第四話『地中ネコへ愛を込めて、にゃのにゃん!』のその②
第四話『地中ネコへ愛を込めて、にゃのにゃん!』のその②
来てしまった土と砂と岩の空間。後悔の念が頭をもたげる。どうにかにゃらにゃかったのかと嘆くウチの心に声が届いたのにゃ。
「ようこそ、地中の世界へ」
霊覚交信。聞き慣れた声にゃ。正確には、心に伝わった『気配』に覚えがある、といったところかも。
「ミクリにゃん……。どこに居るのにゃん?」
「ははは。そばに居るよ」
「んにゃことをいったって。周りは地層ばっかりにゃよぉ」
「おや、忘れたのかい。しょうがないなぁ。
ほら、遠くを見るような感じで霊視を強めてごらんよ」
「そういえば前にも……、おっ。ミクリにゃんの身体がおぼろげに見えてきたのにゃ」
「それでいいんだ。
さぁ肩から力を抜いて、そのままの状態を、ずぅっ、と保ち続けてみてよ」
「力を抜いて、ずうっと……。ぶふふっ。見えてきた。見えてきたのにゃん」
ウチの視野がどんどん拡がっていく。気がつけば、心落ち着けるぐらいの広さにゃ。とはいってもにゃ。どこもかしくも地層の絵が見渡せるのみ。地中に巨大な穴が、ぽっかり、と開けられ、その中に自分が居るといった気分にゃ。
「にゃんともまぁ地味にゃ風景にゃ」
頭をぐるぐると回してみても、景色はにゃんら変わらじ。視界は広がっても、『閉じた空間』に身を置いているようにゃ気がしてにゃらにゃい。
(それでかぁ。にゃあるほどにゃあ)
にゃんとにゃくミムカにゃんの気持ちが判ったようにゃ気がしたのにゃ。
(好き嫌いはある……かぁ。そうかもしれにゃいにゃあ)
「ふふふ。目が慣れたみたいだね。それじゃあ、取り敢えず下りようか」
今はぷかぷかと浮かんでいる状態。ウチはミクリにゃんに促されるまま、一緒に地中空間の底へと降り立ったのにゃ。
「ここから下はにゃいのにゃん?」
ウチが尋ねるも、やれやれ、といった表情のミクリにゃん。
「君が初めてここに来た時もいったとは思うけどね。地中は地の妖精が線を引いたナワバリだらけなんだ。自分たちのナワバリ以外は行きどまりになっているってわけさ」
いわれてみれば聞いた気がする。でもにゃ。ウチとて乙女。恥じらいを押し隠して弁解を試みたのにゃ。
「あれからだいぶご無沙汰しているのにゃよ。そもそもネコににゃ、『覚えているか?』にゃんて言葉は禁句にゃ。毎日のことにゃらいざ知らず、たったの一回にゃろう? 『来たことがあるかも』程度でも記憶に残っているのにゃら、『ばんばんにゃい』ぐらいには思ってもらわにゃいと」
「それもそうだね。ボクにとっては棲み家だから、つい。悪かったね」
ミクリにゃんがあっさりと謝ったのにゃ。言葉って素晴らしい。使い方次第では強力にゃ武器ににゃると痛烈に実感にゃん。
(ぶふふっ)
内心ほくそ笑みにゃがらも、にゃに食わぬ顔のウチ。
「まぁいいにゃん。……ということはにゃ。今、見えている範囲が」
「そう。ボクたちのナワバリだよ。とはいっても、隅から隅まで泳げばかなりの広さだけどね」
「とてもそうは思えにゃいにゃあ。にゃって、ここからでも全体を見渡せるじゃにゃいの。宝玉にゃってありそうもにゃいしぃ」
「全部見えているような気がしているんだろう? ところがどっこい。実際は違うよ。ここに立っているだけじゃ、一望は出来ないのさ。視野の範囲がかぎられていてね。ボクたちの動きに合わせてずれていくんだ」
「ということはにゃ。端から端まで泳ぐ必要があるのにゃん?」
「そうだよ。近づいてみても、地層が実際の壁みたいくっきりとしていたら、そこが本当の端っこ。その先へと飛び込もうとしてもね。真後ろの一番向こう、飛び込もうとするのとは正反対側に位置する端っこから出てくるだけ。ナワバリから外には出られないのさ」
「ずいぶんとまぁ不思議にゃ空間にゃん」
「そうそう。あとね。ナワバリの中には家だってちゃんとあるんだよ」
「家も?」
きょろきょろ。きょろきょろ。
「一体どこにゃん? にゃにゃっ広い空間にしか思えにゃいのにゃけれども」
「隠しポケットになっているんだよ。ナワバリもそうだけど、地中って、至るところ結界だらけの空間なんだ。『ここまでプライバシーを守らなくても』って呆れるぐらいにね。
うぅんと近づけば、ドアの形をした黄色い線の切込みが見えてくる。そのまま泳いでいけばなにもないかの如く通り抜けちゃうけど、『居ますかぁ』なんて声をかければ開けてくれる。入ればそこは家の中。この空間にぶら下がっている閉空間の一つへと移ったことになるんだ。
とまぁざっと話せば、そんなところだけどね。判ったかい? ミアン君」
「にゃあんか……判るようで判らにゃいのにゃあ。
前もそんにゃ説明をしてくれたっけ?」
「いや。あの時は直ぐに帰ったよ。ずぅっと不安そうな顔もしていたしね」
「まぁにゃ。ここに来たのは事故みたいにゃものにゃったから。でも今回は……」
(そういえば、ここに来たのって)
ウチは想い出したのにゃ。にゃもんで幾らか語気を強めたのにゃ。
「にゃあ、ミクリにゃん。ちょっと聴きたいことがあるのにゃけれども」
「なんだい? あらたまって」
「ミクリにゃんにゃろう? ウチをここへ引きずり込んにゃのって」
「そうだよ。ずいぶんと来るのが遅いから、ボクのほうで案内してあげようと思ってさ。それで霊糸を」
(これ以上の説明は要らにゃい!)
