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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第23章 ラテニア侵攻 後編

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第818話 生き残りゼロ


「エリー姉はどう思った?」


「何よ突然」


「エイジも転生者なんだろう? 何か思う事があるんじゃないかと思ってね」


 3つのチームに分かれたエリー達は、敵部隊の左側面上空に待機している。

 当然地上の部隊からも発見されて騒ぎになっているが、距離を十分取っているので攻撃が届く事はない。

 そんな安全な上空で、ヴェリアスは緊張をほぐすかのように話を振る。


「……確かに転生者は珍しいけど、影治の場合は転生者かどうかより、他に色々気になる所がありすぎるわね」


「あの魔導車とかいう魔導具の事とか?」


「あれは転生者の発想としては別に誰でも浮かぶもので、特別に気になる事でもないわ。私がまず気になったのは使役している精霊の事ね。以前からの調査で光の上位精霊を使役しているのは知っていたし、最近になってレイミーから水の大精霊をも従えてるって報告は聞いてた」


「うん、僕も大精霊と会うなんて初めてだったよ」


「どちらか片方だけならまだしも、上位以上の精霊2体と契約してるというのがまずおかしい。たまたまそうした精霊を出会って契約したって可能性もあるけど、もしかしたら私なんかよりとんでもなく長生きしているって可能性もあるわね」


 精霊というのは、そう簡単に上位存在に進化する事はない。

 特に上位精霊への進化ともなれば、数百年単位となる。

 偶然上位精霊と大精霊2体に出会って契約したというよりは、影治が何百年も前に転生していると考えた方がまだ自然だ。


 何故なら偶然上位精霊と出会えたからといって、すぐ契約できるかというとそういう訳にもいかないからだ。

 寧ろ精霊術士としては、そうした最初から上位の精霊と契約するよりも、微精霊や下位精霊辺りから契約するものである。


「でもそれだと、選神碑やランキングストーンに矛盾が生じない?」


「……それもそうね。いつのころからか、突如として影治の名が選神碑や各種ランキングストーンに現れた。長命者ならばもっと昔からランキングされているはず。まあそういった、得体の知れない所が気になる点ね」


