第五話『ミクリにゃんとの出逢いにゃん!』のその①
第五話『ミクリにゃんとの出逢いにゃん!』のその①
暑い陽射しの昼下がり。いつものようにウチは寝ぼけまなこで歩いていたのにゃ。でもって、いつも通りの道を歩いているつもりにゃった。ところがにゃ。気がつけば川べり沿いにゃ。『戻らにゃければ』と思ったもののにゃ。今一つ意識がはっきりとしにゃい。心と身体がばらばら、といっていい状態にゃん。
(どれ、足を)
「ちょっと待ったぁ! ダメだぁ。動いちゃいけないよぉ!」
にゃんか注意された気が。でも時既に遅し。後ずさりするつもりが、前に踏み出してしまったのにゃん。
「うわんにゃあああ!」
いつの間にか小川と繋がっている沼の縁に立っていたのにゃ。土が柔らかくにゃっていたのにゃろう。ずるっ、と滑ってそのまま、どっぼぉん!
沈む。どんどん沈む。面白いくらいにゃ。墜ちた瞬間、実体波が解除されたのにゃろう。霊体とにゃった身体にはぶつかるものもにゃく、沼底すらも通過してしまう。
(帰れるのにゃろうか)
今のウチには待ってくれる者がいる。ミーにゃんの顔が浮かぶ。イオラにゃんの顔が浮かぶ。
(いや、帰るのにゃ! 絶対!)
意志の力で降下がとまる。ほっとする間もにゃく、周りを見回してみたのにゃ。どこもかしくも土砂や岩で埋まっている。右も左も上も下も判別出来にゃいありさま。
(どうすればいいのにゃろう)
「助けて欲しいのにゃん!」と叫ぼうとしたその時。
「やぁ」
直ぐ目の前辺りから声が聞こえてきたのにゃん。
「見かけたことのない顔だね、君は」
(はて?)
「誰にゃん? どうして姿が見えにゃいのにゃん?」
「えっ。……そうか、君はここに来たことがないんだね。
判った。それじゃあ霊視を強めたまま、しばらく、ずうぅっ、と遠くを見つめるような状態でいてごらん。最初はぼんやり、だけど、だんだん、くっきりと見えてくるから」
「霊視を、とはにゃあ」
にゃにしろ初めてのことにゃ。緊張しにゃがらも相手のいう通りにしてみたのにゃ。
「ずうぅっ、と、ずうぅっ、と……おっ、にゃんか見えてきたのにゃあ」
思ったよりも早く、周囲を見渡せるようににゃる。もちろん、話しかけている相手も。
(ネコ? ……にしても変わっているにゃあ)
真正面から見たところ、右側の身体半分……顔も含めてにゃ……が赤、左側が青の毛並みとにゃっている。
向こうもウチが見えるようににゃったのが判ったみたいにゃ。
「初めまして。ふふっ。大変な目に遭ったみたいだね。ご愁傷様」
妙に馴れ馴れしい感じにゃ。でもにゃ。困っていたから、返って嬉しかったのにゃん。
「ところで、と。ねぇ、君。どうしてこんな異界へ?」
「夢と現実を行ったり来たりしていたらにゃ。ここに辿り着いたのにゃん」
「ふふっ。寝ぼけて沼の縁から墜ちちゃったって、はっきりいいなよ」
(ふにゃ。見られていたのにゃん)
ズバリ、と指摘されてしまい、もう心は、たじたじ、にゃん。それでも、『ここは乙女のプライド』と、にゃんとか踏ん張ったのにゃ。まさに感動ものにゃん。
「そうともいうにゃん」
澄ました顔でそう告げたのにゃ。そしたら、目の前のネコは失礼千万にもにゃ。ウチの顔を、ちらちら、と覗いては、『くっくっくっ』と吹き出したのにゃん。いかにも『笑いがとまらにゃい』といった感じにゃ。でもって、やっとのことで口にした言葉もにゃ。
「慌てふためく感じでさ。君が頭の先から真っ逆さまに沼の中へと墜ちたのをじっくりと見せてもらったよ。はっはっはっ。いやあ、近年まれにみる、なかなか面白い光景だったなぁ。くっくっくっ。はっはっはっ」
想い出し笑いにゃ。当然、文句の一つもいいたくはにゃろうというもの。
「見ていたのにゃら、とめてくれても」
間違いにゃくウチは、ぶぅっ、と脹れっ面をしていたのに違いにゃい。
「はっはっはっ。ごめんごめん。
でもね。君が遊びでわざとやっているのか、それとも、本当に事故なのか、ボクには判らなかったんだよ。一応、声はかけてみたけどね」
「そういえば……聞いた気がするにゃあ」
「だろう? だけど君は墜ちちゃった。助けようかなぁ、放っておこうかなぁ、どうしようかなぁ、って迷っている間に君はここへ来ちゃった。まぁそんなところだね」
(悪気は一切、感じられにゃい。とにゃると……。
ずいぶんと、のんびり屋さん、ってわけにゃん)
