第六話『芸術に悩むマロンにゃん!』のその②
第六話『芸術に悩むマロンにゃん!』のその②
『絵の評価というものは鑑賞する者の嗜好に依存する』とはウチの持論にゃ。にゃもんで、誰もが納得する素晴らしい作品にゃど、そうそうあるはずもにゃい……いや、ひょっとしたら、あり得にゃいのでは? にゃあんて考えてしまうこともあるくらいにゃ。
とまぁエラそうにゃことを連ねてはみたもののにゃ。ウチに絵を見抜く審美眼があるとは到底思えにゃい。でもにゃ。一目見て自分にゃりの、『これはいい』『これはダメにゃ』ぐらいのことはいえるのにゃ。にゃら、それを正解とみにゃしてどこが悪い? 難しいことにゃど、にゃに一つ判らにゃくていい。自分の心が下した評価。それこそが、自分にとっての正解にゃのにゃもん。
(おぉっ、と。こんにゃことを考えている場合じゃにゃい。……とはいってもにゃあ)
探し回るということ。ここでは絵から絵へと、鑑賞し続けることと同義にゃ。見たくにゃくても視界に飛び込んでくるのにゃ。そうにゃったら、いやが上でも、心がそちらへと傾いてしまう。あれやこれやと心に浮かんでしまうのにゃ。心ある者の性。この誘惑に太刀打ちにゃど出来るはずもにゃい。
とまぁ絵画鑑賞に没頭する中、変てこりんにゃ絵が目に映ったのにゃん。
「あれは……、一体にゃにを描こうとしているのにゃん?」
通りすぎてはみたもののにゃ。どうにも気ににゃってしょうがにゃい。忘れたくても忘れられにゃい。もはや、宝玉の探索どころじゃにゃいのにゃ。
(ええい! かくにゃる上は、しばし中断にゃあ!)
ウチは心の命ずるままに引き返したのにゃ。
「ふにゃ! これにゃん!」
見つけた絵画。描いているのはウチやミクリにゃんよりも、ずぅっ、と年下と思われる子ネコにゃ。筆として使っている右の前足を除けば、箱座りの姿。それがふわふわ浮かびにゃがら、大っきにゃキャンパスに線を引いている。にゃんとも可愛らしい眺めにゃん。
(おっ。動きがとまったのにゃん)
「ううぅん、とぉ。困ったでちゅにゃ」
唸りにゃがら、右足も隠しての完全にゃ箱座り。でもって宙をぶらりんこにゃ。
(にゃはっ!)
ウチは可愛い者には目がにゃい。にゃもんで、まるで吸い寄せられるかのように、ふらふらふらっ、と近づき、真横に並んにゃのにゃ。
ちらっ、と子ネコの顔を覗いてみれば、言葉通りの困ったようにゃ表情が浮かぶ幼顔。人間にゃら、鼻血が、ぶばっ、と出るところにゃ。んもう、可愛くて構いたくて、声をかけずにはいられにゃいのにゃん。
「どうしたのにゃ?
