第823話 内輪話
【千骸行軍】のおかげで、想定よりも早くアンデッド軍団の生成を終わらせた影治。
ヴェリアスが軍を引き連れて戻って来るまでまだ時間があるという事で、エリーと話をすることになった。
転生者同士の話という事で、余人を交えず遮音の香炉を使って2人きりでの話となる。
「まず1つ確認したいんだけど、影治がこっちの世界に転生したのっていつの事なのかしら? ちなみに私は500年ほど前の生まれよ」
「そりゃあ大先輩だな。俺はまだ6年……もうそろそろ7年ってところだ」
「やっぱりそうなのね。たった数年でそこまで力を付けるなんて、一体どういうからくりなのよ?」
「それに答える前に1つ質問だが、お前は俺以外の転生者と会った事はあるのか?」
「勿論あるわよ。これまで4人……影治で5人目ね」
流石に500年以上生きてるだけあって、これまで転生者とも会った事があるらしい。
環大陸にいるマリナを除けば、影治の知る中で最も転生者と接した事があるという事だ。
「ならちょっとは分かるんじゃあねえか? 俺もお前の他に転生者を2人知ってるけど、そいつらも割と短期間の間にそれなりの強さにはなってたみたいだぜ。最初にポイントを振り分けられる分、この世界の一般的な奴らよりは恵まれてるって訳だ」
「それは確かにそうかもしれないけど、数年で影治ほどの力を身に付けるなんてのは異常よ。そもそも転生時の種族選択に、天使系の種族なんてなかったと思うんだけど?」
「そりゃあ初期ポイントの差って奴だな。他に転生者と会ってるなら、皆初期ポイントがバラバラだった事くらいは聞いてるだろ? 種族にせよスキルにせよ、ポイントがないと選択肢にも表示されねえからな」
「つまり、影治は相当初期ポイントが高かったって訳ね。それなら納得できなくもないわね。あのポイント振り分けはその後の異世界での人生を大きく左右するもの。特に私の考えでは、幾つかあった項目の中でも種族が最も重要だったと今は思っているわ」
「それは同感だ。スキルの方にも鑑定とか気になるもんはあったが、俺も種族にほぼ全振りしてよかったと思ってる」
「……鑑定スキルが実在するの?」
「存在はしているだろうが、恐らく所有者はいねえ。だから実在してるかって言うと微妙なとこだな」
影治が選択したマギセラフという最強種族ですら320ものポイントが必要だったが、鑑定は300ポイントも必要としていた。
転生後にステータスなどを気軽に見れる世界でない事を知るので、転生前の時点では鑑定というのがどこまで有用かも判別出来ない。
そんな状態で鑑定を選ぶのはリスキーだし、そもそも300ポイントも初期ポイントを持つ者はほとんどいないと思われる。
「他にもポイントの高いスキルは幾つもあったが、どうも俺は釣りあいが取れてるとは思えねえな。俺の仲間は進化してる奴ばかりなんだが、それを見てもやっぱ種族は大事だと思うぜ」
「そうね。でも中にはヒューマンという必要ポイントがいらない種族を選んで、戦闘スキルや魔術に振るのでもなく、ただの技術にポイントを割り振った人もいるのよ」
100年程前にカベリアに現れた転生者は、初期ポイントが40にも満たなかったという。
また前世ではゲームやらファンタジー小説などに触れた事もなく、サブカルチャーにも疎かった。
そんな彼女は何の疑問も抱かずにヒューマンを選び、裁縫やら調剤やら彫金やらの技術にポイントを振ったらしい。
そしてそれらの技術を活かし、どうにか見知らぬ異世界で生活をしていた所に、ビュクロスの土産物屋で日本テイストのおみやげを発見し、エリーと接触を取った。
以降はエリーの庇護を受け、寿命で亡くなるまで比較的穏やかな生涯を過ごしたと言う。
「そうか……。そういう生き方もあるんだな」
影治の場合、そもそも前世の日本での暮らしが世間離れしすぎている。
虐待のレベルを超えた、命の取り合いのような四宮流の教えを幼い頃から受け、挙句にひとりで無人島生活を送ることになった。
そんな影治に、平凡な生活を送る事など土台無理な話というもの。
「まあでも他の連中は、選んだ種族の事もあって一廉の人物に成長していたわね。遠藤の奴は戦闘をメインにしてない割に強くなっちゃって、ブロマシア大陸に渡っていっちゃったし、風間もすっかりヴォーギルの重鎮に収まっちゃったし」
「ん? 風間ってのはもしかしてワイルの事か?」
