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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第5章 スメリワ襲撃

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第229話 オークエンペラー


「報告します! オークキングの討伐に成功しました!!」


「おおおおっ!」


 簡易拠点に設けられた木製の塔の上。

 そこで戦場全体を監視している兵から、オークキング討伐の報が届けられる。

 その報告は魔導具を使って拡声され、直接ルクトリアの下に届く。

 無論、見張り塔の周辺にいた者達にもその報告は伝わっていき、これまでにない大きな歓声が広がっていく。


「……どうやら俺の出番はなさそうだな。戦況も押しつつあるようだし」


「それもエイジがこの場で負傷兵の治療を行ってくれたからだ。感謝する」


「感謝するのはまだ早いぜ。戦いはまだ終わってないんだからな」


 そうは言うものの、影治もこれで魔物の襲撃騒動も収束していくだろうと思っていた。

 周辺の兵士や負傷兵などからは緊張が抜け始め、どこか緩い空気が流れ始める。

 だがそこへ飛んできた新たな見張り兵からの報告に、一瞬にして空気が変化した。


「て、敵オーク集団の増援確認! 南の森から100体ほどの集団が……」


「敵集団がどうした!? 報告はしっかりしろ!」


 ベラボーに高級品という訳ではないが、特定の効果を発揮する魔導具はそれなりの値段がするし、そもそもダンジョンから発掘される品が基本なので、モノが出回っていないことが多い。


 そういった理由から、この現場では見張り塔の兵士と指揮官であるルクトリアしか拡声の魔導具を持っていない。

 だがとりあえず二つあれば、多少距離が離れていても直接声でのやり取りが可能だ。


「そ、それがその……100体の集団は全て中位種以上で構成されています! この距離では確認出来ませんが、上位種も相当数含まれているかと……」


「なに……?」


 まさかの敵の増援報告に、眉を顰めるルクトリア。

 確かに王種に率いられた魔物たちは、人間の兵士たちのような集団行動を見せることが知られていたが、このような用兵まで用いる例は余り知られていなかった。


「それと、キングが討たれたという割りにオークたちの連携は失われていません。認めたくありませんが、あの増援の中に別個体のオークキングが潜んでいる可能性が高いかと思われます!」


