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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第22章 ラテニア侵攻 前編

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第792話 挟み撃ち


 結局この日は防壁を大きく崩したとはいえ、それだけで砦を落としきることは出来ず、夜を迎えると帝国兵は一旦引く。

 数で勝っているので、昼夜問わず交代で攻めてラテニア兵の体力を削るという作戦もあるにはあったが、実際に行われることはなかった。

 何故なら、妖魔を主体とするラテニア兵には夜目が効く者がそれなりの数含まれているからだ。


「良いのですか?」


「構わん。神兵がいたら突撃させるのも悪くないが、今は相手の有利な状況で戦闘をしかけんでもよい」


 久々のラテニアとの戦いで戦意漲るレッテリオであったが、だからといって無駄に兵を損なうつもりはない。

 この日の夜はそのまま兵に休息を取らせ、砦攻めは翌日に持ち越される。

 だがラテニア軍はこの日の帝国軍の猛攻をも凌いだ。

 それは前日は後門で待機していたガンドルーバが、今日は前に出て奮戦した影響も大きい。


「オラオラァ! どうしたレッテリオ! いるのは分かってんだ。出てこいや! それとも俺が怖くて出てこれねえのかあ?」


 一人防壁から前に出て挑発を繰り返すガンドルーバ。

 そんな目立つ事をすれば、帝国兵からの攻撃の的になってしまうのだが、手にした2つの盾で矢だろうが魔術だろうが防ぎ、近寄っていった帝国兵は4本の腕に手にした武器が次々と振り下ろされ、屍の山を築いていく。


「閣下……」


「気にするな。あんな下手な挑発に乗ってやる必要はない。接近戦は仕掛けずに、遠距離攻撃だけに留めておけ。相手にされないとなれば激高して奴の方から自爆するかもしれんし、幾ら奴でも魔術攻撃を続ければダメージは蓄積されていく。それよりも、東方面軍第2師団と第3師団を迂回させて砦後方に回せ。そろそろ敵増援がくる」


 砦後方には傭兵騎兵部隊10万を配置させ、ちまちま後方からも攻撃を続けていたが、下乗して門を破壊したりなどといった積極的な攻めは行っていない。

 少しでも砦内の兵力を分散させるのが目的だ。


 またすぐにやってくるであろう、ラテニアの増援を迎え撃つという役割と、敵の接近を察知する為の斥候の役割も担っている。

 そうして傭兵騎兵部隊から差し向けた斥候部隊は、ラテニアの増援部隊を発見し、その情報をレッテリオの下まで届けていた。

 そう言った状況の中、この日もラテニアは砦を死守する事に成功した。











◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「チッ! せっかくのチャンスだったのによお」


「大将軍……。味方の援軍はすぐそこまで迫っているのです。あそこでイチかバチかの賭けに出ていたら、大勢が崩されてしまう可能性もあったのですよ!」


 不満タラタラな様子のガンドルーバに、副官の諫言が浴びせられる。

 ガンドルーバの言うチャンスとは、途中で砦前方に位置している2個師団が、左右に分かれて大きく砦を迂回して後方に回った時の事を指す。

 その時ガンドルーバは特攻隊を編成して、敵本陣へと突っ込んでレッテリオの首を取ろうとしていた。

 だがすんでのところで副官に止められ、突発的な作戦は実行されずに済んだ。


「だがよお、あいつら後方に回り込んだってこたあ、その援軍がヤバくなるんじゃねえのか?」


「ですから、明日は我々も後門から打って出て、援軍との挟み撃ちにするのです。昨夜に引き続き、今夜も夜通し防壁の簡易修復を行い、敵の侵入経路を幾つか塞ぎます。そうすれば、少数の兵でも敵の侵入を防ぐことも出来るでしょう。その間に、後方に回り込んだ敵兵を討つのです」


「ううん、お前が言うならそれが正しいんだろうよ。で、当然俺は後方から出撃する部隊に含まれてるんだろうな?」


「それはどちらでもお好きな方で構いませんよ。大将軍の配置次第で、他の兵士の戦力を調整すればいいのですから。ですが後方から出陣するとなると、レッテリオとの決着が後に伸びる事になりますが、よろしいのですか?」


