第756話 リーブスからの報告
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選神碑の確認が終わり、ガッコルドの街に戻ってきた影治達は、街中の様子がおかしい事に疑問を抱きながら、リーブス達と合流した。
そこで影治達はここ最近のガッコルドでの騒動について知る。
「ヴェリアスの奴はしっかり動いたようだな」
「はい。エイジさん達と別れた直後は、危険な目に遭うこともあったんですが、ダンと護衛のアンデッドに助けられて無事に済みました」
リーブスの話によると、ガバラ商会が雇っている私兵に目を付けられたらしく、人目のつかないスラム街にある建物に連れ込まれたのだが、人目につかない場所というのはこっそり始末するのにも有効だった。
武器を手に取りリーブス達に襲い掛かってきた私兵達は、死体ごと行方不明となる。
「役に立ったなら何よりだ。で、この街の関係者は捕らえられたのか?」
「おかげさまで、父の商会を有罪に追い込んだ司法官に、この街のガバラ商会の関係者。他、領主や衛兵など問題だと判断されたオーク達は、軒並み捕らえられました。本当に……本当にありがとうございます!」
「その言葉は俺に言うもんじゃあねえだろ。お膳立てはしたかもしれんが、今回実際に動いたのはヴェリアスの奴だからな」
「いえ、エイジさんにはそれより前から、情報収集などで協力してもらってました。感謝を伝えるのは当然ですよ」
感謝の意を示すリーブスからは、瞳の奥にあった昏い何かが抜け落ちたような印象があった。
表情も心の壁が取り払われ、素のままの心が覗いているように見える。
これまでの付き合いの中では、そうした部分を極力表に出さないようにしていたリーブスだったが、故郷にて心残りだったことを解決して気が緩んだのだろう。
「ううん、お前がそう言うなら素直に受け取っとくけどよお、まだ全ては終わってないんだろ?」
「ええ。何でも最初にエイジさんとヴェリアス様が話していた時より、事態が大きく変化したようでして……。かなり大きな騒動になっているようですが、ここを制圧した兵士たちは、一部の兵を残してそのままガバラ商会の本拠地、ズライロッジに向かいました。エイジさんのあの魔導車であれば、追いつけるかもしれません」
「ならリーブスも一緒にいくか?」
「……いえ、私はしばらくこの街に留まります。最初にあった約束通り、旧ブローム商会の関係者を発見次第、この街に送ってもらえる事になってますので……」
旧ブローム商会が潰れたのは、もう20年も前の話だ。
普通に寿命や病でこの世を去った者もいるだろうし、鉱山奴隷のように劣悪な環境に耐えきれず死んでいった者もいるだろう。
だがそれでもせっかく手に入れた奴隷という労働力を、金満主義のガバラ商会は無暗に使い潰したりしない。
保護の対象となる関係者はまだ残っていると思われる。
「そう言う事なら仕方ねえ。俺達もガッコルドに戻ってきたばかりだが、元々俺達にも関係ある話だ。結末がどうなるのか、俺達も現地で直接確かめてくるとしよう」
オーク種族の領域はラテニアの南東部に広がっているが、すでにガバラ商会やツォルキンの本拠地であるズライロッジ以外では、関係者の捕縛は完了している。
残すズライロッジはツォルキンの本拠地であるので、抵抗も激しくなるだろう。
「つう訳で、悪いが休む間もなく出発することになった。ラテニアでのもう1つの目的、エリーと会うためにはどっちみちズライロッジを通る事になる。すぐに出るぞ」
「普通に徒歩や馬車での移動ならともかく、私達にはドラゴンベースがありますからね。全く疲れがないという訳でもありませんが、まだまだ十分行けますよ」
これまでも町や村に到着しておきながら、1泊もせず素通りして先に進む事は何度もあった。
だが快適なドラゴンベースの旅は、大いに疲れを軽減してくれる。
すぐに出発すると告げる影治だが、リュシェル含め仲間たちからは反対の声が上がる事もない。
「つう訳で、俺達はズライロッジで今回の事の顛末を確認したら、そのままエリーが住んでるっていう、アドラーバーって街に向かう。ここまで迎えには来れねえから、リーブスも後は好きに動いてくれ。引き続きミンタカ達は護衛につけておく」
「わざわざありがとうございます。よい結果が得られますよう」
最後にリーブスと別れの挨拶をすると、そのまま街を出て進路を東に向ける。
ノーカス川を超え、更に東に進むと交易の中継点がある。
幾つかの街道が交差する地点なのだが、その割には小さな村があるだけで町にまで発展していない。
