18 失くしたからこそ
いっくんは章也と対峙してから、少し雰囲気が変わった。もちろん私を大切にしてくれることや、愛してくれてることは変わらない。
というか、もっと増して、甘くて恥ずかしくなるくらいに言葉も行動もくれる。
ただ·····落ち着き?何か大人っぽく·····なんて表現したらいいかわからないけれど·····元々陰を感じる人だったけど、また違うものを纏ったような·····でも、もちろん好きな気持ちは変わらない。
プロポーズの時にもらった指輪、ピンクダイヤモンド!
だけじゃなく、周りの石もダイヤで。
『メレダイヤだから、そんな見た目ほど高くないし、一般的な値段だよ』
とは言ってたけど、多分嘘。
メレダイヤの集まりで、一つのダイヤに見えるだけだとか·····よく見ればいくら私でも分かりますけどね。
正直引く·····めっちゃ高いだろう。
でも聞かない。
いっくんの気持ちを尊重したいし怖いし、聞いたらつけられなくなりそう。
おまけに普段嵌める用にと、やっぱりリング全体に小さなダイヤがついてる物も渡された·····完全に固まったけど·····
きっと東条グループに入るということは、それなりに外見も整えなくてはいけないのだろうから、慣れていかないといけない。
私はいっくんがいてくれるならそれでいい。
2人で東条の門をくぐる。
きっと綺麗事だけではないと思う。
私の知らないところで何かあるかもしれない。
彼の背負うものを、少しでも私にも分けてもらえれば、と思う。
そうできる2人の絆を深めて行きたい。
····· 章也は出世欲のある人だった。
浮気をしたこと、後悔してるのか·····私と出会ったことが間違いだったのか·····
でも、今の結果は自分で招いた結果だから、別々の道を歩くことになったけれど、一度は好きになった人。
どうか真面目に生きてほしい。人を傷つけることを平気にならないで。
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「ココ?着いたよ。さぁ、行こう」
先に一緒にいた後部座席から降りたいっくんは、私をエスコートするべく左手を差し出す。
タキシードスーツを着たいっくんはとてもかっこいい。昔の面影がないくらい素敵になった。昔もかっこよかったけど。
「うん、ありがとう。·····!うわぁ、素敵な教会」
そして今日は私たちの結婚式。
イギリスのコッツウォルズにある、石造りの小さな教会。
教会のガラスはステンドグラスになっており、おとぎ話に出てくるような素敵な作り。
周りは草原で羊たちが放牧されてる。
町の人達は私たちに気づくと、手を振ってくれたり、
『congratulations!』と祝ってくれて、とても嬉しい。
今日のために何十着も試着して(着せられて)、決まったウェディングドレスは、オフホワイトのAラインの総レースのもの。全体にバランスよく真珠が施されている。
やっぱり、めちゃくちゃ高価なもの。
なんと、いっくんのお義父さん、東条グループ会長からのプレゼント!
つまり、あれだけ試着したドレスは選べなかった·····
そのお義父さんお義母さんは、今日の式には仕事の都合で、参列できないと言われた時は、認められてないのかと、不安とショックだったけど、その代わりにと渡されたこの生地を見て、始めは安心した。落ち着くと生地の豪華さを理解して恐れ多かった。
いっくんは自分がプレゼントするから、ダメだと猛反対するのを、宥めるのに大変だった。
·····最終、キスしてその後を誘ったら、直ぐ聞いてくれた·····チョロかった。
しばらくこの手でいけると確信した。
ホテルで『一番初めに見るのは俺だ』と言い張って、着替えが終わるのを扉の前で仁王立ちで待っていた。
いっくんに披露したら、『なんで·····美しすぎる。やっぱり誰にも見せたくない!披露宴だけみんなと会って、式は2人だけでする!』などと訳の分からないことを言い出して、竜くんに思いっきりしばかれていた·····式の直前なのに。
式にはごく親しい人達だけを招待した。
桜樹さんと奥様の芹香さん(クールビューティーだけどとてもチャーミングな人!)を始め、
佐々木部長、奥様。 果耶さん。カフェの仲間。
竜くん。
ちなみに佐々木部長と奥様とは、会社での関係は無くなったから、本当の親子の様な距離感になり、月に2~3回は買い物に行ったり、食事をしたりしている。
たまにいっくんも来るけど、親子水入らずの方がいいだろうと気遣ってくれてる。本当にいっくんは優しい。(いっくん談☆本当はココの傍にいたいけど、ちょっとは余裕のある男というイメージも維持させないといけないからな。佐々木部長達がいれば、ココに寄って来る奴は排除してもらえるとわかってるし!)
果耶さんともあれ以来、仲良くなった·····事になってる。
記憶が無いままの私として、彼女とこれからもいるつもり。
もちろん彼女はいい子で信用できるけど、色々な話が誰か第三者に広がったりしたら、東条グループを落とし入れようとする人間に利用される可能性もある。
私自身も章也の事を話したくなかったから。
新しく友達になった体でも、凄く話が合うし楽しいし、何より気を遣わない──また親友になれた。
アルバイトの堤くんは詳しい事はわからず、雇われで私の情報を章也に渡していたらしい。でもカフェでみんなと仲良くなる内に、罪悪感に駆られどう章也に辞めると言おうか考えていたらしい。
学費の為に先にまとまったお金を受け取っていたから、直ぐに言えなかったとも。
その事情を知った桜樹さんは、店長やチーフから人柄を聞いていて、カフェでバイトを続けて学校での成績が学年で10番以内をキープできていれば、東条グループへの入社を約束すると言ってもらえたらしい。
彼は素直で気が利く人だから認めてもらえたんだと思う。良かった。
(桜樹談☆松野章也の存在を知っている人物を野放しにしておくわけにはいかない。万が一あの男の行方を知りたがる人間が出てきたら面倒な事にもなりかねない。近くに置いといて損はない。頭もいいようだし、人を惹きつける魅力を持っているようだから)
そして披露宴は───
大々的には日本で、1,000人ほどの招待客の挙式が待っている。
今から考えるだけで胃が痛む。
でも、それがいっくんと生きていくということ。
芹香さんが私もそうだったから、ゆっくり学んでいきましょうね、と言ってくれて少しほっとした。
そして神様の前で誓い合った。
いっくんの顔が近づいてきて、目を瞑る。
優しく触れた唇が暖かくて幸せで·····
「んっ·····んん·····!」
いっくんは何を思ったか離してくれず、深く深く口づけてきて·····
神父様に呆れられていた。
みんなが、やれやれとまたかという雰囲気も気にすることもなく
「愛してる、もう一生離さない」
と甘く優しく囁いてくれた。
「はい·····離れないわ。私も、愛している」
もう一度キスをした。
とても幸せ。
とても幸せだ。
愛しいココがいてくれれば。
愛しいいっくんがいれば。
記憶を失くしたけれど、失くしたからこそ、本当に愛してくれ愛する人を得られました。




