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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第23章 ラテニア侵攻 後編

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第830話 凶弾


 光の使徒を引き受けるといって前に出る影治。

 それを受けて前に出るのは、戦乙女アメリアと鋼鉄の乙女カタリナの前衛2人。

 この一帯にはセルマの【常闇】が放たれていた筈だが、すでに受けたダメージも追加効果で盲目になっていた者も治癒を終えている。


 何と言ってもこの場には光魔術の使い手が多い。

 この場にいる6人の光の使徒は、程度の差はあるが全員が光魔術の使い手だ。

 光槌将軍アスドルバルもクラスⅩの光魔術の使い手であるし、彼の配下である神官戦士軍団にも光魔術の使い手が多い。

 だからこそ、強力な災厄級魔術を食らっても早い内に立て直す事が出来ていた。


「ガッチガチの金属装備か。これまであんま戦った事がないタイプだな」


 これまで大陸南部で戦ってきたという事もあり、がっちりとした金属鎧を身に付けている者は少なかった。

 冒険者などで偶に見かけたとしても、敵として立ちはだかる事がほとんどない。


「お前が水色の悪魔か。ルクルの仇を取らせてもらうぞ」


「はんっ! 好き勝手抜かしやがる。先に殺しに来たのはてめぇらの方だろうが。自分達は何をしても良いなんて妄信してるお前らが、『仇を取るなんて』なんて口にすんな」


「口を閉ざせ、この水色の悪魔が! 私達は何をしてもいいだなどと思っていない! マルティネ様の御為を思って行動しているだけだ!」


「はぁぁ、やっぱ狂信者とは話が通じねえな。同じ言語を話してる筈なのに、どうしてお前らはそうなんだ。そのマルティネ様が力のない女子供を殺せって言ったら、喜んで殺して回るのがお前らじゃねえか。自分で思考する能力がねえなら、人間なんてやめちまえ。人間様の振りをするな」


