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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第22章 ラテニア侵攻 前編

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第794話 大乱戦


 副官が砦に残っていた兵を率いて戦場にたどり着いた時、すでに現場はカオスな状況になっていた。

 味方の援軍と挟撃しようとしていたガンドルーバに、そのガンドルーバを更に挟み撃ちにしようとしている帝国兵。


 この帝国兵の部隊は副官の予想通り、ベリーレア級の迷宮遺物によって数万もの兵士ごと幻覚で姿を隠していた。

 その内訳は、東方面軍の第2師団と歩兵傭兵部隊で構成されている。


 これに関しては、当初ルドヴィーク(岩鉄将軍)からの計画書にはなかったもので、戦場に持ちこまれた迷宮遺物リストを閲覧していたレッテリオが、これは使えると急遽思いついた作戦であった。


 ルドヴィークも優れた将ではあるが、戦場ではちょっとした事で状況が大きく変わる事もある。

 なので大まかな作戦案は指示したものの、細かいところについては現場指揮官の判断に任せると、予め指令書にも記されてあった。


 そしてレッテリオの策は上手く運びつつある。

 ただそこにレッテリオにも想定外の事態が発生した。

 まさかの砦を放棄しての駐留兵の出撃である。


「敵は混乱している! 今こそ情勢をひっくり返す好奇だぞ!」


 普段は丁寧な口調をしている副官も、この時ばかりは張り裂けんばかりの声を上げて味方を鼓舞する。

 この思わぬ兵の出現によって、元々崩れつつあった兵士達の隊列が更に崩れ、乱戦模様へと変化していく。


 それは隊列を組み、規律ある集団行動によって真価を発揮する帝国の正規軍にとっては、一番の長所を奪われたも同然である。

 それに対し、集団戦闘よりも自由に暴れ回るのを得意とするラテニアの兵たちにとって、今の状況は戦いやすい状況であった。

 ただそれは帝国側が投入している傭兵部隊にとっても同じである。

 特に六暴聖を頂点とする聖なる暴虐団は、その力を如何なく発揮していた。





◆◇◆



「ハハハハッ! いいね、いいねえ!! どんだけぶった切ってもお代わりが出てきやがる」


 六暴聖の中で唯一の女性であるサラーサが、返り血に塗れながらバトルアクスで次々とラテニア兵を薙ぎ払う。

 声質も低く、肉体的にも男と見紛うばかりの体つきをしているので、敵であるラテニア兵からすると若干声の高い大男が暴れ回っているようにしか見えない。


「ご機嫌だねえ、姐さん」


「当然だろ。オレは敵をぶった切ってる時が一番好きなんだからよ。それでお前はこんなとこでどうしたんだ? 副団長のとこにいたんじゃなかったのか? アルバァ」


「いや、それが副団長はもうプッツンしちまってね。下手に近づいたらおれっちも巻き込まれちまうわ」


 聖なる暴虐団の副団長イスナーニ・オルソンは、暴虐団などと名の付く副団長とは思えないほどに、物腰が柔らかい。

 それというのも、イスナーニは貴族生まれということもあって、礼儀作法なども心得ている教養の高さによるものだ。


 しかしそんな彼が、今こうして六暴聖となっているのには理由があった。

 それはイスナーニの持つスキル(天恵)による。

 狂戦士というそのスキルは、発動すると筋力や敏捷能力が大幅に向上し、発動中は痛みも疲れも感じない。


 それだけ聞くと前衛職にとって素晴らしいスキルと言えるのだが、狂戦士のスキルが発動すると理性が大きく失われる。

 特に最初にこのスキルが発動した時が問題だった。


 イスナーニは帝国内では主流な流派である、デュカティ流の剣術を習っていた。

 そしてある日の模擬戦の最中、スキルを発動してしまい相手を殺してしまう事件を起こす。


 その事件自体は貴族である実家の権力と、あくまで模擬戦の最中での出来事として、イスナーニに罪が及ぶことはなかった。

 だがこの事件は周囲の人間に多大な影響を与える。


 模擬戦は刃を潰した剣で行っていたのだが、狂戦士を発動状態のイスナーニは、その切れ味が鈍いナマクラで何度も何度も相手を執拗に切りつける。

 すでに絶命していると分かっている相手に振る舞われたその仕打ちは、家畜の屠殺場など比にならないほど残酷なものだった。


 どこが足でどこが胴体部なのか分からないほど、人の体がミンチ状にされていく。

