第六話『芸術に悩むマロンにゃん!』のその①
第六話『芸術に悩むマロンにゃん!』のその①
はぁぁ。上を見ても青空はにゃいし、周りを見ても下を見ても木も花も、いんにゃ、草一本すらも生えてはいにゃいにゃあ。どこもかしくも地層の絵が見渡せるのみにゃん。
(とほほにゃ。思えば遠くへ来てしまったのにゃあ)
脳裏に浮かぶはミーにゃんの笑顔。ウチはここに来てやっと気がついたのにゃ。『自分の帰る場所は、あの笑顔があるところしかにゃい』と思い定めていたことに。
「ミーにゃああん!」
にゃあんか無性に逢いたくにゃってしまったのにゃん。
(ミーにゃんもどこぞで宝玉を探しているのにゃろうにゃあ)
親友のことを思い浮かべつつ、ウチはミクリにゃんに連れられて地中ネコらが集まっている広場へとやってきたのにゃ。先に聴いた通り、あちらこちらで一心不乱にお絵描きしているさまを目の当たりにする。『邪魔をするにゃあ』との気配が、むんむんしていて、近寄ったり声をかけたり、が、しにくいのにゃ。足取りもそう。気がつけば、そぉっと、そぉっと、みたいにゃ歩き方とにゃっているのにゃん。
(まっ。『抜き足差し足忍び足』は、ネコの十八番、にゃのにゃけれども)
ここには透き通った身体の者は誰も居にゃい。ミクリにゃんの話に依るとにゃ。地中であってもナワバリまで来れば、体外に放出される霊力を、『幼児レベルのくっきりとした姿』とにゃるまで強くしても大丈夫とのこと。にゃらば、と試しに実体波を纏ってみたところにゃ。これが拍子抜けするぐらい、纏う前とにゃんら変わらじ。地層に埋もれるにゃどということもにゃく、『これではダメにゃん』といった不都合もにゃさそう。にゃもんで、そのままの姿で居ることにしたのにゃ。
「にゃあ、ミクリにゃん。ちょっと聴きたいことがあるのにゃけれども」
「なんだい? ミアン君」
「地中ネコにゃら、普段ウチらがごろごろしている遊び場の地面からでも直接潜り込めるはずじゃにゃいの。にゃのに、にゃんでわざわざ沼底を出入口にしているのにゃん?」
「ああ、そのこと。まぁ早い話が、他の地中ネコがうるさいからだよ」
「うるにゃい? はて? どういう意味にゃん?」
「君も知っての通り、天空の村に拡がる霊力は全て神霊ガムラから発生している。そしてガムラは地霊。地中は他のどの場所よりもガムラの霊力が強い。当然、そこを棲み家としている地中ネコもそれなりの力は持つ。数だって結構居るから、ボクなんかが入っていったら、不法侵入とかで、弾き飛ばされちゃうのがオチだよ」
「不法侵入? おんにゃじ地中ネコにゃのに?」
「ナワバリだよ。沼底の真下はボクたちのナワバリだけど、それ以外は、よそ様のナワバリなんだ。地中ネコっていうのはね。ことナワバリに関しては結構うるさくてさ。特に地中外から入ってきた者に対しては過敏なまでの反応を示しちゃうんだ。自分たちの仲間じゃなければ地中ネコであっても、即、排除。厳しいもんだよ」
「そんにゃに。ナワバリとはにゃあ。地中でもやっぱり垣根があるってことにゃん」
「うん。だけどね。地中内となると、また話は変わってくるんだ。あっちのナワバリからこっちのナワバリへと泳いでいっても邪魔することなく、すぅっ、と通してくれるよ」
「ナワバリとナワバリの間には隔壁があるのにゃろう?
