7 東条桜樹という兄またはCEOと
紅菱商事本社ビル38階建て自社ビル
1階から5階まで様々な専門店が入る。
6、7階は、カフェレストラン。
百貨店並の規模だが、店舗がめちゃくちゃ多いわけじゃない。至る所に休憩場所、トイレがある。
少し見たらすぐ休める。休めれば、また他のところも見れるというように、滞在時間を多くしてもらい、より買い物を楽しんでもらうための工夫だ。
また、どのお店でも1000円買う毎に50円分のカフェ券がもらえ、施設内のカフェでならどこでも使える。
カフェも各階に3店舗はあるから、混雑していても、少し待てばちゃんと入れる。
ドリンクが無料になったとしても、ついでにフードやスイーツを頼む人も多いので、ちゃんと利益は出てる。もちろん食べたくなるような味であることは言わずもがなだ。
8階から30階までは、外資系のラグジュアリーホテルを、日本での権利を買い取り運営している。
実質31階から38階が商事会社だ。
専用エレベーターで直通だからすぐに着く。
38階は特別なセキュリティだ。
通常の電子機器は使えない。許された機器のみ、つまり改造したもののみ、使用できるようになっている。俺が開発した。
専用機械以外を使用したらすぐに分かり、スマホなどではウイルスが入り込み、何かを撮影・録音・入力しようものなら全てが破壊される。ご愁傷さまだ。もちろん、前もって説明している。
書類に承諾のサインをしているにもかかわらず、外部の人間が、選りすぐりの機械を持ち込んだりして試みようとするので、見事に返り討ちを食らう。
自分の機器はもちろん木っ端微塵だが、契約書類に則って違反金やペナルティ、場合によっては紅菱を敵に回したとして、他会社からも総スカンを食らったりするから、クビになった奴もいるし、中には倒産した企業も。
なんとも本当にご愁傷さまだ──まぁ、俺がシステムを組んでるんだけど。
無駄な抵抗はやめればいいのに。
CEOの部屋の前に着いた。
扉の前に立てば認識装置が働き、許されれば開く。·····しばらくして開いた。これは、怒ってるか·····
入った途端、デスクに座っているCEOが、正面で両肘をついて、顎を両手に乗せ、俺を目で殺すかのように睨んで聞いてきた。
「··········なぜこうなってる」
·····全て知ってるのか。
まぁ、普通だろうけど、東条家では。
「すみません」
「なぜこうなってると聞いている」
「·····ただ彼女を愛してるからで」
CEOの前に立って、両手を後ろで組みながら、まっすぐ目を見ていった。
東条桜樹CEO──8歳上の腹違いの俺の兄だ。
端正な顔立ちはモデルのようで、優しい顔を作り出せる、誰もが目を離せなくなるような男だ。
一見穏やかだが、自分に必要か不要かを見分け、敵と見なせば容赦はない。·····今のところ、俺は必要とされているようだ。
普通なら嫌われていいはずなのに──
俺は父さんの浮気した女性の子供、つまり愛人の子供だ。
父さんに呼ばれて、何度か本宅に母さんと行ったある時、広い屋敷のような家を探検する気持ちで、色々見て回っていたら、入ってはいけないと言われていた扉を開けて、そちらの区画へ入ってしまっていた。その廊下でばったり出会ってしまったのが、兄さんだった。
俺が7歳の時で兄さんは15歳。高校受験の時だった。
ジロリと睨まれたその姿は、まだ少年のはずの彼から子供の雰囲気は感じられなかった。
冷淡な、殺られそうとはこういう目かと思った。
鋭い目つき、俺の体は強ばった。しまったと思ったが、もちろん遅すぎる。
子供ながらに、父さんと母さんが普通の感じじゃないことは感じていた。だから俺は決して父さんの子供であることを、言いふらしてはいけないと認識していた。そして、この屋敷で、お手伝いさん以外の人間に会うことも、まずいと本能で感じていた。
ライオンに睨まれたネズミのような気分だった。
だけど、視界に兄さんの手にパソコンがあるのが分かり、それが今、自分が欲しいと思っていたメーカーのものだったから、どういう状況かも忘れ思わず声に出てしまった。