「そうよ。もう大分前に1度直接会った事があるのよ」
「んん? ワイルからそんな話は聞いてねえぞ。転生者に会ったのも、俺が初めてだって言ってたんだが……」
改めてあの時話したことを思い出してみるが、やはりワイルからは他の転生者と直接面識があったとは聞いていなかった。
「あら、律儀に約束を守ってくれているのね」
「約束?」
「例え転生者相手でも私の事を他言しないよう、約束しておいたのよ」
「それは例の呪言でか?」
「あれはそんな長期間効果が持続するものではないわよ。呪いにせよ、契約の魔導具にせよ、流石に100年単位で持続するものなんて極一部の迷宮遺物くらいね。ワイルにはそうしたものも使ってないし、義理堅いだけなんじゃないかしら」
しれっとエリーはそう言ってのけるが、実際は当時ワイルと話をした時に、しこたま脅していたことが原因だった。
ワイルも既にそれなりの力を持っていたが、500年前から生きているエリーに敵う筈もなく、その時の話し合いはワイルにとって軽いトラウマだ。
その後も影治とエリーは転生者について話を続けた。
遠藤という転生者が、シャルネイア中を渡り歩いて完成させた究極のカレーの話や、同じラテニアに現れた転生者と敵対する事になった話など、幾つかの話をされた。
影治からは、ヨイチの話とヨイチから聞いた環大陸の話などを中心に話していった。
この後リュシェル達とは合流するので、その時にヨイチと顔を合わす事になる。
なのでその前に事前に紹介しておこうという目論見だ。
そうした転生者に関する話が終わると、今度はこの世界に関する秘密や謎などについての話から、現在のシャルネイアの状況についての話など、話題は多岐に渡った。
途中からは魔導具をオフにして、カレンやセルマなども交えての話になり、ヴェリアス達が戻って来るまでの時間を共に過ごす事となる。
「ぴぃぴぃ! ぴぴぃ!」
「何言ってるのか分からない。ピカピカ光るしか取り柄がない駄鳥はこれだからダメね」
「ぴぴ!? ぴぴぃぃぃ!!」
基本誰からも好かれるピー助は、エリーのお供であるラリィとは相性が悪く、この数日の間に何度も小競り合いを繰り返していた。
ラリィは相変わらず感情を感じさせない振る舞いで、見た目鳥のピー助の方がよっぽど見ていて感情豊かに見える。
「またケンカしてるわね」
「ピー助も普段はこんな過敏に反応しねえんだけどなあ」
飼い主? である影治とエリーが見つめる中、ピー助とラリィの言葉が通じてるかも分からないやり取りが繰り返される。
「ちょっとよろしいですか、ラリィ様。ピー助様はただ光るだけが取り柄の、くいしんぼ鳥などではありませんわ」
「くいしんぼとまでは言ってない」
そこに上位精霊であるピー助を崇めるカレンが混じると、更に話が妙な方向に流れる事も多い。
だがカレンとしても、ピー助だけを依怙贔屓することは出来なかった。
何故なら、ラリィもまた上位精霊だからである。
「やっぱ光の上位精霊と闇の上位精霊っていうのが、ダメなのかしらね」
「天使である俺と悪魔のセルマとでは、反対属性だからって反発しあうこともねえんだけどな」
「グィィ……グィ」
「ま、そうだな。チェスの言うように、属性の事も関係してるかもしんねえが、あれは多分2人の元々の性格なんだろうな」
或いは精霊という属性の影響が強い特殊な種族だけに、互いに何か感じる部分があるのかもしれない。
だが互いに攻撃魔術を撃ち合っての争いに発展する程でもないので、影治達も暖かく見守っている感じである。
「私としては、そこのチェスという箱も興味が尽きないわね。箱型の収納魔導具ならごまんとあるけど、そこまで自意識を持ったのは初めてみたわ。ミミックの親戚なのかしら?」
「グ、グィィッ!?」
「おいおい、いきなり抱きかかえるのはやめてくれ。チェスが困惑してんだろうが」
「影治はこの子と意志疎通が出来てるのよね? それって魔獣術を基にしてるのかしら? それとも魔石術?」
一時は影治がエリーの腕を切断するなどといった場面はあったが、腕を切られた本人が余り気にしていない事もあって、割と打ち解けることが出来ていた。
この翌日にはリュシェル達との合流も果たし、互いに状況の確認を行っている。
そうして数日が過ぎた頃、ようやく急遽編成したラテニア兵を率いたヴェリアス達が、地平線に姿を現した。




