第760話 造魔石
オークであった時の自我が失われ、魔物としてただただ人を襲う化け物となってしまった2体のオーク。
強さ的には脅威度Ⅷくらいではあるが、攻撃してもなかなか倒せないHPの高さと、首を切り落としても再生する再生力が非常に厄介だった。
痛みすら感じていないのか、防御反応すらせずに相打ち覚悟で攻撃してくるので、普通の戦い方だと非常に戦いにくい。
「ぬう、心臓を穿っても死なぬか!」
異形の姿に変じているとはいえ、元は人型のオークだ。
であれば、首を切り離したり心臓を貫けば、いかに生命力あふれるこの世界の人間でも、すぐに治療しなければ助からない。
だが蜘蛛の頭部、オークの頭部、心臓部、どれを攻撃しても驚異的な速さで再生してしまう。
「……様子見はこれくらいにしておいた方が良さそうだな。こいつら以外にも同じ奴がいるかもしれねえ」
ある程度化け物の能力について把握した影治は、仲間のフォローから敵の殲滅へと切り替える。
さしあたってまず行ったのは、死霊魔術3点セットだ。
同じくHPが高かった邪竜やアビスウォームも、これらの魔術によって継続的に与えたダメージがかなり効いていた。
「ハババルァッ! グバラガウデュデュ!!」
【死毒】と【肉体侵食】は、これまで痛みを感じていないように見えた化け物にも、無視できないダメージを与えているようだ。
発狂したように更に激しく暴れ出す。
これまで2体とも魔術を使ってはこなかったが、驚異的な再生力をMPで補ってるとすれば、MPを削る【魂への侵食】は効果的だろう。
「更にこいつも受け取りな。【白雷】」
「アババババババッ!」
現状影治が使用できる最高位の神聖魔術は、実に効果的であった。
ピー助の放つクラスⅩ光魔術よりも、明らかにダメージを負っている。
「む? こいつら、神聖属性が弱点なのか?」
影治も邪竜から暗黒属性の攻撃を食らった事があるので、弱点属性の攻撃がいかに危険なのか身をもって知っている。
首を斬り取られたり、心臓に穴を開けられても大して効いていないように見える化け物が、死霊魔術セットと【白雷】には明らかに反応を示していた。
「神聖魔術ですか。では私も行きますわ! 【白炎】」
神聖魔術といえば、セイクリッドリッチとなったグレイスが影治の次に得意なのだが、ハーフエンジェルとなって以降カレンも天使らしく神聖魔術を鍛えている。
ここしばらくはクラスⅦで止まったままだったが、それでも弱点属性による攻撃は十分効果があるようだ。
影治とカレン、それから他の仲間で攻撃を続けていると、次第に再生力にも陰りが見え始める。
「お、そろそろいけんじゃね?」
後方から弓で支援しているヨイチが言うように、1度衰え始めた再生力はどんどん悪化の一途を辿り、ようやく息の根を止める事に成功した。
だが普通の魔物のように、塵となって消えず死体が残ったままだ。
「また復活しねえだろうなあ?」
不安そうに死体を足蹴にするヨイチだが、動き出す気配はない。
影治の心眼でも既に生命反応は感じられないので、死んでいることは間違いないと思われるのだが、先ほどまでの再生力を見ると不安になるのも理解できる。
「こいつらの事は気になるが、今はのんびりしてる余裕はねえ。予定通り2手に分かれるが、神聖魔術が効果的と判明したからカレンはリュシェル組に加われ。代わりに……そうだな。エカテリーナは俺達と一緒だ」
「……仕方ありませんわね」
チラと一瞬セルマの方に視線を向けると、不承不承カレンは頷いた。
自分だけが別行動でないだけマシだと思ったのだろう。
部隊編成が決まると、早速2手に分かれて屋敷内に突入した。
「ちっ、やっぱ他にもいやがったか」
別行動を始めてから10分もしない内に、影治たちは新たな化け物と遭遇する。
今度のオークの背には巨大な翼が生えていた……それも2対も。
「なんだいありゃあ? 上の羽は鳥みたいだけど、下のは蝙蝠みたいな感じだぜ」
「これまでの特徴からして、オークを元に魔物を合成したキメラって感じだな」