にゃにか手伝えることがあるのにゃら、ウチに遠慮にゃくいってみにゃさい」
「えっ」
くるっ。
驚くかと思いきや、振り向いた子ネコの視線の先は、すぐさまウチの額に。
「その花丸印は……。すごいでちゅ。伝説の『たいへんよくできました』でちゅね。あたちゅ、初めてみましたでちゅよ。すごいでちゅ! やったぁでちゅう!」
興奮しているとみえ、続く言葉も『すごい』の連発にゃ。本来であれば、鼻高のるんるん気分。でも今はそれどころじゃにゃい。
つぶらにゃ、という表現がぴったりの真ん丸瞳にあどけにゃい笑み。そんにゃ子ネコの顔に釘づけにゃん。
「ふにゃああっ!」
思わず、くらくらっ、と。あまりの可愛さに目まいを起こしたのにゃん。
(そういえばミーにゃんも小さい頃は可愛かったにゃあ。ウチのことを、『もわんもわん』にゃんて呼んにゃりしてにゃ)
でもにゃ。それがあとあとまでの悲劇へと繋がったのにゃ。なついてもらおうと、『ほらぁ、「もわん」にゃよぉ』『もわんもわんにゃよぉ』にゃどの言葉をやたらと繰り返してしまったのが元で、生まれてから二百年経った今でも、『モワン』とウチを呼ぶのにゃ。幾ら、『ウチはミアンにゃ』と口を酸っぱくいってもてんでダメ。困ったものにゃん。
(まっ、愚痴はこれくらいにしようにゃん)
軽い目まいを起こしたウチが、頭を抱えて蹲るのは自然の成り行きにゃ。
(おしとやかにゃ乙女は心が繊細にゃのにゃん)
「どうしたのでちゅにゃ? お姉ちゃん」
ウチの様子がおかしいと思ったのにゃろう。子ネコは悩むのをやめ、気遣うようにゃ言葉をかけてきたのにゃ。
「にゃんでもにゃい。ちょっと立ちくらみをしたにゃけにゃんよ」
「ふぅぅん。にゃらいいんでちゅけどにゃん」
心配そうにウチの顔を覗き込んでいたのにゃけれども、返事を聞いて安心したのにゃろう。また自分の絵画へと目を戻したのにゃん。『邪魔しちゃ悪いにゃん』と思い、ウチは黙ってその横顔を眺めていたのにゃ。ところがにゃ。一向に子ネコは描こうとはしにゃい。箱座りのまま、うんうん、と唸っているばかりにゃん。
「にゃあ、ちょいと」
どうにも気ににゃってしょうがにゃい。ウチは再び声をかけたのにゃん。
「にゃにか困っていることでもあるのにゃん?」
しばらく間を置いたあとにゃ。自分ではどうにもにゃらにゃいとでも察したのにゃろう。やっとウチを振り返ってくれたのにゃん。
「うぅぅん、と。実はそうにゃんでちゅにゃ」
「やっぱりにゃ。で? 一体にゃんにゃのにゃん?」
「でっかくて大っきいものを描きたいのでちゅにゃ」
「にゃあるほどにゃあ。それでこんにゃものを」
最初に見た時、『変てこりんにゃ絵』との評価を下したモノは、良く良く見れば、大っきにゃ三角形にゃ。描くにはでかすぎたとみえ、『歪んにゃ』もしくは、『波打つ』といった表現がぴったりの、ぐにゃぐにゃにゃ線形で描かれているのにゃ。
「どうにも上手に描けにゃいのでちゅにゃ」
「まぁこの大きさじゃあにゃ。真っ直ぐにゃ線で形造るのは、難しいと思うのにゃよ」
「ううん。あれこれ考えにゃがら描いたので、曲がっているだけでちゅにゃ。
でもでちゅ。たとえこれが綺麗に仕上げられたとしても、やっぱり違うのでちゅにゃ」
「違う?」
「ついてきて下ちゃいにゃ」
子ネコがそう声をかけてきたので、ウチも一緒に行くことに。正面から右側へと身体の向きを変え、絵に沿って歩いていくのにゃ。
(どうやら、キャンパスの周りを回るつもりみたいにゃん)
…………そして。
「ほら、あれを」
前足で指差すほう、ウチらの左横には、白い光の枠線が見えるのみにゃ。
「こっちの厚さはこれしかにゃいのでちゅにゃ」
「まぁにゃ」
ちょうどキャンパスの側面にあたるところに居るもんで、当然といえば当然にゃ。
子ネコはどんどん歩いていく。
「でもって、こっちには絵が描かれているのでちゅにゃ」
「そりゃあ裏側にゃもの」
透明にゃキャンパスに描いているのにゃもん。絵の向きが左右反対とにゃることを除けば、表側とおんにゃじモノを目にしているわけにゃ。
「つまりでちゅにゃ。この絵はペラペラの三角形にゃんでちゅにゃん」
「にゃから? ペラペラではいけにゃいのにゃん?」
「あたちゅは四方のどちらから見ても、三角形が見えるようにしたいのでちゅにゃよ」
「どちらからも? とにゃると、平面……じゃにゃくて、こう、にゃんていうか……」
「そうでちゅにゃ。立体的にゃもの、早い話が正四角錘を造りたいのでちゅにゃん」
「にゃ、にゃんと!」
ががぁん!
