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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第22章 ラテニア侵攻 前編

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第811話 自業自得


「……っ」


 死ねの一言と共に殴りかかってきたシャウラの拳を、受け止めるのではなく直前で躱すワーヒドゥ。

 剣で斬りかかってきた相手の攻撃ですら、そのまま受ける事があるワーヒドゥにしては、初手から相手の攻撃を避けるのは珍しい。


「ふっ! はっ!」


 シャウラは続けて拳を放つ。

 どうにかしてそれを躱し続けるワーヒドゥだが、シャウラ程の相手の攻撃を捌き切るのは難しい。


「…………っ」


 単純に躱し続けるのではなく、ワーヒドゥの方からも攻撃を加えたりして牽制もしたのだが、最終的に初撃を加えたのはシャウラの方だった。


「……あまり効いてない感じがする」


 憎き帝国兵相手に手加減などするハズもなく、どてっ腹に穴を開けてやろうというつもりで放たれた拳は、しかし硬いものを殴っただけという感覚に終着する。

 その時若干ワーヒドゥの表情が崩れたが、大してダメージが入っていない事は明らかだ。


(この獣人。何か妙だ)


 普段無口なワーヒドゥも、心の中でまで何も考えていない訳ではない。

 シャウラとの僅かな殴り合いの中で感じ取った違和感について、忙しく思考を巡らせる。


(時折何百年も研鑽を重ねた動きを見せる時もあれば、隙や無駄な動きが混じる時もある。どうもチグハグだ)


 ワーヒドゥのこの感想は、同じ格闘家タイプの戦士であり、なおかつある程度以上の実力者であれば、感じ取れる類のものではある。

 だがどうしてそのような歪な仕上がりになっているかまでは、当てる事は出来ないだろう。


 これはまだ影治の教えを受けてから、数年しか経っていない事が原因である。

 ワーヒドゥは隙や無駄な動きと評しているが、それだってそんじょそこいらのベテランレベル以上の動きだ。

 格闘の使い手は少ないが、その辺の連中相手なら十分技術的にも勝てるレベルである。


「もういい。めんどいから本気でいく」


「ぬっ……」


 ワーヒドゥの防御力が厄介だと思ったシャウラは、いきなり闘装術を発動させる。

 ガンテツは闘気量の問題でやたら滅多には使えないが、気炎万丈のスキルを持つシャウラであれば、闘装術を発動したまま長時間戦う事も可能だ。


 闘気量に関しては、魔力量とは違って鍛錬によって伸ばすことが出来る。

 また魔物を倒していく事によって身体能力が向上すると共に、闘気量も増えていく。

 シャウラの場合、そこにスキルの効果向上も加わる。


 他のスキルでも大体そうなのだが、覚えたてのスキルと何度も使用を重ねたスキルとでは、効果に違いが出てくる。

 気炎万丈はパッシブスキルではあるが、その効果が発揮されるようになったのは影治の仲間に加わってからだ。


 それ以降、気炎万丈のスキルはかなりの成長を遂げている。

 気炎万丈のスキルは闘気の最大量を増やすだけでなく、魂から生み出される命気――闘気の量をも増大させる効果があるので、闘装術の負担もその分軽い。


「うっ……、くぅぅ!?」


 最初の殴り合いではそれなりにシャウラの攻撃を躱す事が出来ていたが、闘装術を発動した状態の攻撃は回避が間に合わないケースが増えた。

 元々ワーヒドゥの売りは鉄の皮膚による頑健な肉体と、怪力無双による圧倒的なパワーである。


 狼系の獣人であるシャウラは、どちらかというとパワーよりスピードの方が高い。

 それを闘装術で更に高めているので、ワーヒドゥはすっかりサンドバッグのようになっていた。


(速い……重い……。だが、これくらいならまだ耐えられる)


 パワーがあり、高い防御力とタフさを持つワーヒドゥは、まるでゴーレムのようでもある。

 魔物を倒した事による成長は、人によって割合が違う。

 基本的には、戦闘中によく使用している能力が成長しやすいと言われており、ワーヒドゥの場合は筋力と体力が人より多めの割合で成長していた。


「おまえ、かたすぎ! これでも食らえ、剛拳!」


「ふんぐっ!」


 ひと際強烈な一撃がワーヒドゥを襲う。

 四宮流古武術には柔法と剛法、それから更にその先に極法というものが存在するが、シャウラはその中の剛法を得意とする。


 先ほどシャウラの使用した剛拳は、力を全面に押し出した技法である剛法の、最も基本的な技のひとつだ。

 その効果は単純明快で、ただ全身の力を込めて殴る……それだけである。

 その威力のほどは、ワーヒドゥにしては珍しくガードした腕ごと、後方に吹っ飛ばされた程だった。


「……だめだ。こんなんじゃこいつは殺せない」


 ガードした腕の部分が打撲によって変色してはいたものの、骨にまで届くようなダメージはない。

 その後もシャウラは幾つか剛法の技を放つも、軽傷しか与える事が出来なかった。


(刃物すらはじき返す俺の肉体に、拳でこれほどまでのダメージを与えるとは……。だが、その威力の高さが仇になる)