「あっ!!カーネル社のっ!すごい!」
カーネル社のパソコンはとても優れた機械で、しかもそのマークがゴールドのものは、一番優れたOSを持っていて、普通の人が使うものではない。
専門職の中でも、かなり抜きん出た頭脳を持っている人が、初めて使いこなせるものだと聞いた。
だから値段も半端なく、もちろん、俺のような子供がお年玉とかで買える代物じゃない。そんなすごいお宝を持っていることで、兄とはいえまだ15歳程で、手にしていることにものすごく興奮して、怖さなんか、どこかへ飛んでっていた。
見下したような目をしていた兄も、俺のその一言で雰囲気が少し変わり·····いや、気が散ったというのが正しいかもしれない。
「このパソコン知ってるのか」
「うん!だって、そのマーク、カーネル社のスペシャルエディションでしょう?すごい!めちゃくちゃ高いって聞いてるし。しかも、それを扱える人って、お兄さんすごい人なんだね!」
「·····お兄さん?」
お兄さんといった途端、忘れていた感情を思い出したかのように目が変わり、纏う空気も冷たくなった。
子供ながらに地雷を踏んだんだと悟ったが、それでもパソコンへの興味の方がはるかに強く、情報を得るために怯んでいる場合じゃないと開き直った。
もし何かあっても、されても、同じところに、母さんがいるという訳の分からない安心感もあったから。
「お兄さん·····だって、僕より年上の人でしょ。名前知らないし·····僕は逸樹って言うんだけど。それよりお兄さんもコンピューターとか好きなの?
何に使ってるの?」
矢継ぎ早に聞いた。早く早く知りたくて。
「外見だけで物がわかるってことは、お前は何かやってるのか」
「やってるというか、プログラミングが大好きなんだ。今友達に頼まれてるロールプレイングゲーム作ってるんだ」
「RGをお前が?」
「うん。あ、でもそんな売り物になるほどじゃないよ。だから、そのカーネル社のいつか買うのが夢なんだ!」
「·····夢、か·····そんなにいいものか?ふっ」
「兄さんには、あまり良くないもの?」
「うまくいかない·····何度やっても。こんなつまらないものを、俺の人生にはいらない·····」
この時、あるシステム構築につまずいて、何度やり直しても、うまくいかずかなり疲れと苛立ちとで、挫折を味わっていたなんて知らなかった。
俺は下手をすれば殴られていたかもしれない。
「何をしてるの?プログラミング好きだから見てみたい!」
「お前に分かるわけない」
睨みながら言う。
「うん、多分わからない。でも見てみたい。ダメ?あのズラッと並んでるのを見るだけでも、ワクワクするんだ!」
「·····お前、おかしいな」
そうだろう。これはもうかなりの、病的なほどのオタクの域だろうと思う。今ならばわかる。
普通、愛人の子供との間柄なら無視して通り過ぎるとか扱いだろうけど、兄さんは舌打ちしたものの、すぐ近くの部屋に入り、パソコン起動してくれた。
「わぁ!!すごいね!これ、お兄さんやってるの?やっぱこのパソコン持ってる人は凄い人なんだ!」
構築されているシステムを見れば、自分では考えもつかないような文が作られている。
それを嬉しくて、一行一行見る。
すると、あれ?と思うところを見つけた。
とりあえず進んでいって、半分ぐらいで2箇所あった。
ある程度の年齢になっていたなら、自分より小さい子供、ましてや敵と言ってもおかしくないような相手に、間違いを指摘されたら不愉快になるだろうし、もしかしたら、すごい暴言とか吐かれるかもと思って、言えなかったかもしれない。
でもその時の俺は、まだ7歳。
忖度や人の心情を汲みとれない。まして大人の事情とか。
「お兄さん、2つちょっとおかしいとこあるよ。ここと、あとここ」
「え?……あっ、そうか。でも、こっちはどうしてなんだ?」
「それはね──」
俺の説明は決してわかりやすくない。
頭でわかってても、口に出して説明するのは難しい。でも、兄さんは分かったようだった。
