4 彼女との出会い
竜が新居にやって来た。
「はじめまして、真山さん。佳倉古都乃です。こんな形で、お会いすることになってしまってすみません」
「古都乃さん、謝ることじゃないから·····」
「そうだよ。あっ、そうですよ。真山竜と言います。逸樹とは幼なじみなんで、仕事もタッグ組んでるんで、これからちょくちょく顔出しますけど、よろしくお願いします」
古都乃さん·····彼女の入院からここへ越してきて、落ち着くまでの1ヶ月半、俺の仕事はほとんど止まっていた。彼女の事故の前に請け負った案件だけは、期日に間に合わせないといけないから、彼女が寝てからほぼ徹夜で、何とか仕上げた。
もしこれが今までの食事、カップ麺や栄養補助食品のゼリーでやってたら、倒れてたかもしれないが、古都乃さんが、棚に入ってる食料を見て、俺の食生活事実を知って驚き、そして怒った。
それ以来、料理は覚えていたから、ちゃんとした定食みたいな素晴らしい料理を、毎食作ってくれていた。そのおかげで、疲れという感覚だけで済んで仕事が完成した。
その日と次の日は死んだように眠った。
でも起きるとスッキリして、今までのように、だるいとか、まだ残ってるとかはなかった。
彼女曰く、栄養のバランスが取れていると、人の体はちゃんと回復してくれるらしい。
女神だ。
竜は小学校からの幼なじみだ。
整った顔で、目は少し大きく、柔らかい。真顔でも笑みを感じさせてくれる得な顔立ちだ。
昔、俺は人見知りでいじめられていて、誰もいないパソコン室で、こんなゲームが欲しいと思ったのをプログラミングして作成していたら、いつの間にか竜が入ってきて、後ろでその作業を見ていた。
それに気付かず、試しにゲームを稼働させたら、『めっちゃすげえ!!』
と大声を出され飛び上がって、『わーっ!』と叫ぶほどびっくりさせられた。
同じクラスではないけれど、顔は見たことがあった。いじめられてるのを知ってるはずなのに、俺に普通に接してきた。
その時は、どうせ今だけゲームをして楽しんだら、この次の日は関わらないようにするのだろうと思ってた。関わらない方が、こいつのためにもいいとも思ってたから、特になんとも思わずほぼ喋らず、ゲームをしている竜を冷めた目で見ていた。
たとえ帰りの門のところで、別れる時に
『ありがとな!また明日な!』
と笑顔で言われても、今までたくさんの人間に蔑まれ裏切られてきた俺は、素直に受け入れることはなく、明日からは他人だろうと、心の中で呟いていた。
でも竜は違った。
ちゃんと次の日も同じ接し方だった。
俺は驚いた。
みんなの前で堂々と手を振って、
『おはよう!逸樹!』
昨日のお礼にと、ポテトチップスの小袋を渡された。
周りも目が点になっていた。
ゲームを作れる天才だと、竜は周りに言い回った。
それがきっかけで、いじめはなくなっていった。
竜との交流がきっかけで、少しずつ俺の周りにも人が来るようになって、ゲームの話をするようになった。
俺をいじめてたやつらも、俺のパソコンの頭脳に驚いて、何も言わなくなった。それどころか、前から友達だったかのように接してきやがった。
でも、俺はどっかの漫画や小説のような、純粋な主人公とか少年ではない。やられたことは忘れない。
後になって分かったが、そいつらは俺をいじめる前は、他の弱そうなやつをターゲットに、色々同じようなことをやってたみたいだ。そんなやつらを許したくはない。でもまたやられるのも辛い。
だから、本妻の子供にあたる異母兄(俺は愛人の子供だから)に告げ口してやった。
久々に兄に会った時、何気なく学校での事を、言ってしまった体で話した。
すぐに激怒した。
しかも、その日のうちに親父にまで話したらしい。びっくりだった。親父に言ったこともだし、親父が俺の事での対応を迅速にした事も。
意外にもこの兄は、俺に優しかった。
昔プログラミングで悩んでるのを見つけて、声をかけてみたら、割とすぐ受け入れてくれた。
元々、嫌がらせの類のことをされたことはなかったけれど、近づきもしなかった。
それはそうだろう。
自分の父親が浮気して作った子供だし。
『一緒に補ってやっていけばいい』と、今思えばクソ生意気なことを兄に言った。
後で聞いたら、それが兄にはものすごく嬉しくて、支えになったらしい。
周りはただ、自分に取り入ろうとする人間たちばかりだったから、エリート集団の中で孤独だったそうだ。
