第801話 ヴロブリック到着※
広場に設営したテントで一泊した影治達は、翌朝になってガークラスの街を出発した。
次の街であるヴロブリックまでは、相変わらず人の行き来が多い。
ということは、やはりヴロブリックで帝国を食い止めようという事なのだろう。
ヴロブリックには、いつもよりゆっくり目に移動して2時間ほどで到着した。
まだ敵が近くにまで迫っていないのか、大きな門は開け放たれたままだ。
そこから大きな荷馬車や、各地から徴兵された兵士達が入っていく。
その門の周りには元々壁外にあった建物が、小さな町のように並んでいる。
その小さな町部分を囲うように、沢山のテントや簡易天幕が設営されていた。
ここもガークラス同様に、街の中に納まりきらない兵士たちがそこで寝泊まりしているのだろう。
「よくここまで来てくれました。徴兵された方々ですか?」
「そうだ。南部のズブノワの村からやって来ただ」
「南部のズブノワ村ですね。人数は何名でしょうか?」
「おらを含めて26人だ」
「26名ですね。その中に従軍経験や、戦闘に自信のある方はいますか?」
「えっと、それは……」
門まではまだ少し距離があるのだが、係の人が並んでいる人たちに声を掛けて案内をしていた。
影治達の前にはオークを中心とする妖魔の集団がいて、代表者と思われる他よりガタイのいいオークの男が受け答えしている。
案内係は他にもいるようで、他にも周辺で同じようなやり取りがなされていた。
とにかくひっきりなしに各地から兵や物資が届いているので、それを捌いて適切な場所に配置、兵を編成しているのだろう。
徴兵された者や志願兵などは、代表者数名だけ街の中に案内され、他は周囲のテント村に案内されていた。
「初めまして、私はグラスラミアのジュリ。あなた達はさっき、妙な金属の乗り物に乗っていた方達で合ってますか?」
ジュリと名乗ったラミアは、緑色の鱗をしていた。
ヴロブリックを西端として、1つ前のガークラスやその周辺のラテニア中央地域は河川や湿地帯が多く、ラミアが多く暮らしている。
恐らくはジュリの出身もこの辺りなのだろう。
「ああ。なかなか列が進まねえから、さっさと収納しちまったけどな」
「なるほど。随分とバラエティに富んだ種族構成ですが、あれほどの魔導具をお持ちということは、高名な冒険者だったりします?」
「ラテニアではそんなに活動してねえが、俺はアダマント級だ」
「あ、アダマント級ですって!?」
ノーマルやハイメタルの冒険者は多いが、レアメタルの冒険者ともなるとグンと数が減る。
それが最高位であるアダマント級ともなれば、滅多にお目にかかれる相手ではない。
思わずジュリが大声を上げてしまうのも仕方なかった。
「この街にヴェリアスかレイミーはいるか? いるなら直接会って話がしたいんだが」
「ヴェ、ヴェリアス様にレイミー様ですか!? え、ええっと、私も今どちらにおられるか知らないので、急いで確認してきます!」
「あ、そんならドラゴンアヴェンジャーの影治から話があるって伝えといてくれ。それで通じると思うからよ」
「わっかりました~~」
思っていた以上に大きな話になったせいか、大分ギクシャクとした態度になりながらも、慌てて門の方に引き返すジュリ。
元々の体が大きいせいか、2足歩行ではないというのに結構な速度が出ている。
「随分と慌ただしいわね」
「今の状況でアダマント級冒険者がやって来たのですから、ああなってしまうのも仕方ないですよ」
しばしそのまま待っていると、ジュリが戻ってくる。
その隣には、見知らぬ男性も一緒だ。
見た目からしてヒューマンに見えなくもないが、影治は男性が吸血鬼であると見抜いた。
これまで何度も……特にラテニアを訪れて以降は吸血鬼を見かける事も多かったので、雰囲気で区別がつくようになっていた。
「ああ、これは確かにドラゴンアヴェンジャーの方々に間違いありませんね。どうも初めまして、私はラシード。恐らくあなた方は私の事をご存じないでしょうが、以前ズライロッジでの作戦時に拝見したことがありまして、私が確認に参った次第です」
