第224話 謎の強さ
時間を遡り、ピー助による初撃が加えられる少し前。
味方全体に【魔術抵抗集団強化】を掛けて回っていた影治が、簡易拠点へと戻ってきた。
簡易拠点とはいってもそれなりに設備はしっかりしており、高さ10メートルほどの監視塔の周りは矢来で囲われている。
だが指揮官であるルクトリアは監視塔の内部ではなく、簡易門を抜けた施設の外で状況を窺っていた。
それっぽい施設にはなっているが、ここまで敵に攻め込まれる状態になれば、この簡易拠点では長くもたないだろう。
これらの施設はリュシェルが植物魔術で作り上げたものだが、元々は監視塔だけのつもりで高所からの戦況確認が主目的だった。
「お、ここにいたのか。建物ん中にいなくてもいいのか?」
「植物魔術で生み出されたこの施設は、見た目以上には頑丈だ。だが、ここまで攻め込まれる状況になっていては、僅かな時間稼ぎ程度にしかならん。それより、最初の役目は果たしてきたのか?」
「それはバッチシ問題ないぜ。敵も大分近づいてきてるし、もうそろそろ――」
簡易拠点へと戻ってきた影治に、ルクトリアが声を掛ける。
この場にはルクトリアだけでなく、彼の護衛らしきエルフやカレンの姿もあった。
そして影治がルクトリアに報告している途中、遠くからまばゆい光が広がる。
「むっ、何だアレは?」
ルクトリアが把握している限りだと、この戦場でハイクラスの魔術の使い手といえば、リュシェルとカディウスの両名がまず思い浮かぶ。
だがその両名であれば、植物魔術か風魔術になるはずだ。
「おーおー。ピー助の奴、派手にやってるなあ」
「流石ピー助様ですわ!」
「ぬ……、ぴ、ピー助……とは何だ?」
ひとりピー助について知らないルクトリアは、少し困惑した様子で尋ねる。
「ピー助様はエイジと契約を結んでいる光の精霊ですわ」
「ずっと俺と一緒に行動してた鳥っぽいのがいただろ。あれがピー助だ」
「……確かにその鳥っぽいのには覚えがある。だがフェアリーの方にばかり気を取られ、余り関心を向けてなかったわ」
「ティアもフェアリーだけあって、魔術は得意なのですけどね。ですがピー助様は光の上位精霊ですので、あれくらいのことはお茶の子さいさいですのよ」
「何っ!? 光の上位精霊……だと?」
今もピー助の【光爆】が継続して放たれており、オークの数を減らしていっている。
そんな状況の中、影治が連れていた鳥が光の上位精霊であることを知り、驚きの声を上げるルクトリア。
「は、伯爵様! この光の爆発によって、100から200ほどのオークが沈んだ模様!」
「なんと凄まじい……」
辺りは戦場の喧騒に包まれているが、即席の監視塔の上部から戦況を窺っている兵士には、報告用に拡声の魔導具が渡されている。
その魔導具によって報告された戦果に、ルクトリアは身震いした。
「カディウス様の風魔術、リュシェル殿の植物魔術の発動を確認! これらもかなり敵集団にダメージを与えています!」
続いてカディウスとリュシェルの魔術攻撃による報告が齎され、それからは魔術合戦の様子が逐次報告されていく。
「監視兵! 敵の数と距離はどの程度だ!?」
「……数は1000は確実に切っていると思われますが、具体数は不明。距離はもうすぐ近接戦闘の距離に入ります!」
「ここからが勝負時か……。エイジ、直に負傷兵が運ばれてくる。治癒の方は任せたぞ」
「あいよ」
ルクトリアの言葉通り、それから間もなくして負傷兵たちが次々にこの簡易拠点まで運び込まれてきた。
影治と共に負傷者の治癒にあたっている光魔術士は、止むことのない負傷者に段々焦りと疲労の色を覗かせる。
一方影治はといえば、魔力的な問題はまったく感じていないが、気になることがあった。
それは、負傷者が運ばれてくると共に戦況報告も齎されるのだが、その報告に気になる点があったからだ。
「むう……。オークたちが妙に強い……か」
負傷者はあちこちから運ばれてくるが、その度にオークの強さに関しての報告があった。
つまり一部のオークたちが強いのではなく、オーク集団全体に渡ってオークが強いと感じているということだ。
「オークキングに率いられているからでしょうか?」
