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第七話『お姫様は大変にゃのにゃん!』のその③

 第七話『お姫様は大変にゃのにゃん!』のその③


「きゃははは! これでいいわぁん!」

 ごおおぉっ! ごおおぉっ!

 再び現われた『荒れ狂う赤い川の氾濫』。

(こんにゃことをしてもいいのにゃろうか?)

 ミーにゃんは自分から、『アタシはミーナ。イオラの花の妖精だわん!』と、ありとあらゆるラモアの木に吹聴しまくったのにゃ。その結果がこのありさまにゃん。いうにゃれば、自分で災害を起こしたようにゃもの。戻りかけた森の生き物が慌てて退散していく。見る者に痛々しさを感じさせる景色にゃん。ウチも良心の呵責に苛まれそうにゃ。にゃのに当のミーにゃんときたら、それはもう浮かれ三昧とくる。

「きゃははは! アタシがお姫様だわん!」

 赤い川の上、まさに激流真っ只中にゃ。赤い実が飛沫のように弾ける中、流れとともに移動している。

「きゃははは! これぞ波乗りだわん!」

 ウチの親友は心優しい妖精にゃん。これはお世辞でもにゃんでもにゃい。ところがにゃ。やっぱり妖精という性分のせいにゃのにゃろうか。時と場合によっては、わがまま振りをムキ出しにすることがあるのにゃ。今のミーにゃんがそう。暴君と化しているのにゃん。

「いぃい? モワン。引っくり返ったりなんかしたら許さないわん!」

「ウチはミアンにゃ。それににゃ。引っくり返るかどうかは身体で舵をとっているミーにゃん自身にかかっているのにゃよ」

「ふふぅん。任せておきぃ、だわん! 行け行けぇ、だわん!」

 ミーにゃんは水面みなも……とはいっても、木の実が造り出した川にゃのにゃけれども……に直接、足を下ろしているわけじゃにゃい。『波乗り』の言葉でも判るように、『あるもの』を滑り板にして、赤い川の上を流れに沿って滑っているのにゃ。その『あるもの』とは……説明するまでもにゃい。ウチのことにゃん。

(とほほ、にゃ)

 ミーにゃんは小っこい身体にゃがらも念動霊波が使える。念動霊波とは相手の身体を操って自分の思い通りに動かす力のことにゃ。常日頃から注意や警戒を怠らにゃい者であれば、こんにゃ安っぽい技に引っかかることは先ずにゃい。ところがにゃ。ウチは違うのにゃん。年柄年中、お尻の穴が開きっ放しのユルんにゃ性格にゃもんにゃから、あっさりとミーにゃんの術中にハマってしまうのにゃ。

(にゃんとも情けにゃい話にゃのにゃけれども)

 ミーにゃんは今、波乗りに興じているのにゃ。親友のウチを、身体の色はそのままに、滑り板に相応しい板状の姿にして操っているのにゃん。木の実が造り出す荒波へ、時には乗り、時にはかわして、のらりくらり、と進んでいくのにゃ。

「おおっ! 急カーブだわん。でもこれくらいなら……って、ま、まずいわん! 流れが速くなって……うおっ! この非常事態に選りにも選って、巨大な岩まで転がってきたわん!」

 きゅるきゅるきゅる! ざぶうぅん! ごろんごろんごろん!

 三重苦難が一気に押し寄せてきたのにゃ。

「ダ、ダメだわああぁぁん!」

 かわし切れず、ウチらはまたまた川の中へ、どっぼぉん!

「んもうっ! モワンのへたくそぉっ!」

(……あんたにゃ)

 ごぼごぼごぼっ。ごぼごぼごぼっ。

 赤い木の実らの間に沈みゆくミーにゃんが叫ぶ責任転嫁の声。あたかも子守唄のようにウチには聴こえていたのにゃ。


 ウチが意識を回復した頃には、赤い川はもう跡形もにゃく消えていたのにゃ。

(あれっ? ミーにゃんは?)