ウチは洞察眼でそう……、ええと、洞察眼じゃにゃかったっけ? まぁいいにゃん。とにもかくにもにゃ。看破したのにゃん。まっ、性格からくるものを、あれこれ、と非難するのも詮にゃきことにゃのにゃけれども……。
「にゃら、ウチを見たのは偶然にゃの?」
「そうでもないよ」「というと?」
「君、いや、いつまでもこの呼び方はやめよう。
ねぇ、出来れば君の名前を教えてくれないかなぁ?」
「ふにゃ? まにゃいってにゃかったっけ?」
「のはずだよ」
「それはそれは」
今は、ぷわっ、と浮かんにゃまま。それでも、初めてのご挨拶にゃらばと、相手を真正面にウチは前足と後ろ足の左右それぞれを揃えて屈し、頭を下げたのにゃ。
「ウチはミアンというものにゃ。どうかお見知り置きを、にゃん」
「えっ!」
いきにゃり礼儀正しくしたせいにゃろう。ちょっと驚いた、といわんばかりの心の動きが相手の顔や声から見てとれたのにゃ。元々、律義にゃ性格にゃのかもしれにゃい。『自分もやらねば』と思ったようにゃ。おふざけからマジメにゃ態度へと一転、ウチと同じ姿勢をとったのにゃん。
「ええと……、ボクこそ、お見知り置きを、だね。
さっきからの無作法を詫びるよ。初対面なのに自分のことをなにも喋らず、あれやこれやと話をして、オマケに君を笑いものにしちゃったんだから。本当、済まなかったね」
言葉からも相手に対する心遣いをすっごく感じるのにゃ。出逢った最初の、つき合いにくいようにゃ印象は薄れ、むしろ、親しみやすいネコ柄と思えてきたのにゃん。
ぴかぁっ。
「ふにゃん!」
『眩しい』というほどではにゃいのにゃけれども、突然、相手の身体が美しい煌きを魅せたのにゃん。
「ああ、ごめん。地中では誰もが、こんな風に輝き出すんだ。
とはいってもね。意識的にやっているんじゃなくて、自然とそうなっちゃうのさ。
多分だけど、君もなるんじゃないかな」
「ウチも?」
「まぁほんのわずかな間だけどねぇ。……にしても、どうだい?
赤青二色と境目にわずかに生まれた紫と。三色の輝きが奏でるこの姿は?」
「三色にゃと? ……おっ、本当にゃん」
今の今まで二色と思っていたのにゃけれども、良ぉく見れば、確かに赤と青の間には紫の筋が走っているのにゃ。
「ふふっ。思わず見惚れちゃうだろう? 自分でも惚れ惚れしちゃう姿なんだ」
自己陶酔の感。でもにゃ。悔しいことにウチの目からしても確かに美しいのにゃん。
(まっ、ウチほどではにゃいにしてもにゃ。ふん!)
「待ちに待った第五話だわぁぁん!
……って、誰も居ない。どこへ行ったわん?」
きょろきょろきょろ。
「なぁんだ。等身大表示鏡に居るわん。どれどれ」
ぱたぱたぱた。
惚れ惚れぇ。惚れ惚れぇ。
「美しいにゃあ。どうしてウチはこんにゃに美しいのにゃろう。ふぅ」
「そうね。どうしてワタシってこんなに魅力的なのかしら。ふぅ」
「きっと、心の清らかさが身体から滲み出ているのにゃん」
「きっと、長い年月の間に培われた究極の魅惑なのね」
「ふぅ。美しすぎて、にゃんとも罪造りにゃ姿にゃん」
「ふぅ。魅力的すぎて、なんて罪造りな姿なのかしら」
うっとり。うっとり。
「アホネコの親友が自分の身体を見ながら、ため息をついているわん。
おまけに創造主までもが便乗しているわん。
それにしたって……、どうしてミアンのノリに、イオラは直ぐ乗っかっちゃうのかなぁ。
造り子のアタシを差し置いて……って、
ひょっとして、アタシ、ひがんでいるのかな?
まぁいいわん。それよりも、っと。
ふたりの目を覚ます為にも、ここは一つ、きっちりと真実を語ってあげるべきだわん」
ぱたぱたぱた。
「あのねぇ。……おや?」
じとぉ。
「うおっ! 鏡に映るこのお姿は! アタシもなかなか」
「ふぅ。ミーにゃんが並んにゃ途端、今一つの光景とにゃってしまったのにゃん」
「ふぅ。ミーナちゃんが並んだ途端、今一つの光景になってしまったわ」
「これは真実を映し出す『鏡』。とはいえ、にゃんとも残酷にゃ話にゃん」
「これは真実を映し出す『鏡』。とはいえ、なんとも残酷な話ね」
「親友のウチとしてはにゃ。とても告げる気にはにゃれにゃいにゃあ」
「創造主のワタシとしてもねぇ。とても告げる気にはなれないわぁ」
「しょうがにゃい。ここは一つ、口を噤んでいようにゃん」
「しょうがないわね。ここは一つ、口を噤んでいようかしら」
ぽっ。
「や、やかましいわん!」