「そうだったのか。じゃあ、あと何箇所かやり直しが必要になってくるな·····」
そう言って考えずに――いや、考えているのだろうけど――頭の回転が早すぎるんだろう、入力しながら多分、次のことを考えていってるから、あっという間に終わって、実行させれば
「うおっ!できた!できた·····」
「わぁ!すごい!よかった~」
2人で完成した画面を見て喜び興奮した。
「お前すごいな。俺なんかよりできるんだな」
「違うよ。僕ここまで作ることなんかまだできない。今わかったのは、たまたま前本で読んでた部分と似てたから、もしかしてと思ったんだ。お兄さんの方がすごいよ。それにお兄さん1人ですべてできるようにするって、神様にならないと無理だよ。でも、僕や他の人たちと頭を分け合ってやれば、たくさんのすごいのを作れるよ、きっと!」
厚かましく自分を売り込むようなことを、無自覚で言っていた。
「兄さんの得意なこと、僕の得意なとこ合わせれば最強だ!」
「最強?アッハハハ!そうか·····最強か。いいな、それ」
初めて笑った兄さんは愛らしい。
まだ子供だと感じさせる素直な笑みだった。
この時から俺と兄さんの関係はできた。
ある時、兄さんが『俺は全てにおいて一番じゃないと居場所がなくなる。必要とされなくなるんだ。だから勉強している』と言った。
でも、まだ小学生の俺には居場所という、言葉の奥にある意味を、理解などできるわけがなかった。
「居場所?そこにいられなくなるの?だったらまた新しいとこ見つければいいんじゃないの?
こんなにおっきなお家だから、部屋いっぱいあるんだよね?でも、この家でも無くなるなら俺の家においでよ。
ここよりは凄い狭いし、便利なものもないけど、美味しいご飯あるし、俺といつでも作ってるシステムや、ITのこと話せるし、俺は嬉しいよ!」
「新しい場所か·····いいな、お前は呑気で。
でもそうだな、お前は俺が1番でなくなっても変わらないんだろうな」
「うん!1番でずっといられるのはめちゃくちゃすごいけど、俺は兄さんの結果が好きなわけじゃないし、兄さんが兄さんだから好きなんだ」
そう言って笑って見せた。ドヤ顔で。
そしたら兄さんは目を見開いて、その後少し頬を赤らめた。
「·····好きって」
「うん!兄さん好き!僕に意地悪しないでちゃんと話してくれたし、俺の気持ちを聞いてくれるもん」
「·····意地悪されたりしてるのか?」
「あ、まぁ、別に今は放ってるから大丈夫」
「どこで?学校か?」
兄さんの纏う空気が変わった。
小学校の時は、母親しかいないということや人見知りで、あまり人とうまく話せないことが原因でからかわれたり、いじめに近いことをされてた。
だから遊ぶ友達はおらず、興味を持ったこのパソコンの世界にのめり込めたし、兄さんとも会えたから結果としては悪くないと思っていた。
この時はその話は終わり、出してくれた紅茶と高級なスイーツを2人で頬張りながら、ゲームの話をしていた。
でもそれから竜と出会い、俺をいじめていたはずのやつらが馴れ馴れしくなって、友達面するのが鬱陶しくて、まだ許せてなかったから兄さんに、許せる程良い人間じゃないって言って笑って話した。
ある日、いつものように俺をからかいに来た、同じクラスの目立つグループ5人。
もう少しで5年生だからと自分に言い聞かせ無視していた。
周りは面白がってるやつ、同情するやつ、心配そうに見てるやつ。共通してるのは、誰も口を出さないこと。他人なんてそんなもんだと、子供ながらに悟ってた。
竜以外は。
竜は、今では言い合ってくれる。その時もそいつらと言い争っていた。
本人曰く、『退屈しのぎになって、姉ちゃんとの口喧嘩に対抗できる練習だ』と言ってるけど。
「お前ら、よく飽きねーな!同じことばっか」
「お前こそ!よくこんな奴と仲良しでいられるよな!お前も親まずいことしてんのか?」と。
あ、まずい雰囲気になってしまった。どうしようと思っていると、始業のチャイムが鳴って先生が入ってきた。
と思えば、そこにいたのはなんと兄さん!