どうやって渡っていけるのにゃん?」
「自分のとこを含め、とにかくどこのナワバリの長からでも構わない。『通行証』なるものをもらってくるのさ。たったそれだけ。正当な理由さえあれば、直ぐにくれるよ。肉球に霊印として刻まれるから、行きどまりに触れるだけで隔壁は消失。別なナワバリへと行けるようになる。
実をいうとね。この制度はボクが生まれるちょっと前ぐらいまではなかったらしいよ。まぁ『郷土愛』っていう表現が相応しいかどうかはともかくとしてさ。地中ネコならば誰しもが自分のナワバリに愛着を感じているし、『他のナワバリの奴なんか絶対に入らせるもんかぁ!』なんて息巻いている連中だって今もって多いからね。ある意味、当然といえば当然なんだ」
「それがまたにゃんで?」
「『もしも』の場合に備えて、といったところかな。
排他的な考えがある一方で、『全く行き来出来ないのであれば、いざという時、双方が困る事態に陥るかもしれない』との懸念をみんなが抱いていたっていうのもまた事実でさ。地中ネコの中でも上に立てば立つほど、この懸念に対しては真剣に向き合わざるを得なかったんだ」
「まぁそうにゃろうにゃあ」
「とはいってもね。ミアン君。ちょっと議論して直ぐに決まった、なんていう生やさしいものじゃなかったみたいだよ」
「というと?」
「特に障害になったのは、さっきもいったように、『よそ者は立ち入り禁止』の考えだね。昔は今以上にこの考えが地中ネコたちの間では、はびこっていたらしい。とまぁそんなわけでさ。『どうしたら反対者を納得させられるのか』『どのようなで方法なら、ナワバリ間の往来を円滑に行なえるのか』なぁんて問題を悠久の昔……初めて聞いた時は信じられなかったんだけどねぇ……から、時代時代で、ナワバリの長を含め、俗にいう『おエライさん』の方々がこぞってあれこれ考え、かんかんがくがくの議論を展開し続けたんだって。いやあ、恐れ入るよねぇ。飽きっぽさがネコの身上、とまで思っていた僕にとっては青天のへきれきだよ。『君たちは本当にネコなのかい?』なんてさ。当事者ひとりひとりに聴きたくなるくらい……って、おぉっ、と。話が横道にそれちゃったね。いけないいけない。
でもって論争に継ぐ論争の果てに、ようやく捻り出したのが『通行証』なんだ。
まぁいってみれば、『苦肉の策』って奴だね」
「おかげでウチらはその恩恵に浴せるってわけにゃ。有り難いことにゃん」
『地中』とはいっても天空の村全域にゃ。ふたりにゃけで探すのはとても無理にゃ話。とどのつまりが、ウチは、ミクリにゃんらのナワバリであるこの周辺を探し回ることに。一方、ミクリにゃんはといえば……、向こうは大変にゃ。考えることのスケールがでかすぎるのにゃ。というのも……、にゃんと、天空の村全域に渡って、ありとあらゆるナワバリの長と交渉。地中ネコ総動員で、ことに当たらせようとしているのにゃもん。
ウチは心配ににゃってきたのにゃん。
「出来るのにゃん? そんにゃこと」
「出来る出来ないじゃないんだ。やれるやれないでもない。やらなくちゃならないのさ」
おおっ、と目を丸くするウチ。にゃんともまぁ勇ましいお言葉にゃ。これぞ、ミクリにゃん、と思うぐらい。妖体の瞳に炎がメラメラと燃え盛っている。『熱血漢』という言葉がお似合いにゃん。
(もうこうにゃったら、いけるところまでいくしかにゃいにゃあ)
「どうにもならないほどの大っきな困難にぶつかって、のたれ死んだとしても本望だよ。
ねっ。そうだろう? ミアン君!」
ぐぐぐっ、と震わせている右前足の拳。これが意志の固さを証明している。
(でもにゃあ。あいづちを迫られてもぉ)
ウチは乙女ネコ。『賛同出来にゃい』との意味を込めて、静かに、そしてゆっくりと頭を横に振ったのにゃ。
「にゃら、ミクリにゃん」
しずしず、とその場を立ち去ろうとしたウチを見て、ミクリにゃんの気勢が一気に殺がれたみたいにゃ。
「うん。あとでまた」
顔も別れ際の言葉も普段の口調に。瞳に宿っていた『メラメラ』も消失。どうやら元に戻ったみたいにゃ。
(ネコにゃから移り気は当然。とはいえ……、ずいぶんとまぁ速いにゃあ)
ミクリにゃんの意気が盛んになるのも消沈するのも、全ては協力者の有無次第、と知った瞬間にゃ。
「連絡したい時は直ぐに霊覚交信にゃよ」
「判っているって」
こうしてウチとミクリにゃんは別々に行動をとることとにゃったのにゃん。