「その可能性はあるが、その場合連携が出来ているといった報告が来るだろう。だが報告では、ただのオークであっても、ひとつ上の進化先であるオークファイターのような強さがあったという話だ」
魔物にも個体差というものがあり、同じ種でも強さには違いが出る。
特に高い脅威度の魔物の場合、その強さはピンキリとなるので、余程力量差がない限りは油断は禁物だ。
とはいえ、ただのオークがオークファイター並に強いというのは、通常ではありえないことだ。
魔物や妖魔は経験や能力を磨くことで、より上位の種族へと"進化"することがある。
進化直前の魔物は他の個体より強く、これが個体差に繋がっているとされているが、進化前の状態で進化先の強さを持つことはない。
「では報告にあった、強化魔術によるものでしょうか?」
「どうであろうな……。日々魔物と戦うことが多い冒険者とはいえ、魔物暴走で戦う経験はそう多くない。特にキング種が出現するような大規模なものはな」
カレンの発言にある強化魔術とは、前線で戦う冒険者の推測が報告として送られてきた情報によるものだ。
確かに局所的に強いオークがいる程度なら、強化魔術が原因だとも考えられる。
しかしそれがオーク集団全体に広がっているとなると、強化魔術だけが原因とは考えにくい。
「オラオラ! 治ったらさっさと前線に戻りやがれ!」
影治がシッシッと追い払うような仕草をして、治癒を施したばかりの兵士達を追い出す。
といっても、全員にそんな態度をしている訳でもない。
治癒魔術によってしっかり治った者に対してのみだ。
運ばれてくる負傷者の中には、腕や足が欠損しているような者も交じっており、影治の治癒魔術をもってしても治せない者も交じっている。
そういった者達は、実力不足で後方に配置されたルーキーの冒険者や民兵によって、街の中まで運ばれていく。
「エイジー! 戻ってきたわよおお!!」
「ぴっぴぴっぴー!」
そこへ負傷者ではなく、魔術合戦で活躍したティアとピー助が戻ってきた。
元気そうな二人の声を聞き、曇っていた影治の表情も少しは明るくなる。
「おお、よく無事で戻ってきたな!」
「バッコバッコ!」
影治の仲間の中で、唯一自衛能力がないチェスだったが、街中に残しておくのも不安だということで、カレンと一緒にこの拠点で待機していた。
普段から子供っぽいところのあるピー助やティアと比べ、余り感情を表に出さないチェス。
しかし戦場から無事に帰ってきた二人を見て、嬉しさのあまり箱を大きく開閉させて喜びを示す。
「ピー助……殿。あの光魔術には助かりましたぞ」
「ぴぴっぴ!」
エルフという種族は、精霊術の使い手が多い。
そのため大抵のエルフは精霊に対して敬意を持っているものだ。
それは領主という立場にあるルクトリアも同様で、何と呼ぶべきか迷いながらも丁寧な言葉で伝える。
「ところでそこの妖精……ティアといったか。ひとつ尋ねたいことがあるのだが、敵のオークたちに何か違いは感じられたか?」
「違い? それって例えばどういう……」
「現場の兵士たちから、オークたちがやたらと強いという報告が幾つも上がっているのだ。強化魔術による可能性もあるが、実際に間近で見てどう思った?」
「うーん、そー言われてもねえ。あ、でも確かに妙にタフだった気がするわ。エイジが使ってた防御魔術を敵も使ってるのかと思ってたけど、それだけじゃなかったのかも?」
オークに関しては、ティアはダンジョンで何度も戦った経験がある。
だからこそそれなりにゴブリンやらオークについては詳しくなっているのだが、今回襲ってきたオークはいつもダンジョンで戦ってた魔物よりランクが上だ。
その上、幾つもの魔術が飛び交う中での戦闘だったので、相手がいつもより強いかどうかという判別はつきにくかった。
「ううむ……。更なる報告を待つしかないか」
原因不明のオークの強さに、険しい表情を浮かべるルクトリア。
すでに最前線では人、魔物が入り乱れての乱戦状態に突入している。
ビッグシールドたちオークキング討伐組も、妙に強いオークたちを切り伏せながら、元凶であるオークキング目指して道を切り開いていった。