 この模擬戦が行われた時、周囲には他の門下生や兄弟子などもいたのだが、誰もイスナーニの凶行を止めることが出来なかった。

 師範がいれば力づくで止められたかもしれないが、生憎とこの時は道場を離れている。


 後にこの時の状況を伝え聞いたイスナーニの家族は、それ以降彼の扱いに困ることになった。

 そんな家族の戸惑いと恐れ混じりの視線に気づいたイスナーニは、自ら家を出ていく。

 その際長男でなかったのが、イスナーニにとっても家族にとっても救いだった。


「うわっ、マジかよ。副団長も普段はあんな大人しいのに、プッツン(狂戦士化)するとまともに言葉も通じなくなっちまうからな」


「そんな訳で場所を変えたんだけど、その途中で良い情報を聞いてね。姐さんも一緒にどうかと誘いに来たんですわ」


「わざわざこの戦場の中をか?」


「ヘヘッ、副団長ほどじゃあねえけど姐さんも目立つからな。見つけやすかったよ」


「ふうん、でどんな誘いだってんだ?」


 ただの団員の言葉にいちいち耳を貸すサラーサではないが、同じ六暴聖のアルバァは最年少ではあるが腕も立つし、人付き合いが上手いタイプなのでサラーサの性格を踏まえた対応をする。

 粗暴な性格のサラーサも、彼の言葉を邪剣にしたりはしない。


「それが副団長が暴れた結果、相手の陣形がぐちゃぐちゃになっちまったようでね。その影響で、この近くにゾルダがいやがるっぽいんですよ」


「ゾルダっつうと、四魔君主のか!」


「そう、その四魔君主のゾルダよ。おれっち一人だとちとキツイかもしれねえが、姐さんと一緒なら奴の首を取るのも訳ないと思ってね」


「ワハハハッ! でかした! よーし、早速ゾルダん所まで案内しろ」


「姐さんならそう言ってくれると思ったぜ」


 上手いことサラーサの説得に成功したアルバァは、先ほど聞いた情報の場所まで襲い来る敵を薙ぎ払いながら共に進む。

 流石にリアルタイムで動き続ける戦場なので、聞いていた情報の場所にゾルダの姿はなかったが、少し離れた場所で争っている集団の中に、ひときわ目立つ巨体のオーガを発見する。


「あっ、多分あれだぜ。あのでかいの」


「アイツの首を取れば特別報奨は確実だ!」


 別にサラーサはそこまで金にうるさくないが、最近少し浪費していたこともあって、今回の戦争は大きく稼ぐチャンスとして張り切っていた。

 四魔君主を討ち取ったとなれば、またしばらくは金に困ることはなくなるだろう。


「オラオラオラ! そこのクソオーガの首を寄越しやがれ!」


「ゾルダ様に近寄らせるな! 迎え撃てえぇぇぇぇ!!」


 ゾルダの側近たちは、バトルアクスを手に迫るサラーサを止めんとするが、その進撃を止める事が出来ない。

 オーガ種族のゾルダの周囲を固めているのは、同じオーガ種族の精鋭たちだ。


 ただでさえ力が強く、頑健であるオーガ種族ではあるが、精鋭ともなれば幾度も進化を重ねた上位種になる。

 冒険者ランクでいうと、ミスリル級クラスの者が勢揃いといった感じなのだ。


「ハハッ! 流石に四魔君主の取り巻きともなると、他の雑魚共とは違うねえ。でもそんなんじゃあオレは止められねえ!!」


 しかしそんな歴戦の猛者を相手に、一歩も引くことなくサラーサは戦い続ける。

 無論同行しているアルバァや、その他周りの帝国兵も交じった乱戦状態ではあるが、六暴聖の2人がこの場に現れたことでラテニア側はどんどん押し込まれていってしまった。


「もうい゛い゛! おでが出る!!」


「しかしゾルダ様。指揮官であるあなたが前に出られるのはどうかと……」


「んなごと言っでる場合か!? 出るぞぉ!」


 側近の言う事も間違ってはいないが、先の事より現状の脅威の除去も大事だ。

 指揮官としてよりも、戦士としての能力の方が高いゾルダとしては、今の状態ではまともに指揮を執る余裕もない。


 よくよく観察してみれば、現在の状況は2人の帝国兵が起因となっている。

 その2名を討ち取れば、後は側近や周りのラテニア兵で盛り返す事が出来るだろう。


「お前らぞこまでだぁ! お前らの相手はおらがしでやるッ!」


「ようやく出てきやがったか。オレの名はサラーサ。お前の首を貰い受けるもんだ。死ぬ前までの短いあいだ、その名前をしっかり頭ん中に刻んでおきな!」


「あ、おれっちも参加ね」


 互いに言葉を交わすと、相手を見据え前に出る。

 そうして前に出たサラーサの後に、こっそりとアルバァも続いた。


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