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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第22章 ラテニア侵攻 前編

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第789話 ガンドルーバ大将軍


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「何ぃぃ? 帝国の前線砦に大部隊が迫っているだぁぁ?」


 ヒッタイト高地に築かれた、ラテニア側の最前線にある砦。

 そこの責任者であり司令官でもある男の下に、ひとつの報告が届く。

 それは10万もの敵兵が、帝国側の前線砦に向かって移動しているというものだった。


「はい。何分数が多いので、10万というのはあくまで目算した数値ではありますが、それだけの大軍であることには違いありません。何より脅威なのは、それら全てが騎乗した兵だという事です」


「ああ? そりゃあこの見渡しの言い高原じゃあ騎兵は厄介かもしれねえが、城や砦を攻めるのに向いた兵科とは言えねえだろ」


「それはその通りですが、今回は単純に数だけでも厄介です。帝国砦には元より10万の兵が詰めております。そこに今回の10万が合わされば20万。その差は現在の我々の兵力のおよそ3倍です!」


「むぅ……。帝国兵なんぞ俺が蹴散らしてやる! って言いてえ所だが……」


「流石に今回ばかりは、ガンドルーバ大将軍が暴れたからといってどうにかなるものではありません」


「チッ、タイミングが悪すぎんだろ」


 ラテニア砦の司令官であるガンドルーバは、6本ある腕の内の真ん中から生えている2本で腕組みをしながら、苦々しい表情を浮かべた。

 この男はラテニアでも珍しい多腕族なのだが、腕が6本も生えている。


 一般的に多腕族と呼ばれている者達の腕は4本しかない。

 ガンドルーバの腕が6本もあるのは、六腕(りくわん)という種族に進化しているからだ。

 なお進化前の四本腕の種族名は多腕族ではなく、四つ腕というのが正式名称である。

 とはいえ、4本だろうが6本だろうが他種族からすれば腕が多い事に代わりないので、まとめて多腕族と呼ばれることが多い。


「ええ。平時であれば問題ないと許可を出しましたが、こうなると彼らの離脱は致命的です」


「ふんっ! 常にこうして敵と向かい合っているってのに、平時もクソもねえだろうが! だから俺ぁ反対だったんだ」


「ですが王命であると言われれば、我々ラテニアとしては強く言えません。あくまで我々とラヴェリアは対等な同盟関係を結んでいるのですから」


 ガンドルーバが副官と話しているのは、先日この砦に詰めていたラヴェリア兵3万が、王命によって急遽自国へ引き返した時の話だった。

 その時ガンドルーバは頑として反対したのだが、残念ながら彼はこの砦の司令官でありながら、強い裁量権を与えられていない。


 多腕族はオーガや巨人族に見られるような、脳筋の傾向が強い種族だ。

 全員が全員そうという訳でもないのだが、ガンドルーバの場合は特にその傾向が強かった。

 とにかくぶん殴ればどんな問題でも解決する……と思っているようなタイプなので、ぶっちゃけ司令官などという職には向いていない。


 そんな彼が何故司令官という立場についているかと言えば、それはこれまで積み重ねてきた武勲による成果であった。

 四つ腕から六腕に進化しているガンドルーバは、その分寿命も延びていて現在の年齢は251歳を迎えている。

 そしてその長い生の内、9割以上を帝国との戦いに費やしてきた。


 そうして得た夥しい戦果によって、大将軍と呼ばれるまでになり、砦の司令官職にも任命された。

 しかしそれは条件付きであり、優秀な副官を数名付ける必要があった。


 その副官の任命の際に、ガンドルーバの裁量権を複数の副官で分譲するように求められ、ガンドルーバもこれを了承している。

 自分に執務能力や指揮能力が足りていない事を、自分自身よく知っていたからだ。

 本人としても、戦場で暴れ回れるのなら細かい事は他の奴に任せた! という考えだったのだが、ラヴェリア兵離脱の時は過去の自分の決断を後悔していた。

 なお今話しているのはフロッグマン系種族の副官で、副官の中では最古参の者だ。


「とにかく、敵が攻めてくるってんならこっちも増援を呼ばねえといけねえ」


「ええ、すでにリバーマンには連絡をしてありますので、すぐにでも兵が派遣されてくるでしょう」


「そうか。なら俺達はそれまでここを維持すりゃあいいんだな!」


「まあ……そうですね……」


 自分のやるべきことが明確になると、ガンドルーバはすぐに戦いに向けて意識を向ける。

 その表情からは、3倍近い兵が攻めてくるかもしれないという不利な状況を、まったく気にしていないかのような楽しそうな表情であった。

 しかし副官の方はガンドルーバとは正反対の、苦渋に満ちた表情を浮かべている。


(帝国が砦に兵を送るとしても、騎兵だけを送るというのはおかしい。そもそも、報告によればその騎兵集団は東方面軍ではなく、傭兵と思われる集団だとのこと。これはこれまでにない動きだ)