そして、その親父がさらに怒って、学校に直接行き校長に俺のことを知りながら、そし知らぬふりをした担任と副担任を即刻クビにしたことも·····びっくりだ。
まあこれはしばらく経って、竜の情報網で知ったのだが。
そうして竜と仲良くというか、いつの間にか勝手に俺の親友になりやがった。
今も昔のまま、調子のいいやつで人懐っこく、初対面でも前から友達だったかのような雰囲気になる。だから女子にも、それなりにモテる。
だから正直、古都乃さんに会わせるのをためらった。
もし竜を好きになったら·····
だけど、仕事のパートナーでもあり、なんだかんだ言っても俺は竜を信じて、竜も俺を信じてフォローしてくれている奴なんだ。
彼女がたとえ好きになっても、こいつは俺を裏切らないだろうと思うほどには、数少ない信頼できる人間だった。
だから怖かったけれど、会わせることにした。
「こちらこそ、よろしくお願いします。あの真山さんは·····」
「うん?」
俺はドキッとした。
何を聞くつもりなのか·····やっぱり竜が気になるんだろうか、とか不安と嫉妬でいつの間にか竜を睨んでた。
「·····お前怖えよ」
「うるさい·····」
「?どうかしましたか·····えっと真山さんは何を飲みますか?」
「えっ」
「飲み物ねーはいはい、じゃあアイスコーヒーを」
竜はニヤニヤしながら答えてる。
ムカつく。
俺は余裕なさすぎなのが恥ずかしかったが、好きなんだから·····こんな気持ち初めてなんだから許して欲しい。
こんなヤキモチ妬く人間だとは、自覚がなかった。
「分かりました。東条さんは紅茶でいいですか?」「あ、ああ、ありがとう·····いつも」
「いいえ!じゃあ、用意しますね。東条さんの部屋に持って行っていいですか?」
「うん、お願いします」
にっこり笑って、キッチンの方へ向かって行った。
「·····じゃあ、早速新しい案件の詳細聞かせてくれ」
そう言いながら、いつもの仕事部屋兼プライベートルームに入った。
竜のニヤニヤを無視しながら。
パタン
と、ドアを閉めた瞬間
「おい!お前どうするつもりだよ!彼女、記憶がいつ戻るか分からないんだろっ?」
部屋に入るなり竜は、いつも余裕のある表向きスマイルを消して、動揺しまくり心配してる顔で聞いてきた。
声を小さくして。·····ちなみにこの俺の部屋は防音になっている。このマンション自体、防音が整っているが、わずかな音も全く漏らさないため、念のためにこの部屋に別料金でもうひと重ね施工させた。
それくらい仕事で扱う案件は、機密性の高いものばかりだということだ。
でも今は─特化されたこの部屋は、古都乃さんに聞かれないために発揮されている。
「ああ·····」
「ああって·····記憶が戻る、戻らないの前に、彼女の”本物”の婚約者や会社の人、友達が捜索願とか出したらどうするつもりだよ!お前が偽物で犯罪者になるんだぞ!」
「·····ああ·····」
わかってる·····そうだ。
俺は·····俺は、偽物だ。
彼女の本物の婚約者は別にいる。
俺は、ただの以前彼女が住んでたマンションの隣人だ。
しかも、ほとんど喋ったことがない──
なのに、あの日──あの事故の日、彼女が当事者だと知って、彼女を失うかもしれないと·····
そばにいてあげたい、いたい·····そう欲を出してしまった。
彼女の意識が戻ったら、俺はただの隣人に戻り、連絡したい人に乗り継ぎ、去ろうと思っていた。
友達でも、あの婚約者でも·····
だけど、彼女が目を覚ましたら、記憶がなかった。あなたの婚約者がいると言えばいいだけだった。
その男に連絡を取るように、手を尽くせばいいだけだった。
その相手が、彼女を、彼女だけを大切にしてるなら·····俺はちゃんと渡せていたはずだ。
そばにいるというポジションを·····
だけど、あいつはそうじゃない。
彼女だけを大切にしていた訳じゃなかった。
──彼女の部屋の前で会った、彼女の婚約者。
俺より少し背が低いけど、スタイルが良く、スーツがよく似合ってた。
清潔感があり、やんちゃな感じだけど、誰とでも仲良くできそうなタイプだ。竜と同じタイプかもしれないが、竜と違うのはあの男は見下してそうな目で俺を見てきた。
その通りすがりに婚約したんだからと、そいつがわざわざ俺に聞かせるかのように言っていた。
