第232話 苛烈なる連携攻撃
静かに、それでいて堂に入る歩き方で前に出る影治。
そこに立ちはだかるのは、バキルも苦戦していたオークジェネラルだ。
それも、オークエンペラーを取り囲むオークジェネラルの数は2体もいる。
しかし――
「邪魔だ」
影治がソードスラッシュを振るうと、全身の金属鎧などまるで意味をなさないとばかりに、鎧ごと中の肉体まで切り裂く。
ただし、以前騎士達と相手にスパスパした時と比べ、その切れ味は落ちている。
それは影治の調子が悪いのでも手を抜いているのでもなく、オークジェネラルが身に着けている装備の材質に因るものだ。
倒した際に装備ごと消えてしまうのが惜しく思えるほど、頑丈な金属で出来た鎧を身に着けているらしい。
「だがまあ、探せば同じ金属はあるんだろうな。いつか手に入れてみてえもんだ」
戦いの最中だというのに、そのようなことを考える余裕まで影治にはあった。
というのもオークエンペラーとその取り巻きは、全員で囲んで影治を倒そうとするのではなく、魔王を倒すならまずは四天王から倒して見せよ! とでも言わんばかりに、弱い順に影治と戦わせようとしていたからだ。
「こちらの手を観察しようってのか? それとも疲れさせようってか。気に入らねえなあ。【重い水板】」
2体のオークジェネラルと戦いつつも、オークエンペラーたちに攻撃魔術を見舞う影治。
クラスⅤでありながらも、影治の放つ4重の攻撃魔術は徐々にダメージを蓄積させていく。
「BJ)JJK)”AGIK」
2体のオークジェネラルを前衛として戦わせていたオークエンペラーだが、ここで作戦変更の指示を出す。
オークジェネラルは影治に傷を与えるどころか、逆にどんどん切り刻まれていっており、すでに2体とも虫の息だ。
それにあれだけ魔術を放っているというのに、影治からの魔術攻撃は一切弱まることがない。
ここに至って、ようやくオークエンペラーは影治の厄介さを理解した。
そして控えていた3体のオークに一斉にかかるように命じ、自身も前へと出る。
「ふんっ、今更かよ!」
動き出したオークエンペラーたちを見て、影治は眼前のオークジェネラル2体をさっさと仕留めることにする。
「四之宮流古武術――壱払」
それは何の変哲もないただの袈裟斬りのように見える。
実際特に切れ味が増すだとか、そういった効果を持たない基本動作のひとつであるのだが、壱という数字がついている辺りそれで終わりという訳ではない。
続けて弐払、参払、肆突と流れるように基本技が続く。
これらは一種の型のようでもあるが、相手との距離、現場の状況などに応じて千変万化して切り替わっていく。
ただ普通に剣で切りあうのとは違い、影治の剣には全体に通じる流れがあった。
そしてこの先の流れを完全に読み切っていた影治。
結果として、陸払でもって虫の息だった2体のオークジェネラルは塵と消える。
これでオークエンペラー含めて残り4体となったが、この4体が全て脅威度Ⅷ以上という強敵揃いだ。
その強さを影治がまず始めに思い知ったのは、ハイオークジェネラルに攻撃を加えた時だった。
「ッ! 硬ぇな……」
そこいらの鉄よりも頑丈な金属鎧を身に着けていた、通常のオークジェネラル相手であっても鎧を切り裂き、肉体にまで刃を届かせることが出来た。
しかし、同じような全身金属鎧を纏ったハイオークジェネラルは、更に上位の金属鎧を身に着けているらしい。
これまで通りに切りつけたというのに、数ミリほどの切り傷を残すことしか出来なかった。
鎧を傷つけられたハイオークジェネラルは、手にした大剣で攻撃直後の影治に向けてその巨大な剣を振り下ろす。
それは何万、何十万回と素振りをして鍛えた熟練の戦士と何ら変わりない攻撃だった。
しかし剣技において、影治はこの世界では突出した実力を持っている。