 ここに来て、明らかにワーヒドゥが纏う闘気に変化が生じる。

 それは凝気術だとか硬気術だとかいった、闘気を操作するようなものではなく、もっと独特な動きだった。


 それを見たシャウラは警戒心をあらわにする。

 このような独特な闘気の動きは、大抵闘気技の前動作である事が多い。

 影治ですら未だに闘気技というものには警戒を抱く。

 それは四宮流古武術の真伝以上の技と同じく、闘気技には物理法則だのを超越した、理外の力が働くことがあるからだ。


「でもかんけいない。これなら通じる……筈ッ!」


 ワーヒドゥの動きに注意を払いながらも、シャウラも闘気技の発動態勢に入る。

 これまではシャウラが使用する攻撃の技といえば、影治に教わった四宮流古武術の技を基本としてきた。

 それとは別に闘気の修行もこなしているが、それは主に硬気術や闘装術などの闘気を操作したりする系統が主だ。


 だがそんなシャウラにも、攻撃用の闘気技が1つあった。

 これまで余り使う事がなかった技である。

 ワーヒドゥもシャウラの闘気の動きに気づき、未だ周囲からは騒がしい戦闘音が聞こえてくる中、2人はただジッと構えながら極度の緊張に包まれていく。


「血反吐ぶちまけろ! シントーケー!!」


「……自業自得」


 前衛系の戦士であれば、ハイメタルの冒険者くらいになると闘気術を扱えるようになっていき、レアメタルくらいまでいくと各々独自の闘気技を持ち始めるものだ。

 そして闘気技の所有者同士の戦いでは、時にこのように互いの持つ闘気技をぶつけ合う事もままある。


 魔術とは違って態々技名を叫ぶ必要はないが、シャウラは気分的に声に出すタイプだ。

 こういった個々人の感覚は結構重要で、声を出すことによって精度や威力が上がる事もある。


 対してワーヒドゥは普段無口な事からも分かるように、基本的に戦闘中に言葉を発したりしないし、技名を叫んだりもしない。

 だが闘気技である「自業自得」を使用する時だけは、技名を口にする。


(さあ来い。俺の防御力の高さを目にした奴は、大抵が一撃必殺の闘気技を繰り出してくる。だがそれこそが俺の狙いだ!)


 互いに闘気技の発動態勢に入り、ワーヒドゥは極度の集中の中で、まるで周囲の時間がゆっくり流れているように感じていた。

 それはワーヒドゥと対しているシャウラも同様で、いわゆる2人ともゾーン状態に突入していた。


 そのゆっくりと感じられる時間の中、ワーヒドゥは己の発動した闘気技の効果が全身に及ぶのを知覚する。

 自業自得は、闘気技としては珍しいカウンター技。

 それも斬撃、打撃、刺突などによる物理攻撃を、そのまま攻撃してきた相手に跳ね返すという完全カウンター技であった。


 どちらかというと、この世界には技術やスピードよりも、パワー重視の戦士の方が多い。

 これまでワーヒドゥが戦ってきた相手にもそういったタイプは多く、そういった相手にはこのカウンター技は絶大の効果を発揮する。


 相手を攻撃している瞬間というのは、しっかりとした防御も出来ない無防備な状態という事であり、そんな状態で自身の最大の攻撃がそのまま返ってくるのだから、食らう側はたまったものではない。

 しかも自業自得の効果で、ワーヒドゥには軽い衝撃程度のダメージしか通らず、一方的に相手が自滅する。

 だからこそ、自業自得という名が付けられた。


 極限まで圧縮された時の中で、ようやくシャウラの放った拳がワーヒドゥの腹部に届く。

 思っていた以上にシャウラの拳に纏った闘気の量が少ないことに、若干の違和感を覚えたワーヒドゥであったが、それでもこれまでの攻撃と比べたらかなりの闘気が込められている。


 確かにこの獣人はパワーもスピードも兼ね備えてはいるが、自分(ワーヒドゥ)のようなタフさや頑丈さまでは持っていないだろう。

 必殺の攻撃を丸々跳ね返され大きなダメージを負っている所に、もう1つの闘気技「爆砕拳」でトドメを刺す。

 強力な闘気技を使ってくるような強敵相手の、ワーヒドゥの必勝パターンであった。


 思わず微かに口の端が上がり、薄っすらと笑みを浮かべるワーヒドゥ。

 腹部にはとてもあのような強烈な威力を齎したとは思えないほどの、小さな拳の感触が伝わってくる。

 その瞬間、カウンター技の自業自得が発動した。


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