買い目変更 逃げ馬 キタマクラ
日曜日、レース当日
事務所に3人が集まる
パドックを見て最終決定をするためテレビの前のソファにてんと源三が座る、その後ろで社長がにんまりしながら頭の中で楽しい妄想を広げていた
…今回50万を100万にする、次はその倍、さらに倍、1000万くらいにはなるかなー?
ま、こいつらには10万もやってるんだし、いやとは言えまい、それにしてもすごい2人を見つけたもんだ な…
てんと源三はぼんやりテレビを見つめていた
1着が決まっているレース、はっきりいって面白味はない
てんは頬杖をつき、けだるそうにテレビを見つめる、源三も足を組んでたばこをくゆ らせる
テレビではパドックの様子が映し出される
やがてクーゲルセーラが現れる
ピカピカの毛づや、がっしりとした馬体、太くもなく細くもない理想的な体型
「あいかわらずいい馬体だな」
源三がためいきまじりに煙をふかす
「ホント…文句なしだね、どうしようもないや、決まりだね?」
「ああ…」
2人が最終決定を下そうとする、その時、一瞬、テレビの画面に…なにかが見えた、写 った!
「あ!」
「お?」
てんと源三が同時に叫ぶ、お互いに顔を見つめあわす
「これって…あれよね…」
「ああ…あれだ…」
「やばいよね…」
「…ああ」
「社長!」
源三が後ろの社長を振り返る
「このレース、やめだ!クーゲルはまずい、また今度、別のレースにしよう」
「ああー!えー?」
頭の中で大金を手にする妄想をふくらませていた社長がそのことばで目を覚ます
「おいおい、冗談じゃねぇぞ!どういうこった?」
立ち上がり社長が叫ぶ
「だから、クーゲルはやばい、1着はおろか連にもこないかもしんねぇ」
「ふざけんなよ、テレビでも新聞でも完璧って言ってるじゃねえか!」
「いや…だから…」
「ははーわかったぞ、おまえらおれをおとしめようとしてんだろ! 1着にこないって言ってやめさせて実は1着になる、はいー残念…てか?予想くらい自分ですればーって
ばかにするつもりだろ!」
「おいおい社長…」
「どうも最初からおかしいと思ったんだ、おまえら2人知り合いみたいだしな…よし、こうなったら買ってやる、クーゲルセーラの単勝に50万だー!」
社長が携帯を取り出し馬券を買い始める
「社長さーん、お金なくなっちゃうよぅ」
「うるさい!買うと言ったら買うんだ!」
てんのことばにも耳を貸さず社長が携帯を操作して馬券を買う
「社長、言っとくがおれらはやめようと言ったんだ、はずれても10万は返さねぇからな」
「うるさーい! 好きにしろ!」
「あーあ」
2人が社長のエキサイトにあきれ返る、もう好きにしろとテレビに向き直る
テレビはパドックが終わりCMになっている
その時、ふと源三がつぶやいた
「待てよ…じゃあこのレースなにが1着にくるんだ?」
「え?」
再び2人がみつめあう
てんが側にあった競馬新聞を見る、源三も覗き込む
「2番人気の馬は?」
「…だめだ、弱い、とても1着にはなれねぇ」
「じゃ…次は?」
「昇級したての馬だ、あてにならねぇ」
「と…なると…」
「逃げ馬の前残り!」
2人が同時に叫ぶ
「逃げ馬はどれだ!」
「えーと、えーと、あっ! いた! 3枠5番 キタマクラ!」
「キ…キタマクラ…」
つぶやくと同時に源三が携帯を取り出し馬券を買いはじめる
てんも携帯で小笠原に連絡する
「もしもし、先生? あのね、買い目変更、3枠5番 キタマクラの単勝に10万!」
(はぁ? キタマクラ? なんだその不吉な名前の馬は! だいたい今回は固く行くじゃないのか?)
電話の向こうで小笠原が叫ぶ
「いーから、買って! もし買わなかったら先生に払ってもらうからねっ!」
(わ…わかったよう…でもな…)
プチッ!
てんが電話を切る
そして、いよいよレースの発走時刻がやってきた