 ガンドルーバがどのようにして帝国兵を屠るか考えている横で、副官の男は更に思考を重ねていく。


(もし帝国が本格的にこの砦の攻略を企図したとすると、10万の騎兵というのは明らかに不向き。下乗して戦うにしても、砦攻めするならもう少し数を用意するのではないか? 何せ数だけなら神兵で幾らでも引っ張ってこれるのだから)


 合計20万という兵力は、単純計算で言えばラテニア砦を落とすにはいささか不足していると言える。

 長年争い続けている事もあって、互いに砦に駐留している兵の数などはおおよそ見当がつく。


 ラテニア砦の10万に対し、帝国側では10から10数万の兵が駐留している事が多い。

 この世界には常人離れした者や魔術があるので、必ずしも当てはまる訳ではないのだが、戦闘において攻撃三倍の法則というものがある。

 簡単に言えば、戦闘に置いて有効な攻撃を行うためには、相手の三倍の兵が必要だという内容だ。


 今回はラヴェリア兵の撤退によって、一時的に兵力が減衰して3倍近い兵力差になっているが、平時であれば10万の兵が詰めているので、20万の兵を集めても2倍の数にしかならない。


(いち早くラヴェリア兵の離脱を知ったにしても、すでに帝国砦近くまで進軍してきているので計算が合わない。いかに騎兵部隊といえど、ラヴェリア兵が撤退したのはつい先日の話だ。兵を差し向けるにも兵站の確保やらの準備で、すぐに出立できるものではない。ではこれは偶然なのか……?)


 この副官の男は優秀ではあったが、頭が柔らかい方ではなかった。

 一応考えないでもなかったが、ラヴェリアのこの動きと帝国の動きの連動が、裏で繋がっているという可能性を排除してしまったのだ。


 だがそれも仕方ないともいえる。

 強大なハベイシア帝国に対抗する為に結ばれた対ハベイシア同盟は、既に数百年以上も続いていた。

 ラヴェリア闇国の国教は、闇神グラフェスを信奉するグラフェス深淵会であり、光を司るマルティネとは属性的にも性質的にも正反対である。


 ラヴェリアは人族が多い国ではあるが、元々はハベイシアから逃亡してきたグラフェスを信奉する一団によって築かれた国だ。

 そうした背景から、ラヴェリアが帝国と手を取るなどという考えは、副官の脳裏から真っ先に排除された。

 それはより納得しやすい理由に気づいたからでもある。


(いや、あり得ない。そのような事を考えるよりも、帝国に更なる増援がいると見た方がいい。先に足の速い騎兵を向かわせ、後から歩兵を中心とした本隊が迫ってくる。騎兵は砦攻めには向かないが、機動力は優れている。先に騎兵を先行させたのは、我々の後背にある食料生産地を襲撃する為かもしれない。或いは本格的に攻めこむ前に、両砦間にうろついてるアンデッドを駆除するために騎兵隊を用いる可能性もある)


 両軍の砦に背後には、膨大な食料の消費を少しでも支える為に設けられた畑が広がっている。

 それらはかなりの面積が必要であり、規模の大きな場所は簡易的な防壁は築いているものの、大半は粗末な柵程度の防衛設備しかない。

 そうした設備であれば、騎兵隊であろうと破壊する事は可能だ。

 火矢で畑を焼くだけで、大きな被害を与えることが出来る。


「ウハハハハハッ! お前の命運もここまでだ、レッテリオ!」


「わっ、ちょ! 大将軍! こんなところで暴れないでください!!」


 副官の男が色々と考え事をしてる中、ガンドルーバはレッテリオと一騎打ちしている場面を妄想していたらしい。

 それも興が乗ってきたのか、体まで動かし始めている。

 そんなガンドルーバの野太い腕に、殴られそうになっていた副官の男。


「フハハハッ! そのような攻撃などこの俺には効かん! 我が六腕で捻り潰してやるわ!」


 しかし制止の言葉など聞いていないのか、更に暴れ始めたので慌てて副官の男は部屋を逃げ出す。

 こうしてラテニア砦でも帝国の動きが知れ渡り、慌ただしく対応が進んでいった。


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