その影治からすれば、ただの愚直な振り下ろし攻撃が当たる訳もない。
スッと最小限の動きで右側に避けて攻撃を躱す影治。
だがそこには、ただただ撲殺する為に作られたような、太い金属製のメイスを持つオークキングが回り込んでいた。
そして野球のスイングのようにして、その凶悪なメイスを振るう。
「フゥゥッ!」
まともに食らえば全身の骨が砕けそうなそのスイングを、影治は身を屈めることで回避する。
ゴウッ! という風の音と共に、風圧で天使の証である綺麗な水色の髪が、ドライヤーを当てたように後ろに流れた。
このような連携攻撃を、ダンジョンのオークたちがしてくることはない。
そしてこれほどの強者複数を相手に戦ったこともなかった。
だからか、影治はこれで攻撃の手が一旦終わったと油断してしまう。
「ゲッ!」
屈みこんだままという不利な体勢かつ、左方にはハイオークジェネラル、右方にはオークキングが傍にいるという状況。
そこへハイオークロードが、4メートルくらいはありそうな長槍を突き出してきた。
槍を構えたハイオークロードについては、影治もその位置を把握していた。
だが距離が大分離れており、ここで攻撃に加わってくることを予測出来なかった。
だがハイオークロードは最初の一歩目から全速力に達しようかという、猛烈な突進と共に槍を突き出してきている。
「左右の連携に加え、前方からの躱しづらい突き。それに後方から回り込んでくるデカブツもいやがる!」
刹那の間に状況を理解した影治は、最適解を瞬時に導き出し、その導きのままに体を動かし始める。
「金剛衝」
ここで影治が選択したのは、刺突系の剛法の武器術である金剛衝だった。
万が一のことを考えると、あまり愛剣でこの技を使いたくはなかったが、状況的に持ち換える余裕もないので、仕方ないと割り切って影治は剣を突き出す。
それは猛スピードで接近しながら攻撃を仕掛けてきた、ハイオークロードの槍の先端部分を見事に捉える。
ロケット噴射したかのように、10メートル近い距離を瞬時に縮めて突き出された槍の威力は、ボミオスであっても防ぐのは無理だ。
だというのに勢いもつけず、屈みこんだ不利な体勢のまま突き出した剣は、まるで力の流れが逆転したかのように、ハイオークロードを突進した方向とは逆方向へと吹きとばした。
その衝撃はハイオークロードを吹き飛ばすだけに留まらなかった。
なまじハイオークロードの槍の一撃が強力だったこともあり、それを撃ち返したことによって周囲には衝撃波も発生している。
その衝撃波の威力は凄まじかった。
左右にいた巨躯のオークたちを数メートルほど吹き飛ばし、後方から迫ってきていたオークエンペラーも飛ばされはしなかったものの、たたらを踏んで足が止まる。
実は金剛衝は使用直後に硬直時間が存在し、技を放った直後を狙われるとさしもの影治であっても致命となりえた。
しかし瞬時に導き出した影治の選択は、最良の結果を現出させた。
それはこうなると計算してのものではなく、影治の戦闘勘によるものだ。
ただ技を使いこなすだけでなく、影治はこの戦闘勘が恐ろしく優れていた。
先ほどの油断も、どんな状況でもどうにかなるだろうという、傲慢とも言えるほどの自分自身への信頼によるものとも言える。
「ッ――【跳ね上がる土】」
四方から連携して襲い掛かってきた、オークたちの攻撃を退けた影治。
ハイオークロードはそれなりの距離を吹っ飛ばしたものの、他の三方は衝撃波で多少距離は稼ぎはしたが、このままではまたすぐに囲まれてしまう。
そこで影治は、足元の地面を勢いよく盛り上げて自分を跳ね飛ばすという、アクションゲームに出て来るジャンプ台のような土魔術でもって宙を飛び、離れたところに着地して難を逃れる事に成功した。




