第800話 ラテニア国内の様子
侵攻を受けているラテニアに向かうドラゴンアヴェンジャー。
移動には既にお馴染みとなった、ドラゴンベースを使用する。
最初から十分に食料などは積んであるので、今回は街には一切寄らずに先へと急いだ。
前回ラテリアに向かった時、最終到着地点であるアドラーバーの街に転移ポイントを登録してあるのだが、そこから街道を辿るとラテニアをグルリと回るコースになってしまい、ニューホープから出発するのとそう大差はない。
ちなみにゲートキーの現在の登録ポイントは、以下のようになっている。
1面:ラテニア国北東部、アドラーバーの街
2面:クリスティア島、ロチーナ公都レイドスの宮殿内
3面:獣の牙41層
4面:ピュアストール、シドニア邸応接室
5面:シャーゲンの街のダンジョン入り口付近
6面:ニューホープ、バベル内
登録箇所が6か所しかないので、ラテニアを移動中は1面部分をちょこちょこ登録しなおして利用している。
最近は余り使用しなくなっているので、そろそろ獣の牙の登録を外してもいいかとも影治は思っているのだが、そこまでして登録したい箇所がなかったので、そのままになっていた。
「エイジさん!」
街道をひたすら爆走し、2日かけてガッコルドの街に到着した。
この街に寄ったのは、リーブスと接触するためである。
「よう、リーブス。無事で何よりだぜ」
リーブスは今建物を1つ借りて、そこで寝泊まりしながらブローム商会の関係者を探している。
影治達がその建物を訪れた時、丁度リーブスも中にいたので再会する事が出来た。
「ダンやエイジさんが派遣してくれた、護衛のお陰です。ありがとうございます」
大幅にメスが入れられたが、元々はオークの差別主義者が幅を効かせていた街だけあって、ヒューマンからすると余り治安が良いとは言えない。
しかしハイオーガバトラーにまで進化したダンが常に傍にいるので、絡まれる事も少なかった。
「いいってことよ。それより、状況は知っているな?」
「はい。最初の頃は街の人も楽観的だったんですが、今では皆不安そうにしています。エイジさんがこの街に来たのは、私を連れ戻す為ですか?」
「いや、それなら態々ここまで出向いたりはしねえよ。俺等が出張ってきたのは、帝国の連中をぶっ潰す為だ」
「それはっ……なんとも、エイジさんらしいといえばエイジさんらしいですね」
他の人が聞いたら一笑に付される影治の言葉も、リーブスからすれば決して不可能な話には聞こえていない。
特にこの時のリーブスは、具体的に帝国がどの程度の規模で攻めてきているかを知らなかった。
兵力だけでなく、現在帝国がどこまで侵攻しているかという情報も、一般人の耳には入っていない。
商人であるリーブスも、今のメイン活動地域から外れた所にいるので、同業者からの情報集めも余り出来ていなかった。
「俺等が出向くから問題ねえとは思うが、危なくなったらケツまくって逃げろよ?」
「ええ、分かりました。私はここでエイジさんの活躍を祈ってます」
ガッコルドの街は、カベリアに近いラテニア南部の街だ。
ここまで帝国兵が侵攻するとしても、まだまだ先の話になるだろう。
ひとまずリーブスの無事を確認した影治たちは、この街で一泊したあと、再び移動を再開する。
ガッコルドはラテニア国内を二分する街道の合流地点であり、ここから北に伸びる街道が戦争街道と呼ばれる街道だ。
その街道は、平時から北西の前線に送られる兵士や軍需物資が行き交っていたが、今は更に街道を移動する者が増えている。
物々しい兵士達や、少しでも戦地から逃れようと避難する民。
この状態を好機と見た商人など様々だ。
「……随分と戦況はやばそうだな」
「そのようですね。あそこにいる集団など、ろくな装備もしてませんよ」
街道を進む影治たちだが、余りに人が多いので街道から少し脇にずれた道を通っていた。
窓からは街道を行き来する人々の様子がよく見えるのだが、徴兵されたと思しき集団をちょこちょこと見かける。
それらの集団の中には、リュシェルが言うようにまともに武器すら持ってないような人々も交じっていた。
「流石に帝国の神兵ほどではありませんが、かなりの数が動員されているようですわね」
「ヒューマン主体の帝国と違い、妖魔主体のこの国では同じ民兵でも質が違います。武器がなくともそれなりには戦えるのでしょうが……」
ゴブリンやコボルトなどは、元々の魔物が余り強くはないので、妖魔化してもそれほど強さは変わらない。