「その力で影治がこ――」


 2人が話している間に準備が整ったのか、空を飛ぶ影治達の方から離れていても感知できるほどの、膨大な魔力が放たれる。

 話の続きをしようとしていたヴェリアスも、その膨大な魔力を感知して途中で言葉が止まってしまう。


「うわ……何あれ……」


 大きく口を開け、驚きの表情のまま固まるヴェリアス。

 その視線の先では、広大な闇が発生していた。

 クラスⅡの闇魔術に【見通せぬ闇】という範囲攻撃魔術があるが、そんなものとは桁違いに規模が大きい。


「……あれは恐らく闇の超級魔術ね」


 若干上ずった声で、エリーがその正体を言い当てる。

 直径1キロほどの半球状に広がった闇は、数十秒ほど経過して幻だったかのように晴れていく。

 そうして視界が良く通るようになった場所には、騎乗している魔獣ごと倒れ込む帝国兵の姿があった。


「あれが……あれが超級魔術っ!?」


 ヴェリアスもドローズグの魔物暴走に関する報告は受けていたが、実際に超級魔術……災厄級魔術を目にするのはこれが初めてだった。

 その余りの威力を見て、大軍を相手にするというのに余裕があった影治達の事を、今更ながら納得する。


「多分今のは一緒にいた悪魔がやったものでしょうね。そして、あれが例の水の大精霊ね」


 驚くヴェリアスとは対照的に、淡々と眼前の出来事を語るエリーだが、内心では驚きや恐怖を抑えきれないでいる。

 闇の災厄級魔術と、水の災厄級魔術は同時には発動しておらず、最初の【常闇】の闇が晴れたのに合わせるかのように、次なる災厄が起こされた。


「あれは津波? ……いや、ただの津波じゃないぞ!?」


 ヴェリアスもエリーも、レイミーが使う【津波】を見た事がある。

 クラスⅩ魔術なだけあって、広範に効果を及ぼす特級攻撃魔術に相応しい大魔術だ。


 しかしウルザミィが発動させた【大津波】は、規模も威力も段違いである。

 先ほどの【常闇】は割とエリーたちのすぐ近く……帝国の左側を中心に放たれており、今度の【大津波】は逆に反対の右側を中心に発動されていた。

 その為少し距離があって見にくい部分はあるものの、それが広範囲にとんでもない数の兵士を巻き込んでいる事くらいはよく見える。


「そしてこれが……影治の魔術かしら」


 両サイドに放たれた災厄級魔術の後に、中央部には複数の隕石が落下し、あちらこちらにクレーターが出来上がる。

 【星堕とし】はインパクトの強さもあって、魔術師以外にもそれなりに知名度の高い魔術だ。


 といっても、実際にこの魔術を使える者は少ない。

 更にクラスⅩの魔術を同時に複数放てる者となると、皆無と言っていい。

 2つや3つならまだしも、影治が同時に落とした星の数は8つ。

 それは最低でも8つ同時に魔術を発動出来るという事である。 

 流石にここまで来ると伝説や神話レベルの話だ。


「こんなの……無茶苦茶すぎるでしょ……」


「…………」


 感情が抜け落ちたような声のヴェリアスに、エリーは無言で地上の惨劇を眺める。

 余りの強大な魔術を前に、テイム状態にあるクゥが恐怖を覚えている事がエリーにも伝わってきていた。


「……今の一連の魔術で、帝国兵1万以上は死んだみたい」


 ヴェリアスやエリーほど感情を表に出していないラリィも、心なしかいつもと比べると声に揺らぎがあるように聞こえる。

 そしてこの惨劇はこれで終わりではなかった。


 今ので1万以上もの帝国兵が即死していったが、まだまだ残っている敵兵は多い。

 その生き残りの兵に向けて、再び先ほどの闇と水と土の魔術の狂演が繰り広げられた。

 2度……3度……そして4度。


 ドローズグでのオークの魔物暴走の時とは異なり、なまじ街道沿いに部隊が集結していたことで、1つ1つの魔術による被害は大きかった。

 この4度の破滅的魔術コンボによって、帝国兵の大多数が物言わぬ躯と化した。


 次に影治は攻撃魔術ではなく、ただの明るい光球を打ち上げる。

 クラスⅠの【光球】を複数同時に発動したのか、ひと際強い光を放つ光球だ。


「合図だ。残った連中を片づけるよ」


 作戦開始前に、影治が派手にぶちまけた後に合図を送るといった事を思い出したエリーは、テイムによって生じた魔力のラインを通じ、クゥに指示を与える。

 指示を受け取ったクゥは、契約主の思うがままに戦場に近づき、ブレスを吐き散らす。

 反対側では、【飛行】の効果のある呪符で空を飛んでいるレイミーやピー助達が、同じように右手側から生き残っている帝国兵に慈悲無きトドメを刺していく。


 その戦闘行為と言うよりはゴミを処理をしているかのような行動の間、終始ヴェリアス達は無言だった。

 まだ生き残っている集団に、【炎の嵐】叩き付けるという作業を機械的に繰り返す。

 

 5万以上もの大軍が、ほんの1時間もしない内に壊滅する。

 改めて戦場を見てみると、【常闇】中心の左側と比べて中央と右側の荒れ具合が酷い。


 中央は影治の【星堕とし】によって、あちらこちらにクレーターが出来ているし、右側はウルザミィの【大津波】によってぐちゃぐちゃに荒らされている。

 ただし【津波】や【大津波】は、一時的に魔力を水に変えて生み出したものなので、大量の水が残ると言うことはない。


 その後、ある程度残党狩りを挟んだヴェリアス達は、影治やレイミー達と合流する。

 これまで何度か影治と接した事のあるヴェリアスだったが、アレを見せられた後では声を掛けづらい。

 カレンと一緒に右側面から攻撃に参加していたレイミーも、ここまではおっとり刀で付いてきたが、まさかここまで影治達がやれるとは思っていなかった。

 彼女の影治に対する視線も、これまでとは若干異なっている。


「ちょっと後始末をしてくる」


 そんなヴェリアスの心情を察した訳でもないだろうが、一度全員が集合した後に、そう言って影治だけその場を離れる。

 何をするのかと注視していると、どうやら戦場跡をあちこち回っているようだった。

 時折悲鳴が聞こえてくるので、恐らくは生き残りを全て殺して回っているのだろう。


 このように泥に塗れためちゃくちゃな状況で、どのように生き残りを探して処分してるのかは分からない。

 分からないからこそ恐怖を覚える。

 一人も生きて返さないという影治のその行動は、まるで死神のようだった。


 そうして影治が生き残りを処分している間、集合したヴェリアス達は誰も口を開かないでいる。

 この沈黙は、影治が後始末を終えて戻ってくるまで続いた。


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