ドラゴンアヴェンジャーは独創的なパーティー構成なので、真似しようと思ってもそう真似出来るものではない。
種族は真似られても、動く箱や謎の鳥はまず他には存在しないユニークなメンバーだ。
「そうか。じゃあ、確認が取れたところで早速ヴェリアスの所に案内してくれ」
「それが……現在ヴェリアス様はこの街にはおりません。ですので、代わりにレイミー様の下に案内致します。詳しい話はレイミー様からお聞きください」
ジュリとはここで別れ、影治達はラシードに案内されてそのまま街の門をくぐる。
やはりこの街も以前訪れた時とは街の様子が大きく変わっていた。
ディルダグより防備が整った街ではあるのだが、今は急遽防衛設備を増強しているらしく、街壁付近ではあちらこちらで突貫工事が行われている。
「着きました。レイミー様はこちらに滞在中です」
案内されたのは、街の北側にある大きな屋敷だった。
入り口を守っている衛兵もいたが、ラシードがいるせいか一緒に中に入っても誰何される事はない。
どうやらこの案内役を買って出た男は、それなりに高い地位のようだ。
ただこの屋敷に詰めている訳ではないようで、館の使用人にレイミーの居場所を尋ねていた。
その使用人に案内されて広い屋敷内を歩き回り、ようやくレイミーのいる部屋にたどり着く。
「レイミー様、お客様を連れて参りました。失礼します」
「その声はラシードかい? こんなクソ忙しい時に、一体誰を連れてきたってんだ」
扉越しだというのに、レイミーには声の主が分かったらしい。
面倒くさそうな声で答えているが、いつもの事なのかラシードは気にした様子も見せずそのまま扉を開く。
ラテニアではよく見られる造りなのだが、この屋敷内に幾つかある建物は、どれも大き目なサイズで作られている。
それは妖魔の多いラテニアでは、体の大きな種族も多いからだ。
レイミーが書類作業をしている部屋や、その部屋の外の廊下部分もまるで巨人が棲む家のように大きい。
部屋の中には、いかにも仕事が溜まってますという事が視覚的に理解出来る状態になっていた。
つまりは、机の上に山と積まれた書類の束を相手に格闘している、レイミーの姿がそこにあった。
彼女は椅子には座らず、自前の下半身の蛇部分を椅子のようにして作業を行っている。
「うんん!? なんとっ、エイジじゃないか!」
ラシードが扉を開けても、取り組み中だった書類から目を離さずにいたレイミーは、全員が室内に入った辺りでようやく入室者に視線を向け、驚きの声を発した。
「よう、ズライロッジ以来だな」
「お主ら一体どこに行っておったのじゃ。アーカースで牛魔窟を攻略したと思ったら、その後アドラーバーに行ったっきり、行方知れずになったと聞いたぞ。てっきりそのままラヴェリアにでも向かったのかと思うとったが……」
影治達は非常に目立つ。
ひとりだけならともかく、ドラゴンアヴェンジャーとして纏まって行動していたら猶更だ。
そのうえ国の上層部にも目を付けられているので、大抵の街では中に入る際にしっかりその情報が上に報告されている。
だが影治が気軽にゲートキーを使用するので、いかに四魔君主と言えど完全に影治の行方を追う事は出来なかった。
「アドラーバーに行ったのはエリーと会うためだったんだが、生憎と留守でな。帝国が攻めてきてるって話は聞いてたから、一旦エリーの事は置いてここまでやってきた」
「それはつまり、お主らもこの戦いに加わるという事でいいのじゃな?」
「戦いには加わるが、あれこれ指示を受けるつもりはねえ。差し当たっては、情報交換といかねえか? 前線の最新情報は知らねえが、多分お前達の知らない情報も持ってると思うぜ」
「……よかろう。まずはそこのソファにつけ。それとこんな状況だが、お茶も用意させよう」
そう言って小さなベルを鳴らすと、隣の部屋から使用人の女性がテキパキとお茶を用意してまわる。
ここまで案内してきたラシードと使用人は部屋を退出し、お茶を入れ終わった女性が一礼して元いた部屋に戻ると、レイミーとの話し合いが始まった。




