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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第22章 ラテニア侵攻 前編

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第812話 シントーケー


「ぶほぁぁっ!!」


 シャウラの拳がワーヒドゥの腹部にめり込む。

 特に意識もせず一般人が人を殴った場合、そこには反力というものが生まれる。

 殴った時の衝撃の分、拳にも衝撃が跳ね返ってくるのだ。

 元々硬いものを殴れば、その分拳を痛めるという事はある。

 だがそれに加え、殴った時の衝撃による反力というのは、筋を痛める事にも繋がる。


 しかしシャウラの放った拳は、ほとんど反力を発生させていない。

 それは特殊な身体操作とパンチの打ち方によるものである。

 これは剛法と柔法ではそれぞれ別のアプローチ方法があるのだが、今回シャウラが用いたのは柔法による無反力パンチだ。

 これは反力によるダメージを減らすと共に、自分に跳ね返ってくる分の力の分まで相手に打ち込んでいるという事なので、単純に威力も増す。


「ッ! っんのおおおお! シントーケー! シントーケー!!」


 そのままアミノ式と歌いそうになる技名を叫びながら、更にシャウラが追加で闘気技を放つ。

 シャウラが普段余り使用する事のない闘気技、シントーケーは威力は実はそれほど高くはない。

 影治から教わった四宮流の技の方が、威力が高いくらいだ。


 だがその分闘気の消費が少なく、また硬直も少ないので連続使用も出来る。

 そして何より一番の特徴が、技名にもあるようにシントーケー……つまり浸透勁の技の特徴を持つということだった。


 本来中国武術には浸透勁という用語は存在しないとも言うが、昨今では漫画や小説、ゲームなどで時折耳にすることもあるだろう。

 名前の通り、相手の鎧や体を貫通して内部にダメージを与える……といった意味合いで使われたりする技のことだ。


 これはワーヒドゥの持つスキル、鉄の皮膚にとって非常に相性の悪いタイプの攻撃だ。

 また分厚い筋肉の壁の内側にも浸透するので、ワーヒドゥの肉体が素で持っている防御力がほぼ効果を発揮していない状態だ。


 更には強力な物理攻撃をそのまま相手に跳ね返す自業自得も、この内部に浸透する攻撃に対して完全に対応出来ていない。

 体表面にパンチが当たった際のダメージの一部が、自業自得によってシャウラに返されてはいるのだが、ダメージの大部分は打ちこまれた直後にワーヒドゥの体の中に浸透している。


 結果としてワーヒドゥは、シントーケーによるダメージの9割以上をそのまま食らってしまっていた。

 それも肉体による防御も、スキルによる防御も、ほぼ適用されない特殊な攻撃によってである。


「ぐああぁ! があああぁぁぁぁ! ぶほあああぁ!! くかあああぁぁ!!」


 普段無口な男が、様々な声音で苦痛を訴える。

 自業自得が浸透勁の攻撃に対応出来ていない理由。

 それは単純明快だった。

 ワーヒドゥはこれまでそのような技を使ってくる相手と、1度も戦った事がなかったのだ。


 実際四宮流の奥義の中にも似たようなカウンター技はあるが、こちらは浸透勁の技を打たれようとそれを相手に返す事が出来る。

 自分の体に打ち込まれた力の流れを操作し、そのままそれを相手に返せばいいのだ。

 勿論それには繊細な身体操作が必要であり、今のシャウラではまだまだ扱えない高等技術になる。


「やっぱり、硬くてもこれは効く。このままないぞーをぶっこわす!」


 頑健な肉体と強力な防御スキルを持つワーヒドゥは、クソデカイメイスでぶん殴られようと、鋭い刃物で体を切り裂かれようと、耐える事が出来る。

 だが体の内部へのダメージは、抑える事が出来ない。

 強力な打撃を受けた時に一時的に内部ダメージを伴う事はあるが、シャウラの放つそれは内部ダメージがメインで外傷はおまけのようなものである。


 それはまるで、内臓を直接殴られたかのような感覚だった。

 口からは涎が垂れ、内臓に直接与えられたダメージによって、腕も足も動かなくなっていく。

 当たり所によっては呼吸もままならない。

 普通に運動したのとは全く異なる身体の急激な疲労を、ワーヒドゥは感じ取っていた。


(何だ……? 白い点が……)


