第七話『お姫様は大変にゃのにゃん!』のその①
第七話『お姫様は大変にゃのにゃん!』のその①
ミクリにゃんが開けてくれた穴を抜けると、そこは広々としたお空にゃった。にゃもんでウチは空飛ぶ絨毯と化したにゃん。
ひらひらひら。ひらひらひら。
左目にゃけを拡がったお腹へと移動、ぐるぐると縦横無尽に動き回す。眼下を眺めつつ、安全に飛ぶにはこのほうが都合がいいのにゃ。
樹海の森が見えてきた。 木々がうっそうと生い茂る森。空から見れば、まさに樹海の名に相応しい姿にゃ。ごちゃごちゃとした中にも幾つかまとまりがあって、その一つ一つを『園』と呼ぶ。代表的にゃものに、薬園、果物園、霧の園があるのにゃ。
「た、助けてわぁん!」
緊急メッセージが霊覚を通じて心に、びんびん、と伝わってくるのにゃ。反応がやたらと強い。それもそのはずで、ここは既にミーにゃんの探索担当区域。『樹海の森』にある薬園の上空にゃ。イオラの森内での移動にゃもん。あっという間に辿り着けるのにゃん。
きょろきょろ。きょろきょろ。
「さぁて、と。ミーにゃんはどこにぃ……………うわぁんにゃ!」
いつもの見慣れた風景が拡がっている、と思いきや、それはとんでもにゃい間違いにゃった。
ごおおぉっ! ごおおぉっ!
「にゃ、にゃんと!」
見た目は『荒れ狂う赤い川の氾濫』。でもにゃ。この園にそんにゃ川にゃんてどこにもにゃい。しかもにゃ。耳を澄ましてみれば、がちゃがちゃと、にゃにかとにゃにかがぶつかり合うようにゃ小うるさい響きまで立てているのにゃ。
「ひょっとすると……、取り敢えず、もっと近づいてみるのにゃん」
不思議にゃことに、赤い川は薬園内部をぐるぐると回っているにゃけ。警戒しつつも正体を探ろうと、ゆっくりゆっくり、降下。時折、赤っぽい飛沫? みたいにゃものがこちらへと飛んできて、煩わしいことこの上にゃい。にゃもんで、ウチが払おうと右前足を振っていたら、いつの間にやら、にゃにかをつかんでいたのにゃん。
「ねぇ、遊ぼにゅ。遊ぼにゅ」
「遊ぼ、っていわれてもにゃあ」
前足の中から語りかけてきたのは、丸みを帯びてずんぐりとした赤い実にゃ。『あんたは誰にゃの?』とか、『ウチは今それどころじゃにゃいのにゃけれども』といったセリフをウチが口にする前に、ぱっ、と身体を崩して、小っちゃいネコ型妖体へとその身を変えたのにゃ。
「にゅんにゅん。わたにゅはネモン。にゅんにゅん」
「にゃんにゃん。ウチはミアン。にゃんにゃん」
初対面のご挨拶にゃ。相手が小さいものにゃから、鼻の先でちょっと触れてみる程度が精一杯。そんにゃでも、お互いの身体が触れ合ったことで、親しみが湧いたみたいにゃ。にこにこ顔で嬉しそう。でもって視線がわずかに上を向いたその時にゃ。
「にゅうっ! 額のそれって、ひょっとしたら」
目を真ん丸にして期待を漲らせた顔にゃ。
(この子も知っているのにゃん)
「そうにゃ。おばあにゃんからもらったのにゃん」
「やっぱり! すごいっにゅうっ!」
マロンにゃんとおんにゃじにゃ。ここでもまた羨望のまなざしを向けられてしまったのにゃん。
(にゃんか照れくさいのにゃ)
今までに経験をしたことがにゃいもんで尚更にゃ。
(お返しに容姿でも褒めてあげようにゃん)
ウチはあらためて『ネモン』と名乗った妖体を眺めてみたのにゃ。赤く艶のある丸っこい身体は紛れもにゃく赤ん坊ネコ。あまりの可愛らしさに思わず食べてしまいたい……。
(おっ、とと。いけにゃいいけにゃい。可愛い子を見ると直ぐこれにゃもの)
そうはいっても身体は正直にゃ。気がつけば、ずるり、と口からヨダレが。慌てて口元を前足で抑えたのにゃん。
「どうしたのにゅ?」
怪訝そうに首を傾げる仕草も可愛いのにゃん。
「にゃ、にゃんでもにゃいのにゃん」
そういって『これはだらしがにゃい』とばかり、慌てて飲み込んにゃのにゃ。
(もちろん、本当に食べる気にゃどこれっぽっちも……とは思うのにゃけれども)
ネコは忘れやすい生き物にゃんよ。
「ええと、あんたは……」
「木の実の精にゅ。この森で一番多い種の樹木に生った実の精なのにゅ」
「ってことは……そうにゃん!」
ウチは、はた、と気がついたのにゃん。
「あんたは『ラモア』にゃんの木に生る『お騒がせの実』にゃん!」
「正解にゅっ!」
自分のことを判ってくれた。それがとぉても嬉しかったのにゃろう。喜びの表情も加わって更にゃるにこにこ顔に。もう可愛くて可愛くて、胸が、ずきゅうぅん、にゃ。
(薬園にこんにゃ妖体が居たにゃんて。
ああ……、またもやウチの心にあるミーにゃんが霞んでいくうっ……)
ここ『薬園』は、実体、霊体を問わず、森に棲む者らが身体を治す上で欠かせにゃい草木や木の実が所狭しと生い茂る、いわば薬の宝庫ともいうべき園にゃ。