霊覚交信とは霊力と霊覚……霊感覚ともいう……を使う交信手段にゃ。自分の心に念じたことを相手の心に伝えられる。伝送範囲がかぎられているものの、今回の交渉がすんにゃりと決まれば、全ての地中ネコが協力者にゃ。中継してもらうことで村全域に渡っての交信が可能とにゃる。空域、地域、水域のいずれからでも誰かが『見つかったのにゃあ!』と発信してくれれば、それは受信可能にゃ霊体みんにゃに届くのにゃ。伝えてきた相手のところへ行くのもすっごく簡単。発信の霊跡を霊覚で逆に辿れば、あっという間に着けるのにゃ。これらのことを鑑みるにゃらば、『探索において霊覚は必要不可欠にゃもの』との見解に誰しもが落ち着くのは自然の理……にゃろうにゃあ。
ウチらが宝玉探しをやっているのは、ヴィーナスにゃんの『核』を見つけ出したいからに他にゃらにゃい。ヴィーナスにゃんが『天空の村』の孤島そのものに宿っている精霊であることを考えれば、地中がもっとも疑わしいのはいうまでもにゃい。
(ここのどこかに居ても不思議じゃにゃい。ひょっとすると、宝玉を全部見つけにゃくても、ヴィーナスにゃんにお目見え出来るかもしれにゃいにゃあ)
がぜん、緊張気味に。心の動揺を抑えつつも泳ぎ続けるウチの視界に映るは……、
にゃんとも、のんびりとした光景ばかりにゃ。ミクリにゃんの話に依れば、地中ネコの大半がここで、例の『ドロウ』とやらで絵を描いているという。見れば、大っきにゃ四角形の白く光る枠が空間の至るところにあり、手前にはネコの姿が。指を動かすにつれて線が描かれているところから、四角形がキャンパスであることは一目瞭然にゃ。
(……これはあんまりいい出来とはいえにゃいにゃあ。
……おっ、あっちはにゃかにゃかのものにゃ。
……どうにゃろ? こっちは判断がつきにくいのにゃけれども)
いつの間にやら批評家にゃ。気をとられまい、としにゃがらも、絵に依っては魅了されるものにゃってある。ついつい絵の世界に引き込まれてしまうのにゃ。
(まぁにゃからこそ、『芸術』とか呼ばれるのにゃろうけれども)
「第六話の始まりにゃあん!」
ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。
「おめでとう、ミアン。
いつストップしてもおかしくない話をまだやっているなんて。感動モノだわん」
「おめでとう、ミアンちゃん。
なにがおめでたいのかさっぱり判らないけど、とにかくおめでとう」
「ねぇ、ミアン。ミクリんが描いた『動くお魚さん』って食べられるのわん?」
「にゃたらこの時点で、地中ネコとウチの壮絶にゃる闘いが始まっているのにゃんよ」
「ふぅぅん。所詮は仮想のお魚さんでしかない、って、わけわん」
「それなら、ミアンちゃん。これは?」
「ふにゃん! お魚にゃあん!」
「ほぉら。ほぉら。欲しかったら捕まえてごらんなさぁい!」
すぅいすぅいすぅい。
「待て! 待つのにゃん!」
たったったっ!
「イオラったらぁ。お魚さんになってアホネコに追い駆けられているんじゃないわん!
ミアンもミアンだわん。判っている癖に、口を大きく開けて迫るんじゃないわん!」
「ふぅ。ウチとしたことが、まんまと逃げられてしまったのにゃん」
「あっ、本気でやっていたのわん?」
「当ったり前にゃんよ。
ネコがお魚にゃんを追い駆けにゃくって誰が追い駆けるっていうのにゃん?」
「あっ、追っ駆けね。きゃきゃあ、いう奴」
「……多分にゃのにゃけれども、
ミーにゃんが考えているのと、ウチのとは別モノにゃと思うのにゃよ」
「別モノでも構わないわん。ツッコミをするつもりもないしね。……ふぅ」
「おや? 珍しく眉間にシワを寄せたりにゃんかして。にゃにか考えごとにゃん?」
「ほら、お話の中に『ナワバリ』って言葉が出たでしょ?
アレの説明をね。もちょっとお願いしたいわん」
「陸上では妖体同士のナワバリ争いにゃんて見かけにゃいものにゃあ。無理もにゃい。
まぁ『ナワバリ』っていうからには、本当に昔はナワを張ったのかもしれにゃいにゃよ。
ここからここまでが自分らのもの、って、宣言の意味でにゃ」
「あっ、そういうことね。
それじゃあ、ミアンの背中にもナワを張るわん」
「にゃんと!」
「あそこはアタシのものだわん、って……」
ぐるぐるぐる。ぐるぐるぐる。
「ねぇ、イオラ。なんでアタシにおナワを?」
「ウチもにゃ。にゃんで?」
「うふっ。ふたりとも、ワタシのものだもの」