 直接脳を叩いている訳でもないのだが、内臓からの振動が伝わっているのかもしれない。

 ワーヒドゥの視界に浮かんだ白い点は、徐々に広がりを見せていくと、数瞬の後に視界を全て白で埋め尽くす。


「……ケー! ………………シン…………これで…………」


 視界の変化と同調するかのように、聴覚まで異常をきたし始める。

 体の感覚も、まるで宙に浮かんでいるかのようにフラフラとしており、ワーヒドゥ自身が今どんな体勢でいるのかも分からない。


 そして段々と痛みもどこかに消えていき、まるで夢を見ているかのような気分になってくる。

 それはワーヒドゥの思考能力が低下している事の証だった。

 そんな夢心地の中、白く染まっていた視界が突然真っ赤に染まる。


「これ……は……?」


 薄れていく意識の中、一瞬だけ視覚を取り戻したワーヒドゥが目にしたのは、自分の口から吐き出されたとんでもない量の血反吐だった。

 それを他人事のように眺めながら、視界がガクンと下に動き、そのまま地面が近づいてくる。


 バタッと音を立て、前のめりのままワーヒドゥが倒れる。

 シントーケーの連打を食らったワーヒドゥに、外傷はほとんど見当たらない。

 しかし内臓のダメージは壊滅的だった。

 筋肉や骨で食い止められるはずの衝撃が、そのまま内臓へと伝えられたのだ。 

 いかに筋肉モリモリの戦士でも、物理的に内臓を鍛える事は出来ない。


 五臓六腑(ことごと)くが破裂ないしは活動を停止しており、呼吸ができなくなった全身からはチアノーゼの症状があらわれている。

 一時だけ復活した視覚も、再び失われていった。

 それも一面真っ白な視界ではなく、今度は何も見えない漆黒の闇へと。


「……たおした。たおしたああああ!!」


 心拍の停止を確認したシャウラが、雄叫びを上げる。

 傍から見ていると割とすんなり勝てたように見えるが、最初っから闘装術全開で強敵と戦っていたシャウラの疲労は大きい。

 また比較的戦いが短く済んだのは、シャウラ達が到着する前にラテニアの精鋭達が命を張って削っていたおかげだ。


 表面的にダメージがないように見えても、魔術の攻撃を含む全ての攻撃が効果なかった訳ではない。

 シャウラと戦う前から、それなりの体力と闘気は消耗していた。

 蓄積されていったHPへのダメージもある。


「よくやったな、シャウラ。チラっとしか見れなかったが、お主が抑えていたおかげで周囲の連中との戦いに専念出来た。リュシェル(後衛)達の所で少し休憩してこい」


「うん……わかった……」


 かなりの疲労状態にあるのを認識しているのか、ガンテツの言う事に素直に従い、リュシェル達のいる後衛の位置まで下がる。

 とはいっても、シャウラがワーヒドゥと戦っている間に事態はどんどん変化していった。


 一番大きな変化は、最初に範囲攻撃魔術で帝国兵を一掃した時だろう。

 他にもシャウラ達が後方から帝国中央部隊に殴り込みにいった後に、同じく敵右翼を突破したガルダとローズが最前線にやってきた時も大きな転換点だと言えた。


 リュシェル達に加え、ガルダとローズだけで何百という帝国兵が次々と食い破られている。

 少し遅れて、右翼と左翼の敵兵処理を終えた奇襲部隊が参加した時には、散り散りになった帝国兵を処理していくだけになっていた。


 今回襲ってきた帝国兵は、大半が傭兵や聖なる暴虐団の団員で、神兵は全く動員されていない。

 その分戦力としては結構なものだったはずなのだが、蓋を開けてみれば3倍以上の兵を相手に勝利を収めることが出来た。

 それというのも森という地形と、ガルダやリュシェルら英雄達の力が遺憾無く発揮されたからである。


「ふぅ。ラテニア側にも被害は結構出てしまいましたが、私達に欠員が出なかったのは何よりです」


「そうじゃな。某やシャウラが相手したような凄腕も交じってはいたが、結局警戒していた奴らはおらんかったからな」


「ええ……、もしこの中に光の使徒が混じっていたら、こうも簡単に事は運ばなかったでしょう。私も1度遠目で見ただけですが、そもそも光の使徒は全員が同じ力を持っている訳ではないようですし、何をしてくるか分からないとなると危険度も増します。エイジ様からも、光の使徒と出くわしたら無理せず逃げるように言われてましたからね」


 元々リュシェル達が駆け付けなくとも、森という条件とガルダとローズという鬼札があれば、十分対応は可能であった。

 その辺の話は影治もレイミーから聞いていたのだが、そこへ更にリュシェル達を送り込んだのは、1万の大軍に対抗するためというよりも、光の使徒が派遣されている可能性を考慮したためである。


 今回のラテニア大侵攻において、未だに光の使徒の目撃情報はない。

 だが今回の帝国の力の入れようからして、まず確実に光の使徒を投入しているだろう。

 今回の戦争に、影治が虎の子の天屍兵団を用いない理由でもある。

 数年前にガンダルシアで戦った光の使徒は、裁きの光という魔法を連発してきた。

 あの攻撃の前では、弱点属性という事もあって、高位のアンデッドであろうと耐えるのは厳しい。


「まあこちらは上手くいったという事で、早速エイジ様と連絡を取りましょう」


 そう言ってリュシェルは、魔導具で影治と連絡を取り始めるのだった。


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― 新着の感想 ―
相性の良さもあったのだろうけど、シャウラ大殊勲
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