頭に、超硬質の岩石をも砕くハンマーでぶっ叩かれたようにゃ衝撃が。
無理もにゃい。言葉が思いつかず、迷っている間に、子ネコがあっさりと正解を出してしまったのにゃもん。
(ウチは何百年も生きているのに……。『老いては子に従え』とでも神霊ガムラにゃんがウチを諭しているのにゃろうか。……いや、違うのにゃん。ウチもミーにゃんとおんにゃじで、まにゃまにゃ子供。『学びに終わりはにゃい』といいたいのに違いにゃい)
「あのぉ、お姉ちゃん? にゃにをやっているのでちゅにゃ?」
はっ!
「にゃ、にゃんでもにゃいのにゃん」
気がつけばウチは寝返りを打つ姿勢でもって、心の葛藤とやらに浸っていたのにゃん。
「ま、まぁこちらにもいろいろと考えることがあってにゃ」
お茶を濁しにゃがら、にゃに食わにゅ顔で立ち上がったのにゃ。子ネコの口から飛び出した思わにゅ指摘が、ウチの心にさざ波を立てたことを悟られたくにゃかったのにゃん。あたふたと慌てふためくさまを見せたくにゃかったのにゃん。
対して子ネコの反応といえばにゃ。
「ふぅぅん」
ウチのことにゃど別に気にしていにゃい、といった素振りで、また自分の歪んにゃ絵に目を戻したのにゃ。『この子の願いを叶えてあげたいにゃあ』との思いが募るウチのアホ頭に、珍しく一つの考えが浮かんにゃのにゃ。
「ええと、あにょぉ、子ネコにゃん。子ネコにゃんはたとえば」
「子ネコ? そういえば名乗ってなかったでちゅにゃ。
あたちゅは『マロン』。栗ネコでちゅにゃ」
「栗ネコにゃん!」
思わず納得のウチ。見れば確かに、上側はてっかてっかの茶色、下側はふっさふっさの黄色の毛並みで覆われているのにゃ。
栗。これもまた移民の持ち込んにゃ果実にゃ。今は他の植物との配合で『もどき』が造られている。『栗ネコ』にゃる種名も、ここからきているのにゃ。元々は別の名前にゃったらしいのにゃけれども、地味で誰も、当のネコでさえも覚えてくれにゃい。にゃんとかしにゃければ、と、悩むネコらの間でささやかれ出したキーワードが『栗』。この果実が持つ美味しさに村中のありとあらゆる生き物が魅入られてしまい、名前もあっという間に覚えられてしまっていたのにゃ。そこに目をつけた者が、にゃらばと、関係者のネコ……って誰と誰にゃろう……に訴えた結果、『覚えてくれるのにゃら』『そういえば似ているのにゃあ』にゃどの好意的にゃ意見が大勢を占めたことから、この名前に変わってしまったとのこと。いやはや、名前にゃんて案外、簡単に決まってしまうものにゃ。
まっ。それはそれとしてにゃ。
(栗の皮、下半分を削り取った感じにゃ。にゃあんか、ぺろり、と食べたくにゃるくらい、美味しそう、いや、可愛い子にゃん)
ずるり。
思わずヨダレが。幸いにゃことに『マロン』にゃんはこっちを向いていにゃい。にゃもんで一気に啜ると、お澄まし顔で自分も名前を口にしたのにゃん。
「ぷんぷん! ぷんぷん!」
「どうしたのにゃ? ミーにゃん。にゃにを怒っているのにゃん?」
「お話の中の文句に腹が立ったわん! なによ、これ。
『そういえばミーにゃんも小さい頃は可愛かったにゃあ』って。
アタシは今でも可愛いわん!」
「ぷんぷん! そうよ、ミアンちゃん。ワタシだって今でも可愛いわ!」
「ふぅ。にゃあんにゃ。冗談にゃの? やれやれにゃん」
すたすたすた。
「あっ、違う違う。アタシは違うわ……。
ほらぁっ! 行っちゃったわん!
イオラのおかげでアタシまで『お笑いのウケ狙い』と間違えられたわん!」
「ひっどぉい……しくしく」
「あ、あれっ? ど、どうしよう。泣いているわん」
あわあわあわ。
「ご、ごめんね、イオラ。本気でいったんじゃあ」
「ぐすっ。てっきり、『受け狙い』とばかり……、
ミーナちゃんって、まだまだ修行が足りないのかしら」
「なんの?」




