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ドラゴンアヴェンジャー  作者: PIAS
第5章 スメリワ襲撃

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第219話 マセッティ領の実態


「そもそもカレン殿は我が領の特異性について、余り知らぬようだな」


 ルクトリアの言うマセッティ領の特異性という言葉に、カレンは心当たりがなかった。

 交渉に来たというのに、相手のことをろくに知らないと取られるのは良いことではない。

 しかし下手に知った振りをするよりはマシだと思い、恥を忍んでカレンは素直に疑問を口にする。


「特異性……ですか? そう言われますと、伯爵領としては異例なほどに領地が広いということしか思い浮かびません。他に何かあるのでしょうか?」


「うむ。そうだな……、カレン殿もかつてこの地にあった王国のことは知っておろう」


「ええ、勿論ですわ。リョウという天使が治めし彼の王国は、長年に渡って栄えたと聞き及んでおります」


「私たちドントールの森のエルフも、その繁栄を支えていたのだ。それは偏に、あの偉大なる天使王を崇敬していたからという理由が大きい」


 今でも各地に口伝として逸話が伝わっているように、リョウは当時の人々にとってまさに現人神のような存在だった。

 その凄まじいカリスマは、余り積極的に他種族と交わろうとしないエルフですら、積極的にその庇護下に入ろうとするほどだ。


「しかし永遠に続くかと思われたリョウ様の治世にも、終焉が訪れる。王国の崩壊後、大陸南部は戦乱の時代が続いた。その頃から、我らエルフの時間は動いておらんのだよ」


「それは……どういう意味でしょうか?」


 カレンも貴族の息女として、この世界基準で高度な教育は受けている。

 その中には歴史の授業もあったのだが、そもそもホープヒル王国が築かれた時代が昔過ぎて、資料があまり残っていない。

 またガンダルシア王国では、ホープヒル王国やリョウなどに関する一部の情報が意図的に歪められたこともあって、なおさら正しい歴史を知ることは出来なかった。


「王国崩壊後、我らエルフの先祖たちはこの森に引き篭って外部との接触を絶った。しかし森の外では常に戦乱が続いており、時にこの森に攻め込もうとする物好きも現れた。その都度、我らエルフのみならず、森に住まう者達は一致団結して外敵を打ち払ってきたのだ」


 森というのは資源の採取も十分可能な場所ではあるが、ドントールの森は魔物が多く住まう地だったので、戦略的価値としては微妙だった。

 しかしそれでも広大なドントールの森の資源や、森を通って敵の背後を突けるなどといった地理的理由から、度々森は狙われていたという。


「そしておよそ1000年ほど前。この地にガンダルシア王国が建国された際、当時の王が直々にこの森まで足を運び、我らの森を領土に組み込みたいと申し出て来た。森全体を領地として爵位を与え、王国貴族の一員として迎え入れるというものだ」


「そのようなことがあったのですね……」


「エルフにとって1000年前はそこまで昔という感覚ではないが、ヒューマンからすれば何十世代も昔の話だ。知らぬのも無理はない」


 ガンダルシア建国王の申し入れに、当時の森の代表者たちの間でどのような話し合いがあったかは分からない。

 だが最終的には王国の申し入れに応じることになり、以降永代伯爵家としてドントールの森の領有が認められることとなった。


「だが我々エルフの間では、未だに独立不羈(どくりつふき)の気風が残っておってな。だからこそ、王国内の貴族同士の諍いには興味もないし、敵が襲ってくるのであればそれが誰であれ、かつての戦乱時代のように森の住人が一致団結して対処すればよいと思っているのだ」


「つまり、マセッティ領はガンダルシア王国に対しての帰属意識が薄いって訳か」


「……其方は?」


 ここまで黙って話を聞いていた影治だったが、ここで初めて発言を行う。

 カレンと同行して応接室に入った3人の内、ひとりはルクトリアの身内であるリュシェルであったし、もうひとりは装備こそ普段とは異なるものの、カレンの背後に立つその姿から護衛の騎士であることはすぐに分かる。

 しかし、普通にカレンの隣に腰掛けている少年と、その少年の周りにいる珍妙な連中が何者なのか、ルクトリアはずっと気になっていた。


「俺は冒険者の影治だ。今はシドニア伯からの依頼を受けて、カレンの護衛として同行してる」


 ただの冒険者の護衛は、普通は依頼主の交渉の場に同席してふんぞり返ったりはしない。

 本人の説明を聞いても、未だに影治の正体が理解出来ずにいるルクトリア。

 その様子を見て、リュシェルからフォローの言葉が入る。


「この方が今回の依頼を受けたからこそ、私も久方ぶりに森に戻ろうと決意したのですよ」


「なに?」


 まだ完全に信奉者スイッチが入っていなかったが、普段とは違うリュシェルの態度に、訝しそうな視線を向けるルクトリア。


「ルークなら私の魔眼の能力も知ってるだろう?」


「……つまり、叔父上のお眼鏡に叶う魔力の持ち主であったと?」


「叶うどころではないのです! エイジ様の魔力はまるで神の如し! 今のところはハイクラスの魔術は使えませんが、各魔術適正も高いようでして、幾つもの属性の魔術を……」