──ショックだった。
俺は既に彼女に恋をしていたから·····
彼女と出会ったのは、エレベーターの中だった。
俺は箱いっぱいの書類を抱えていた。でも手が滑って、ノートが数冊落ちた。抱えたまましゃがんで取るのは恥ずかしいし難しく、舌打ちしてしまった。
その時、彼女、古都乃さんが拾ってくれた。
箱の中に入れてくれたのに、髪の毛で目が隠れたままお礼を言った。その瞬間、髪の毛をぱっと横に上げられ、目に光が差した。めちゃくちゃ驚いた。
誰かに触れられたこと、光が目に入ってきたこと、彼女の顔が、俺の目に入ってきたこと·····
何も言えず固まっていると、バッグから何やらボトルを取り出し、その液体を手に取り俺の髪につけ整えられ、目が現れた状態にされた。何が何だか分からず、ただ恥ずかしく混乱もして、髪を元に戻そうとしたら、手をぱっと掴まれた。
『やっぱり·····こんな綺麗な瞳をしてるなら、余計出さないと、もったいないです!見える、見ておかなきゃいけない景色が見えないのは損です。整ったお顔もされてるし·····私、素敵なもの見れました。
ふふ·····あっ!も、申し訳ありません!』
『え·····』
今更かと思った。でも今度はカバンから名刺を取り出して箱の中に入れてきた。
『あの私、佳倉古都乃と言います。この化粧品会社で整髪料を扱う部署で企画営業していて、つい職業病でその人に似合う髪型とか想像したら、作り上げたくなってしまって。今ちょうど自分で企画したものが、商品化になったところで·····すみません·····不快でしたよね』
あんなに生き生きした顔をしていたのに、急にシュンとしてしまった。まるで子犬のようだなと思った。
でも、どちらの顔も俺には眩しかったし、可愛いと思った。
『いや·····大丈夫です·····』
『あ·····お詫びにもなりませんが、これよかったら使ってみてください。ベタつきもあまりなく、香りも私が好きな香りを作ってもらったんです。第一印象は大切で、その後の人生に関わることもあると思うので·····あなたはとても綺麗なお顔で、とても綺麗な瞳から優しさが感じられます!』
·····びっくりした。
瞳を褒められるなんて初めてだ。
でも長年の歪んだ心は、そんな簡単には絆されない。
『顔を見せても、俺自身を見ているわけじゃない』
思わず初対面の彼女に、呟いてしまったと思ったが、もう既に聞かれていて、情けない男と思われただろう。·····別にいい。いつもの孤独の状態なだけだ。
もう話す必要もないと、元の髪型に戻そうとしたら彼女がもう一度声を掛けてくれた。
『苦手でも、あなたが相手の目を見て、あなたの目を見せて、一生懸命気持ちを伝えれば、必ずあなたの心を見てくれる人はいます。現に私もあなたの目を見られて、あなたが優しい人だと感じます。優しい目だわ。嘘をつかない人だわ』
その優しく微笑んで話した後、目を伏せがちにしたその仕草に釘付けになった·····この人に惚れたのを認めた瞬間だった。
その整髪料のボトルは箱に入れられた。
エレベーターが止まり、お互い何か言いかけたけれど遮られた。
俺だけでなく、彼女も降りた。もしかしてついてくるのか?とすごく自惚れたことを考えてしまったけど、やっぱり自惚れだった。
彼女の部屋は俺の隣だった。
お互いびっくりだ。会ったことはなかったし·····まぁ当たり前か。彼女の出勤時間帯は、だいたい俺は寝てるはずだから。
『お隣さんだったんですね。これからもよろしくお願いします。では失礼します。さよなら』
そのまま無言で部屋に入りかけていた·····それがいつもの俺のはずだった。なのに、その時はなぜかそうしなかった、出来なかった。
『あの·····ありがとう、ございます』
どうしてかお礼を言ってしまった。
すると、彼女はパーっと嬉しそうな顔になり、花が咲き誇るような笑顔になった。またもや釘付けになった。
完全に落ちた──
でも俺なんか、相手にされるはずもないと思っていたから·····わかってたから、また今までのように、誰とも交わらないだろうと感じてた。
竜だけが友達の、プログラマーとしての自分に戻るだけだった。
そう思っていた2週間後、たまたま打ち合わせのホテルラウンジで用件を終え、生演奏中で出るのも悪い気がして、コーヒーを飲んでた。
何気に入ってきた2人に目がいくと、あの婚約者がいた!
