第795話 六暴聖 対 ゾルダ
既に乱戦状態になっているので、完全な2対1とは言えない状況ではあるが、六暴聖のサラーサとアルバァの2人でゾルダに挑む。
ゾルダがアダマント級の実力者と言われているのに対し、サラーサ達も帝国内では1級ハンターレベルの力を持つと言われている。
それだけ聞くと2人で当たるサラーサ達の方が有利なように聞こえるが、実際はそれでもゾルダ相手には不足していた。
「オーガ相手とはいえ、オレの斧がこうも簡単に受け止められるとはな!」
「流石の姐さんの馬鹿力でも敵わないってか」
「チッ、気に食わないが認めるしかないだろうぜ。だからお前ももっと気合入れてきな!」
「やれやれ、これでも十分動いてるつもりなんだけどな」
パワーで攻めるサラーサに対し、槍を得意とするアルバァは素早い動きを見せる。
その動きの早さは尋常ではなく、素人が目で追える速度ではなかった。
アルバァは韋駄天というスキルを所持しており、それによって敏捷が強化されている。
「ぐぅ、じゃらくざい!」
ゾルダもパワータイプではあったが、そんなアルバァの目にもとまらぬ動きに対応し、致命傷を避けつつ反撃も加えている。
サラーサとアルバァ、異なるタイプを相手にしながら互角以上に戦っているゾルダは、流石四魔君主といったところだ。
ゾルダが手にしている武器は巨大なグレートソードで、他の種族では重さの問題もあるが刀身の長さ的に扱うのが難しい。
そんなグレートソードをゾルダは片手で扱い、もう片方の手にはこれまた巨大なヒーターシールドを構えている。
この恐ろしく頑丈な盾が、アルバァの鋭い突きを幾度もはじき返していた。
「……アルバァ!」
「あいよ」
六暴聖はそれぞれが強大な力を持っているので、このように協力して戦う事は少ない。
だがこの2人は割と共に戦う回数も多く、気心が知れていた間柄だった。
呼びかけの意図を読み取ったアルバァが、サラーサの動きに合わせて動き始める。
「おんどりゃあああッッ!」
間合いの外、まだ数メートルもの距離がある位置で、サラーサが斧を上段から振る。
フェイントをするにしても離れすぎた距離であり、その行動に違和感を覚えたゾルダは即座に盾を構えて防御態勢に入った。
「なんだどッ!?」
なんとサラーサはただ斧を振り下ろすのではなく、そのまま自慢のバトルアクスを投擲する。
地球でもフランキスカといった投擲用の斧は存在したが、サラーサが振るっていたのは柄は短くて投げやすいかもしれないが、元々投擲用に作られた斧には見えない。
かなりの逸品である事は何度か打ち合えばすぐに分かる。
そんな逸品をまさか投擲してくるとは、歴戦の戦士であるゾルダにとっても想定外だった。
どうにか左手に持ったヒーターシールドで防ぐことは出来たが、総金属製の斧は重さにして6キロ近くはある。
そのような物を、ゾルダには及ばないものの力自慢の女傑であるサラーサが投擲したのだ。
受け止めた際の衝撃はかなりのものとなる。
「ハッ!」
その衝撃で態勢を崩した所に、左手……ゾルダからしたら右手側に回り込んだアルバァが槍を突く。
それに対し、ゾルダは一瞬右手のグレートソードを防御に回そうかと思ったが、すぐにその判断をキャンセルして身をひねって槍を躱す。
しかし元々態勢が崩されていた状態だったので、完全には躱しきれず脇腹をかするようにしてアルバァの槍が切り裂く。
回避に移ったせいで負傷してしまったが、その後のサラーサの動きを見れば、それが正解だった事が証明される。
サラーサは最初にバトルアクスを投擲した後も、そのままの勢いで走り続けていた。
それは投げたバトルアクスを回収する為の動きとしては、違和感ないと言える。
しかしこの場面でわざわざバトルアクスを投擲した事も、そのまま前に突っ走ってきた行動にも、ゾルダは微かな違和感を覚えていた。
その違和感を覚えていたからこそ、右手のグレートソードを温存していたのだが、そのおかげでいつの間にかサラーサの手に戻っていた、バトルアクスによる攻撃を防ぐ事が出来た。
「ぬおおおお!」
「チッ、仕留めそこなったか!」
サラーサは地面に落ちたバトルアクスを、拾い上げてなどいなかった。
では何故彼女がバトルアクスを手にしていたかと言うと、それはこのバトルアクスには特殊な効果が秘められていたからである。
迷宮遺物であるこのバトルアクスには、日に3度だけ使用可能な転移の魔術が込められていた。
といってもその対象はバトルアクスだけであり、予め登録してある魔力の持ち主の手元に戻ってくるというものだ。
射程も短距離転移同様に短いので、どこか遠い所で無くしてしまったら発動は出来なくなる。
だが戦闘中に使用するのであれば、射程から外れることはそうそうない。