「むっ……。それは……ううん、だがあの後方からチクチクしてる連中もクソうぜえし、挟み撃ちとなりゃあ大規模な戦闘になって暴れられるだろうし……ううむ……」


 思いの外真剣に悩み始めるガンドルーバを見た副官は、余計な事を言ってしまったなと反省する。

 結局ウンウン唸っていたガンドルーバだったが、後方から出陣する方を選択した。


「レッテリオの野郎は、また後で首を取る機会もあるだろうしな!」


 とのことだ。

 こうしてラテニア側の翌日の動きも決まり、夜通し集中して行った防壁の応急修理によって、3か所の防壁を塞ぐ。

 土魔術師や力に自信のある者達による、突貫工事の成果だ。


 そうして迎えた翌日。

 この日が戦局を大きく左右する日となった。







「お前達、出番だ! 帝国の奴らを挟み撃ちにして血肉に変えてやれ!」


「おおおおおぉぉぉ!!」


 これまで守勢に甘んじていたラテニア兵が、気勢を上げる。

 元々魔物から変化した妖魔は、好戦的な者も多い。

 そうした性質もあって、守勢よりは攻勢を得意としている。

 これまで散々やられてきた鬱憤を晴らすかのように、士気がこれまでになく高まっていた。


「…………」


「どうしました、副官殿」


 副官の下について、実地で戦術を学んでいるコボルトの指揮官が、納得のいかない表情を浮かべている副官に尋ねる。

 2人は今、砦中央部の一番高い位置にある尖塔に立っていた。

 その塔のてっぺん付近は周囲がバルコニーのようになっており、グルリと一周すれば全方位を見渡せるようになっている。


「いや、前面の帝国の動きが消極的だと思ってね」


 すでにこの日も戦闘が始まってから2時間余りが経過している。

 そのあいだ相変わらず防壁が崩された砦前面からは、帝国兵が押し寄せていたのだが、これまでとは違って動きに積極性が見られなかった。

 といっても、それを見抜くにはそれなりの判断能力が必要であり、一見しておかしいと気付ける者は少ない。


「そう……ですか? 言われてみるとそうかもしれないとは思いますが……」


「何か策を企んでいるのかもしれない。あの自爆兵による特攻は私の想定外だった。今回の帝国軍は何かが違う……」


「確かにそれは私も感じます。ですが、援軍としてゾルダ様が10万の軍を率いてこられるのです。数の上ではまだ負けているでしょうが、合流を果たせば十分持ちこたえることは出来ます。さらに引き続き増援要請は行っているので、時が経てば経つ程こちらが有利になっていくはずです」


 コボルトの指揮官が言う様に、現在この砦に向かって派遣された増援部隊は、四魔君主のひとりであるゾルダが指揮を執っている。

 オーガキングのゾルダは、脳筋の多いオーガの中では頭のいい方であり、指揮官としても一戦士としても優秀だ。


 生憎と魔物のキング種とは異なり、妖魔のキング種には同族の支配力や統率力を高める特性はない。

 勿論偉大な王に対し、通常種のオーガ達は敬意や忠誠を抱く事はあるが、それは種族特性ではなく本人の威光である。

 当然の事ながら、魔物の皇帝種が持つ同族の能力を強化するという特性も、妖魔の皇帝種にはない。


「おま――くぞおおぉぉぉ! お――――続けぇぇぇぇ!!」


 後方の門から帝国兵を挟み撃ちにしようと、ガンドルーバ率いる血の気の多い連中が突撃していく。

 すでに距離が大分離れているというのに、副官のいる位置まで微かにガンドルーバの大声が伝わってくる。


「ははははっ、大将軍殿は相変わらずですなあ。副官殿も日ごろ大変でしょう?」


「う、まあそれが私の職務の1つでもあるので、大変とかそういう問題では……」


 図星を突かれ、コボルトの指揮官に曖昧に答えようとしていた副官だったが、何気なく視点を向けた先の光景をみて、瞬時に表情が引き締まる。

 その表情の変化に気づいたコボルトの指揮官も、副官の見ている方角に視線を向けるやいなや同じ反応を示した。


「馬鹿な!? あの兵は一体どこから現れた!?」


 副官の視線の先。

 それは帝国軍を挟み撃ちにしようと出撃した、ガンドルーバ達の部隊の更に後方(・・)に突如出現していた。

 しかも1000や2000といった数ではない。

 帝国の正規軍の編成でいえば、2師団に当たる7万人以上という大軍だ。


「初めに背後に回り込んだ騎兵がおよそ10万。それから昨日2個師団がそれぞれ左右から迂回して後方に回り込んではいましたが、奴らは騎兵と合流した後に砦から距離を取り、援軍を叩きに一旦砦から離れていった。それは斥候も確認している! だからこそ挟み撃ちにするべく、こちらからも打って出た……というのに、その後背に更に7万の軍が現れるとはどういう事なのだ!?」


「副官殿! あれを……あれをご覧ください!!」


 突如として現れた帝国兵を目にして混乱している副官に、コボルトの指揮官の慌てた声が聞こえてくる。

 しかし副官の隣に彼の姿はなく、グルリと回って反対側の砦前面側の方にいつの間にか移動していた。


 思考を一旦保留し、副官も反対側へと回り込む。

 そこから広がる光景を見て、副官は先ほど感じた違和感と突如現れた帝国兵のからくりに気づく。

 尖塔の上から戦場を見下ろした2人の視界から、後方で待機していたはずの軍勢の姿が、綺麗さっぱり消えてしまっていたのだ。


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