他の女に腕を組まれて。
初めは似た顔なのかもと思った。
顔を見たのも、一瞬だったし。
だけど女が席を立って、少ししてから、そいつにかかってきた電話で、本人だとわかった。
『もしもし·····あー古都乃?今ちょっとお客さんと話し中だから、また後で』
この事実にまたショックを受けた。
ことのさんと婚約してるのに·····付き合ってるのに!
·····いや、でもここに来ただけじゃ、確定じゃない·····腕を組んでたとしてもだ。
庇う必要もない。ただ彼女が傷つく現状を認めたくなかったのか、否定する自分がいた。
生演奏が終わり、いつでも帰れるのに動けなかった。2人がまだいるから·····
やがて席を立った2人は、エントランスではなくエレベーターの方へ向かい、乗り込み上あがっていった。
エレベーターが閉まる時、2人は抱きしめ合い口付けした。わざわざ説明するかのように·····
俺は、彼女に言わなければ!と急いで帰った。
怒りで頭がどうにかなりそうだった。でも歩いてたり、電車に乗ったりすることで、冷静さを少し取り戻していき、すぐ彼女に告げて救わなければという思いから、こんな俺にそんな信じがたい内容の話を言われても、信じてくれるか逆に変質者的に見られて嫌われるかもしれない、という怖さに変わっていった。
急ぎ足がだんだん速度を落とし、家に着く頃にはゆっくりになり、彼女の戸の前を通り過ぎ、その1つ先の自分の戸を開け部屋に入ってしまった。
それから毎日のように、言った方がいいのに、何か方法は?彼女が気づくようにするには?とか考えていた。
竜に相談すると、浮気くらいする男なんかたくさんいるし、それでも許して一緒にいる恋人たちは普通にいる。彼女もそうかもしれないし、既にバレて喧嘩して、何か結果が出てるかもしれない。他人が口出すことじゃないと言われた。
ましてコミュ障で、顔も前髪で隠しているような男に言われても嫌悪しかしかないかもしれないと·····そこまで言われ凹んだ·····親友らしく忖度もない。
『え·····もしかして、その隣の子に惚れて?』
とびっくりされた後すぐ
『いや!嫌とかじゃなく、信じられないという感じかも』とか、今更フォロー入れられ一層落ち込んだ。
こいつはよく物事を見て鋭いけれど、一言余計だったりするんだ。
で、今に戻る───
「はぁ·····今更だー·····まだ何も起こってないんだな?」
「·····ああ、今のところは。彼女の会社には、記憶がなくなったって分かったから、入院2日後に電話して事の経緯を説明して、しばらく休暇にしてもらってる。退院した頃、向こうから連絡きて、部長って人から一度来社してほしいと言われてるんだけど」
「·····マジで?それは、めちゃくちゃまずいでしょ。彼女の婚約者を知ってる人もいるんじゃないのか?そうなったらどうすんの?速攻警察行きだろ。今からでも正直に話したらどうだ。隣人だったのは確かだし、何もしてないんだろう?お詫びの金とか渡して、なんなら桜樹さんの病院とか·····連絡してみるか」
「やめろ!·····兄さんには言えない。バレた時、兄さんが知ってたってなったら·····いざという時は、俺だけ葬られればいい·····」
「怖いこと言うなよ·····何か手立て考えてんのか?」
「考えてない·····」
「·····マジ?」
「マジだ·····そもそも急なことだったから、古都乃さんを、あんな男に渡したくなかったから、焦って思わず言った」
「はぁ··········まぁ、もう、なるようにしかならねえか」
「ああ·····お前も、もうここに来ない方がいい·····同罪になる。共犯と思われる·····仕事なら、いくらでも紹介できるから」
今までどんなことがあっても、俺と友達でいてくれた、本当の友だからこそ、巻き込むわけにはいかない。
何も知らないことにできる。今ここで別れれば·····