「え、兄さん?」
「兄さん?お前の?何か·····」
「何で大人が何人もいるんだ?」
「え、あの制服、名門中学じゃねーの?」
「すげえ!」
兄さんの制服で、どこの学校かわかるくらい有名なのかとそんな事を思った。
「どうしたの!兄さん·····」
俺は状況が飲み込めないのもあったが、やっぱりこんなところを兄さんに見られたくはなかった。
「·····俺の弟をいじめてる奴がいるようだな」
その一言で、俺の周りの男子たちは固まった。周りの空気も冷たくなっている。
「逸樹は俺の大切な弟だ。もし何かあれば、紅菱商事の跡取りとして、こいつを補佐として望んでいる俺が容赦しない。そこの先生方も覚えておくように。逸樹、お前は俺の学校に入れる力は十分あるから、こんなとこ辞めても大丈夫だ。考えとくように」
そう言って、周りを牽制するがの如く睨みをきかせ、颯爽と側近の人たちを引き連れ、教室を後にした。
慌てて先生たちも追いかけ、一生懸命、弁明やご機嫌取りを頑張っているようだった。
あっけにとられていた、クラス全員の視線が俺に向く。
「マジ?あいつそんなスゴい家の子だったのか?」
「ヤバくないか·····」
口々にみんなが話してる。青ざめながらや、大企業の子供が同じクラスで興奮してるとか·····。
·····俺だって驚いている。でも、徐々に喜びを実感した。来てくれたことはもちろん嬉しいが、『大切な弟』と言ってくれたことが何より嬉しかった。
俺を守ろうとしてくれたことも。
(大丈夫なのに·····)
なぜか涙がぽたぽたとこぼれた。
その時竜が、ちょっと引いた感じで話しかけてきた。
「すげえなお前の兄ちゃん。ってか、お前すごい家の子だったのか?」
結局竜も俺をそういう目で見て、取り入ろうとするのかなとショックを受けかけたが、まだ今のような間柄じゃないから、まぁいつものことだからと自分を支え、持ち直すのは容易いことだと思い直した。
「でも同じでいいよな」
「えっ?同じ·····って?」
「だって知らなかった時も逸樹は逸樹だったし、セレブってわかったからって逸樹は逸樹だろう。だから今まで通りでいいよな?」
いつもの悪巧みをしている時の笑顔で、確認してきた。
あっけにとられたけど、徐々に笑いが込み上げてきた。嬉しさも安堵も混ざった。
やっぱり竜は竜だった。嬉しくてやっぱり泣きそうになったけど、結構俺はこいつを信頼していたんだと再認識した。
それからの俺の変化は特にない。
周りは一目置くようになったし、先生は目に見えて俺に気を使うようになったけど。
大人の汚い社会の入り口を、初めて見た気がした。俺自身は人見知りの、影でこっそりしていた人間のままだから、目立たないままというより、竜がそうできるように守ってくれた。
竜がなぜかいつの間にか、学年を牛耳るようになってたから·····
「おい、何別世界にいってる?とりあえず座れ」
「あっ、ごめん」
·····回想が過ぎた。
「愛してるってお前·····また」
「あっ、いや違う!彼女はそんな人じゃない。そもそも俺が紅菱の人間だと知らないし」
「知らない?知らないふりじゃないのか?」
「いや、本当に知らない。彼女は·····記憶喪失なんだ」
「戻らないままか?」
驚かないところを見ると、既にほとんどのことを調べ済みか。
まぁ、俺が兄さんのマンションを出て、今のマンションを買い取って入居までを、怒涛の速さでやっていた時点で動いてるよな。
「うん·····戻ってない」
それから今に至るまでの彼女のことを話した。
逃げられないことは分かっていたし、いざとなれば、兄さんの助けを得るために。
そして俺を捨てられるように·····俺だけの責任として。
兄さんならできる。紅菱がダメージを受けず、彼女の名誉も守られるように、俺だけを断罪できるシナリオを作ることを。
「はぁ·····お前はまた·····積極的に動くのは、そんな突き抜けたことをしなければならない時だけなのか?·····彼女に親がいなかったからまだ良かったけどな·····おそらく本物の婚約者と友達だろう女が、何度かマンションに来てる。
このままだと捜索願いでも、出されるかもしれないぞ。どうするつもりだ?」
「·····考えます」
「それじゃあ遅い。考える時は過ぎてる」
「はい·····でも彼女を渡すつもりはありません」
「相手の男の女絡みでか?お前がそう言うのは」
「はい」
·····やっぱりそこまで調査済みか。
いかに早く危機を察知し、対処する──基本中の基本だもんな、大企業の。
特にうちは。
「お前が決めることではないだろう」
「それは彼女が、記憶喪失になっていなければの話です。記憶がないままなら、事実を捻じ曲げられるし、なかったことにされる。彼女が取り返しのつかない状況になるのを見過ごせない」
「お前が関われるとでも?」
分かってる。
彼女は許すという選択をする可能性は十分にあるし、もう既に解決済みかもしれない。
そうだ·····
これは俺が許せないだけなんだ。
彼女を裏切るような男に·····自分なら絶対彼女を傷つけたりしないのに!
