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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第23章 ラテニア侵攻 後編

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第821話 集団アンデッド化魔術


「よし、いけそうだ」


「ようやく戻ってきたわね。いけそうって言うのは集団アンデッド化魔術を開発したという事かしら?」


「ああ、いや。すでにこの魔術は誰かが開発済だったようだな。だから開発じゃなくて発掘だ」


「……発掘にしたってあんな短時間で出来るようなものではないと思うんだけど。普通は資料なりを集めて十分に研究してから行うものでしょ」


「エイジは普通ではありませんからね」


 疑問に思うエリーに、他人事ながら得意気に語るカレン。

 エリーもこの短時間に影治の規格外な所を見ているので、特に根拠のないカレンの物言いにも納得してしまう。

 それは思考停止してるだけとも言えるが、余り自分と比べてしまうのも劣等感に苛まれてしまうので、ある種の防衛反応なのかもしれない。


「それって誉め言葉になってねえ気がすんだよなあ。まあ、いい。早速試してみよう……【屍踊(しかばねおど)り】」


 影治が新たに発掘した死霊魔術を発動させると、1度に10体のアンデッドが生成された。

 しかしこれまで生成してきたアンデッドと大きく異なる点がある。


「ねえ、なんか弱っちいのばかりじゃない?」


 エリーは別段アンデッドに詳しい訳でもないが、この世界で数百年以上生きているのでアンデッドとの戦闘経験も豊富だ。

 だが別にそんなエリーでなくとも、生成されたアンデッドを見れば弱そうなのはすぐ分かる。

 ゾンビやスケルトンなど、脅威度ⅠからⅢ程度のアンデッドしかいなかったからだ。


「まあな。屍踊りは下位不死者生成の拡張版だ。1度の魔術使用で最低10体から最高で100体まで生成出来るようだ。まあ、下位不死者のは数はいらないから10に留めておいた」


