第二話 聖女様は結婚したくない
「婚約破棄されたかった……?」
「はい、婚約破棄していただきたかったのです」
「いや全然わからん……」
そんなガールズトークを繰り広げていると、ボンクラが話に混ざってきた。
「話しているところ申し訳ないのだが——」
「うるっさい!! 申し訳ないと思うなら入ってくるな!!」
「いや、これでは話が進まないだろう?」
「あー、もうわかった!! あーしがこの子……リーンだっけ? リーンから話聞くから部屋貸して!」
こんな大勢に囲まれてたら、話したくても話せないじゃん!!
本当に気が利かない、それでも王子なんですか!?
「いや、しかし……」
「なに? 貸せない理由でもあんの?」
「……わかった、向こうの部屋を使ってくれ」
「うい、あんがとー」
ボンクラ王子との話を早々に切り上げ、リーンの手を取る。
「行こ、あっちで話そ!」
「ですが……」
「ここでは言いにくいこと、あんじゃないの?」
そう言うと、リーンがふいと目を逸らした。
——やっぱり、なんかあんじゃん。
「ほら、行くよ!」
「あっ……ニア様!!」
強引にリーンの手を引くと、あーしは貸してもらった部屋へと向かう。
途中、ジロジロとこちらを見てくる奴らにガンを飛ばしながら、人目のつかないその部屋への扉を開けた。
*
「そんでー? なんで婚約破棄されたかったん?」
用意してもらったクッキーを口に運びながら問う。
「ちょ、なにこれ!? うまっ!!」
「喜んでいただけて嬉しいです、そちらわたくしの手作りでして……」
「まじで!? すごいねあんた!! いい奥さんになれんじゃん!」
あーしのその言葉で、リーンの顔が曇った気がした。
「なに? 結婚したくないわけ?」
「そういうわけでは、ないのですが……」
「あー、わかった! あのボンクラとは結婚したくないわけだ!」
その気持ちに納得し、指をパチンと鳴らす。
たしかになー、嫌だよなーあんな男。
王子だからいい暮らしできそうだけど、婚約者いながら他の女に手ぇ出すような男っしょ?
そんなやつ願い下げだよなぁ……。
「はい。シルヴェスター様のことは心からお慕い申し上げております。しかし、結婚はできません」
「……うん? お慕い申し上げております?」
「はい。わたくしはシルヴェスター様のことを心からお慕いしております」
——お慕いしております?
お慕いって好きってことよな? 好きなのに結婚できないの?
「じゃあなに、あんたはあいつのことが好きってこと……?」
「えぇ、そういうことになりますね」
「はい!? なのに婚約破棄されたいの!?」
「はい。結婚はできませんので」
いやいや意味がわからん。
聞いたら聞くだけ意味がわからん。
「えっと……ならなんで婚約破棄されたいん?」
——まただ。また暗い顔してる。
「……まぁ言えないか! ニアって、あいつのこと好きだったみたいだし?」
「なんだか、他人事のようにお話しされている気が……」
「そうそう! 気づいたらなんかニアになってたんよね、あーし! だからなんもわからんのよ!」
こんなこと言ったって、信じてもらえないのはわかってる。
でもあーし、本当になんも知らんし。隠すこともないし……。
「やはりそうですか。以前のニア様とは別人ということですね」
「いや納得すんの!? 普通はさ、『そんなこと信じられませんわ!』とかじゃないの!?」
「一般的な方ならそうなのかもしれませんが、わたくしは生命の流れが見えますので」
「生命の流れ?」
あーしが首を傾げると、リーンは口元を手で隠しながらにっこりと笑った。
「自己紹介がまだでしたね。わたくし神癒の聖女、リーン・カンパニュラと申します」
*
「あんた聖女なの!?」
「はい。これでも聖女なのです」
「ほえー、んでさ! 聖女ってなにすんの? あーしが知ってる聖女は祈ったり、治療したり、魔法使ったりすんだけど!」
「わたくしの場合は、みなさんの生命の流れを見て、異常があるところを浄化するイメージですね」
「へぇー!! すごいね聖女って!!」
さっきまでの作ったような笑顔とは違う、子供っぽい笑顔。
こっちがリーンの本当の姿なんじゃないかと、あーしは思った。
「……わたくしはこの力を、必要とされている方に使いたいのです」
「うん、使ったらいいじゃん?」
「それが、結婚してしまったらできないのです……」
「どして? 今はやってるんしょ?」
「シルヴェスター様は王太子殿下。いずれはわたくしも彼の隣で国を支える立場になります。そうなってしまえば、今のように貧困街に足を運ぶのは難しくなるのです」
うーん、何言うてるかわからん。
なんで結婚したらできなくなんだ? 今みたいにやればよくね?
てか王太子殿下ってなに? 王子と違うの?
「あのさー、王子と王太子って何が違うの?」
「王太子殿下は、いずれ国の頂点に立つお方です」
「え!? じゃあなに、あのボンクラは王様になる予定なの!?」
「はい。シルヴェスター様は国民たちからも愛される、素晴らしいお方です」
「へぇー、そうなんだ……。じゃあさ、言えばいいんじゃないの? あんたと結婚したら、あーし聖女としてやりたいことできないから無理って」
リーンが眉を下げながら、小さな声で答えてくれた。
「聖女と王太子の婚姻は、国で決められたものなのです。わたくしの意思ではどうにもならない」
「でもさ、言うだけなら……」
「シルヴェスター様はわたくしなんかをとても大切にしてくださる方なのです。そのような方に、わがままを言うことなんて……」
「だから馬車燃やして、合法的に婚約破棄させたってこと?」
こくりと、首が縦に動く。
「でもさ、あんた人の命救いたいんでしょ? やっちゃダメじゃない?」
「はい、そのお言葉はごもっともです。しかしこうする以外、彼にわたくしが相応しくないとアピールする方法がありませんでした」
「もしさ、それでニアになんかあったらどうするつもりだったの?」
「わたくしの力があれば、お救いすることができるかと思いまして……」
……なるほど、なんも考えてないわけではなかったのね。
でも、そこまでする? 相当追い詰められてる感じ……?
「そっか、じゃあ明日はボンクラから話聞くか!」
聖女様は結婚したくないそうです。