ウチの怒りが拳に届く。
「にゃにをするのにゃん!」
ぐさっ!
いつものへらへらとしたネコの顔にウチの必殺技、ストレートパンチが突き刺さる!
「どうしてぇ……」
さっぱり判らにゃいといわんばかりの呆然とした顔がにゃんとも面白い。スローモーションを見るかの如く、ふわっ、と、ゆっくり浮き上がって仰向けの状態で後ろへと倒れていく。敗者を象徴するこの姿を見る度に、『強いのは罪にゃん』と後悔の念を浮かべてしまうウチは心優しきネコ。ところがにゃ。それは束の間の優越感でしかにゃかったのにゃ。
「にゃ、にゃんと!」
地の底へ叩きつけられるかと思いきや、ミクリにゃんは、くるっ、と後方反転宙返り。身体を捻らせてこちらに頭を向けたと思う間もにゃく、後ろ足二つから煙のようにゃ白い泡の筋を放ちにゃがら、ごおぉぉっ、と、ものすっごい勢いで泳いできたのにゃ。
「こんなことをするんだよぉ!」
継いで出た言葉ともに握られた右の前足。反撃の狼煙とも見てとれるのにゃ。
(向こうが悪いのにどうしてにゃ?)
ウチとしてはここへ引きずり込まれたことに対する仕返しのつもりにゃった。『これでお互い様、一件落着』と思っていたのにゃ。それにゃのに。
理由は判らにゃいのにゃけれども、売られた喧嘩は当然、買わねばにゃらにゃい。『平和主義者にゃから』にゃどと甘えてはいられにゃい。ウチも負けじとばかり、同じ格好で相手へと向かうのみ。
「悪いのはあんたにゃあぁぁ!」
二つの拳が今、交差する!
ぶぐっ! ばぐっ!
ウチとミクリにゃんが同時に繰り出したパンチ。奇しくもそれぞれの相手に対するクロスカウンターパンチとにゃる。
ぐわん。
(さっきのミクリにゃんとおんにゃじにゃ)
ウチは吹っ飛ばされ、後ろへと仰向けに倒れていく。惜しいかにゃ。目では確認出来にゃいのにゃけれども、多分、向こうもにゃん。
(でもにゃんでにゃろう? ミクリにゃんとは闘ってばっかりにゃ)
そして……ウチは夢の中へ。
「ねぇ、ミアン。売られた喧嘩って、ミアンが最初に殴ったんでしょ?」
「ウチのは引きずり込まれたことへのお返しにゃん。いわば、あれで振り出しに戻ったのにゃ。にゃもんで、それ以降に殴りかかってくるのであれば、売られた、で正解にゃん」
「でもさ。そもそも引きずり込んだのって……、
どうしたの? イオラ。アタシの肩に手を乗せたりして」
「あの件に関しては不問にしてあげて」
「どうしてわん?」
「ねぇ、ミーナちゃん。良ぉく聴いて頂戴」
「えっ。あっ、はい」
「霊体ではあってもね。生きている間には、悲しくって悲しくってたまらないってことが、一度や二度は必ずあるものなのよ。
たとえば……、そう。自分にとって大切この上もない誰かを失った時とかね」
「はぁ」
「愕然として、涙がとまらなくなって、何日も何日も泣き明かしたりして。
狂おしいほどの嘆きの中、『自分も死んでしまいたい。死んで彼と一緒に』なんて、おのれの命、生すらも、捨てるような考えが頭に浮かぶようになるの」
「はぁ」
「実際にそうなってしまう者もいるわ。でもね。大概は立ち直るの。どうしてか判る?」
「ううん」
「どんなに悲しかろうが、どんなに嘆こうが喚こうが、日が経つにつれて、その意識は次第に薄らいでいくの。。
もちろん、『大切なものを失った』という事実と思いは消えやしない。
でもね。嘆きは、……ゆっくりと、ではあるものの、収束していく。
どうしてか、判る?