「なん……だと……」


 その見張り兵の報告は、ルクトリアの心に絶望という名の重石を乗せた。

 オークキングと討伐隊の戦いの様子は、何度か見張り兵から中継報告を受けている。

 初対面だったビッグシールドはともかく、叔父であるリュシェルや長老のカディウスの実力のことはルクトリアも良く知っていた。


 あれほどの力を持つ者達ですら、苦戦する相手。

 それが今しがたの見張り兵の報告によると、他にもオークキングが潜んでいる可能性が高いという。


 この見張り兵からの報告を受け、ルクトリアだけでなく周囲の兵士たちにも絶望の表情が広がっていった。

 先ほどのオークキング討伐成功によって上がっていた士気も、一気に冷え固まっていく。


「ピー助、行くぞ」


「ぴぃぃ!」


 重く沈む空気の中、それでもまったく平常通りにそう言い放ったのは影治だ。

 状況の悪さに周囲の喧騒が小さくなっていたせいか、殊の外その声は周囲の者の耳に届いた。


「あ、エイジ。あたし……は?」


「ティアはここで待機しててくれ。ピー助は肩に」


 チェスが仲間になって以降、移動中のポジションが変化したピー助。

 だがこのような一刻も争う事態では、肩に乗せて移動した方が断然早い。


「エイジ……」


 この場での待機を指示されたティアは、自分の力が及ばないことに歯噛みする。

 そんなティアの様子を、影治は視線の端に捉えていたが、今は時間的余裕がない。

 ピー助を肩に乗せた影治は、ティアにではなくルクトリアに出陣前の最期の言葉を告げる。


「っつう訳で、俺の出番が来たようだから約束通り前に出るぞ」


「……無理はせぬようにな」


 思わず「勝てる訳ない」だとか、否定的な言葉を発しそうになったルクトリア。

 だがその言葉を飲み込み、見送りの言葉だけを絞り出す。

 ルクトリアからの返事とほぼ同時に猛スピードで駆けだす影治。

 その間にも、前方から阿鼻叫喚の声が聞こえてくる。


「――見えたッ!」


 やがて進む先に人の集団が見えてくる。

 それは影治のよく知る相手だった。


「バキル!」


「エイジ……か。ぐ、シリアが……魔術の直撃を食らっちまって……」


 現場は下生えの草が全て燃え尽きていたり、土属性の魔術でも使われたのか、地面が大きくえぐれていたりした。

 酷い状況は何も地形だけでなく、その場にいたバキル達にも大きなダメージを齎している。


「エイジ様、お気をつけ下さい。新手の敵集団には上位の魔術を使うオークどもが……」


「あれは……、今の戦力でどうにかできる相手ではないぞい」


 中でもリュシェルとカディウスはまだ余裕があるようで、駆けつけた影治に声を掛けてくる。

 しかしビッグシールドのメンバーの内、サイラークとシリアが地面に倒れたままほとんど動きを見せておらず、バキルもかなりしんどそうだ。


「まずは癒す! シリアの近くに寄れ!」


 影治の指示に従い、すぐ様その場にいた全員が動きだす。


「お願い……、サイラークを……。わたしを庇って大ケガを……」


 いつもの間延びした口調ではなく切実な声を発しながら、少し範囲から外れていたサイラークをシリアの近くに運ぶアトリエル。

 彼女だけはサイラークが庇ったおかげか、リュシェルやカディウスと同じくらい余裕がありそうだった。


「任せろ」


 自信満々にそう言い放った影治は、光魔術の【癒しの群光】ではなく、回復魔術の【集団治癒】を多重詠唱で発動させた。

 影治の光魔術の適性は、魂環の書によって大きく奪われている。


 しかし基本8属性に含まれていない回復魔術は、今も無詠唱で発動が可能なほど適性が高いままだ。

 元々回復魔術が回復に特化しているだけあって、実は【癒しの群光】より【集団治癒】の方が治癒効果は高い。


 負傷兵に【癒しの群光】を使用していたのは、回復魔術が使えることを大っぴらに見せるつもりがなかったからだ。

 似たような効果を持つ治癒魔術だが、【集団治癒】は【癒しの群光】ほどに強い光を発しないので、何度も使えば違いに気付かれる可能性が高い。


 3重発動の【集団治癒】を2回、計6回分の発動によって、一番ダメージを負っていたバキルもほぼ回復した。

 続いて気を失ったままのシリアとサイラークに対し、クラスⅣ回復魔術の【身体異常治癒】を使用して意識を呼び覚ましていく。


 これまでの経験から、この世界ではどうやら「眠り」と「気絶」は別の状態異常として扱われていることを、影治は気づいていた。

 領主の館で騎士の訓練をしていた時、気絶した騎士にクラスⅡ回復魔術の【目覚め】を使用しても、意識を取り戻さなかったのだ。


 どうやら【目覚め】は睡眠状態や、眠気を取り払うための魔術らしい。

 恐らくはピンポイントで気絶状態を治す回復魔術もあるのだろうが、【身体異常治癒】で治せることが分かったので、今のところその魔術を研究する予定はない。


「ん、んん~。あ、れ? ここは……?」


「ケッ、ようやく目ぇ覚ましやがったか。エイジ! シリアが起きたんならここはもう大丈夫だ。だから……だからジジイを頼む!」


「分かった」


 先ほどから数百メートル先でひとり殿を務めている男の姿は、影治の視界にも入っていた。

 余裕があれば、ここでもう少し回復魔術を使いたいところだったが、遠目で見た感じボミオスはかなり追い詰められているように見える。


「待つのじゃ」


 急いでボミオスのところまで駆けつけようとした影治だったが、背後からの声にその足が止まる。


「んだあ? 邪魔すんじゃねえよ!」


「……何だ?」


 静止の声を発したのは、カディウスだった。

 それに対しバキルは苛立たしそうに声を上げるが、影治は短くカディウスに真意を問う。


「新たに現れたオーク集団。恐らくその中にオークエンペラーがいるハズじゃ」


「オークエンペラー?」


「そうじゃ。オークキングの更に上位種であり、恐るべきことにエンペラー種は周囲の同種の魔物の能力を底上げする能力があるのじゃ」


「チッ! それでオークどもが妙に強かったのか!」


「左様。故に、あのドワーフを救ったら下手に戦おうなど思わず、すぐに引き返してくるのじゃ」


「フンッ、エンペラー種ね……」


 逼迫した事態を承知で口を挟んだカディウスだったが、影治はそれがどうしたと言わんばかりの態度のまま、ボミオスの下へと向かう。

 その脳裏には、撤退などという文字は一言も存在していなかった。


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