 魔術の開発や発掘というのはそう簡単に行えるものではないが、それでも開発しようとするクラスによって難度が異なる事は知られている。

 元々一般に伝わっている魔術が少ない高位魔術などは、だからこそ余計に修得するのが難しい。

 すでに知っている人から教わるなり、秘伝の魔術書で試行錯誤を繰り返したりと、相当な時間が必要となるだろう。


 だが低クラスの魔術であれば、構成がそこまで複雑になる事もないので、まだ開発しやすい。

 またそうして基本となる低位の魔術を開発できれば、それを基にして威力などを向上させた上位版の魔術の開発もしやすくなる。

 影治がまず【屍踊り】を開発したのも、そういった理由からだ。


「んで、こいつを基に今度は中位不死者生成を……」


 またブツブツと言いながら集中モードに入った影治だが、今度は10分ほどで戻ってきた。

 いくら同系統の魔術とはいえ、魔術を発掘するには早すぎる時間だ。


「ええと、これも既に名前がついてんのか。俺が言うのもなんだが、そんなに沢山アンデッドと契約出来る奴なんて、そうそういねえと思うんだがなあ」


「でも数十体程度、優れた死霊魔術師なら操れると思いますから、咄嗟にアンデッドを量産したい時には十分使えるのではないでしょうか」


「あー、まあそうか。1度に100体いけるからって、無理して最大数作らなくてもいいんだからな。俺もまた10体だけにしておこう。【屍魂(しこん)の宴】」


 あっさりと【中位不死者生成】の拡張版である、【屍魂の宴】の発掘にも成功した影治。

 この魔術で生成されたのは、脅威度Ⅳ~Ⅵのアンデッド達だ。


「……その魔術でも十分脅威的なんだけど、影治の場合更にもう1段階上があるのよね」


「おう。これまでは序の口、次が本番よ」


 そう言って再び集中モードに入る影治。

 しかし今度は10分経っても20分経っても集中が解けない。


「なかなか戻ってこないわね」


「そうですわね。いつになるか分かりませんので、私は夕食の準備をしてきますわ」


「それなら私もお手伝いしましょう」


 すでに辺りはすっかり暗くなっている。

 時間的にはまだそこまで遅くないのだが、冬のこの時期は日が落ちるのも早い。

 エリーとしてもこんな死体塗れの場所からはすぐに離れたいと思っているのだが、あの要注意人物である影治の傍をそう易々と離れる訳にはいかなかった。

 しかも今影治は死霊魔術を開発している最中なのだ。


 元々影治は邪竜を退治する個としての強さと、デュレイス軍を殲滅したアンデッド軍団を支配する群れとしての強さと、2つの強さで知られていた。

 その強さのうちの片方を間近で見る機会など、そうそう得られるものではない。


 そうして待ち続けるエリーの前で、ひたすら集中を続けること1時間。

 最初の【屍踊り】の倍の時間が経過してもなお、影治に反応が見られなかった。


「夕食の用意が出来ましたわ……って、まだ戻っていないのですか?」


「見ての通りよ。よくこんな環境で集中してられるわね」


 魔術の開発は手先を使って何かするというものでもないので、周囲が真っ暗でも行えないということはない。

 だが死臭の漂う中で集中しつづけるのは、エリーには出来そうになかった。


「ぬうううううん! ダメだこりゃ!」


 とここでようやく影治の集中モードが解ける。

 【屍踊り】、【屍魂の宴】とトントン拍子に魔術の発掘に成功してきた影治だったが、どうやらここで詰まってしまったらしい。


「余り根をつめてもダメな時はダメですわ。今日はもう夕食を取って早めに休みましょう」


「そうするか」


 結局この日はここで作業は一旦中断。

 カレン達が整地した場所で、夕食を取って休むことになった。

 臭いを遮る結界の魔導具も使用してあるので、野営地には不快な臭いも届かない。








「よし、今日もせっせとアンデッド生成に勤しむか!」


 朝食を終えた影治はそう言うと早速作業に取り掛かる。

 だがそこに待ったをかける人物がいた。


「ちょっと、魔術の開発はどうしたのよ。上位不死者生成とやらの拡張版を開発するんじゃなかったの?」


 エリーは影治と同じく、魔言伝授を用いなくても詠唱を聞けば一発で聞き取ることが出来る。

 詠唱出来るからといって死霊魔術が使える訳はないが、他のこれまで覚えてきた魔術に関しては修得するのに楽が出来た。

 これは転生者共通の特典でもある。


「あー、あれはダメだ。かといって屍魂の宴だと質が下がるから、仕方なく最初やってたように上位不死者生成で地道に増やしてく」


 上位不死者生成では、最低でも脅威度Ⅵ。

 最高で脅威度Ⅸまでのアンデッドが生成される。

 昨日その場面を何度も目撃していたエリーは、改めて影治の脅威を実感していた。


「そう。まあヴェル達が戻ってくるまでまだ時間はあるでしょうから、ゆっくりでも別に構わないけど」


 ただそうなると、今日は一々ついて回る事もないかと、クゥやラリィと一緒にエリーは野営地で時間を潰す事にした。

 カレン達も影治に付き従う訳でもなく、何やら攻撃魔術を互いに打ち合うというとんでもない訓練を始めた。


「さあ、悶え苦しみなさい! 【黒霧】!!」


「その程度でやられる訳にはいきませんわ! 【白光】」


「……あれって神聖魔術と暗黒魔術よね? 天使と悪魔が互いに弱点属性を撃ち合うって、ちょっとあれ止めなくて大丈夫なの?」


「問題ないよ。あれでも事前に耐性魔術を掛けてあるからね」


 エリーも神聖魔術や暗黒魔術には詳しくないのか、使用されているのが具体的にどのクラスなのかは分からない。

 ただ魔力的には恐らくクラスⅤ前後だろうと予想している。


 影治やその仲間であれば、クラスⅤの魔術くらいなら直撃しても死ぬことはないだろう。

 だが弱点属性ともなればクラスⅤでも相当なダメージが入るはず。

 耐性魔術でどれだけ軽減出来てるかは不明だが、両者共に魔術を受けた際は辛そうな表情を浮かべているので、それなりにダメージを受けていそうに見える。


「くぅ、ホント忌々しいですね!」


「それはこちらのセリフですわ!」


 互いに魔術を撃ち合った後は、治癒の魔導具で回復させてから、再び魔術を撃ち合う。

 エリーからするとドン引きのこの訓練だが、これも弱点を少しでも減らす為である。

 能力的に優れている天使や悪魔の一番の欠点と言えば、弱点属性が存在するという所だ。

 それもちょっとやそっとどころの弱点ではない。

 2人の被弾した時の様子から分かるように、自分とは正反対の属性によるダメージはかなり深刻なダメージを齎す。


「あんな感じで、ダメージを受けたらその都度回復してるからね」


「……どうやらおかしいのは影治だけではないようね」


 ウルザミィからするといつもの光景なのだが、エリーからは奇異に映る。

 エリーも魔術攻撃を受けることで、その属性の熟練度を強化する訓練法については聞いた事があった。

 だがそれでも、あんな激しい実戦みたいな訓練をやっている奴は、初めて見る。


「【上位不死者生成】、【上位不死者生成】……」


 一方影治はその頃ただひとり、野営地から少し離れた場所で延々とアンデッドを生成していた。


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