サラーサはこれまで格上の相手にこのバトルアクスを使い、初見殺しを何度も成功させてきた。
だがゾルダには見抜かれてしまい、奇襲は失敗に終わる。
その後も実力者同士の激しい戦いが繰り広げられ、その余りの激しさに両陣営の兵士達も迂闊に手を出せない状態が続く。
ゾルダは2人の六暴聖を相手に勇戦し、対にはサラーサの右脚をグレートソードで叩き切る事に成功した。
「ぐっ、ちくしょうが……」
「姐さん!」
2対1でどうにか保っていた均衡が崩され、普段は軽口を叩くことの多いアルバァも思わず真剣な様子で声を張り上げる。
「ごれで……しめぇだ」
腕ならまだしも、足を失ったとなると回避能力が大幅に低下する。
覚悟を決めたサラーサだったが、ゾルダのグレートソードが彼女の命を奪うことはなかった。
颯爽と現れた神官戦士のいで立ちをした男が、2人の間に立ちはだかったからだ。
「間に合ったようであるな」
「ギリギリだったけどな。助かったぜ、スィッタ」
スィッタと呼ばれた禿頭の男は、六暴聖のひとりで唯一の魔術の使い手でもある。
だが一般的な魔術師と大きく異なるのは、戦場においては魔術で戦うよりも、手にしたいかつい形の金属のメイスを使って戦うという点であろう。
この男は魔術師としては珍しい事に、光魔術だけしか使えない。
普通は何らかの属性魔術が使えるのであれば、無属性魔術も修得しているものなのだが、スィッタの場合は無属性魔術が一切使えないのだ。
それはまるで光の精霊のようであるが、属性を1つに絞った分だけ光魔術に特化しているともいえる。
それほど適性が高くなかったスィッタが、クラスⅧまで光魔術を使えるようになったのもそのおかげだ。
熱心な聖光教信徒であるスィッタには、光魔術以外の属性を訓練する意味を見いだせなかった。
そしてスィッタは身に付けた光魔術でひたすら自分を治癒しながら、ダメージを負う事を気にも留めないような捨て身の突撃で、神敵を撃ち滅ぼす。
自身の負傷を気にせず戦う様子は、狂戦士持ちのイスナーニに通じる部分がある。
ただスィッタの場合は、痛みを感じなくなっているのではなく、激しい痛みに耐えながら自己ヒールを繰り返し、ひたすら神敵と戦い続けるゾンビ戦法だ。
それを支えているのがアンプヒールというスキルであり、このスキルの所持者は治癒系の魔術効果が大きく増幅される。
敵に傷つけられた痛みこそ、マルティネへの信仰の証だと思っているスィッタは、敵からすれば非常に厄介な相手だった。
「とはいえ、手持ちのポーションじゃあ足をくっつけることは出来ねえ。すまねえが、どうにかそこのクソオーガをぶっ倒してくれ」
「拙僧の使命は、この世から全ての神敵を打ち払うこと。言われずとも魔の者は全て滅するまでよ」
一度は崩れた均衡が、スィッタの加入によって再び元に戻る。
……とはいえ、完全に元通りという訳ではない。
六暴聖は全員が強力な力の持ち主ではあるのだが、強さの序列というのがあった。
1位は当然団長のワーヒドゥであり、2位が副団長のイスナーニ。
サラーサはその2人に続く3位で、アルバァが4位だった。
そして颯爽と現れたスィッタは6位であるので、戦力的には先ほどまでより低下したと言える。
ただこれまでの戦いの中で、ゾルダにも手傷や体力の消費などもある。
そこへほぼ万全に近いで現れたスィッタは、ゾルダに焦りの感情を抱かせた。
「いづまでもお前らに構ってる暇はねえっでのに!」
この流れをマズイと感じたゾルダは、大きな盾を前に構えながらタックルのように突進を仕掛ける。
オーガキングともなれば、背丈は3メートルとまではいかないものの、オーガバトラーなどよりは更に大きい。
小型トラックが突っ込んでくるような猛烈な突進は、一度スピードに乗り始めたらそう易々と止める事はできない。
アルバァは持ち前の早さを活かし、側面に回り込んで槍で攻撃するが、ゾルダはその攻撃を躱す事もなく、突きさされながらも突進を止めなかった。
「自ら殺されに来るか。ならば望み通り滅してくれ――ぷげらっ!」
そしてスィッタは真正面からゾルダを止めようとして、最後までセリフを言い終える前に弾き飛ばされる。
そうして突進した先にいたのは、ポーションで傷は回復したものの、未だに右脚が切断されたままで動けないでいるサラーサの下だった。
「じねぇぇぇッ! 爆砕剣ッ!!」
そうして振り下ろされたゾルダの切り札の1つ、闘気技の爆砕剣をまともに食らったサラーサは、胴体を真っ二つに切断されてしまう。
また闘気技の効果によって、切断箇所から爆発が沸き起こった。
「ちく……しょうが…………」
最期に燃えるような瞳でゾルダを睨みつけたサラーサは、この一撃によって息の根を止められることとなった。




