第231話 オークエンペラーと親衛隊
「敵の数は……半分以上はやったか。残ってる奴らも、ピー助の魔術がかなり効いてるみてえだ。まずは数を減らしてくか」
どう攻めるかを考えていた影治は、まずは敵の数を減らすことを第一目的に定める。
その為に、クラスⅤの各種中級範囲攻撃魔術を次々と発動させていく。
影治は現在、同じ魔術であれば多重詠唱で4つまで発動出来るようになっていた。
これはあくまで同じ魔術の場合のみであり、同じ属性の他の魔術が混じると3つまでしか発動出来ない。
オークエンペラー率いる本隊は元々中位種以上で編成されていたが、ピー助の強力な魔術攻撃によって選別され、今や残っているオークのほとんどが上位種だ。
この場合の上位種とは、脅威度Ⅵ以上のオークのことを指す。
そのレベルになると、クラスⅤの攻撃魔術では少々力不足になるのだが、影治の場合は話が別だ。
影治の基本属性の適性は失われてしまったものの、魔術適正については失われていない。
この魔術適正に関しては、例えば「俺は力自慢だ!」とか「俺は素早さに自信があるぜ!」という戦士たちと同じように、「私は治癒魔術が得意よ」とか「俺の攻撃魔術は他とは違うぜ」などといった感じで、大まかにそういった適性が存在することが認識されている。
ただ魔術の場合、属性適性や熟練度によっても威力や効果が変わってしまうので、幾人もの魔術師と比較しない限り、自分の魔術適正がどの程度なのかは分からない。
とはいえ、影治ほどの魔術適正があれば話は別だ。
これまで周りの魔術師と接してきた中で、影治は自分の使用する魔術の効果が普通でないことには気づいている。
最初はステータスでいう所の「魔力」が高いんだろうと気にしていなかった影治だが、ある日最初のメイキング画面にあった魔術適正という項目について思い出したのだ。
魔術適正の項目には基本魔術適正、攻撃魔術適正、防御魔術適正、補助魔術適正、治癒魔術適正の5つの適性があった。
その内、少なくとも基本と攻撃と治癒に関しては、かなり高いのだろうと影治は予想している。
そのような単発で使用するだけでも普通より威力の高い攻撃魔術を、影治は4つも重ねて発動させる。
それも膨大な魔力量を持つ影治は、動く砲台となって休まず攻撃魔術を放ち続ける事も出来るのだ。
「オラオラ、燃えやがれ! 【燃え盛る炎】」
オーク本隊から一定の距離を保って魔術を撃ちまくる影治に対し、最初はオーク側からも弓矢や投擲、それから攻撃魔術による反撃があった。
しかし少しするとその反撃も斑になって、次第にほとんどなくなっていく。
無理やりに接近してこようとするオークに対しては、縮地で距離を離したり、或いは手に持つソードスラッシュで切り裂く。
途中から反撃よりも防御を固めることにしたオークたちは、元々かかっていた【魔術抵抗集団強化】に加え、各属性の耐性を上げる【火耐性集団強化】なども使用し始める。
防御指示を出したオークエンペラーの狙いは、影治の魔力切れであった。
しかし幾ら上位種で他のオークより頭がいいオークエンペラーであっても、影治のアホみたいな魔力量までは推測出来ていない。
実際に、これまでも戦闘前に散々治癒魔術を使っていたというのに、影治の魔力にはまだまだ余裕があった。
魔力切れを狙うオークたちだったが、このままことが進めば先に魔力が切れるのはオークたちの方だろう。
「だがそんなのは面倒くせぇ。そろそろ突っ込むとするぜ!」
残る本隊のオークの数は、最初の時と比べると大分減ってはいる。
だが影治は少数相手だとその力を十分発揮できるが、集団の……それもそれなりに強い集団の場合、ハイクラスの魔術を覚えていないせいで殲滅に時間がかかってしまう。
「NDK)”EKHA)!?」