その村から街道を北に進むとブリックワード川にぶつかり、川を超えた先にズライロッジの街がある。
ノーカス川ほどの規模ではないが、近くにはブリックワード川や森などの資源もあって、立地的には良い条件にある街だ。
通常の馬車とは段違いのスピードで街道を爆走する影治達は、2時間程走らせたところでヴェリアス配下の兵士達に追いついた。
「むむっ! ま、待て、止まれ!」
見慣れぬ巨大な馬車……のような何かが迫ってくるのを見て、戸惑った様子で後方の兵士が呼びかける。
魔導車については少しずつニューホープ以外にも広まってきているが、これほど大きな車両がある事はまだ殆ど知られていない。
ブローム商会やルビーシア商会には、街外での使用と荷を運ぶための車両として、大きめなトラックのような上級車両が販売されているが、カウワンやガンダルシアの王族に贈られた車両は大きさ的には普通車だ。
これほど大きな車体が、輓獣にけん引される事なく自走している姿は、見慣れぬ者からすれば結構な威圧感を感じることになる。
「ああ、俺らは怪しいもんじゃあない」
兵士の制止の声を聞き、車両から影治とリュシェル達数名が降りてくる。
運転席にいるヨイチは、そのまま運転席から影治達の様子を見ていた。
「俺達はドラゴンアヴェンジャー。この辺だとまだ知らない奴も多そうだが、これでも大陸南部では名の知られた冒険者パーティーだ」
「冒険者パーティーだと? ではその巨大な馬車? は何なのだ?」
「こいつは俺達が開発した魔導車っつう、自走する馬車みてえな魔導具だ。それより、お前達はこれからズライロッジでツォルキン相手にドンパチしに行く所なんだろ? 俺達もそれに加わらせてもらうぜ」
「何だと!?」
影治の突然の申し出に、兵士は驚きや困惑よりも訝しそうな表情を浮かべる。
今のところ彼からすれば、影治達は得体のしれない連中でしかない。
後方を歩いていた兵士は、接近してくるドラゴンベースの尋常じゃない移動速度を見ていたので、何故自分達の目的を知っているのかについては予想がついた。
恐らくは、3日前に制圧を終えたガッコルドの街で情報を聞き、ここまで魔導車とやらで駆け付けてきたのだろう……と。
だがだからといって、仲間に加えてくれという相手をそのまま受け入れる事はできない。
魔導車から降りてきたメンバーに、純粋なヒューマンと思しき者はいないように見える。
これがヒューマンが多いというのであれば、差別主義のオークに不満を貯めていてもおかしくないので、元凶であるツォルキン捕縛作戦に参加したいと言われても理解できる。
しかしヒューマンがいない事が、疑惑を生む。
「何故そのような事をする必要がある。お前達は冒険者なのだろう? もしかして、ガッコルドの街で依頼を受けてきたのか?」
「何故って、そりゃあ元々俺らがきっかけだったからな」
「……ううん? それはどういう意味だ?」
影治が話している兵士の男は、下っ端という訳でもなかったがそれほど階級が上の者ではなかった。
今回の急な任務の内容――四魔君主であるツォルキンやガバラ商会のガサ入れという事を知ったのもつい最近のことだ。
「なんだいなんだい! 後続の連中の足が止まったっていうから見に来てみれば、妙チクリンな箱馬車に妙チクリンな連中が集まってるじゃないかい。一体何があったってんだい?」
「っ! こ、これはレイミー様! それがその、この者らが我々の任務に加わりたいと申しておりまして……」
影治が兵士と話をしていると、先に進んでいた兵士達の集団の中から、ひとりの女性がにょろにょろと這い出てきた。
レイミーと呼ばれていたその女性は、下半身が蛇の体を持つラミア種族の女性だ。
影治も付与魔術研究所でリビュアとは何度も接しているので、独特な移動方法を気にする事もない。
ただし、目の前のレイミーというラミアは、リビュアよりも2回りくらい体が大きかった。
2本足の種族とは根本的に違っているが、とぐろに巻いた下半身の上、顔の位置は恐らく3メートル近い高さにあるだろう。
なおこの兵士の集団には、他にもラミアが結構含まれている。
しかもその次に多いのはオーガであり、この地域を縄張りとしているオークの数は少ない。
「あんた達が……?」
兵士の男の報告を受け、ようやっとまともに影治達の方に視線を送るレイミー。
その視線の先は影治やカレンの髪色に注がれている。
そうして一通り観察を終えたレイミーは、納得したような表情でこう言った。
「……もしかしてあんたら。ドラゴンアヴェンジャーじゃないかい?」




