レース発走!
発走の時刻、スタート前、各馬が輪乗りをしている様子がテレビに映っている
てんと源三がソファに、社長はその後ろの自分の席にすわって観戦する
クーゲルセーラが一番人気で2.3倍、キタマクラは7番人気で20倍近いオッズ
社長が机の引き出しからウイスキーの小瓶を取り出しゴクリと飲む
「な! テレビでもクーゲル完璧って言ってんじゃねぇか、もう1着は確実だな」
てんと源三は社長にかまわずひそひそと話し合う
「来れば200万近くなるぜ」
「ホント! 楽しみー」
「ああ、つまんねぇレースが俄然面白くなったぜ」
無視されて社長がふてくされる
「おいおい、おまえら…無視かよ…」
後ろでつぶやくがてんと源三はおかまいなし
(まあいい、とにかくクーゲルが1着にくればいいんだ、こいつらもおれの言いなりにさせやすくなるし…大丈夫だ、かならず来る)
「お! いよいよ始まるぞ」
「とりあえず、うまく逃げれるか…だねっ」
3人がテレビを凝視する
各馬がゲートにおさまる、スタート!歓声とともに実況の声が部屋中に響く
―スタートしました! ほぼきれいなスタート、さぁなにが行くか、内からすっとキタマクラが飛び出した、キタマクラ先頭!
「おっし!」
源三が両手をぎゅっと握りしめる、てんも小さくうなずく、社長はウイスキーをちび りと飲み余裕の笑みを浮かべる
―人気のクーゲルセーラは中団に、そしてその前後にクーゲルをマークするように上位 人気馬がつける
「よし! ほとんどの馬がクーゲルをマークしているぞ、逃げの残るパターンだな」
源三が興奮気味にてんに話かける
「うん…でも、自分の競馬をしてるのがいる…」
「…あ? キタマクラだろ…」
「うん、それともう1頭…」
「あ! 最後方の…あいつか!」
―先頭、キタマクラでほぼ団子状態、あ…最後方にポツンと1頭、あれは…テッチリダ イオーだ!さあ第3コーナーを回って直線に入る!
「おっし! いけークーゲル!」
社長が立ち上がり少し酔っぱらった声で叫ぶ
―先頭はキタマクラ、人気のクーゲルは中団の外に進路をとった! さぁここから伸び てくる、え? いや、伸びてこない! 失速! クーゲル失速! 後ろに下がるぞ!
「えーうっそー!」
社長が一昔前の女子高生のように叫ぶ
「なんで!おいおいなんで? なんで下がってんだよー、おかしいぜ? おかしいって!」
「うるさい!だまれ!」
てんが一喝、社長がくずれるようにいすに座り込む
―先頭キタマクラ逃げる逃げる!後ろはこない! いや、大外から1頭飛んでくる、テ ッチリダイオーだ!
こんどはてんが立ち上がる、テレビを指さし叫ぶ
「いっけぇー!」
―キタマクラ逃げる! テッチリがせまる! 2頭が並んだ並んだ! ゴール!
「どっちだ…」
場内がざわめく、人気のクーゲルが負けたこと、人気のない2頭の大接戦、そして、 ゴール前のVTRが映し出される
「… これは…残ってる!」
VTRには首を上げたキタマクラのハナが先にゴール前を通過しているのがはっきり 写っていた
場内の大歓声が響く
―わずかにキタマクラ!キタマクラ1着!わずかにハナ差、ハナ差残ったー!
「いやったー!」
「おーし!」
てんと源三が手を取り合って喜ぶ
その後ろで社長が燃え尽きたようにぐったりと座っていた




