる場所があるじゃありませんか」
「えっ?」
「ミーナ殿やイオラ殿です。あなたには家族がちゃんとあるのですよ」
「レミロにゃん」
いつの間にかウチは姿にゃけじゃにゃく、心までもがレミロにゃんに覗き見されていたようにゃ。でもそれを恥ずかしいとは思わず、有り難いと思えたのは……、
さみしかったせい、にゃのかもしれにゃい。
「そうよ、ミアンはアタシたちの家族だわん」
「ミアンちゃん。ワタシもそう思っているわ」
「有難うにゃん。ぐすん。
んもう、ミーにゃんもイオラにゃんもウチを泣かせたいのにゃん?」
「うん!」
「当ったりぃ!
涙ぐんでいるミアンちゃんって、すっごく可愛いもの」