許せないんだ。彼女を傷つけたことが許せない。
「·····あの男はまだ続けてる。この状態もバレてないだろう」
「本当に?クソ!」
バレてないということには安心したが、あの男は変わらずゲスなことをしている。
自分の婚約までしてる人が、行方が分からなくなっていると分かってるのに、まだ続いているということに怒りが湧いた。
「彼女のスマホに接続できるんだろう?その男に動かれないようメッセージを入れておくんだ。もうとっくに犯罪を犯している、罪悪感などどぬかすなよ」
見透かされている。
確かに今更だが·····
「親父に動かれるぞ」
その言葉に固まる。
紅菱商事会長──この大財閥を牛耳ってきた俺の父親。
一緒に仕事をしたことはないけれど、何度か顔を出さないといけなかった、会議やパーティーで見る父親は、家で会ってたような穏やかな顔ではなかった。
事実、敵と見なしたものには容赦ない。
これだけの規模にしただけあって、情が不要な時、現れてはいけない時、会社の利益を取るために徹底した切り捨て排除、それが命に関することでも·····えげつない。
だから、兄さんの母親、つまり本妻だった人がスキャンダルになるような相手と、関係を持ったことわかった途端、既に用意されていたと思われても仕方ないようなシナリオが急に出てきて、父の息のかかった病院に入れられ、相手は急に表舞台から消えた。·····どうなったかは知らない。
兄さんに聞いたことはあったが、俺が知る必要のないことだと一蹴された。
それと同時に、
『紅菱の子供として生まれてきてしまったら、父親の生きる道を塞ぐようなことはしない方が身のためだ。血は関係ない。そして全てを知ろうとするな、今の生活がしたければ』と警告された。
血は関係ないのだ。あの人には。
だから、俺のしたことが父さんの道を汚すものであると判断されたら、間違いなく彼女を守るどころではなく、俺が彼女を危険にさらしてしまう。
「俺がお前を統制しているとあれば、ひとまず様子を見るだろう」
「·····わかった」
「一度会わせるんだ」
「え?」
「古都に」
「なっ!呼び捨てにするな!」
「お前のもののつもりか?ふっ」
「うっ·····」
そうだ·····俺の古都ではない。
でも·····それでも嫌だった。
「俺は古都から許されてる、そう呼ぶのを。”古都”は、俺が彼女を呼ぶのにつけた名だ」
「·····ふっ。とんだ独占欲だな。お前がそこまでになるとは·····会長、親父がお前の様子を聞いてきてる。何らかの情報が入ってる可能性が高い。わざわざ俺に振ってきたのはかなりの譲歩だ。·····わかるな?」
「!!·····ああ」
そう、父さんが直接動けば、彼女自身も危なくなる。
「3日後だ。どこがいい」
「·····ふぅ·····家に来てほしい。彼女に精神的なダメージを与えるかもしれないから、慣れてる家の方がいい」
「わかった。昼頃行く。昼食を一緒に」
「·····ああ」
そう決まれば、すぐ帰って古都に話して、彼女の様子を見なければならない。
少しでも不安定になったり、怖かったりするようであれば対策を考えなければ。
急いでソファから立ち上がり帰ろうとした。
「逸樹、また前の女の類じゃないだろうな?」
「違う!そんな人じゃないって!」
そうか·····兄さんは会社のためだけじゃなくて、心配もしてくれてたんだ。
兄さんのそう言った顔を見てわかった。
俺はどうなっても、どんな罰を受けても仕方ないし、それでいい。
でも俺の大切な人達は守らなければ·····!
改めて新たな決意が生まれた。




