第三話 愛しているから婚約破棄をした
「あーし、あんたの知ってるニアじゃないから。そゆことでよろしく〜」
次の日。
あーしはリーンに言った通り、ボンクラ王子の部屋に突撃していた。
「なるほど。様子がおかしいと思ったが、そういうことか」
「あれ? あんたも疑わない感じ?」
「そのことは、リーンにも伝えてあるんだろう?」
「もち。昨日伝えたんだけど、秒で納得された」
「なら疑う余地もないよ」
……どゆこと?
「なんで信じられるのか、という顔をしているね」
「げっ、なんでわかったし」
「キミはとてもわかりやすいから」
……解せぬ。
でもこのボンクラ、昨日となんか違う気がするなぁ。
「あんさ、そもそもなんでニアに惹かれたの?」
「うん? 急になんの話をしているんだい?」
「ニアのことが好きになったから、リーンとの婚約破棄したんしょ?」
あーしの問いに、ボンクラは意味がわからないという顔をした。
「いいや、僕はリーンを心から愛しているから婚約を破棄したんだ」
「……いや何言うてるかわからん」
*
「つまり何? あんたはリーンのことが好きなの?」
「そうだね、その理解で合っているよ。ところで、僕の名をキミは知っているかな?」
「しるべくたー?」
「……シルヴェスター・ディレクティオさ。改めてよろしく」
「あーしは、ニアだよね?」
「あぁ。キミはニア・イコールだよ」
ニアイコール?
なんか聞いたことある気がするけど、気のせいか!
「そんで? 愛してるのに婚約破棄したの?」
「いいや、愛しているから婚約破棄をしたんだ」
「はい? 愛してるなら結婚したくないの?」
「もちろん、結婚したいよ」
頭が痛くなってきた……。
何言ってんだこいつ。
「でもね、彼女がそれを望んでいないことはわかっているから……」
あぁ、なるほど。
でも、リーンはシルベクター? が好き。
んで、シルベクターもリーンが好きなんしょ?
じゃあ、話し合えばいいんじゃないの?
「あのさ、リーンがなんで望んでないと思うわけ?」
「……聞いたんだよ。彼女の護衛騎士であるタイガと、親しげに街を歩いていたと」
「噂で聞いただけっしょ? 本人にちゃんと確認したの?」
「聞けるわけないだろう!? それで、『わたくし、シルヴェスター様よりタイガとの婚姻を望んでおりますの』なんて言われたらどうするんだい!?」
いや、知らねーよ。
つーか、ちゃんと話し合えば済むんじゃねぇのこれ……。
「いやさ、リーンはシルベクター……って長いな!! シルでいい?」
「いや、シルはちょっと……」
「リーンはさ、シルのことをお慕いしてるって言ってたけど?」
「……リーンが、僕のことを慕ってる!?」
あーしの言葉が衝撃的だったのか、シルが大声を上げる。
「うん、リーンがそう言ってたよ! だからわが——」
「いや、リーンが僕を慕っているはずがないんだ!! 僕がリーンを苦しませてるんだ!! だからそうやって無理に思い込もうとしているんだ!!」
——いや、なんでそこネガティブなん?
*
「落ち着いた?」
「あぁ、情けない姿を見せて申し訳ない……」
「いや、別に気にしないけどさ」
あのあと数十分、リーンは優しいから思い込もうとしているだの、聖女だからそう納得しようとしてるだの、うるさかった。
「つまり、婚約破棄したのはリーンのためってこと?」
「そうだよ。王太子と聖女の婚姻は絶対なんだ。だから、僕一人の意見では決められない。そんな時に、彼女が馬車に火をつけてね……」
「教材隠したり、ドレス汚したりもしてたみたいよ?」
「彼女は聖女だ。国宝なんだよ? その程度じゃあ、国は動かない。だが、放火となれば話は別さ。命を救う聖女が、命を奪うような行為をしたんだからね……」
なるほど。
リーンを解放するために、リーンの悪事を利用したのか。
うん……? でもそれってなんも解決してなくね……?
両想いなのに、すれ違ってるじゃん!
「あのさ、一回リーンと話したら?」
「何を話すんだい?」
「結婚について」
「お断りされるに決まってるだろう!?」
「いや、聖女と王太子の婚姻は絶対なんだからお断りされねーだろ!!」
やっぱりボンクラじゃねーかよ!!
「それが僕は嫌なんだよ……。制度として、決められたものなのはわかっている。でも、僕はリーンには本当に好きな人と結ばれて欲しいんだ……」
「……そんなに好きなの? リーンのこと」
「あぁ。愛している。僕は彼女を心から愛しているんだ。でもリーンは、タイガとの未来を望んでいる。なら、それに応えてあげるのが僕の愛なんだ……」
最高にすれ違ってて、最高に意味不明なんだが……。
「シルの言い分はわかった。だから次はさ、ちゃんとリーンの言葉聞いてあげなよ」
「無理だよ……。面と向かって、『婚約破棄してくださって助かりましたわ!』なんて言われた日には……」
「いやそんな子じゃないって、あんたが一番わかってんじゃないの?」
「それは、そうだが……」
こいつ、昨日とは別人じゃね?
あんな堂々としてたのに、本性はこれなのか……。
「とりあえず、一度リーンと話そ?」
「公衆の面前であんなことをした僕に会ってくれるかどうか……」
「大丈夫! 絶対あーしが連れてくるから!!」
——想い合ってんだから、話し合えばわかり合えるっしょ!
すれ違ってるだけなんだかんねー。
めんどうな男だ。