 問答無用で襲い掛かるのではなく、煽りにかかる影治。

 その間に、周りにいる仲間達に足りていない防御魔術や補助魔術をこっそり掛けていく。


 リュシェル達も合流前にはしっかり準備は整えてきただろうが、影治にしか使えない高位魔術も幾つかある。

 今回は光魔術の使い手が敵に多いので、クラスⅨの【光耐性大強化】を全員に。

 他にもクラスⅨ無属性魔術の【魔術抵抗大強化】や、クラスⅨ神聖魔術の【霊体強化】など、煽っている間にも次々に仲間にバフを盛っていく。


「落ち着きなさいカタリナ。今そうして話している間にも、魔術で味方を強化していますわ。そのような隙を与えてはなりません」


「おのれ、卑怯ものが!」


 復活の聖女ライザの指摘に、ようやく自分が相手の意図に乗せられていた事に気づき、怒りの声を上げる。

 そこからは有無を言わさず前に出て、アメリアと2人で影治に襲い掛かった。

 確保できた時間は短かったが、最大9つの同時詠唱が可能な影治は、その短い間に粗方仲間への支援魔術を終えていた。


 大剣を軽々と振り回してくるアメリアと、剣と盾を巧みに操るカタリナ。

 アメリアの方は一般的な前衛同様に闘気術を使っているのだが、カタリナは光輝の戦士の魔法で強化されているので、一般的な前衛とは細かな違いが幾つかある。


 例えば闘気術であれば、気合を入れて一時的に体の一部や武器に闘気を集めることで、瞬間的に攻撃力を高める事が可能だ。

 だが無属性魔術の【身体強化】、【身体大強化】などでは常に出力は一定である。

 これは魔法とは言え、同じ身体強化効果のある光輝の戦士も同じだった。


 他にも闘気術とは違い、一定の魔力消費と引き換えに身体を強化するので、長期戦においては無属性魔術の強化の方が優秀だ。

 ただし通常の魔術での身体強化は、闘気術より強化率が低い。

 だがそれも魔法にまで昇華させた光輝の戦士ともなれば話は別だ。

 カタリナの使う光輝の戦士の魔法は、【身体大強化】より更に強化率が高い。


「死んで、【至高なる光】」


「我の炎で焼け死ぬがいい。【轟火球】」


「悪よ滅びなさい。【白雷】」


 光の使徒の前衛2人と戦う影治の下に、後衛の使徒からも魔術が放たれた。

 魔法ではなく魔術が飛んでくる事に、影治は内心でほっとする。

 かつて戦った光の使徒は、同士討ちを気にせず味方諸共魔法を放ってきた。

 今回は近くに同じ仲間の使徒がいるし、四将軍など身分の高い者も多いせいか、先ほどアンデッドを殲滅していた魔法を使ってくる様子がない。


 ひとりだけ火魔術を放ってくる使徒もいたが、光魔術や神聖魔術であれば例えクラスⅩの魔術であろうと、影治にはあまりダメージが入らない。

 それは魔法でも同じだ。

 だが幾ら防御魔術を掛けたからといって、仲間達があの魔法を食らうのはマズイ。

 特に悪魔のセルマは致命的なダメージを受けてしまう。


「使徒の数は全部で6人。まずは定番の3点セットから行ってみるか。【肉体侵食】」


「ぐぅ、貴様……我に何をした!」


「むっ? 意外と抵抗されているな。【魂への浸食】」


 まずは浸食シリーズを掛けた影治だったが、どちらも半数近くにしか効果がなかった。

 ひとりひとりに多重で重ねて発動するのではなく、6人同時に1つずつ掛けたせいもあるのだろうが、魔術抵抗がやたらと高い。

 だが最後に使用した【死毒】は、ひとりを除いて全員に効果があった。


「うっ、く……【爽癒】」


「……爽癒では完全に癒せないよう……ね……」


 影治のいつもの3点セットは、光の使徒にも十分効果を発揮した。

 全員にきっちりかかった訳ではないが、魔術で癒す事が出来ないならこのまま戦い続ければ、いずれ決着がつく。


「マルティネ様。わたくし達に救いの御手を」


 ……そう思っていた影治であったが、シモンがマルティネに祈りを捧げると、途端に光の使徒全員から白い光りが立ち上り、全員の状態異常を解除した。


「チッ、しゃらくせえ」


 その後も影治は何度か3点セットでの継続ダメージを狙ったが、その度に解除されるので戦い方を変える事にした。

 影治の敵は何も光の使徒だけではない。

 帝国側からすると、この場で一番倒しておきたい相手は影治だ。


 召喚したアンデッドや仲間が周りの連中を抑えてくれているが、中には隙をついて影治へ攻撃をしかける者もいる。

 そうした妨害もあって、影治も攻めあぐねていたのだが、積極的に攻めないのにも理由があった。


(あんま刺激してマルティネに降臨されたら面倒だからな)


 影治としては、自分が光の使徒を引き付けている間に、周りの連中を片づけてもらいたかった。

 そうして邪魔がいなくなった所で仲間達に離れるように告げて、本格的に光の使徒たちと向き合う。


 ……その、つもりだった。


「……あ?」


 光の使徒をまとめて相手取る影治だったが、前述のような理由で本格的に追い詰めるような攻撃はしていなかった。

 寧ろ使徒を相手にしながらも、寧ろ周囲の戦況の方に注意を向けている。


 四宮流古武術真伝、心眼。

 それは音知や風知などの、感覚を強化させる技術の極致にある、理を踏み外した領域にある奥義。

 それは魔法などが存在しないとされていた前世においても、目を閉じていながら周囲の地形や生物などを知覚する事が出来た、達人とか仙人の領域の技だ。


 そして異世界に転生した影治は、そこに闘気技のように闘気や魔力といったファンタジーな要素を組み込むことで、更に心眼による探知能力の精度と範囲を広げる事に成功した。


 通常時はともかく、戦闘時になると影治は常にこの心眼を発動させている。

 例え格下相手であろうと、侮ることはない。

 その為、例え姿や臭い。気配を完全に消して近づこうとも影治には確実に探知されてしまうし、転移の呪符などで背後に突然転移されてもすぐに反応する事が出来る。


 だがそれは、自分自身に向けられた攻撃に対してだけの話だ。

 光の使徒や周辺の敵から狙われている状況で、同じく敵と対峙している仲間に迫る攻撃までを咄嗟にカバーすることまでは出来ない。

 出来なかった。


「シャウ……ラ……?」


 不意に、心眼で捉えていたシャウラの生命反応が途絶えた。

 反射的に視線を送った先では、受け身を取る事もなく顔から前に倒れていくシャウラの姿が映る。


 バチャッ、と湿った地面に倒れた時の音が、妙に他人事のように影治の耳に届く。

 地面に倒れたシャウラには、特にこれといった外傷は見当たらない。


 それも当然だ。

 闘装術を発動していたシャウラに、まともにダメージを通すのも難しい。

 前衛共通の悩みである対攻撃魔術に関しても、これまでM式訓練を続けてきたので、他の一般的な獣人の前衛よりは魔術攻撃に強くなっている。


 ……それなのに、地面に倒れたシャウラはピクリとも動く事はなかった。


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