当たり前の話にゃけれども、森の中には人が住んでいるところに建っている『病院』あるいは『診療所』にゃるものは存在しにゃい。にゃらばどうやって病に冒されたり、傷ついたりした身体を治すのか? 手段としては二つ。一つは精霊が持つ復元力に頼ってにゃ。これが一番手っ取り早い。イオラにゃんにでも頼めば、あっという間に治してくれる。村の守護神といわれる由縁にゃ。で、も一つは自力で、ということににゃる。大概はこちらを選ぶのにゃ。どうしてかといえば……、森に棲む者にゃったら、どんにゃ薬をどんにゃ風に使えば治せるか、にゃんて生まれにゃがらに心得ているもんにゃ。身体に異常をきたせば、直ちに薬園へと飛び込むのにゃ。治すのに役立つものを探しては口にする、あるいは削り取って身体にこすりつける、にゃどといった処置を自分で施し、いとも簡単に治すのにゃん。悠久の昔からということにゃので、きっと、命として誕生するまでにそういった知恵が本能に近い形で備わるのにゃろう。精霊に頼るのはプライドの高さも手伝ってか、『自分ではもうどうしようもにゃい』と判断した時にゃけみたいにゃん。
とまぁそんにゃこんにゃで、ここは森に棲む者にとっては欠くことの出来にゃい園、にゃのにゃけれども、玉に瑕、みたいにゃところもあるのにゃ。その最たるものがウチの目の前にも生えている樹木ラモアに生る木の実。ネモンにゃんの姉妹にゃん。イオラにゃんの木に咲く花らも話好きで、時には口やかましいくらいにゃのにゃけれども、こちらはその比じゃにゃい。にゃにかことがあるたんびに大量発生。どんどん木から落ちていく。挙句の果てに、誰彼構わず飲み込む赤い川とにゃる始末にゃ。とばっちりを受けるのは身体を治しに訪れた霊体や実体を持つ生き物ら。治すどころか命さえ危ぶまれるのでは、と危惧されるほど、もみくちゃに。にゃんとも異常にゃ燥ぎっぷりにゃ。まさに『お騒がせの実』と呼ぶに相応しい者らにゃん。
「とにゃると……。
にゃあ、ネモンにゃん。今回ネモンにゃんらを熱狂させているのは」
ウチの呟きに箱座り……前足をお腹に隠して座り込んでいるのにゃ。とぉっても可愛いのにゃん。……のネモンにゃんが素早く反応にゃ。
「あの子にゅ」
そういってあごで示す先、ウチの真下近くから、聞き慣れた声が耳に届いたのにゃ。
「助けてぇ、モワァン!」
思わずそちらへと視線を向ければ。
(あっ。やっぱりにゃ)
生まれてから、ずうぅっと、のつき合い。『幼なじみ』『親友』をはるかに超えた、切っても切れにゃい縁の妖精。少にゃくともウチはそう思っているのにゃ。
ミーにゃんはにゃかにゃかウチの名前『ミアン』を覚えてくれにゃい。慌てたり興奮したりすると尚更。うぅんと、小っちゃい頃……ミーにゃんがにゃ……のまま、『モワンモワン』とか『モワン』と呼んでしまうのにゃ。本当、困ったものにゃん。
(おっ、とと。愚痴っている場合じゃにゃい!)
「ミーにゃあん!」
「あっ、モワ……ぶぐっ!」
枝から下りて助けようとした矢先、ウチの目の前で手を振りにゃがら、かろうじて上半身にゃけ出していたミーにゃんの姿が、ずぶっ、と赤い川の中へ没してしまったのにゃ。
「こうしてはいられにゃい!」
ウチは化けネコ。この程度の流れに負けるようにゃ柔にゃ妖体ではにゃい。
どっぼぉん!
ネモンにゃんに別れの挨拶をするのも忘れ、赤い実がひしめき合うその中へと身を投じたのにゃん。
「話始まって早々、『危うしのアタシぃっ!』の手に汗握るこの展開。
ミーナ姫をさっそうと救いに馳せ参じるは、ミアンという名前の気高き騎士。お姫様の為ならたとえ火の中水の中、ってことで、赤い実の流れに突っ込むことも辞さない恐れを知らぬこの雄姿。
果たしてミーナの運命はいかに? ミアンの救出は間に合うのか?
一刻一秒も目が離せない第七話だわん!」
「ずいぶんにゃ力の入りようにゃん」
「自分の出番が回ってきたので張り切っているのねぇ」
「ふぅ。ちょっと勢い込みすぎたわん。まっ。たまにはいいかな」
「ミーにゃんミーにゃん」
「なに? ミアン」
「盛り上がっているところ、大変申しわけにゃいのにゃけれども、
『ミアンという名前の気高き騎士』をにゃ。『ミアンという名前の気高き乙女騎士』に訂正して欲しいのにゃん」
「それはちょっと……。女の子が女の子を助けるんじゃイマイチ盛り上がらないわん」
「あら。それならもうワタシはミーナちゃんを助けなくもいいってことね」
「えっ。ええと、そうじゃなくってぇ。つまりね。女の子が女の子を、であってね。
イオラはもう」
「あら。ワタシも『女の子』よ。そうよね。そうでしょ? そうじゃないの?」
「ウチも女の子にゃ。そうにゃろう? にゃあ、ミーにゃん!」
「どうなの? ミーナちゃん!」
「どうにゃの? ミーにゃん!」
たじたじ。たじたじ。
「えっ。ええっ。なんで話の紹介をしただけなのに、アタシひとりが責められなければならないのわん?」