「相変わらず何言ってるか分かんねえが、とりあえず死んどけ」
魔術攻撃から一転して突っ込んできた影治に、対応しきれなかったハイオークウォリアーは一刀の下に斬り下ろされる。
そしてそこから1歩踏み出し、返す刀で左斜め前方にいたハイオークプリーストの首を掻っ切る。
その辺りでようやく落ち着きを取り戻したオークたちだったが、だからといって事態が変化することはなかった。
元々ピー助の強力な魔術と、影治の魔力量にものをいわせた物量作戦で、オークたちは瀕死のダメージを負っている。
そこへ鉄をも切り裂くソードスラッシュの一撃が加われば、バタバタと倒されていくのも当然と言えた。
例外は、オークエンペラーとその周囲だけだ。
「チッ。ありゃあ魔術抵抗集団強化じゃなくて、魔術抵抗集中強化を掛けてやがったな」
影治も戦闘前に仲間に個別に防御魔術を掛けていたが、どうやらオークエンペラーも自分を含む一部のオークにだけは個別に効果の高い防御魔術を掛けていたらしい。
元々脅威度の高い魔物というのは、魔術への抵抗力や防御力も相応に高くなる。
そこへ更により効果の高い防御魔術を掛けられていただけあって、あれだけの魔術攻撃を受けたと言うのに、オークエンペラーがいる一角だけは瀕死のオークはいなかった。
「それなりにダメージは入ってそうだが、まずは周りの雑魚を蹴散らす!」
そう言うなり、再びオークの排除に移る影治。
こともなげに雑魚と言っているが、それでも最低でも脅威度Ⅵ以上の集団だ。
脅威度Ⅵともなると、単体で村ひとつが壊滅の危機に陥るレベル。
だが影治が次々とオークを排除していく様子を見ると、とてもそのように見えない。
「エイジ! 加勢するぜ!」
「この辺りの奴らは儂らが引き受ける! エイジはあのオークエンペラーをやってくれい!」
「バキル? それにボミオスも。お前たち下がったんじゃなかったか?」
「エイジ様がひとり戦っておられるというのに、後ろに下がってはいられませんよ」
「私もエイジひとりに任せるのは……って思ったんだけど、案外普通にやりあえてるのは流石だわ」
「ぴぴぴぃぃぃぃぃいい!!」
逃走を開始していたオークキング討伐隊だったが、ピー助と共に再び前線へと駆けつける。
そしてひとり奮闘していた影治に、バキルやボミオスたちが声を掛けていった。
「まさかひとりでここまでやれるとはな……。これほどの好機とあれば、儂も逃げ出す訳にはいかんわい」
この場のメンバーの中では一番影治と関わりの薄いカディウスも、ピー助の強力な攻撃魔術と、その後の影治の戦いっぷりを見て考えを改め、ボミオスらと共にこの場に参上している。
「……じゃあ、そっちの奴らは任せたぜ!」
先に潰そうとしていた取り巻きのオークたちをボミオスらに任せ、影治は本命であるオークエンペラーの下に向かう。
だが余程慎重な性格なのか、影治が戦い始めて以降、オークエンペラーは常に周囲に護衛のようにオークを伴っていた。
それはまさしく親衛隊と呼ぶに相応しい陣容である。
脅威度Ⅶのオークジェネラルが2体。
脅威度Ⅷのオークキングが1体。
更にはオークキングと同等の脅威度である、ハイオークジェネラルとハイオークロードまでもが加わっていた。
「待たせたな。俺がお前らに死を運んでやるよ」
不敵な宣言を行いながら、影治はクラスⅥ無属性魔術の【魔力装甲】を発動させた。
これは全身に魔力を纏って物理防御力を上げる魔術なのだが、効果対象が術者に限定される。
クラスⅥの使い手の魔術師が、わざわざ前に出て物理戦闘をすることは殆どないので、余り一般には知られていない魔術だ。
「BXANAN)HKSA!!」
影治が【魔力装甲】を発動するのとほぼ同時に、オークエンペラーが手下に指示を出す。
実質的に、最終決戦ともいうべき戦いは、こうして始まった。