どうして悲しみから立ち直れるのか? 再び前に進もうという気持ちになれるのか?
それはね。……忘れることが出来るからなの。『忘れる』という大切な能力がワタシたちに備わっているからなのよ。
いぃい? ミーナちゃん。
『忘れる』ことは決して薄情じゃない。冷たいことじゃない。恥ずかしいことじゃない。
明日へと向かって歩き始めるのに必要不可欠な力だってことを覚えていて欲しいの」
「なぁんか感動っぽい話だけど……、
まっ。『忘れる』全部がいけないわけじゃないってことは理解したわん」
「良かったわぁ」
「でもさぁ。時と場合に依っては、誰かに迷惑をかけることもあるだろうし、自分に都合良いことは覚えていて、悪いことは忘れる っていうのも困るわん」
「ミアンちゃんはいいでしょ? ネコだし、沼の中でひとりっぽっちになったのだもの。忘れても、というか、記憶があやふやになったとしてもよ。無理もないわ。それなのに責めるのは酷というものじゃないかしら。
ミアンちゃんは、あなたの親友。家族でしょ? 判ってあげなさいな」
「そこまでいわれたら、もう、なにもいえないわん。
うん。イオラのいう通りだと思うわん」
「ワタシだって同じよ」
「えっ。イオラがなんなの?」
「なにか『忘れる』ことがあったとしてもね。それは許されると思うの。
なにせ、何万年も」
「なぁるほどね。この前の話題を今の今まで、ずうっ、と引きずっていたんだ。
うん。イオラもOKだわん」
「良かったわ。それじゃあ……。
ほら、ミアンちゃんの話が続いているわよ。
こっちも振り出しに戻ったつもりで、聴いてあげましょうね」
「それもそうわん」
「んもう。今回のウチはさんざんにゃん。結界にゃらけのわけの判らにゃいところへ連れていかれて、わけの判らにゃい説明を聴かされて、仕返しのつもりで殴ったら、殴り返されそうににゃって、とどのつまりが、クロスカウンター。もう泣くに泣けにゃいにゃん」
「まぁそれもこれも主人公だからよ。しょうがないわん」
「そうね。主人公が弄られるのって、ある意味、定番かしら」
「……にゃあ、ミーにゃん。イオラにゃん。
ひょっとして、それって、やっかみにゃん?」
「ふぅぅん、だわん」
「ふぅぅん、かしら」
「冷たい反応にゃん。あっ、そうそう。
いうのを忘れていたのにゃけれども、第四話はこれで終わりにゃんよ」
「ええっ! もぉう? 早すぎるわん!」
「ミーナちゃん、スネている場合じゃなくってよ」
「ええと、ええと、イオラ。なんかしないと」
「そ、そうね。じゃあ、じゃあ、『しりとり』でも」
「ならアタシから始めるわん。『し』だから、ええと……『試験』!」
「ミーナちゃん。ダメダメ。終わりが『ん』だと終わってしまうわよ」
「ええっ! ど、どうするわん!」
「お、落ち着いて落ち着いて。落ち着けば、こ、こんなの、ら、楽勝よ。
ええと……ええと……そうだわっ!
『思案』……もダメ。大体、考えるのは好きじゃないしぃ。
『試飲』……は好きだけど、これもダメ。
『支援』……はダメな上、面倒だしぃ。
ああ、どれもこれもダメだわ。焦れば焦るほど、どつぼにはまっていくぅっ!
ど、どうしたらいいのかしら」
「イ、イオラもダメなんて。も、もう、どうしたらいいわぁん!」
じたばたじたばた。じたばたじたばた。
「はっ! そういえばワタシたちには……。
ねぇ、ミアンちゃん。主人公さまぁ!」
「そうそう。アタシたちにはミアンが居たわん。
今こそ、主人公さまの力をアタシたちに思い知らせて欲しいわん。
さぁ、ミアン。主人公さまぁ!」
『迷える子羊に愛の手をぉ!』
「熱い反応にゃん。急に盛り上がったにゃあ」
「で? ミアンなら、なんの『し』で始めるわん?」
「聴くまでもにゃい。当然、『主人公』にゃよ」
「うわぉっ! ミアンが神々しく見えるわぁん!」
「さぁっすがはミアンちゃん!」
「にゃん!」




