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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第22章 ラテニア侵攻 前編

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第788話 レッテリオ軍団長


 ハベイシア帝国とラテニア連合国は、北のヒッタイト高地にて直接接している。

 であれば、当然この地が両国の争いの中心地になるは必然。

 そうなると前線基地も築かれるというものだが、戦争が始まった当初は両軍共に粗末な木製の建物しかなかった。


 大がかりな砦を作ろうすれば、当然敵から妨害される。

 そして敵が砦を築こうとすれば、こちらから攻め入る。

 そういった感じで、しばらくは粗末な施設しかなかったのだが、年がら年中争っていられる訳でもないので、徐々に両軍の施設は拡充していった。


 木製の防壁と簡易的な宿泊場所だけだったものが、徐々に石材へと材質を変え防御力が高まっていく。

 何度も規模を拡張させつつ、防壁には魔術付与が施されて更に強度を増したり、城壁にバリスタなどの兵器を取り付けたり、遠くまで見渡せる高い防御塔などが築かれていった。


 そして変化は砦だけに限らない。

 大国同士の最前線基地となった砦では、10万規模の兵が常駐するようになっている。

 彼らの兵糧を確保する為に、前線砦の一番近くにあった都市が要塞化されていった。


 そうして要塞化された都市から大量の軍需物資を輸送する為の、最低限の道の整備も進む。

 万が一前線砦が抜かれてしまった事を考慮し、完全に通りやすいような石畳の道にはしていないが、ある程度道を整備したおかげで輸送は捗った。


 また前線砦の後方では幾つか畑を耕したり家畜を飼って、ある程度の食料を現地で調達するようにもなっている。

 乾燥に強いことや、栽培期間が2~3ヶ月と短いこと。

 それに高冷地や地力の低い土地でも栽培が可能な事から、ソバの栽培や芋類などが栽培されており、前線砦での定番メニューはこれらの素材を用いたものになっていた。




「ついにこの時が来たか」


 ハベイシア帝国、東方面軍の軍団長であるレッテリオ・レオーニも、そうした現地で生産された食事を取っていた。

 軍団長という立場にあるレッテリオならば、もっと贅沢な食事を取る事も出来るのだが、彼は率先してそうした質素な食事を取っている。


 レッテリオは老齢ながら、未だ訓練を怠らず逞しい肉体を維持していた。

 流石に全盛期と比べれば力は劣ってしまっているが、指揮官としての能力も持ち合わせているので、未だに前線の将兵からは畏敬の念を持って見られる事が多い。

 そんなレッテリオの下に、先行した傭兵部隊が砦に到着した事が伝えられた。


「ハッ。つきましては、傭兵隊を指揮しているリヒャルト殿が閣下と面会したいと申しております」


「分かった。ここに通せ」


「ハッ!」


 伝令に来た兵は、そう言ってレッテリオの私室から去っていく。

 報告の中にあったリヒャルトというのは、ハベイシア帝国東方面軍の連隊長の名である。

 先行して進軍している傭兵隊であるが、完全に傭兵隊に自由に行動させている訳ではない。


 今回召集した20万近い傭兵からすると微々たる数ではあるが、正規軍からも傭兵隊の指揮官や監督役などが数百名同行している。

 その中でも一番階級が高いのが、先ほど名前が出たリヒャルト連隊長であった。

 傭兵達の間では聖なる暴虐団や六暴聖といった名前は有名だが、だからといって指揮権が彼らにある訳ではない。


 今回は最前線である砦に到着するまでの間は、リヒャルトが一時的に全指揮権を委ねられている。

 ただしすでに砦に到着したので、これから指揮権がレッテリオに移譲される事になる。

 そういった話し合いも含め、リヒャルトは指定されたレッテリオの私室へと向かう。


「失礼します! 東方面軍第8連隊長リヒャルト・ブッケル、参上致しました!」


「うむ、まずは掛けたまえ」


「ハッ!」


 言われるがままに、リヒャルトが席に座る。

 丁度レッテリオとは向かい合う形だ。

 老齢のレッテリオと比べるとリヒャルトはまだ若く、その表情からは自信の強さが窺える。


「まずはここまでご苦労であった。道中何か問題は発生しなかったか?」


「いえ、特にこれといった問題は起こっておりません」


「そうか、ならばよし。して、ルドヴィーク将軍からはどのような指示を受けているのだ? 今回の大侵攻は儂にとっても寝耳に水の話でな。ある程度は話に聞いてはおるが、具体的な作戦については聞いておらんのだよ」