「リュシェル」


「……っと、とにかく! 私は残りの人生を全てエイジ様に捧げるつもりなのです!」


 興奮の余り、影治の能力の一部を口にしかけたリュシェルだが、影治に名を呼ばれ慌てて話を変える。

 魔術に関することになると、リュシェルがこうなってしまうのはルクトリアも知っていた。

 だがこれほどまでに興奮したリュシェルを見たのは初めてのことだ。


「そ、そうか。叔父上の覚悟は理解した。それより先ほどその者が申したことだが、半分合っていて半分間違っていると言える」


「半分……ですか?」


「そうだ。ガンダルシア王国の一部に組み込まれてからは、それまでと違って外との交流が増えた。昔は森を中心に暮らしていたのだが、今ではここスメリワが領都として賑わっているし、領全体としてはヒューマンの数が大幅に増えた」


「新しい風が吹き込んだって訳か」


「そうだ。だがエルフである私が領主となっていることから分かるように、マセッティ領ではエルフの影響力が強い。そして変化を望まぬエルフの気質は、かつての戦乱の時代から変わっていないのだ」


「それが先ほど仰っていた、時間が動いていないという言葉の意味なのですね」


「特に年配のエルフの間では古い考え方が根強くてな」


「だが実際に領主なのはあんたなんだろ? さっき反帝国派に加わるのもアリだって言ってたし、その方向に舵を取ればいいんじゃねえか?」


 交渉の手助けのつもりなのか、話に絡んでいく影治だったが、その言葉遣いは貴族相手に相応しいものではない。

 だが元々冒険者ということを伝えてあるせいか、はたまた本来の気質のせいか、ルクトリアは余り気にしていないようだ。


「……マセッティ領は私の一存では動かせん。私は領主という立場であるが、森の中ではひとりの、多少発言権がある程度のエルフに過ぎない。森全体に関わるような決断については、長老会議での話し合いが必要となる」


「そんな……」


 マセッティ領の実態を聞き、正攻法で交渉に臨んでも、交渉が上手くいかないであろうことに気付くカレン。

 これからどう話を切り込んでいこうか迷うカレンを後目に、再び影治が口を開く。


「お前達エルフは、破滅願望でもあるのか?」


「……何?」


「ああ、いや。帝国ではエルフの扱いはそこまで酷くねえから、自領の亜人を差し出せば自分達は安泰って訳か」


「馬鹿な事を抜かすな! 我らは帝国派の王国貴族であろうと、帝国であろうと、一致団結して戦うと言ったではないか!」


「じゃあやっぱ破滅願望があるとしか思えんな」


「何だと!?」


 これまで冷静に話をしてきたルクトリアだったが、影治の暴言に思わず冷静ではいられなくなる。


「お前も言ってただろ? 今はヒューマンの数も増えているって。実際街中をうろついてみた感じ、エルフよりヒューマンの方を多く見かけたしな」


「……それがどうしたというのだ?」


「帝国派のガンダルシア王国軍相手ならともかく、圧倒的戦力を持つ帝国の連中に目を付けられて、この街のヒューマン達が昔のように一致団結して外敵に当たると思ってるのか?」


「それ……は……」


 幕末に開国した日本のように、ガンダルシア王国の一領地となったドントールの森には、外から色々なものが押し寄せてきた。

 それは物や文化だけに留まらず、人も含まれている。

 最早かつての戦乱時代のように、外敵に対して一致団結するという考えは、長き時を生きるエルフ以外ではほとんど失われていた。


「帝国の亜人の扱いは最悪だ。例え帝国で準優良種に指定されてるエルフでも、妖魔や獣人と手を組んで戦うというなら、奴らは森ごと焼き払う真似を平然としてくるぞ」


「馬鹿なっ! そのようなことをしては、態々戦費と労力をかけて攻める意味などないではないか? 戦となれば、いかに戦力差があろうとも、双方に多大な死者が出るのだぞ!」


「そうだよ。あのイカれた狂信者共に理屈は通じねえんだ。領地獲得? 捕虜獲得や略奪? んなことより、神敵を滅ぼすことの方が奴らにとって重要なんだよ」


 影治の発言は私怨がかなり混じったものではあるが、実際のところそう的を外していない。

 大陸南部であるガンダルシア王国には余り伝わっていないが、大陸北部では実際に浄化だといって、妖魔が多く暮らしている街をまるごと焼き尽くすようなことをしているのだ。


「もうすでに事態が動き出してる以上、呑気に様子見なんてしてたら手遅れだ。反帝国派が帝国に破れた後、マセッティ領も蹂躙されるだけだぜ」


 元々ルクトリアは、長老エルフ達ほど偏った考え方をしていなかった。

 この度の交渉でも言っていたが、反帝国派と手を組むのもありだと思っているほどだ。

 だがそもそも帝国というものをルクトリアは見誤っていた。

 自身がエルフであるということも、帝国への警戒心を薄れさせていた部分もある。


 交渉相手(影治)の言うことを鵜呑みにするルクトリアでもなかったが、影治の言葉の端には強烈な説得力を感じていた。

 影治が語るマセッティ領の破滅的な未来について、考えを巡らせるルクトリア。

 成り行きを見守っているカレンは、黙ってルクトリアの返事を待っていたが、次に言葉を発したのはルクトリアでもなく影治でもなく別の人物だった。


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