 ラモアの木の高いところから声がする。『ひょっとして』と見上げても葉が邪魔で良く見えにゃい。にゃもんで上ってみたのにゃ。実体のネコであれば難儀するであろう木登りも、今のウチには造作もにゃい。地上とおんにゃじに、すたすた、と歩いていけるのにゃ。

「あっ、居たのにゃん」

 枝の一つにふたりの妖精が向かい合っている。片一方はどう見ても喧嘩腰にゃ。

「一体どうしてくれるわん!」

「にゅ?」

 木の実がたくさん生ったからにゃろう。『赤い川の氾濫』ばかりか、ネモンにゃんまで再登場にゃ。

『さっき悲しんにゃウチの気持ちはにゃんにゃったのにゃん!』と叫びたいところにゃのにゃけれども、これはこれでやっぱり嬉しいのにゃん。

(木の実はまにゃまにゃ残っているみたいにゃ。……ということはにゃ。ネモンにゃんは消えずに済む。ここに来ればまた逢えるのにゃん。良かったにゃあ)

 ネモンにゃんについては一安心。問題は……ウチの親友にゃ。

 ミーにゃんが自分よりも幼子の相手に向かって非難ぶぅぶぅにゃ。

(たいしたものにゃ、ミーにゃんも)

 幼児にゃがらミーにゃんは身をもって一つの極意をウチに教えてくれているのにゃ。

 では幼児が示す極意とはにゃにか。端的にいうにゃら、弱そうにゃ相手には強気で責めまくる。でもって強そうにゃ相手にはすぐさま腰を引く。生き物との交流を円滑に行にゃう上で欠くことの出来にゃいつき合い方を示唆しているのにゃ。

 もっとも、今回ばかりは手玉にとられている節があるのにゃ。ミーにゃんが幾らムキににゃって喚こうとも、ネモンにゃんは可愛い顔で、くいっ、と首を傾げるにゃけ。たったその仕草一つで、いとも簡単にミーにゃんの追求をかわしてしまうのにゃもん。

「はい。この勝負、ミーにゃんの負けにゃあ」

「うるさいわん!」

 ぶがっ!

 いつの間に手にしたのにゃろう。赤い実がウチの顔に思いっ切りぶつけられたのにゃ。しかも一個や二個じゃにゃい。視界が閉ざされるくらいにゃ。不意を突かれたこともあって幹の表皮から足が離れ、ばたっ、と地面に落下。拍子で開いた口の中にも幾つか入ってしまったのにゃ。

(これって……)

 実は今まで口にしたことがにゃい、というか、薬にゃし、口にするもんでもにゃい、と思っていたのにゃ。しかしにゃがら……、頭ごにゃしにそう決めつけていいものにゃろうか。食わず嫌いでいることが果たして、『もっと食べもにょを!』の言葉を最後に、実体としての命を失ったウチの為すべきことにゃのか。偏見や先入観を捨てて未知にゃるものに挑んでいくことこそが、ウチの真にあるべき姿ではにゃいのか。

 ウチは初心に返ったのにゃ。折しも、三連太陽は既に真上を通過。昼食タイムはとっくに終わっていて、おやつタイムが直ぐそこまできているといった刻限にゃ。それが判っていにゃがら、にゃにも食べにゃいとあってはネコ獣としてのプライドにもかかわること。にゃもんで、この試食を遅めのお昼代わりにしようと口に運んでみたのにゃ。

 むしゃむしゃむしゃ。むしゃむしゃ。

(にゃ、にゃんと! これほど美味にゃったとは)

 当然、周りに落ちているのも美味しく貪ることに。

 むしゃむしゃむしゃ。むしゃむしゃ…………。

 この木の実が、実は下痢どめに効く薬、と知るのは後日のこと。健康にゃ者が口にすれば、強固にゃ便秘とにゃるらしいのにゃ。

(妖体で良かったにゃあ)

 ほっ、とするのもまた後日にゃ。


 ある程度お腹が膨らむと、自然の摂理、という言葉が相応しいかどうかは別としてにゃ。どうにも眠たくにゃってしまったのにゃん

(あの様子では当分、ミーにゃんはネモンにゃんに文句をいい続けているはずにゃ。

 とにゃればにゃ。少しばかりの間、目を離していても問題はにゃかろう)