ただ妖魔として生まれた場合、生まれた当初は基本種のゴブリンやコボルトとして生まれるが、成長するにつれゴブリンアーチャーやらゴブリンスミスやらに進化していく。
戦闘系ではなく生産系の種族も多いのだが、それでも一般的なヒューマンレベルの強さを持つ。
これがオークやオーガともなれば、それだけでヒューマンより身体能力が高くなり、戦闘にも向いている。
ラミアやアラクネなどは体がそもそも大きいので、その重量を活かせばひとりで複数を相手にすることも出来るだろう。
「……ハアブさん達、無事でしょうか」
窓から外を眺めながら、心配そうにカレンが言う。
実はガッコルドの街に寄る前に、影治達はドローズグの街にも立ち寄っている。
カベリアに近いこの街で、ラテニア国内の街の様子を確認する為だった。
この街を治めるハアブとは、以前魔物暴走の時に知り合った間柄だ。
氏族長である彼ならば、話を聞くのにうってつけだと思ったのだが、影治達が街に立ち寄った時には、既に兵を連れて出陣した後だった。
「出発したのが2週間前って話だから、まだ前線まで到着してないんじゃねえかな」
とんでもない速さで移動できる、ドラゴンベースに慣れると感覚が鈍りがちだが、いくら街道を通ると言っても徒歩や馬車では時間がかかる。
それが数百とか千人規模の兵士の集団ともなれば、一日の行軍距離はそれほど稼げない。
そして影治達は先に進発していたハアブ達に気づくことなく、そのまま追い越してガークラスの街まで辿りついた。
ガッコルドの街を出て僅か1日の行程である。
この街も以前の旅の途中に立ち寄ったことはあったが、その時とはまるで街の様子が変わっていた。
張り詰めた空気が街中に漂い、明るい顔よりも暗い顔をした人々の様子が目に付く。
ドラゴンベースを降り、徒歩で街の中に入った影治達は、いつものように宿探しをするのではなく、先に情報の収集を行うことにした。
天翼からの報告にあった、もう少しで陥落しそうだったというユロージズの街は、ここからまだ3つ先の街だ。
街中には元々の街の市民よりも、外からやってきた兵士や商人などの方が多いように見える。
しかも街の中だけでなく、街の外にもテントが幾つも並んでいた。
街中だけに収まりきらない兵士達が、外で野宿しているのだ。
「それで、どうだった?」
一旦情報収集の為に3班に分かれた影治達が、街の門前広場に集結したのは夕日が沈み始める時間だった。
周囲には傭兵や冒険者と思しき者達が多く、露店やら大道芸などを披露する人の姿はない。
「あたしがきーた話だと、もうユロージズの街は落ちたって事らしいわ」
「それは私も聞きました。エイジ様はどうでした?」
「俺もその話は聞いた。色々と情報は錯そうしてるっぽいが、ユロージズ陥落はマジっぽいな」
ニューホープでグルシャスからユロージズが持ちそうにないと聞いて、ここまでくるのに3日掛かっている。
グルシャスの下に情報が届くまでの時間差や、天翼が情報を集めて送り出すまでの時間差などもあるので、ユロージズが既に陥落しているというのは、想定の範囲内ではあった。
「そうなると、最前線はその次のディルダグの街になる訳だが……」
「ディルダグも既に放棄の準備に入っている……という情報もありました」
「そうなんだよな。まあ、確かにあの街は防衛には向いてなかったとは思うが、随分と思い切った選択をしたもんだ」
戦争街道沿いにある街の中で、ディルダグの街までは影治達も立ち寄った事がある。
その時はここまで帝国が攻め込んでくるなど、想像もしていなかった。
それは現地の人たちも同じだったのか、壁で囲まれた街ではあるが、高さは3メートル程であり、周辺の地形的に見ても大軍を展開できる広さがあるので攻めやすく守りにくい。
はぐれた野良の魔物や、アウトローな連中を弾く程度の効果はあったものの、大軍の侵攻は想定していなかったのでこのような街になっていた。
「でもあたしがきーた話だと、ディルダグから退避してるのは一般市民だけで、兵士達は街に残って戦うって言ってた人もいたわよ?」
「ユロージズみてえに、守備兵を残して少しでも進軍を遅らせるってのはありそうだな。まあ何にせよ、前線までかなり近づいた。今日はここで一泊して、明日はここの隣にあるヴロブリックに向かおう」
そう結論付けると、今日の宿を探し始める。
しかしこのように人がギュウギュウに詰まった状態の街で、空いている宿など見つかる筈はなかった。
仕方なく適当な広場に魔導具のテントを設営すると、そのまま広場の一角で夜を明かす。
そうして迎えた翌日。
朝早く起きて門を出ると、ヴロブリックに向けて移動を開始した。