そう言うと影治は前に出る。
エカテリーナも足止めくらいは出来るが、本格的な前衛でもないので、前衛は影治が担当だ。
だが接近する前に死霊魔術3点セットはかけておく。
「【強打強風】! うーん、魔術の練習相手にはいーかもしんないけど、さっさと倒したい時にこのしぶとさは厄介ね」
「ぴぃぃぃ、ぴぃ!」
レイスブラッドを手に、とにかく翼オークをぶった切る影治。
化け物の再生速度はかなりのものだが、右腕を切り落とし、再生する前に左腕を切り落とし、まだ右腕が完全に再生しきる前に更に翼を1枚切り落とす。
剣の達人である影治にしか出来ないであろうこの攻撃は、完全に翼オークを無効化する事に成功した。
1つ再生する間に3つ部位を破壊するのだから、時間が経てば経つほど体が細切れにされていく。
「……再生の起点はここか?」
手足や翼を全て切り落とした影治は、それでもまだ再生を続ける部分を定期的に切り落としながら、全身を解体していく。
最初に足首、膝と順に切り落としていき、下半身を完全に切り落としても、切り離された部位が再生することはなかった。
そこから更に上に腹部、胸部、頭部と切り分けると、腹部からのみ再生が始まり、他の切り離された部位はそのままの状態を保っている。
その事から、この化け物の弱点……というか本体は腹部である事が判明した。
「腸をぶちまけてやるか」
全身を切り刻まれ血が飛び散る中、魚を捌くように胃を割いていく。
胃の内部には、どす黒い何かが胃壁と癒着したようにくっついていた。
その黒い物体はまるで心臓のようにドクドクと脈動しており、見た目的にも直感的にもこれがこの化け物の弱点であると影治は判断する。
「これか!」
影治は反射的にその黒い物体をレイスブラッドで断ち割る。
すると腹部だけになった状態でも続いていた再生が、そこでぷつっと止まった。
「どうやらこれが原因みてえだな」
「うぇぇ、なによそれ」
先ほどまでは脈動を続けていた黒い物体も、今では動きを止めている。
それは心臓のように脈動してはいたが、断ち切った感覚からすると石のように固い物質であった。
「さあな。こいつで調べられっかな……。 【精密素材調査】」
錬金魔術の【精密素材調査】は、『素材』に分類されるものであれば、性質を調査することが出来る。
金属であれば【精密金属調査】の方がより詳細な情報を得られるが、【精密素材調査】は得られる情報は少なくなるが広範な範囲の物を調べる事が可能だ。
「むう、こいつは……」
「なんか分かったのかよ?」
「ううむ、半分に割っちまったせいか余り情報は手に入らなかったが、こいつはどうも造魔石というものらしい」
「……なるほどな。そいつを飲み込むと魔物になっちまうって訳かよ」
吐き捨てるようにエカテリーナが言う。
エカテリーナだけでなく、ティアにも嫌悪の表情がありありと浮かんでいた。
「どうもそのようだな。こんなもんを開発したから、カベリアに攻め込もうなんて気になったのかあ? 何にせよ、この化け物は人為的に生み出されたもんだろう。ってことは、まだまだ他にもいる可能性がある。まだツォルキンの野郎がどうなったかも分かんねえし、引き続き屋敷を探索するぞ!」
強さ的にはこの翼オークも脅威度Ⅷ程度であったが、驚異的な再生力が合わさると突入した兵士たちでは荷が重い。
それは探索を再開した影治たちの行く先を見ても明らかだった。
逃げる暇もなかったのか、或いは逃げ出す余裕もなかったのか。
屋敷内の各所には、選考して突入した兵士たちの死体がそこら中に転がっていた。
正門入ってすぐの庭部分では、ツォルキン配下のオークの死体が多かったが、屋敷内の奥に進むとラミアやオーガ。それから吸血鬼の死体が増えていく。
そのまま生き残りの兵と出くわさないまま奥へとすすんでいくと、ようやっと人の気配のする一画にたどり着く。
そこでは一体の魔物化したオークと、数十人の兵士が戦っていた。