 これはあくまでもウチの予想、期待でしかにゃい。しかしにゃがら、今、ウチは眠くて眠くてたまらにゃいのにゃん。

 おネムにかかわらず、自分が『にゃににゃにをしたい』と考えた場合、その欲求が強ければ強いほど、『大丈夫にゃ。にゃんの問題もにゃい』にゃんて思うもの。自分に都合のいいほうに物事は進む、と考えがちにゃのは誰しもおんにゃじではにゃかろうか。

 ウチもまた自分の予想が正しいと信じて、……しばしの眠りに就いたのにゃん。

 すうぅっ。すうぅっ。すうぅっ。すうぅっ。


 微か、にゃのにゃけれども、誰かが喚いているようにゃ声が聞こえるのにゃ。

(これは夢にゃのか現実にゃのか)

 周りに霧のようにゃものが立ち込めている。迷いに迷ってウチは目を覚ましたのにゃ。

「ふにゃ?」

 にゃんともまぁ無様にゃ姿で、落ち葉の敷きつめる地面に転がっているのが判ったのにゃん。

「いつの間に……。寝返りでもしたのにゃろうか」

 またしても声がしたのにゃ。直ぐそばに生えているラモアの木の上からにゃ。

「はて? にゃんにゃろう?」

 再び登ってみたのにゃ。声の正体を目にした途端、疑問は一気に氷解にゃ。

(にゃあんにゃ。まにゃやっているのにゃん)

 一口でいえば、『既視感』という奴にゃろうか。落ちる前に見たのとにゃんら変わらにゃい光景が目の前に。

「はぁはぁはぁ。だぁかぁらぁ。謝りなさいって何度も何度も……はぁはぁはぁ」

「にゅ?」

「にゅ、じゃないわん!」

 相も変わらず、ミーにゃんはネモンにゃんをを睨みつけ、文句を吠え立てていたのにゃ。

(いつまでやっているつもりにゃろう?)

 本来、妖精というものは飽きっぽいものにゃん。ミーにゃんもそれはおんにゃじ。にゃのに……どうしてにゃろう? あれからだいぶ経つにもかかわらず、同じ場所で同じ文句を。

(でもぉ。そろそろみたいにゃん)

 息切れらしきものが聞こえていたもんで、あるいは、と思ったのにゃけれども、モノの見事にウチの予想は当たってしまったのにゃ。

「はぁはぁはぁ。ま、負けたわん」

「にゅ?」

 怒りのミーにゃんに対し、天然のネモンにゃん。にゃらば勝負は端っからついていたのにゃ。

 とどのつまり、どっちが幼子か判らにゃい結末とにゃってしまった。まぁミーにゃんにしては粘りに粘ったにゃけに、にゃんとも不運にゃ話にゃ。


「ねぇ、ミアン。ミアンってばぁ」

「にゃんにゃの? ミーにゃん。

 お話の最中から、ウチをユさぶっているのにゃけれども」

「あのね。是非ともこれだけはいっておきたいわん」

「にゃから、にゃんにゃの?」

「ネモンのような小っちゃい小っちゃいネコによ。手玉になんかとられないわん。

 とられたフリをしているだけわん。そこんとこ、よろしくぅ、だわん」

「ミーにゃん。あんた、それをいいたくて、ずっとぉ……」

「ふふっ。ミーナちゃんったら、十分手玉にとられているじゃない」

「んもう! 違うったら、違うわん!」

「でもいいじゃない。ワタシなんか手玉にとられたくっても……、

 ぐすん。誰もしてくれないのよ。ぐすん」

「イオラにゃん……」

「イオラ……」

「にゃあ、ミーにゃん。アレってどういう意味にゃん?」

「うぅぅんとぉ。無我の境地って奴かなぁ。

 弄ばれるのを嬉しいと思う年齢に達したのだと思うわぁん」

「嬉しいとまではにゃあ。今のウチにはとぉても無理にゃん」

「アタシだってぇ」

「はて? ねぇ、ミーナちゃん。ちょっと聴いてもいいかしら?」

「なに?」

「まだ幼児なのに、どうして、ワタシが『嬉しい』なんて思ったの?」

「ミーにゃんはおませにゃもんで」

「あのね、ミアン」


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