「·····お前、今更だろう。しかも仕事の相方俺以外に務まらないだろう?·····今まで何も欲しがらなかったし執着しなかったお前が、初めて求めたんだな·····よし!俺もまた同じ船に乗るわ!」
「·····ゲームとは違うんだ。軽く考えるな。おじさん、おばさんのことも考えないといけないだろ」
·····そうだ。竜には、家族がいる。
俺にはなかった、普通の家庭だ。
何度かご飯を食べさせてもらった。どこにでもいる母親。でも俺をかわいそうな子供としては扱わず、竜の友達、【一番の友達】そういう見方で接してくれてた。
父親もだ。行き過ぎたら竜と同じように叱られた。でも説教が終われば、頭をわしゃわしゃと撫で笑ってくれる。俺のこともちゃんと見てくれてた。
「当たり前だ。親からは『困ってる人を助けろ、見て見ぬふりはするな、人の痛みを知れって言われてる。それに、1番大切な友達をちゃんと見分けて、信じ抜け!』って言われてる。
だから、お前といる。それに、親友と思える人間は簡単には見つからないんだそ。俺にとっても、お前にとっても貴重な存在だろ。
彼女が不幸になるのわかってて、あの婚約者に渡したくなかったんだろ?」
「ああ。·····でもそいつが、彼女を騙してるって知らなくても、嘘をついたかもしれない·····彼女にもっと近づきたくて」
「ん·····まあ、それでもきっとお前なら、彼女にとっての幸せを選んでいただろうと思うよ。お前はそういうやつだ」
「··········」
竜は信じてくれている、俺を。
「まぁ、まずは、彼女の会社だな。どの位プライベートが知られてるか、相手の男は同じ会社じゃないのが救いだな」
「ああ·····救い·····か」
婚約者のアイツは違う会社だ。
会社の場所も、住んでいるところも離れてる。
だから、会社で親しい人間以外は知られていない可能性が高い。俺のできる範囲で調べた。
ただ細かいところまではわからない。
スマホを調べさせてもらうと、あの男の名と友達が数人に、電話をくれた部長の名前が入ってた。
あの男からは何件ものLIMEや電話の着信が来ていた。
LIMEの内容は、全て見たわけではないが、今のところどこに行ってる、連絡くれという内容のものだ。
徐々に浮気がバレたと思いついたような内容になっていってる。
ボケが。
友達何人からか数件着信はあるが、果耶という名前の子が、おそらく彼女と一番仲がいい友達っぽい。
スマホを落として壊れたかのように、考えているようだった。
古都乃さんは意外によく物を無くしたり、落としたりするらしい。
この果耶って人は会社の同僚らしく、連絡が取れなかった間は、かなり心配してLIMEをしてきている。一番初めの方は、また落としたのかとか送って来ていた。事故の事を知った後は、その気遣いの文面がぎっしりだった。
古都乃さんは、きっちりしていそうに見えたけど、意外に抜けているところがあったりして、可愛さ増し増しだ。
彼女の会社へ行かなければならない·····どういう状況かよく分からない。
ただ、今のところ怪しまれてはいない気がする。
賭けに出るしかない。
古都乃さんも行かないといけないと思っているし。どんどん後戻りが、できなくなっているのは間違いない·····
竜にそう伝えたら驚いていたし、反対もしたけど、でもこのままでいても、いずれ相手が動けば、まずいかもしれないから、古都乃さんといるつもりなら、会社へ行くしかないだろうと、渋々納得してくれた。
竜の言葉に感謝した。
·····一緒にもういられなくなるかもしれない。
ずっと一緒だった親友。
もし警察に捕まったら、兄さんに頼んで竜は守ってもらいたい。
俺の財産も渡すつもりだ。
日本に居づらければ、外国にでも暮らせるくらいはあるはずだから、竜なら行った場所に順応して、また生きていけるだろうから·····
竜の存在と気持ちがありがたかった。いつもそうだった。