 レッテリオは帝国に3つしか存在しない、各方面軍を指揮する軍団長のひとりだ。

 だがそんな彼にも事態の詳細が知らされていない辺り、今回の計画が急なものであったことが窺える。

 準備そのものは常日頃から整えていたので対応は出来るものの、このままでは歴戦の将であるレッテリオもその力を十全に生かす事が出来ない。


「それに関しましては、将軍閣下よりこちらを預かっております」


 そう言うと、リヒャルトはルドヴィークから預かった書状を差し出す。

 レッテリオは封蝋を確認すると封を開け、中に収められていた羊皮紙を取り出して読み始める。

 指示書は数にしては数枚程度であったが、びっしりと小さい文字で隙間なく埋められていた。

 レッテリオはそれを一言一句見逃さないよう、何度も繰り返し読みながら同時に考えを頭で纏めていく。


「……ふむ。其方はこの内容は知っているのか?」


「いえ、将軍閣下からは何も聞かされておりません。ですが、指示書と一緒にこちらを預かっております。どうぞ、お受け取り下さい」


 リヒャルトが差し出したのは、きんちゃく袋のようなものだった。

 革で出来た袋の部分は余り大きくはなく、余り沢山物が入らないように見えるが、この袋は収納魔導具(アイテムボックス)であり、見た目以上に中に物を収納する事が出来る。


「確かに受け取った。今後の其方への指示はどうなっている?」


「ハッ、指示書とその収納魔導具(アイテムボックス)を閣下にお渡しした後は、砦で後続部隊の到着を待つように言われております」


「そうか、作戦には参加しないのか」


「私としましては、是非とも先陣を賜りたい所なのですが、今回のような大規模な作戦の最中に我儘を言う訳にはいきません。詳しい作戦内容は分かりませんが、閣下のご活躍をこの砦よりお祈りしようと思います」


「うむ、もう下がってよい。いずれ其方にも活躍の機会が訪れよう。それまで牙を研いで待つことだ」


「ハッ! では失礼致します!!」


 キビキビと返事して勢いよく立ち上がると、その勢いのままリヒャルトは退室していった。

 残されたレッテリオは、再び指示書を見直す。


「北部全域の神兵召集に、全土から集められた魔獣や傭兵。南以外の方面軍を全て動かし、光の使徒の方々まで全動員されるとは……」


 何度も読み返すうちに、レッテリオの記憶野にしっかりと情報が刻まれていく。

 それまではどこか精神的に、慌てないよう自分を押さえつけていた部分があったのだが、空前絶後の大侵攻が現実のものとなった今、レッテリオの全身を猛る炎のような高揚感が沸き起こる。


「くっ、ウハハハハハハハハハッ! このまま老いてくたばるだけかと思っていた儂に、これ以上ないほどの戦場が舞い込んできおった! この大一番で魔族を悉く打ち破る事こそが、マルティネ様が儂に与えたもうた最後の試練!」


 抑えられない興奮が、しばしの間レッテリオを包み込む。

 ひとり自室で笑い声をあげるレッテリオは異様な圧を放っており、近くにいると燃え滾る想いの強さで焼かれてしまいそうな程であった。


 かくして前線の砦にたどり着いた傭兵の先行部隊は、ここで僅か1日だけの休みを挟んでただちにラテニアの前線砦へと向かう事になる。

 それも出陣するのは傭兵隊だけではない。

 元々砦に駐留していた東方面軍の3個師団、10万以上の兵も共に出陣する。


 先行している騎獣に乗った傭兵部隊10万と、精鋭の正規軍10万ちょっとが合わさって20万以上の大軍は、異様な士気の高さを保ったままラテニア砦へと迫りつつあった。


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